胸部X線写真のように発疹を読み解こう(宮地良樹,安部正敏)
対談・座談会
2019.04.15
【対談】
胸部X線写真のように発疹を読み解こう!
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正しい診断なくして,正しい治療なし――。皮膚疾患診療では“発疹を読む”ことが診断の第一歩となる。そのプロセスはあたかも,胸部X線写真を肺野・血管陰影・縦隔に分画して読影するように行われる。それと同時に,熱感や圧痛など視診だけでは把握できない情報も加味して診断し,治療に進む。
皮膚科を専門としない臨床医が,日常外来で遭遇する皮膚疾患診療のスキルアップを図るための2点の書籍『ジェネラリスト必携! この皮膚疾患のこの発疹』と『ジェネラリスト必携! この皮膚疾患にこの処方』(いずれも医学書院)がこのたび同時刊行された。本ページでは,それぞれに収載されている,編者の宮地良樹氏と安部正敏氏の対談のうち,『この皮膚疾患のこの発疹』の内容をダイジェストでお伝えする。
宮地 よく他科の先生から発疹の読み方を聞かれるのですが,私は「画像診断と同じ」とお答えします。内科の先生方が,たとえば胸部 X 線写真を読む場合には,学生時代に学んだように,まず肺野をみる,骨をみる,血管をみる,縦隔をみるなどと,コンポーネントに分けてみていくと思います。発疹も,そういうふうに読んでいくことになります。(中略)
まず原発疹を二次元か,三次元かで分けます。つまり,隆起や陥凹があるかないかで分類します。平面であれば二次元ですよね。二次元の発疹には,紅斑,紫斑,色素斑,白斑の4つしかないので,そのどれかになります。紅斑と紫斑の区別は,押さえたら消えるかどうかでわかります。押さえて消えるのが紅斑で,消えないのが紫斑です。
あとは黒や褐色,黄色など色の分類だけです。もちろん,白斑でも色の抜け方が完全か,不完全かとか,境界がどうかということはありますが,二次元の発疹は疑いの余地なく記載できるのではないでしょうか。
安部 時に内科の先生方にレクチャーをする機会をいただきます。そこで内科の先生方とお話をすると,押して消えるか,消えないかで紅斑と紫斑が区別できるということと, 発疹の下で何が起きているかを結び付けて理解できていない方が多い印象があります。発疹の下で起きていることにも注目してみていただければ,かなりのスキルアップにつながるのではないでしょうか。
宮地 それは大事なことですね。われわれ皮膚科医は,皮膚の病理をみているので,発疹をみたら「ああ,皮膚ではこういうことが起こっているのだろうな」とわかる。たとえば,紫斑というのは“血管が破綻して赤血球が出た状態”です。また,IgA血管炎──以前はアナフィラクトイド紫斑と呼びましたが──であれば,palpable purpuraといって,炎症細胞浸潤があるから紫斑が少し盛り上がります。そういうことまで加味して発疹をみることが大切だと思いますね。
ただ,基本はまず紅斑,紫斑,白斑,色素斑の4つの斑を見分けることで,その次のステップとして,さらにどういう特徴のある斑かをみていくということだと思います。
安部 他科の先生から非常にわかりやすかったと言っていただけたのが用語の話です。たとえば胸部X線写真だと“シルエットサイン”というように,所見に関する用語は誰が聞いてもテクニカルタームだとわかるものです。
ところが,皮膚科の用語は,紅斑,紫斑というように色がつく日本語であるがゆえに,何となく誤解してしまうところがあるのです。それを,「紅斑は押して消える。ということは,血管が壊れていないんですよ。紫斑というのは血管が壊れているんですよ」「発赤という用語は,単に表面が赤い状態をさすだけで, 病理組織学的なアセスメントができない用語なので,できるだけ使わないほうがいいですよ」というような話をしています。そこを整理したうえで,1例1例をみていただくと,より理解しやすいと思います。
宮地 解剖と病理を合わせて理解するということですよね。白斑はメラニンという色素が抜けているから白くなるわけです。逆に黒くなるのはメラニンが濃くなるということです。黄色くなれば,他の色素,たとえばカロチンが増えているということでしょう。そういうことを頭に入ておくとよいでしょう。
安部 三次元の発疹はどのようにみていけばよいでしょうか。
宮地 三次元の発疹は結構多いです。盛り上がりの具合によって,丘疹であったり,結節であったり,腫瘍,腫瘤であったり,陥凹する場合もあります。発疹が盛り上がっているのであれば,massが増えているから盛り上がるわけです。丘疹のように比較的表面に近いところで,細かい水疱や浸潤細胞があれば,境界が鮮明にプチュッと盛り上がります。
反対に,深いところにあればボヤッと盛り上がる。また,蕁麻疹の場合には膨疹というミミズ腫れができます。これは真皮の一時的なむくみですから,当然境界は不鮮明です。24時間以内に跡形もなく消えると定義されていて,かゆみもあります。むくめば血管も拡張するから赤くなります。
落屑があったら, これは角化の異常があるから皮がむけているんだなと想像するとか,このように1個1個の発疹が,どこで何が起こっているために生じているのかということを想像しながらみる習慣をつけておくとよいでしょう。
安部 ありふれた三次元の発疹というと,水疱があります。水ぶくれができちゃったと。水疱ができる原因として多いのは,熱傷やヘルペス,とびひ(伝染性膿痂疹)などでしょうか。
宮地 もちろん,そういったcommon diseaseが多いです。しかし,原因がわからない水疱は重症の可能性があります。つまり,自己免疫性水疱症や薬疹の可能性があるということです。思いあたる原因がないのに水疱が出てきたら,重症じゃないかと考えたほうがいいと思います。
安部 水疱の中に白血球が溜まって,膿が溜まっているものが膿疱ですね。
宮地 膿疱の場合,他科の先生はまず感染症を考えて,抗菌薬を処方する方が多いです。
でも,膿疱をきたす疾患は細菌や真菌による感染症だけではありません。微生物なしにできる無菌性の膿疱もあります。白血球を引っ張るものがあれば,膿疱はできるわけですから,微生物がなくてもできうるのです。実は,無菌性膿疱は意外と多いです。膿疱性乾癬とか,掌蹠膿疱症とか,そういう疾患は調べてみても細菌はいません。
安部 むしろ無菌性膿疱に重症疾患が多いということは知っておくべきですね。膿疱をみた際は要注意です。
宮地 発疹をみる力を養うためには,このようにして二次元と三次元を組み合わせてみていくことが大切です。いま目に見える発疹について,皮膚のどの部分にどういう変化があるというように分解していくこと,これに尽きると思います。
本書で“絵合わせ”的に各疾患の典型疹を覚えたら,ぜひ発疹を分解してみていくことにもチャレンジしてほしいと思います。そこまで踏み込めば発疹をみるのが面白くなってくるはずです。
診察室のドアが開いたら,まず患者の顔をみてみよう!
安部 実際の診療の流れに則して考えると,どのように患者を診ていけばよいでしょうか。
宮地 患者がドアを開けて診察室に入ったときに,まず顔をみますよね。そこで患者の表情とか,精神状態がわかりますが,顔をみただけで診断ができる病気というのも少しあります。
たとえば強皮症の症状の1つに顔の表情がなくなってしまう仮面様顔貌があります。「最近,表情がきつくなった」とか,「表情が乏しくなった」と言われて受診する患者がいますが,これはパッと見てわかることがあります。あとは,珍しい病気ですが,ガーゴイリズム(遺伝性ムコ多糖症にみられる特徴的な顔貌。西洋建築にみられる雨樋の機能をもった彫刻ガーゴイルが語源)とか,Werner症候群などは顔を見ただけでわかることがあります。
そして患者が椅子に座ってからみるものには皮膚の色があります。たとえば内科だったら黄疸があるかをみると思いますが,皮膚科ではメラニン色素で黒くなっていないかどうかをみます。肌が黒ければAddison病やPOEMS症候群があるんじゃないか,といったように疑ってみます。
(抜粋部分おわり)
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