医学界新聞

2019.04.08



Medical Library 書評・新刊案内


集中治療,ここだけの話

田中 竜馬 編

《評者》坂本 壮(総合病院 国保旭中央病院 救急救命科)

選択肢が多い時代だからこそ,常に疑問・興味を持ち続けよ

 “This is off the record, but ……”(ここだけの話だけど……)

 臨床現場では疑問が山ほど生じる。その都度調べはするものの,確固たる答えに到達できずに途方に暮れることも少なくない。そのような,調べても明確な答えが存在しないものに関しては,施設ごとの目には見えないルールにのっとって診療が行われていることが多く,知らず知らずのうちにローカルルールであることを忘れ日々の診療をこなすようになっていってしまう。特に検査や治療においてそのようなことが多く,新たな検査や薬が世に出ると,必ず生じる問題である。「使った方が良いのか」「使うとしたらいつなのか」などはなかなか決まった答えが出ないことも多い。

 一昔前,選択肢がそもそもない場合には悩みも少なかっただろう。できることが限られたのだから,それらをfullに利用し何とかしようとしていた。しかし現在は多くの検査や治療薬が開発され,情報と共に利用できる状態である。そんな時代だからこそ,きちんと根拠を持ってより適切な選択をしたいものである。

 「ここだけの話」と聞くと,人には言えない秘密の話,というイメージがあるかもしれないがそれだけではない。この本でいう「ここだけの話」とは,エキスパートたちが実践している,本当は隠しておきたいほどの最高のプラクティスということだ。一所懸命患者に向き合い,模索し確立した最高の術がこの本にはたくさん載っている。中には,「そうそう」とうなずき納得できる内容もあれば,「なるほどそんな見解も」というものまで,深い考察がなされている。

 選択肢が多く,さらには高齢者が多い本邦における集中治療では,「する/しない」といった白黒をつけることが簡単ではなく,グレーの部分が多々存在する。そんな時に必要なのは,エビデンスに裏付けられた知識であり,経験豊富なエキスパートの意見であろう。

 エビデンス自体はキャッチしやすい時代である。しかし,「エビデンスがあるから必ず行うべきである」「エビデンスがないから有用ではない」というわけではない。それをどのように実践で生かすのか,目の前の患者に適応するのか,これが大切であり悩む点である。自身の経験不足からあと一歩踏み出せないときに,また軌道修正できないときに,この本が必ずやより良い方向に導いてくれるだろう。

 チャットモンチー(註1)も「ここだけの話」(註2)という曲を歌っていた。本書を読み終えた時,こんな言葉が思い浮かんだ。「つまずいた時こそ,この本からエネルギーをもらうべし」。

 ERでも同じような悩みがあるって?! それはそれでねぇ竜馬先生……お楽しみに!

註1:2000年代を彩った徳島県出身の女性ロックバンド。代表曲に「シャングリラ」など。
註2:作詞・作曲,橋本絵莉子,アルバム『Awa Come』所収。

B5・頁440 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03671-9


人工呼吸管理レジデントマニュアル

則末 泰博 編
片岡 惇,鍋島 正慶 執筆

《評者》喜舎場 朝雄(沖縄県立中部病院呼吸器内科部長)

人工呼吸管理のベッドサイドで必ず役に立つマニュアル

 このほど,東京ベイ・浦安市川医療センターの則末泰博先生の編集で若手医師向けの『人工呼吸管理レジデントマニュアル』が発刊された。

 本書は見返しのMOVESで始まる人工呼吸管理の語呂合わせで読者の肩の力を抜かせて本文へのスムーズないざないが展開されている。序文に記されているように人工呼吸の導入を考えるに当たって必須の判断や知識のエッセンスの理解が大切である。本書は19章から構成され,実際の挿管方法,代表的な疾患別の具体的な人工呼吸器の設定方法,管理中の鎮静,アラームとトラブルシューティング,合併症,最終章では経肺圧の意義と実際の測定にも触れている。

 本書で一貫していることは若手医師にやや苦手意識のある人工呼吸器の設定がより具体的にきめ細かく平易な言葉で記述され,設定の生理学的な意義と影響をわかりやすく書いていることである。また,視覚にしっかりと訴えるために実際のモニターや機器の写真,図をふんだんに用いることで読者にあたかも現場にいるような臨場感を感じてもらいながら,患者さんと人工呼吸器が奏でるシーンが想起できるような構成になっている。

 実際の機器の写真を鮮明にかつ数字なども明瞭に示し,従来のマニュアルには見られない実際の現場のニーズに応える内容になっている。各章でポイントになることを箇条書きで明確に伝えようという筆者らの意図が随所にうかがえる。

 若手医師が最もスリルを感じ,医師の醍醐味(だいごみ)の手技の一つである挿管の章でも一つひとつのステップを丁寧に図示しながら安全にそして正確に手技を完遂するための道しるべをきちんと提示している。

 個々の表にも読者への配慮を垣間見ることができる。第10章の病態生理に基づいた低酸素血症の鑑別表はそれぞれの疾患での人工呼吸器の役割と抜管の目安を病態生理を意識して考えるのに極めて有用である。

 第16章の低酸素アラームへの対応のアルゴリズムも確認事項別に具体的に記載されていて,ベッドサイドで観察する看護師をはじめとする全ての医療従事者に,大変理解が進む図になっている。

 13のコラムは日頃,なかなか理解し難いまたは質問し難い項目をさりげなく取り上げ,優しく解説している。

 このように本マニュアルは白衣のポケットサイズで軽く,いつでも身につける携帯性に優れ内容も多岐にわたるが,読者に優しく語り掛ける構成で統一されており,大変見やすいマニュアルになっている。本書は主な対象である若手医師,集中医療に携わる看護師や臨床工学技士のみならず,われわれのようなキャリアを積んだ専門医も手に取ることで人工呼吸管理のベッドサイドでの応用に必ず役に立つマニュアルであると自信を持って薦めるものである。

B6変型・頁216 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03834-8


こんなときオスラー
『平静の心』を求めて

平島 修,徳田 安春,山中 克郎 著

《評者》鍋島 茂樹(福岡大教授/福岡大病院総合診療部診療部長)

長き医療人生の助言を得るために

 ウィリアム・オスラーは1849年に英国領カナダに生まれ,米国に活躍の舞台を移し,1919年に英国で没した医学界の巨人である。青年時代より病理学,生理学,内科学の分野で活躍し,血小板の機能,マラリアの病型分類,オスラー結節やオスラー病をはじめとする膨大な数の業績を残している。もう一つの彼の偉大な業績は,現代に通じる医学教育の基礎を造ったことである。彼は,講義棟から学生を連れ出し,実臨床の場で「生身の患者」を通じて学生を教え続けた。

 オスラーは研究にひたすら没頭する冷徹な学者ではなく,多くの英雄が持つ徳性を豊かに持っていた。すなわち,快活さ・実行力・ユーモア・リーダーシップ・溢れる愛情といった徳である。当時も,そして現在においてもその人格は多くの人を魅了してやまず,今もって全世界に「オスラリアン」と呼ばれる信奉者を生み出し続けている。

 この本は,日本のオスラリアン3人が分担して書き上げた本である。徳田安春氏,山中克郎氏はドクターGとしても知られるベテランの総合診療医,また平島修氏は,「身体診察の達人」として知る人ぞ知る若き総合診療医である。雑誌『総合診療』に2年間にわたって連載された企画だ。オスラーには『平静の心――オスラー博士講演集(新訂増補版)』(医学書院,2003年)という有名な講演集があるが,この本は,それぞれの著者が『平静の心』に出てくるオスラーの金言を取り上げて解説したものである。しかし,ただ解説するだけでなく,さすがドクターGだけあってエンターテインメントを意識した面白いプレゼンテーションとなっている。それは,「Case」として患者の病状を説明した後で,その答えとなるようなオスラーの言葉を紹介し,著者がそれに解説を加えていく,というユニークな構成である。

 この本は全ての年代の人に薦めたい。若い人は今後の長き人生の助言を得るために,そしてベテランの先生は医の原点に立ち返るために。オスラー博士の言葉は,全ての医療人の疲れた心に豊かな癒やしを与えてくれるだろう。

A5・頁200 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03692-4


救急画像ティーチングファイル

Daniel B. Nissman 編
船曵 知弘 監訳

《評者》志賀 隆(国際医療福祉大准教授・救急医学)

症例の100本ノックで読影力を引き上げ「決断のできる救急医」になろう

 「救急医にとって最も大事な能力は?」

 この答えの選択肢はさまざまだと思います。しかし,「情報に基づいて決断する」ということが救急医にとって最も大事な能力であることを否定する人は少ないでしょう。そして,現在の救急医療においてその決断の大きな支えとなるのが画像診断です。日中の診療時間帯は,救急医は読影時に放射線科医という頼もしいパートナーがいます。夜間や休日は救急医が“放射線科医になって”読影をする必要があります。

 そのため,救急医にとって「正常な所見を記憶している」「典型的な異常像を記憶している」「主訴に基づいて読影を進めることができる」「臓器別に網羅的に読影をすることができる」という4つの能力が必要になります。ただ,初期研修を終えた時点でいきなり上記の4つの能力を有している,ということは難しいものです。ではどうしたらいいのか? もちろん臨床現場で救急科専門医や放射線科専門医と共に読影をしていくことが王道です。ただ,24時間365日そんな恵まれた環境で仕事をできるわけでもありません。

 「じゃーどうしたらいいんだー!」

 そんな皆さんに朗報です! 船曵知弘先生たちが今回翻訳された『救急画像ティーチングファイル』が頼もしい味方になります。この本の著者の多くが勤務しているノースカロライナ大は,「救急のハリソン」ともいえる『Tintinalli's Emergency Medicine』という分厚い教科書の編者たるJE Tintinalli先生が率いる施設です。外傷からさまざまな内因性疾患まで年間7万人の救急患者さんを診療しているレベル1の外傷センターです。

 評者は2004年に1か月間研修でお世話になりましたが,その当時も巨大な医療センターに大規模な救急外来がありました。この大規模センターに所属する歴戦の放射線科医の皆さんが,「救急の画像診断」をテーマに,外傷から内因性疾患までよく遭遇する100疾患について執筆したのが本書です。単に画像のポイントを示すのではなく,エキスパートの思考パターン(①病歴→②画像所見→③鑑別診断→④最終診断)をなぞり,自分のものにするための解説と演習問題(⑤解説→⑥設問:理解を深めるために→⑦読影医の責務→⑧治療医が知っておくべきこと→⑨解答)が収載されています。

 いかがでしょうか? 症例の100本ノックで読影力を引き上げ「決断のできる救急医!」になりませんか? ぜひ手に取って頼もしい武器として当直や救急外来の業務に使っていただければと思います。

B5・頁304 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03628-3

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