医学界新聞

2019.10.21



Medical Library 書評・新刊案内


マウス組織アトラス

岩永 敏彦,小林 純子,木村 俊介 著

《評者》和栗 聡(福島県立医大教授・解剖組織学)

遺伝子改変マウスを扱う研究者に福音

 こんなアトラスが欲しかった! そう思わせる実用的な図譜に久しぶりに出合えた。医科学研究にとって遺伝子改変マウスの解析は当たり前の時代である。ノックアウトマウスで予想外の組織に影響が出たとき,あるいは組織特異的ノックアウトマウスの顕微鏡解析を初めて行うとき,どうするか。これまで私は,関連論文を検索するところから始めていた。でもこれからは違う。この『マウス組織アトラス』がすぐそばにある。

 大きな特徴は,免疫染色による写真の多さであろう。ブラウンに染まるDAB染色像,そしてグリーン,レッド,ブルーを基調とした蛍光カラー写真が目を引く。しかも,質の高いものばかりである。これほど免疫組織写真を多用しているアトラスは珍しい。そこから得られる情報はまさに「機能」を前面に出した組織学である。HE染色では目立たない特殊な細胞や構造,そして機能分子を可視化すれば,組織構造と機能の同時理解が一気に進む。医学生にとっては病理診断が重要であるから,教育現場でのHE染色像は欠かせない。しかし,研究の世界ではこだわる必要はない。機能重視の優れた染色法のほうが先端をいける。その意味で,時代を先取りした一冊といえよう。

 もう一つ忘れてならない特徴は,簡潔さである。ほとんどの項目が見開き2ページでまとめられており,そこには短い導入の記述と10枚程度の写真が収められている。また,マウスに特有の肉眼解剖写真や模式図が随所に見られる。さらに,付録にはマウス組織で使える抗体がリストアップされ,研究のスピードアップが図られる。経験者は一目で,入門者は短時間見る(そして読む)だけで,組織の概要が理解できてしまう。これほど膨大な知識をコンパクトにまとめるには,解剖学全体の知識のみならず,組織学研究のポイントと最新の知見を併せ持つ必要がある。

 著者は日本の組織学を牽引してきた岩永敏彦先生と,その門下の方々(北大)である。岩永先生といえば,故・藤田恒夫先生(当時新潟大)の研究室で組織学を極め,最近は藤田尚男先生・藤田恒夫先生の『標準組織学 総論各論』(医学書院)の改訂版を手掛けたことでも知られる。実際,学会でお会いした際は,染色法や使用抗体について教わることが多い。中でも「良い標本を作成しさえすれば,学生の理解は進む」という先生の持論は忘れられない。これは研究の世界にも当てはまる。論文で良いデータを示せば,レビューアーも読者も説得できるのである。写真のプレゼン手法にも数々の経験とこだわりを垣間見ることができる。論文図作成の良いお手本にもなるアトラスである。本書は退職を前に編集したとのことであるが,まさに真のエキスパートによる集大成といえよう。まえがきには「標本を観察したときの感動を若い研究者に伝えたい」とある。伝わるとどうなるだろう? そう,「感動は人を動かす」のだ。感動したからこそ私も本評を書かせていただいた。マウスを扱う研究室には必ず一冊,そろえてほしい。

A4・頁168 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03433-3


こどもの整形外科疾患の診かた
診断・治療から患者家族への説明まで 第2版

亀ヶ谷 真琴 編
西須 孝 編集協力

《評者》服部 義(あいち小児保健医療総合センターセンター長)

小児整形外科の診断遅延や誤診断を防ぐ一助となる書

 日本の少子高齢化が止まりません。厚労省の統計によれば2018年の出生数は91万8397人,合計特殊出生率は1.42で出生数,出生率とも3年連続の減少となっています。こどもが少なくなれば,当然こどもの整形外科疾患患者も少なくなり,全国で小児整形外科疾患を診る機会がますます少なくなってきています。

 そのような状況の中,日本小児整形外科学会が行った発育性股関節形成不全(DDH)全国多施設調査では,2年間の乳幼児未整復脱臼例1295人中,199人(15%)が1歳以上の診断遅延例で,また3歳以上まで診断されなかったこどもたちが36人いて,調査するとそのほとんどが乳児健診を受けており,さらにその中には医療機関を受診していたにもかかわらず診断されていなかったこどもたちも多くいました。DDHのみならず,こどもの整形外科疾患の見逃しや誤診断は,こどもや家族に与える影響が大きく,時にはその後のこどもの人生に大きな負担を掛けることにもなります。

 このような診断遅延や誤診断を防ぐべく,一般整形外科医の小児疾患診察の手助けとなる一冊として,2011年に出版された本書の初版は,整形外科外来に常備しておくべき成書として,大いに役立ってきました。その後8年が経過し,待望の第2版がこの度出版されました。初版と同じく編集は亀ヶ谷真琴先生,編集協力は西須孝先生の千葉県こども病院の師弟コンビであり,その下に,日本にとどまらず世界の小児整形外科のメッカともいえる千葉県の小児整形外科グループの先生方が著者に名前を連ねています。対象疾患は初版の40疾患から64疾患に増えており,また文献に基づいた最近の知見も追加提供されています。

 特に本書が有用となるのは整形外科外来にこども・家族が来院し,その診断・治療方針に不安を感じたときであり,本書をひもとけば,たちどころにそのさまざまな不安が解消されます。まず疾患別に患者家族からよくある質問が羅列され,その回答,診療上の留意点,さらに専門医に紹介するタイミング,疾患の解説・治療法まで親切に記載されています。まさしく整形外科外来に置いておくべき座右の書と言っていいと思います。小児整形外科の英文でのバイブル的成書『Tachdjian’s Pediatric Orthopaedics』(いわゆるタヒジャン)に対して,編者自らが名付けた「亀ジャン」と呼ばれる本書が,日本におけるバイブル的小児整形外科の成書になり,少なくなりつつある小児整形外科疾患の基本知識の啓発に役立ち,疾患を持つこどもたちの診断遅延や誤診断が多少でも減れば,小児整形外科医にとり幸甚この上ないことと思います。

B5・頁432 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03677-1


《標準言語聴覚障害学》
地域言語聴覚療法学

藤田 郁代 シリーズ監修
半田 理恵子,藤田 郁代 編

《評者》長谷川 幹(三軒茶屋内科リハビリテーションクリニック院長)

地域での言語聴覚士の活躍の拡がりを示す

 脳卒中などを発症すると入院し,障害が残ったまま退院する。そこで,地域でのさまざまな医療・福祉関係者がチームを組んで障害のある人の支援をすることになる。

 子供の病気は発達障害,周産期の障害など幅広くあるが,子供を専門に診ているリハビリテーション病院は公立などに限定されていることが多い。教育も絡み,地域に生活している障害のある子に十分な対応ができているとはいえないのが現状である。

 また,超高齢社会に突入し,嚥下障害の高齢者が多くなり,その対応も重要である。

 このように小児から高齢者,さまざまな疾患による障害のある人に対する地域の体制づくりが大きな課題である。

 こうした中で,本書が登場したのは時宜にかなっている。言語聴覚士が国家資格になってまだ約20年という歴史から,地域で活動している言語聴覚士は少ないため,編者の序で,「先例となるテキストや理論が存在しないため,執筆者はご自分の経験を頼りに荒野を耕すような思いで一字一句を生み出されたことと思う」と述べている。そのような思いを込めて挑戦している姿が思い浮かぶような本である。

 第1章の「社会的背景と意義」では,第一次大戦以降のリハビリテーションの歴史,わが国における高齢者~小児の社会保障制度の変遷などを大局的に述べ,第2章以降につなげている。

 第2章の「成人・高齢者の地域生活を支える」では,求められる地域言語聴覚療法に関して,地域包括ケア,医療,介護などのシステムと制度以外にインフォーマル支援に着目している。地域で言語聴覚療法をする際の情報収集と評価,支援計画などを基礎として,具体的な地域での介護予防,通所,在宅,介護老人保健施設などの場での言語聴覚療法について,そして,失語症,高次脳機能障害,神経難病,がん,吃音などのある人への地域での言語聴覚療法について,幅広く述べている。

 第3章の「小児の地域生活を支える」では,発達,教育の視点で乳幼児,通所,就学後,特別支援教育,重症心身障害児について,支援のシステム,他の職種の動きと言語聴覚士の役割,動きを詳細に述べている。

 第4章では最近組織化された災害時へのリハビリテーション体制と言語聴覚士の役割,第5章でコミュニケーション機器について述べている。

 このように地域での言語聴覚士の活動の場は極めて広く,評者も学ぶ点が多かった。歴史的に見てまだ未成熟な部分が多く,若い世代もこれを機に地域で挑戦し障害のある人と共に課題を解決していこうとすれば,言語聴覚士の活躍する場面が拡がりその内容が深化すると思う。

 言語聴覚士のみならず関連職種,学生などにもぜひ読んでいただきたい本である。

B5・頁232 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03637-5


脊髄損傷リハビリテーションマニュアル 第3版

神奈川リハビリテーション病院 脊髄損傷リハビリテーションマニュアル編集委員会 編

《評者》德弘 昭博(吉備高原医療リハビリテーションセンター院長)

技術・知識・経験が全領域にわたり記述された優れた技術書

 脊髄損傷(以下,脊損)は本人・家族,さらに周囲の人々にもその後の人生に多大な影響を与える重要なリハビリテーション(以下,リハ)の対象障害である。その障害は多面的で,初期のリハから生涯にわたる包括的ケアが必要となる。リハにかかわる医療者はチームで対応するが,障害は重く,対応の範囲は広く,要する知識は膨大で,医療現場での身体的・精神的負担は大きい。わが国で専門的リハ医療を展開できるリハ施設は限られている。

 神奈川リハビリテーション病院は脊損リハの長い歴史と多くの経験があり,高度な技術と知識を持つわが国有数の施設である。本書にはその技術・知識・経験が全ての領域にわたって記述されている。本書は優れた現場の技術書であり,同時に脊損リハの全貌を知ろうとする者にとっては絶好の教科書である。

 本書の初版の序の冒頭には「この本は実践の技術書である」と編者の志が示されているが,今回の第3版もこの姿勢が貫かれると同時に,新たな技術・知見が盛り込まれた最新の内容になっている。写真・図を多用しビジュアルに理解を促進するという配慮がなされており,読者は脊損リハ全般の知識とその全貌が理解できると同時に,リハ医療が対応する分野の広がりと深さに気付かされる。医療現場の医療文化やリハに向かう姿勢をも発信されているように思える。

 脊損の発生状況は変化しつつあり,現在は高齢者の四肢不全麻痺が多数を占める状況となった。高齢者に対しては各地域の施設でリハ治療が行われることが多いが,脊損に対する経験があまりない医療者は心理的な負担を感じていると聞く。そのようなときも本書は高齢脊損者のリハ医療にも触れられているので絶好の技術書となり,各施設の脊損リハ技術・知識の普及・向上に役立つだろう。

 また脊損医療の現在の関心は再生医療にあるが,それが本格的に開始された後も社会復帰には地道なリハ訓練を経なければならない。その際にも本書に記述された内容は有用であり続けると思われる。

 脊損リハの現場では医学的エビデンスを明らかにできない医療も実際行われている。本書は医療者が抱くそうした疑問に合理性ある記述で応えている。

 読みやすく考慮されており脊損リハの入門者にはもちろん,脊損リハに現在かかわっている医療者にとっても技術や知識の確認・整理に最適である。

B5・頁336 定価:本体5,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03696-2


内科救急で使える! Point-of-Care 超音波ベーシックス[Web動画付]

亀田 徹 著

《評者》山中 克郎(福島県立医大会津医療センター研修教育センター長/教授・総合内科学)

エコーを効果的に使い,的確な診断推論に役立てよう!

 「共に老いてゆこう。いちばんいい時はこれからだ。人生の最後,そのために最初が作られたのだ」

 と詩を詠んだのは英国の詩人ロバート・ブラウニング(1812~89年)です。

 60歳になると細かい字を読むことはできなくなり,数日前に勉強したことも忘れてしまいます。診療手技は若者にとてもかないません。しかし,病気の診断まで若手医師に負けるなんて悔しいのです。

 亀田徹先生に初めてお会いしたのは,数年前に軽井沢で開かれた診断推論をテーマにした研修医セミナーの会場でした。そこで亀田先生がPoint-of-Care ultrasound(POCUS)の有用性を熱弁されていたのです。直感的に,これからの診断推論にはエコーを効果的に使った診断が非常に有用であると感じました。

 その後,亀田先生は医学書院の雑誌『総合診療』に「診察で使える! 急性期Point-of-Care超音波ベーシックス」を連載し,ますます多くの医師がPOCUSの有用性を実感するようになりました。

 救急室では若手医師らが超音波診断装置を積極的に使い,的確に診断していく姿をよく目にします。ベテランも負けてはいられません。新しいものを覚えるのは非常に苦痛ですが,有益なものはどんどん学ばなければ医学の進歩から取り残されていきます。

 私は新しいことを学ぶときにはお気に入りの1冊の入門書を熟読することから始めます。内科診察室や救急外来での超音波診断を学ぶのにこの本ほど適したものはありません。

 本書では,まず,超音波診断の基礎理論が述べられています。次に疾患を腹部(急性胆囊炎,腸閉塞,急性虫垂炎,尿路結石,腹部大動脈瘤,腹腔内出血),循環器(左室収縮能低下,心タンポナーデ,急性肺塞栓症,循環血液量減少,下肢深部静脈血栓症),呼吸器(気胸,心原性肺水腫,肺炎,胸水)に分類し,超音波診断の方法について動画を交えながらわかりやすく解説がなされています。観察項目とポイント,身体所見と超音波検査所見との組み合わせでの診察,POCUSのエビデンスについて引用論文を用いて熱く語られているのです。

 さらにもっと高度なPOC活用を学びたい人のために,ショックと呼吸困難の評価,心停止の評価,気管挿管の確認法と続きます。

 若手医師に負けてはいられません。ブラウニングはこんな名言を残しています。

 「成長せずに,どうしてこの世に存在する意味があるだろうか」

B5・頁240 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03805-8


画像所見のよみ方と鑑別診断
胆・膵 第2版

花田 敬士,植木 敏晴,潟沼 朗生,糸井 隆夫 編著

《評者》海野 倫明(東北大大学院教授・消化器外科学/日本胆道学会理事長)

画像オタク・病理オタクの新たなバイブル

 本書は初版に引き続き,日本消化器画像診断研究会を基盤として発刊された。日本消化器画像診断研究会は,1983年に有山襄先生,竹原靖明先生により創設された研究会で,各施設が持ち寄った貴重な1例を,発表時間5分,討論時間15分をかけて,消化器内科医,消化器外科医,放射線科医,病理医がけんけんごうごうの議論を戦わせる会である。CT,MRI,ERCP,EUSなどの画像と病理を突き合わさせ,診断が正しいか否かのみではなく,その画像と病理像との整合性,診断に至るストラテジー,さらに治療方針の妥当性,遺伝子変異や病因論などに関しても延々と討論が行われ,時間オーバーが当たり前の研究会である。

 私は以前より,本研究会は「画像オタク・病理オタクの晴れ舞台」と感じていた。質問者が自分でレーザーポインターを持って来て発表者にかみ付く学会・研究会など他にあろうか? 発表者をそっちのけで質問者同士が議論することなどは,他の学会・研究会ではまず見たことがない。本研究会は,発表者に多くの緊張を強いるが,その反面,発表がうまくいくとホッとするとともに,さらに勉強しようという意欲が湧く,まさに若手にとって最高の鍛錬の場でもある。

 本研究会の代表世話人は,初代の有山先生に始まり,堀口祐爾先生,山雄健次先生,そして現在の真口宏介先生に脈々と引き継がれているのである。第2版を執筆された,花田敬士先生,植木敏晴先生,潟沼朗生先生,糸井隆夫先生は,現在の日本消化器画像診断研究会の中心人物であり,また次世代を支えるホープでもある。彼らによって初版本に引き続き,今回もまた,「画像オタク・病理オタクのバイブル」と言える素晴らしい本が完成したことに敬意を評したい。

 小生は外科医であるので,実際に内視鏡をしたり診断を下したりすることは少ないが,常日頃から消化器内科医,放射線科医,病理医の診断に助けられていることを実感している。われわれは彼らの診断結果を受けて患者さんを手術したり,治療方法を変えたり,術後のフォローアップを行うのであり,画像診断・病理鑑別診断は,まさに患者さんの生死を分ける最重要事項であり,常に頭に入れておく必要がある。外科医にとって本研究会は,「画像オタク・病理オタク」の熱い討論とそれから導かれる多くの知見により外科臨床が助けられていることを,身をもって体感できる場である。良い外科治療成績が得られるのも,良い内科医,放射線科医,病理医がいて初めて達成できるものであり,それは車の両輪のように両者が機能して初めて真っすぐに進んでいくものと思っている。

 繰り返しになるが,本書は「画像オタク・病理オタクのバイブル」というべき極めて魅力的な本で,現在の「オタク」はもちろん,このようなオタク世界が広がっていることを若い医師にも紹介できる素晴らしい出来である。「オタク」は求道者でもある。「オタクのバイブル」である本書に刺激を受けて消化器画像診断の求道者が一人でも増えること,そしてその結果,多くの患者さんを救えるようになることを期待している。

B5・頁400 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03238-4

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