医学界新聞

連載

2019.08.12



スマートなケア移行で行こう!
Let's start smart Transition of Care!

医療の分業化と細分化が進み,一人の患者に複数のケア提供者,療養の場がかかわることが一般的になっています。本連載では,ケア移行(Transition of Care)を安全かつ効率的に進めるための工夫を実践的に紹介します。

[第10回(最終回)]地域で紡ぐケア移行 次回の入院に向けた準備を始めよう

今回の執筆者
松村 真司(松村医院)

監修 小坂鎮太郎,松村真司


前回よりつづく

CASE

 COPD急性増悪で入院となった80歳男性(詳細は第2回・3301号参照)。一時はICU管理を必要としたが改善し,退院後の継続的な外来管理は自宅から徒歩圏内にある診療所で行うことになった。退院7日後の本日,診療情報提供書とお薬手帳を持参し,妻と一緒に診療所に来院した。

 急性期病院からの退院先は,診療所,回復期リハビリテーション病棟などの急性期以外の病院,老人保健施設をはじめとした介護施設などさまざまですが,その多くを占めるのは本事例のような診療所の外来です。2015年に発表された高齢者の医療・介護サービスに関する調査によれば,入院直前にいた施設へ退院することが多く,特に在宅で生活していた人は91.0%が在宅に戻ることが明らかになっています。また,このような退院患者のうち3割程度が1年以内に再入院を経験し,再入院のリスクが最も高いのは退院後1~2か月未満の間であることが判明しています1)。米国における調査でも,病院から退院したメディケア加入患者のうちの19.6%が30日以内に,34.0%が90日以内に再入院していました2)

 上記のような報告から急性期病院を退院した直後は特に再入院のリスクが高く,退院前後の移行期における調整が特に重要と考えられます。興味深いことに,退院後早期(7日以内)における再入院予防は,病院側による患者教育等の事前対策によって可能な場合が多いものの,それ以降(8~30日)の再入院予防は,外来あるいは在宅での介入による対策が必要な場合が多いことも明らかになっています3)

 これらの情報を統合すると,特に再入院リスクの高い高齢者においては,円滑なケア移行を意識すると同時に,再入院予防を意識した準備をすぐに始める必要性が理解できるかと思います。

質の高いケアを提供するために

 ColemanとBoultらは米国老年医学会のポジション・ステートメントの中で質の高いケア移行に必要な要素を挙げています4)。それらは,患者・介護者の準備体制の構築,退院時の評価および薬剤調整,ケア提供者間による双方向のコミュニケーション,フォローアップのプラン,自己管理のための十分な患者教育など多岐にわたります。そのためにもまずは,退院元から提供された情報をもとに,これらが十分であるか確認します。医師間だけではなく,退院調整看護師や薬剤師など,多職種と協力していく必要もあるため,日頃から十分な連携を意識しておくことが重要です5)

 他方,退院後の生活の中で明らかになる問題もありますので,退院後の外来ではこれらの情報を整理しつつ早急にケア体制を構築していくことが必要です。特に,次項に述べる5つの情報は,次回の入院時に必要になることが多い情報ですので,すぐに参照できるようにまとめておきましょう。

次回の入院に備えて整理しておくべき情報

介護基本情報

 患者が介護保険を利用している場合は,要介護度,担当ケアマネジャー名,介護事業所情報について確認します。介護保険を利用していない場合にも,退院後の患者状態によっては申請が必要になることも考えられます。そのため介護に関連する基本的な情報は,初回外来受診時にまとめて記載しておくことが重要です。

生活環境・家族情報

 外来受診時点でのADL/IADL,認知機能などを再確認します。入院時,これらの値は一時的に低下することが多いものの,退院後は患者の状態を反映し,速やかに改善することもまれではないからです。また,独居か否か,家屋状況,支援にかかわる家族(キーパーソン)が誰かなどの生活環境および家族に関する情報が,退院元の病院から提供されているかを確認し,不足部分があれば情報収集しておきましょう。

薬剤・処置の情報

 ケア移行時に起きる最も頻度の高い有害事象は,入院中に開始された薬剤による副反応など,投薬に関連すると言われています5, 6)。処方内容や容量については薬剤師の協力を得ながら必ず確認しましょう。また,インスリン注射・吸入手技や必要な医療機器の扱い方,物品の在庫や交換時期などは,事前に把握しておくと安全にケアを行うことができます。

患者・患者家族の理解度

 退院後は患者・患者家族の自己管理が重要になります。そのため,入院中に行われた説明内容とその理解度をあらためて確認した上で,今後のケアに主体的にかかわっていただけるよう促します。もし患者および患者家族の理解度が不足しているようであれば,不足部分に応じた追加の説明や書面での情報提供など,さまざまな支援が早期から必要になります。多くの患者はこのようなケア移行期には不安が大きく,病状を理解しているように見えても,医師が期待しているレベルにはないこともあるため注意が必要です。

急変した際の患者希望の確認

 入院の機会に,再度の急変時のケアに関する希望について話し合いが行われることもあると思います。しかし,米国では事前指示(Advance Directives)を医療者に提示したにもかかわらず,カルテにその内容が転記されていたのは半数以下であったとの報告もあり7),施設を超えた連携は不十分であることが知られています。また,退院し日常生活を開始すると,患者の希望が変化することは十分に考えられます。診療情報提供書にケアに関する患者の希望が記載されていれば,内容について早い機会に再度話題にし,カルテに記載しておくことが重要です。

ケア移行における担当医の役割

 10回にわたった本連載では,急性期の疾患を通じて,療養場面が変わった場合の適切かつ効率的なケア移行の工夫について示してきました。

 ケア移行の際に忘れてならないのは,ケアの主体は常に患者であるということです。したがって,患者がどのような希望を持ち,どのような生活を望んでいるかをケアに携わる全ての担当医が意識すべきだと私たちは考えています。もしこれらが明らかになっていないのであれば,患者と共に作り上げていく過程が必要です。

 社会の多様化・疾病の複雑化がさらに進む時代においては,医師,特にプライマリ・ケア医にとって,複数のケア提供者や施設間での調整能力が必要不可欠になるはずです。しかしながら,ケア移行に関連する対応が医師の業務の一定量を占めることも大きな課題となっています8)。業務量軽減のためにも,必要な情報は簡潔にまとめ,適切なタイミングで連携できるよう常に準備しておくと同時に,これらを効率よく管理できるシステムを今後さらに整備していく必要があると考えています。

CASEへの対応

 病院からの診療情報提供書とお薬手帳の内容を確認し,病院で受けた説明内容を患者と妻に尋ね,疾患に対する理解状況を把握した。さらに,退院後の生活状況を伺ったところ,外出はまだできていないものの,生活は自立していることを確認した。

 併せて,再度の急変時における患者希望の確認のため「退院された病院では,今後もし状態が悪くなった場合は気管挿管も含めて最大限の治療をする,という希望だったそうですが,その気持ちにお変わりはないでしょうか? もし,お気持ちが変わったり,はっきりと決まっていなければ,後日改めて時間をとってご相談しましょう」と伝え,まずは2週間分の継続処方を行った。病院から申し送りのあった肺炎球菌ワクチン接種については再度患者の希望を確認し,次回受診時での接種を予定することとした。

POINT

●退院後早期は再入院のリスクが高い。そのため次回の入院に向けた準備期間ととらえ,対応を想定しておく。
●退院後の初回外来受診時には,診療に必要な情報を再確認した上で,不足している情報があれば積極的に収集する。
●療養場面が変わっても,患者の全体像を意識しつつケアに当たる。

(了)

引用文献・URL
1)みずほ情報総研株式会社.平成27年度厚生労働省委託事業 地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究事業報告書――在宅生活の継続を支えるための医療・介護サービスに関する調査分析.
2)N Engl J Med.2009[PMID:19339721]
3)Ann Intern Med.2018[PMID:29710243]
4)J Am Geriatr Soc.2003[PMID:12657079]
5)Ann Intern Med.2004[PMID:15466770]
6)Ann Intern Med.2003[PMID:12558354]
7)J Palliat Med.2010[PMID:20618087]
8)Ann Intern Med.2007[PMID:18025448]

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