一発診断できる整形外科疾患を見てみよう(仲田和正)
寄稿
2019.09.09
【寄稿】
一発診断できる整形外科疾患を見てみよう
仲田 和正(西伊豆健育会病院院長)
私が研修医の時,天竜川上流の僻地診療所での診療を初めて見学しました。何より驚いたのは,膝の痛みや腰痛,四肢外傷など整形外科疾患の多さでした。内科,小児科,整形外科の3科がわかれば僻地で遭遇する疾患の8~9割に対応できるなというのが実感でした。
整形外科の知識はプライマリ・ケアや救急室では必ず必要とされます。診療所では腰痛,膝の痛みは極めてありふれた疾患です。また米国の医療訴訟で多いのが骨折の見逃しなのです。本稿では一瞥しただけで診断できる整形疾患を5つ紹介します。写真をよく見て暗記してください。覚えていれば必ず役に立ちます。
写真1 コレス骨折のフォーク状変形 |
コレス骨折は小児と老人で多い疾患です。手掌をついて橈骨遠位端が背側に転位するため写真1のようなカーブができます。正常ではこのカーブは決してありません。自分の手首とよく比較してください。このカーブがあればコレス骨折とほぼ確定できます。手指をフォークの刃と考えると,丁度フォークをひっくり返したような形に見えるためフォーク状変形といいます。
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写真2 肘関節後方脱臼の変形 |
肘関節脱臼は手掌をついて肘頭が後方へ脱臼するため写真2のようなカーブが生じます。このカーブがあれば肘関節脱臼,あるいは上腕骨顆上骨折(肘伸展して手をついた場合)です。
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写真3A 右肩関節前方脱臼の肩章サイン |
肩関節脱臼では上腕骨頭が下前方へ脱臼しますので,肩峰が取り残されて肩が角ばって見えます。これを肩章サインといいます。肩章とは自衛官や警察官が肩に着けているものです。左右の肩をよく見比べてください。また写真3Aで右上腕の長軸が左に比べて内側に寄っていることに注意してください。
写真3B 肩鎖関節脱臼のピアノキーサイン |
肩鎖関節脱臼では写真3Bのように鎖骨外側端が飛び出します。指で押さえるとピアノキーのようにポコポコ下がるのでピアノキーサインといいます。一見,肩関節脱臼に似ていますが,肩の丸みが保たれていることに注意してください。写真3Aと比較のこと。
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写真4 大腿骨骨折 |
上は右大腿骨骨折,下は左大腿骨骨折。両症例とも,患肢に外旋・短縮が見られる。 |
写真4上は右大腿骨骨折です。右下肢が外旋かつ短縮しています。この「外旋・短縮」を見つけることがポイントです。大腿骨頸部骨折,大腿骨転子間骨折でも同様に「外旋・短縮」を起こします。ボーっと見ていると気が付きません。
鼠頸部を痛がっている老人で「外旋・短縮」があれば大腿骨近位部骨折を疑ってかかります。
また恥骨に聴診器を当て,指で膝蓋骨を叩くと骨折側では音が小さく聞こえます(まあ,当たり前だけど)。往診で役に立つ技術です。
写真4下は左大腿骨頸部骨折です。左下肢の短縮には気付きますが,足の外旋は気が付きにくいと思います。しかし膝蓋骨の位置を見てください。右に比べ左膝蓋骨のほうが外側を向いており,左下肢が外旋していることがわかります。
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写真5 左股関節脱臼 |
写真5は左股関節脱臼です。股関節が屈曲かつ内転しています。また大抵,骨頭は後方へ脱臼しますので患肢の膝の高さが低くなることに注意してください。
【怒涛の反復】
・橈骨遠位端骨折はフォーク状変形 ・肘関節脱臼は肘後方のくぼみ ・肩関節脱臼は肩章サイン,また上腕長軸が内側にずれる ・肩鎖関節脱臼はピアノキーサイン ・大腿骨骨折は患肢外旋・短縮 ・股関節脱臼は患肢屈曲・内転・膝の高さが低い |
なかだ・かずまさ氏
1978年自治医大卒。静岡県立中央病院にて全科ローテート研修。浜松医大麻酔科,静岡県国民 健康保険佐久間病院外科・整形外科,自治医大整形外科大学院,静岡県島田市民病院整形外科を経て,91年より現職。近著に『整形画像読影道場』(医学書院)。座右の銘は「常に目の前のことに全力を! Carpe diem!」。
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