医学界新聞

連載

2019.07.22



未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 1]Global Young Academy

新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)


 今回「未来の看護を彩る」と題して連載を始めさせていただくことになりました。このコラムでは私の時折予想を超える運の良さやご縁で経験させていただいている,国際的・学際的経験を共有したいと思います。このコラムが「こんな考え方があるんだ」「こんな世界があるんだ」といった新しい価値観に出合う機会となって,読み手である皆さまが携わる日本の看護界・医療界が幅広く発展していく「未来」につながるきっかけの1つとなることを祈念しています。

 連載の記念すべき1回目にGlobal Young Academy(以下,GYA)について書きたいと思います。GYAは,200人の若手科学者()が世界から集められ,2010年に設立しました。「Give a voice to young scientists(若手科学者に声を与える)」をミッションに,世界に共通した科学的議論を展開しています。メンバーは5年の任期の間,それぞれが関心のある分科会に入り,共同声明を出したり,本を出版したり,国際学会でシンポジウムを行ったり,さまざまな活動を通して「声を出して」います。

 私が興味深いと感じて入った分科会に「Science Advice(科学的助言)」があります。科学的助言とは,科学者が政策決定者に助言することを言いますが,その中身は言葉で言うほど単純ではありません。ある事柄のエビデンスをただ調べて伝えるだけではなく,社会の緊急事態や政治が絡む複雑な議論に対し「あなたはどうすべきと考えるか」と意見を求められます。客観的中立的な立場から,科学的根拠に基づいてベストと思われる回答を提供します。幅広い社会的な知識と教養,現在と今後の社会を見据えた洞察力が求められます。

Peter Gluckman閣下(右)と著者
 2019年5月に行われたGYA総会のプレイベントに,科学的助言の第一人者である元ニュージーランド首相科学技術顧問で,次期国際学術会議(ISC)会長のPeter Gluckman閣下が来場されました。彼が若手科学者に共有してくれたのは,2011年のニュージーランドのクライストチャーチ大聖堂の地震後,地震に対する科学へのニーズが急速に高まった時の緊張感です。科学的根拠が十分ではない環境で政策を決定しなければならない場面が多々生じ,科学だけでは問題解決できないことを認めた上で,政策の難しい決断を導いたことと,そうした状況を少しでも改善する質の良いエビデンスを提供することの大切さでした。

 医療や科学の世界では,自分の分野の専門性を高めやすい反面,他の分野をよく知らないことが,私も然り多々あると思います。しかし今後はPh. Dを取る,育成する中で,社会の課題に対して幅広い視点から議論できる教養のある人材の育成と同時に,自身の教養も高めていく必要があると感じます。その上で国際的かつ学際的に議論でき教え合えるGYAは,非常に良い経験の場となっています。

つづく

:若手科学者とは,日本学術会議では,45歳未満の科学者とされています。このコラム上では,私がGYAや日本学術会議若手アカデミーの先輩である狩野光伸教授(岡山大)との交流の中で得た以下の認識を用いています。「科学者とは,新しい内容を証拠付きで出していく人。証拠とは,数や言葉などを問わず,他者が後から正しいと確認できるものを指す。出していく新しい内容の対象は,本人が認識した課題に対し,真理探究や社会課題の改善などがある。経済的価値を短期で生むか否かにかかわらず,より広い視野で共通善のために使える科学的知見を提供する」。看護の学位も「看護科学」と称されますので,上記の営みを行う人は科学者であると定義します。


しんぷく・ようこ氏
2002年聖路加看護大(当時)卒。助産師として勤務後,10年米イリノイ大シカゴ校大学院看護学研究科を修了(博士)。12年聖路加国際大助教。18年より現職。日本学術会議若手アカデミー(24期副代表,国際分科会委員長),Global Young Academyメンバー(同執行委員)などでも活躍している。

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