クラスター RCT(小山田隼佑)
連載
2019.07.01
臨床研究の実践知
臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイト,Facebookを参照してください。
[第4回]クラスター RCT
小山田 隼佑(JORTCデータセンター統計部門 部門長)
(前回よりつづく)
第3回(3324号)では,研究デザイン全般について紹介しました。今回は数ある研究デザインの中から,ランダム化比較試験(RCT)の派生の1つであるクラスター RCTについて説明します。
クラスター RCTがなぜ必要か
クラスター RCTとは,地域や施設を一つのまとまり(クラスター)として,ランダム化(無作為割付)を実施する研究デザインです。ここで,介入A,Bを4つの施設に属する患者集団にランダム化することを想定します(図)。個人RCTの場合は,施設内にいる患者それぞれにランダム化が実施されるため,同じ施設内で異なる介入を受ける患者が生じてきます。一方,施設をクラスターとしたクラスター RCTの場合,介入A,Bを4つの施設にランダム化するため,施設内の患者は全員,施設に割り付けられたある一つの介入を受けることになります。
図 個人RCTとクラスター RCT(クリックで拡大) |
この研究デザインは,介入を患者個人に割り付けることが不可能あるいは不適切な場合に使用されます。例えば,多数の施設が参加する研究において,医療従事者に対する講習会等による教育効果を検証する場合を考えましょう。仮に,教育A vs. 教育Bの比較試験とする場合,施設ごとの割付であれば,講習会等は各施設において1種類で済むため効率的です。しかし,個人RCTの場合だと,各施設において講習会が2種類必要で,講習会実施に向けリソースやコスト,管理の手間などが増えるため,介入内容が複雑であればあるほど大変になります。
また,同じ施設内の医療従事者同士や患者同士で,介入内容に関する情報の交換が出来てしまう可能性が挙げられます。これをContaminationなどと呼びます。今回の例で言えば,ある教育介入を受けている医療従事者が,同じ施設内の別の教育介入を受けている医療従事者と接触することで,他の教育がどういった内容なのかを知ってしまい,現在受けている教育の効果が揺らいでしまうかもしれません。そのため,現場の混乱を招く恐れもあります。クラスター RCTであれば,同じ施設内では同じ教育介入のみとなるので,こうした懸念は解消されます。
そもそも二重盲検化が可能な介入であれば,個人RCTで十分な場合がほとんどですが,介入を非盲検にせざるを得ない場合は,上述のような理由でクラスター RCTの採用を候補に入れるべきだと考えます。
クラスター内相関の考慮が重要
2014年にLancet誌に掲載された,緩和ケア領域における実例を紹介します1)。この研究は,461人の進行がん患者を対象として,QOLや症状などに対する早期緩和ケアの有用性を検証するために実施されたもので,24のmedical oncology clinicsを早期緩和ケア群と標準ケア群に1:1でクラスターランダム化しています。主要評価項目はベースライン時点から介入開始後3か月時点までのFACIT-Sp(スピリチュアリティの測定指標)の変化量です。事前に規定した有意水準は5%で,解析結果はp=0.07だったため,基本的にはnegative trialですが,4か月時点ではp=0.006で有意であり,他の多くの指標でも有意な改善が見られたため,早期緩和ケアの一定の有用性が示唆されました(表)。
表 クラスター RCTの実例の主要評価項目に関する解析結果(文献1より改変)(クリックで拡大) |
ここからはクラスターRCTの注意点を踏まえ,表の解析結果に併記されている「クラスター内相関係数(Intra-cluster Correlation Coefficient;ICC)」について概説します。
クラスター RCTでは,同じクラスター内の個人個人のデータ(反応)は互いに似てくるため,クラスター内相関を考慮する必要があります。例えばクラスターが医療施設の場合,クラスターごとに医療技術やサービスなどが異なりますし,各クラスターが属する地域ごとにそのクラスターを利用する住民の特性が異なる可能性もあります。つまり,クラスター間のバラつき(特徴の差)が大きいほどクラスター内には相関が生じ,介入による結果もクラスター内で似た結果となりやすい傾向があります。この相関を定量化したのがICCです。この「クラスター間のバラつき」の存在が原因で,クラスター内に相関があるとき,クラスター RCTの全体のバラつきは,クラスター内の相関が無い(どのクラスターにおいても,クラスター内の患者の性質がランダムな)個人RCTのバラつきに比べて大きくなる,という問題が生じます。
クラスター RCTにおいて,クラスター内相関を無視して,個人RCTと同じサンプルサイズ設計や統計解析を実施してしまうと,想定よりも検出力が不足してしまい,解析結果が不適切となってしまうため,ICCを考慮したサンプルサイズ設計方法および統計解析手法を利用する必要があります(註)。
今回の実例において,計画時点ではクラスター内相関を考慮しないサンプルサイズ設計を実施していますが,試験の途中段階で得られたICCを基に,サンプルサイズを再計算してプロトコールを改訂しています。計画時点で計算したサンプルサイズを基に統計解析を実施する場合には,先行研究や類似の研究事例を参考に,計画段階で事前にICCを見積もる必要があります。また,統計解析の際には,最終的に得られた表のICCや背景情報などで調整した混合効果モデルを利用しています。
*
クラスター RCTには,他にも計画・実施・解析のさまざまな場面において,個人RCTとは異なる注意点が存在します。それらを踏まえた上で,クラスター RCTを実施すべきかどうかを吟味する必要があります。CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials;臨床試験報告に関する統合基準)声明のクラスターRCT拡張版において,これらの注意点が網羅的に記載されています2)。
今回の実例に留まらず,世界的には積極的にクラスター RCTが実施されていますが,日本では実施数があまり多くありません。これには認知度の低さもあると思いますが,実施面でハードルが高く感じられてしまう点や,サンプルサイズが個人RCTよりも増大してしまう点も原因と考えられます。今後,日本において,適切かつ有益なクラスター RCTが普及することが期待されます。
今回のポイント
・クラスター RCTは,地域や施設を一つのまとまり(クラスター)として,ランダム化(無作為割付)を実施する研究デザイン。 ・介入を患者個人に割り付けることが,不可能あるいは不適切な場合,例えば医療従事者に対する教育効果の検証などに使用される。 ・サンプルサイズ設計や統計解析の際には,クラスター内相関の考慮が必要かどうか留意する。 |
(つづく)
註:詳細は,丹後俊郎著『新版 無作為化比較試験――デザインと統計解析』(朝倉書店,2018)など,RCTに関する成書をご参照ください。
参考文献
1)Zimmermann C, et al. Early palliative care for patients with advanced cancer:a cluster-randomised controlled trial. Lancet. 2014;383 (9930):1721-30. [PMID:24559581]
2)Campbell MK, et al. Consort 2010 statement:extension to cluster randomised trials. BMJ. 2012;345:e5661. [PMID:22951546]
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