生き残るための病院広報戦略:デジタル広報編(松本卓)
寄稿
2019.11.18
【寄稿】
生き残るための病院広報戦略:デジタル広報編
松本 卓(小倉記念病院経営企画部企画広報課)
小倉記念病院における病院広報に関して,前編でウェブサイトやSNSを駆使する「デジタル広報戦略」について,後編で市民公開講座や広報誌などを駆使する「アナログ広報戦略」を紹介します。
病院広報で最も大切なことは
「デジタル広報戦略」と「アナログ広報戦略」。一見大きく異なるように思われるこの2つには,共通する大切なポイントがあります。それは「医師の露出度」「広報ツールの多様化」「クリエイティブ」です。まずは,それぞれのポイントを見てみましょう。
◆医師の露出度
Webアクセス解析ツールであるGoogleアナリティクスで,当院ウェブサイトを閲覧するユーザーを分析すると,50%近くが「診療科案内」を見ています(図1)。もうダントツです。そのうち約60%が「医師紹介ページ」を閲覧しており,「治療法」や「実績」は約25%です。
図1 Googleアナリティクスを用いたユーザーの閲覧サイト分析(2018年10月~2019年9月までの集計結果) |
また,初診紹介患者408人へ「大きな病院を選ぶ際に重視しているものは何ですか?」とアンケートしたところ,「専門医が充実している病院」「信頼できる医師がいる病院」の項目が上位を占め,医師のスキルや評判を重視していることがわかるかと思います(図2)。どんな医師が在籍しているのか生活者は気になっていますので,医師の露出は重要となります。
図2 初診紹介患者アンケート調査(n=408人,未記入者含む)(クリックで拡大) |
◆広報ツールの多様化
病院には一般企業のようにCMを打つ文化はありませんので,病院ブランドを構築するためには「タッチポイント(註)でユニークなイメージを与えること」が必要です。ただし,こうしたブランドイメージをアップさせる手法の中に100点満点の広報ツールは存在しません。個人的には,病院ウェブサイトでも30点程度だと感じています。広報誌は20点,SNSは10点,健康講座は8点くらいでしょうか。こう聞くと効果の高いツールだけやりたい病院が多いと思います。ですが,ウェブサイトの開設はどこの病院でもしていますし,他院と差別化するには10点,20点の積み重ねを地道にやっていくしかありません。
◆クリエイティブ
病院をPRするためにあれこれ取り組めばいいわけでもありません。最終的にはユーザーの心を動かさなければならないのです。ユーザーとより良いコミュニケーションを取る仕組みを常に考え,オリジナル性の高い取り組みを実施していく必要があります。
ウェブサイトは結婚指輪!?
「医師紹介」が1番の人気ページであるのはご理解いただけたはずです。その上で,「Web上で医師とユーザーの距離を縮められるような方法はないか」と考え,思いついたのが「動画での医師紹介」でした。これまで写真で医師を紹介していたページを動画に変えただけですが,写真だけでは伝わらない医師の雰囲気まで知ってもらうには最適だと考えたからです。現状,循環器内科のみの変更ですが,平均ページ滞在時間が,1分51秒から2分19秒まで伸び,興味を持っていただけていることを実感します。
また,Googleアナリティクスの解析結果から注目したのは,Googleなどの検索エンジンから当院のウェブサイトにたどり着く方が訪問者全体の80%以上であったこと。さらに,そのほとんどが「小倉記念病院」と検索していることでした。ユーザーが病院名を検索してくれるのはありがたいのですが,ここには落とし穴があることも忘れてはなりません。それは,「ページビュー数の増加と病院経営にはあまり関連性がない」ということです。eコマースを展開する一般企業であれば日本全国がマーケットになり,ページビュー数の増加は重視されるものの,大多数の医療機関のマーケット範囲は市内レベルです。すなわち,北九州市にある当院において,東京からの閲覧者が増えてもあまり意味を成しません。
ですから当院のウェブサイトの役割は,マーケット範囲の地域でWeb以外のタッチポイントに多く触れてもらい,「小倉記念病院」と検索してもらうことで最終的に口説き落とす手段だととらえています。プロポーズで最後に出す結婚指輪と同じです。でも結婚指輪を渡すまでには食事に行ったり,旅行に行ったり,長い歳月と手間暇がかかりますよね。つまり,当院ではこの手間暇のほうに少し重きを置いているというスタンスです。
LINEは最強のSNSツール
当院ではFacebook,Instagram,LINEを活用しています。Facebookは,ウェブサイトのブログ的役割,求人者への情報提供,院内広報などを。Instagramはウェブサイトの付属品程度にとらえ,ビジュアルコミュニケーションの促進につながればとの考えで活用しています。
そしてLINEです。結論からお伝えすると,集患目的のSNSでは一番オススメです。当院は,アカウント開設から1年間でフォロワー数が2656人になり,開設から5年経過したFacebookのフォロワー数を一瞬で抜きました。やはりLINEは患者層でも利用率が高いようです。それでは,当院のLINE活用法を「ベネフィット」「字幕付き」「配信時間・投稿回数」の3つのポイントに絞って,紹介していきましょう。
◆ベネフィット
他院のLINEをいくつかフォローしてみたのですが,外来医師分担表の更新情報や,当日の休診情報が配信されることがありました。受診予定のないフォロワーからすると,そんな配信が届くのはわずらわしいですよね。つまり,フォロワーの大多数が面白いと思う内容にしなければなりません。ですので,当院で実施可能な最新治療の紹介や生活者が気になる健康情報などを配信しています。また,ウェブサイトでの経験も踏まえ,こうした情報を当院の医師が動画で解説しています。
◆字幕付き
聴覚障害者の方から「フォローしているけど動画なのでわからない」との意見をいただき,少し前から医師の解説を字幕付きにしました。そもそもユーザーのことを考えてみると,配信時にボリュームを上げて聞ける環境でない場合もあるはずです。少しでも多くのフォロワーが理解できる環境に配慮するのも注意点の一つですね。
◆配信時間・投稿回数
当院ではLINEを「口コミを発生させる装置」と考えています。そのため,フォロワーが「こんなの届いたよ。見て見て」と紹介できるタイミングを狙うのが効果的です。さらに言えば,毎日届くのも面倒くさいですよね。当院では月2回程度に限定して,家族で食卓を囲む可能性が高い日曜19時に配信するようにしています。
これほどまでにLINE運用に気を使う理由は,「ブロック者数を増やさないこと」が重要だからです。LINE公式アカウントのブロックの割合はおよそ25%程度と言われています。せっかく登録してもらったのにブロックされては意味がありません。当院はこの配慮のおかげか,ブロック割合は10%程度を達成しています。
以上,ここまで当院が行うデジタル広報戦略を紹介してきました。次回は「アナログ広報戦略」をお伝えします。
註:顧客がサービス提供者(ブランド)と接点を持つタイミングのこと。意図して発信するSNSや広報誌などの広告だけでなく,口コミなどもタッチポイントに含まれる。今回の場合,病院と生活者(患者を含む)との接点を指す。
まつもと・すぐる氏
2006年より小倉記念病院勤務。医事・人事・管理業務を経て,現職のマーケティング業務に従事。Web,SNS,メディアリレーション,イベント,動画マーケティング,クリエイティブなど,コミュニケーションデザイン全般を統括する。病院マーケティングサミットJAPAN理事。
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