医学界新聞

2019.09.02



Medical Library 書評・新刊案内


《理学療法NAVI》
エキスパート直伝 運動器の機能破綻はこう診てこう治す[Web動画付]

福井 勉 編

《評者》荒木 茂(石川県立明和特別支援学校)

福井勉氏が選ぶ運動器理学療法のエキスパート軍団の豊富な臨床経験がこの一冊に集約

 編者の福井勉教授の人脈と眼力で集めた,運動器の理学療法のエキスパートが書いた本。これだけで新人理学療法士だけでなく私のような昭和の理学療法士にとっても必読の本であることは間違いない。

 腰痛や股関節痛,膝関節痛などの運動器疼痛症候群は,明らかな外傷や,腫瘍,感染症などレッドフラッグを除けば,その人の長年の姿勢や生活習慣,職業,スポーツなどにより特定の組織に物理的ストレスが繰り返しまたは持続的にかかることによる累積加重型損傷が多い。何らかの機能破綻による特定の組織に対する物理的ストレスの蓄積が痛みの原因となり,ついには構造破綻を起こす。痛みのある部位を治療し患者の訴えが一時的に改善したとしても,原因となっている機能破綻(異常姿勢アライメントや異常な運動パターン)を改善しなければまた再発を起こす。再発を防ぐためには痛みの原因となる機能破綻に対する運動療法が必要であり,理学療法士の専門性が発揮されるところである。

 しかし,患者によって異なる機能破綻を評価により特定することはかなりの知識が必要になる。MMTやROMテストなどの量的な評価ではこの機能破綻を見つけることはできない。姿勢アライメントや運動の質を評価することが必要であり,本書ではその方法が代表的な症候に対して記載されている。

 本書の構成は1,2章が「股関節・骨盤」,3章「上肢」,4,5章「肩関節・胸椎」,6,7章「膝関節」,8章「骨盤底筋」,9章「足部」,10,11章は「体幹,腰椎」の機能破綻についてと,ほぼ全身の問題について網羅されている。そしてそれぞれについて,①症候,②機能解剖,③機能破綻と構造破綻の関係性,④どう評価するか,⑤どう治療するかという項目について簡潔に書かれている。1章ごとに完結しているので臨床の場でも短時間で読むことができる。まずは全体を一読し,次に臨床で困ったときに該当する章を読み参考にするとよい。

 新人理学療法士はもちろん,経験のある理学療法士にとってもルーチンワーク化した治療を見直すためのよい教材になることは間違いない。おそらく今まで気が付かなかった新しい視点を多く発見することができるだろう。評価,治療はWeb動画も付いているので実際のイメージもつかみやすい。

 運動療法は身体に障害がある者に対して医行為として行われる,理学療法士の専門分野である。医学的な根拠に基づいて行われなければならないし,医学の進歩とともに運動療法も変化していかなければならない。しかし,現場では関節可動域運動やストレッチ,筋力テストの肢位での徒手抵抗運動による古典的筋力強化法がまだまだ主流のように感じられる。もちろん基本は大切にしなければならないが,本書を参考に多くの理学療法士が機能破綻の治療という視点で現場を変えていくことができれば,出版を企画した福井教授の思いが叶うことであろう。

B5・頁184 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03835-5


肝の画像診断
画像の成り立ちと病理・病態 第2版

松井 修,角谷 眞澄,小坂 一斗,小林 聡,上田 和彦,蒲田 敏文 編著

《評者》工藤 正俊(近畿大主任教授・消化器内科学)

肝画像診断の巨人が残したマイルストーン

 日本のみならず世界から尊敬を集めている肝画像診断の巨人が,また1つのマイルストーンを残された。

 このたび,金沢大の松井修先生のグループが『肝の画像診断――画像の成り立ちと病理・病態 第2版』を上梓された。1995年の初版発刊からおよそ四半世紀ぶりの改訂である。まさに現在の肝の画像診断の最新・最先端の知識が余すところなく記載されており,間違いなく松井グループの研究の集大成と言える優れたtextbookである。

 本書は総論と各論に分かれている。総論は第I章「巨視的病理像と画像」,第II章「微視的病理像と画像」,第III章「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」,第IV章「胆管閉塞と画像」,第V章「門脈域(グリソン鞘)の異常と画像」,第VI章「肝機能画像と病理・分子病理学的背景」,第VII章「分子・遺伝子と肝画像」といった章立てである。総論全般を通じて通常の画像診断の教科書にはない,画像の成り立ちや分子病理,遺伝子変異との関連についての記述も満載されており,とても通常の放射線科医では執筆できる内容ではないことが一目瞭然である。病理との詳細な対比のみならず,松井先生が常日頃提唱されているEOB-MRIの機能イメージングとしての意義や分子イメージングとしての意義,画像バイオマーカーとしての意義などが随所にちりばめられており大変勉強になる内容である。

 また本書には,これまで松井グループが提唱し発表してこられた画像と病理の対比による画像の成り立ちが詳細に記載されている。いかに画像が病理・病態に基づいた表現型であるか,逆に言うと画像そのものが本質的に肝臓や肝腫瘍に生じている病理・病態を語り掛けているか,画像診断とは単に絵合わせやパターン認識ではなく病理・病態の本質に迫るものである,といった松井先生の信念が余すところなく記述されている。

 総論第III章の「肝および肝腫瘤性病変の血流と画像・病理」の中では肝腫瘍の画像の成り立ちが総論的かつ系統的に述べられている。肝細胞癌における多段階発癌に伴う血流動態の変化が,これまでの報告の総まとめとして詳細に記載されているのみならず,流出血流に関する記載やその他の肝腫瘍の画像所見もシェーマを使ってわかりやすく記載されている。また画像の成り立ちを説明する病理所見も常に画像と共に示されているのも大きな特徴である。

 各論は大きく第VIII章「びまん性肝疾患」,第IX章「限局性・腫瘤性肝病変」の2部構成となっている。びまん性肝疾患ではまれな症例の画像所見も多く提示されており,その解説も丁寧になされている。限局性・腫瘤性肝病変の記載は総論の記載方法とは異なり,まれな症例も含め多くの症例の画像所見が解説されている。ここにも病理との対比による画像の成り立ちが詳細に記されており,従来の画像診断の教科書にはない新鮮さがある。

 特筆すべきは普段あまり遭遇することのないまれな非腫瘍性肝腫瘤や原発性肝腫瘤も画像と病理を対比して画像の成り立ちを詳細に解説していることである。各論については最初から通読するのではなく,困った症例に遭遇したときに辞書的に検索して知識を得るという使い方も可能ではないかと考える。また通読する際も,まず画像に目を通し,次に太字で図表番号が示されている部分の解説を読むことで,より理解が深まる。そのような2通りの読み方が可能である。評者は後者の読み方をしてみたが大変役に立つ内容であった。

 個人的な話で恐縮であるが私は松井先生とは故・板井悠二先生が立ち上げられた肝血流動態・機能イメージ研究会で発足当初から長らくご一緒させていただき,その後の宴会などでも喧々諤々の議論を通してさまざまなことを学ばせていただいた。市中病院に長らく所属し内部に師匠のいなかった私にとって松井先生は私のお師匠様のお一人であり,現在の私があるのも松井先生のおかげであると感謝している。実は知り合いになる以前にも松井先生にご連絡差し上げたことがある。30年くらい前だったか,私が所属していた神戸市立中央市民病院(当時)のAngio室から直接松井先生に電話し,CO2動注造影エコーで動脈血流の全く入らない大型の結節の診断についてご相談させていただいたのである。やや興奮気味に電話したことを懐かしく思い出す。

 その当時,松井先生はCTHA,CTAPを既に開発され,それを単なる診断手技としてのみならずさまざまな肝腫瘍性病変の血流動態の解明やdynamic CTなど他の画像診断所見の成り立ちの解釈にも応用されてこられた。またSPIO-MRIやEOB-MRIなどの機能的画像診断法が登場してからも常に画像の成り立ちを病理・病態の面から追究し発表してこられたが,それがまさに現在,一般に普及した概念となっている。このような画像所見の成り立ちに対する緻密なアプローチとそれを確実に英文論文として世界に発信してこられたことが,現在まで多くの内外の放射線科医や病理医,肝臓内科医から尊敬を集め続けられる理由である。まさに現代の肝画像診断は松井先生によって実質的に確立され,また高度に洗練され,そして現在の画像診断体系の完成への道筋も松井先生によって築かれた,と言っても過言ではない。その全ての神髄がこの書には込められている。

 本書は若手のみならずベテランの放射線科医にも,また内科専攻医,消化器内科医,消化器外科医といった全ての医師にとって大いに役に立つ書籍となっている。ぜひとも,一冊手元に置いて日常診療のお役に立てていただきたい。自信を持ってお薦めする秀逸の書籍である。

B5・頁336 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03204-9


プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト

Anne M. Gilroy 原著
中野 隆 監訳

《評者》祖父江 元(学校法人愛知医科大学理事長)

革命的に進化した解剖学教育の書

 解剖学は医学生が医学に接する最初の関門であり,医学に対する期待を実感する場でもあります。しかし,同時に膨大な専門用語に最初に接する場でもあり,暗記に陥りやすい場でもあります。場合によると無味乾燥に陥ってしまう“難関”でもあります。私自身の経験でも骨の突起の一つひとつをスケッチしてラテン語を付すという延々と続く作業にうんざりしてしまったことがあります。このたび発刊された『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』は,まさにこの解剖学の難関を突破する書であると思います。

 監訳者の中野隆先生は,おそらく解剖学の教育にかけては,わが国の第一人者であると思います。

 毎年,解剖実習に来た医学生に,肉眼解剖の重要な発見やポイントを指摘し,それを学生自ら研究して,日本解剖学会などで学生自身が発表し,さらに論文にするという教育を,もう10年以上も続けて来られています。学生参加型の研究を実習に取り入れられてきた,わが国のパイオニアであり,これに参加した学生も大変啓発されていることを感じています。

 また中野先生は,解剖学は応用できてこそ価値があるということを常に言われています。臨床の現場に進んで誰もが経験しますが,解剖学が本当の価値を発揮するのは,さまざまな神経症状を示す患者さんを前にして病巣診断を迫られたときであり,腫瘍の切除の範囲やアプローチを考えるときであり,機能再建の術式を考えるときであり,麻痺のある患者さんのリハビリテーションの方法を考えるときです。中野先生は一貫してこのような臨床現場での解剖学の重要性にこだわっておられます。

 今回の『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』は,この考え方をまさに具体化している解剖書であると思います。さらに,中野先生を中心に,特に解剖学の教育を熱心に進めておられるわが国のエキスパートが結集して,本書の訳出に当たっている点も本書のこの点の価値を高めていると思います。

 本書をあらためて見てみますと,この臨床医学の視点と教育への熱意が全体にみなぎっていることがわかります。まずその組み立てが,序論の後,背部,胸部,腹部などそれぞれの部位ごとに血管・神経・筋肉・骨・臓器の記述に始まり,次にそれぞれの相互関係・神経支配・機能的関係,さらにはその関係を示す的確な図が取り入れられており,加えて,放射線画像が挿入されています。また,175項目にも及ぶコラム「臨床医学の視点」が加えられていて,全体を読み進めれば,形態のみならず機能や臨床のヒントを含めた全体像が自然にイメージできるように組み立てられています。また,美しい解剖図がふんだんに使われていて,これらの理解を進める上で素晴らしいものになっています。さらに,各項の末尾に復習問題とその解説が付けられていて,理解度の自己診断ができる形になっています。

 まさに解剖学の教育の書であり,われわれが学生時代に使用した解剖学の教科書とは比べものにならないもので,まったく革命的に進化したものになっていると感じます。

 私は,この『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』を医学生だけでなく,医学・医療にかかわる全ての人にぜひ活用していただきたいと思い推薦します。

A4変型・頁608 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03687-0


ジェネラリスト必携! この皮膚疾患のこの発疹

宮地 良樹,安部 正敏 編

ジェネラリスト必携! この皮膚疾患にこの処方

安部 正敏,宮地 良樹 編

《評者》大塚 篤司(京大特定准教授・外胚葉性疾患創薬医学兼皮膚科学)

皮膚科の先生も皮膚科以外の先生も手にとっていただきたい「宮地本」の最高傑作!

 私が京大皮膚科に入局を決めたのは,当時主任教授であった宮地良樹先生の影響が大きい。というより,宮地先生と面談をして「京大で働こう」と思った。宮地先生の皮膚科学と皮膚科診療に対する圧倒的な情熱に感動し,京都から松本に帰る特急電車で悩むことなく決断した。宮地先生はとにかく話がお上手。日本全国を回り,どんなテーマでも一流の講演をされる。併せて,本屋には「宮地良樹先生コーナー」ができるほど沢山の教科書を編集されている。ここまでたくさんの本を出されるには,もちろん理由があるはず。

 「先生,どうやってこんなに教科書を作っているんですか?」

 書籍を量産するテクニックをこっそり伝授していただこう。そういう魂胆の私に,宮地先生の答えはシンプルだった。

 「いろんな学会や講演会に参加して勉強しているからだよ」

 いやはや,聞いた自分が恥ずかしくなった。皮膚科を何十年も愛し,貪欲に勉強してきた当然の結果が数々の「宮地本(みやちぼん。宮地先生が書いた本たちの俗称)」という当たり前のことを私はまざまざと思い知らされた。

 研修医の頃から,私は宮地チルドレンとして「宮地本」のほぼ全てに目を通している。ありがたいことにいくつかは分担執筆させてもらっている。その200冊を超える「宮地本」の中で,『ジェネラリスト必携! この皮膚疾患のこの発疹』と『ジェネラリスト必携! この皮膚疾患にこの処方』の2冊は間違いなく最高傑作だと断言する。各項目をおなじみの有名専門家が担当し,難しい専門知識をジェネラリストに向けてわかりやすく解説している。「粟粒大の淡紅色紅斑がびまん性に散在」などと皮膚科医にしか通用しない解説だけが乱暴に並んでいる教科書とはわけが違い,「これでもか」と臨床写真が掲載されている。そして,視覚的に理解を助ける図も多い。皮膚科医の私にとっては眺めているだけで楽しい,そんな教科書になっている。

 さて,個人的には,巻頭に掲載されている宮地先生と群馬大時代の宮地チルドレンである安部正敏先生の対談が最高に面白い。京大時代の宮地チルドレンの私としては,宮地先生の知識を十二分に引き出した安部先生に軽く嫉妬を覚えるほどの充実した内容であった。これはぜひ,皮膚科の先生も皮膚科以外の先生も,実際に本を手に取って読んでいただきたい。私が「京大皮膚科に入局したい!」と思った十数年前の当時の気持ちを共有していただけるのではないかと期待している。2冊の本をパラパラとめくりながら,あのとき,京大皮膚科に即断した私を褒めてあげたいと思った。超えることができない師匠を持った私はとても幸せな皮膚科医だと思う。

ジェネラリスト必携! この皮膚疾患のこの発疹
A5・頁256 定価:本体4,000円+税 医学書院

ISBN978-4-260-03680-1

ジェネラリスト必携! この皮膚疾患にこの処方
A5・頁240 定価:本体4,000円+税 医学書院

ISBN978-4-260-03681-8

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