医学界新聞

2019.03.18



Medical Library 書評・新刊案内


新生児学入門 第5版

仁志田 博司 編
髙橋 尚人,豊島 勝昭 編集協力

《評者》中村 肇(神戸大名誉教授)

救命から育てる医療へ,新生児学の進化と奥深さを巧みに著す

 『新生児学入門』は,1988年に初版が出版されて以来,この30年間に版を重ねてきました。このたび第5版の出版に至ったことは,仁志田博司博士の新生児学への変わらぬ熱い思いにより成し遂げられた偉業です。仁志田先生は,1970年代初頭に米シカゴ大で学ばれた最先端の新生児学をわが国に紹介され,その後も絶えず日本の新生児学・新生児医療発展におけるリーダーとして活躍してこられました。

 本書は,単に新生児学の知識や技術的な指導書としてだけでなく,新生児学の持つ機微,奥深さが実に巧みに表現された名著として,新生児医療に携わる医師の座右の書として欠かすことのできない一冊となっています。これは,日本国内はもとより海外からも新生児科医を志望する多くの若い小児科医に対し,東女医大母子総合医療センター新生児部門のトップとして仁志田先生がこれまで尽力されてきた,豊富な指導経験に基づくものだといえます。

 とりわけ,仁志田先生自らが執筆されている,「第5章 母子関係と家族の支援」「第6章 新生児医療とあたたかい心」「第7章 新生児医療における生命倫理」「第8章 医療事故と医原性疾患」の4つの章では,この半世紀の間に急速に発展した新生児医療の光と影,そして,救命の新生児医療から育てる新生児医療への進化の中で,医師として,人間として,われわれが考えなければならない難しい問題を平易に解説されており,初心者だけでなく,経験ある新生児科医にとっても,自らの考えを整理する上で大いに役立ちます。

 今版では,仁志田博士の薫陶を受けた新生児学のわが国のトップリーダーとして活躍している小児科・新生児科医により,新生児の特徴である発達生理,適応生理を中心に,病態生理の最新の情報までもが網羅されており,単に入門書というだけでなく,臨床現場においても役立つものとなっています。

 新生児期は,子宮内生活から子宮外生活へと大きく変化する時期であり,人の生涯で最もリスクの大きな時期でもあり,うまく環境に適応しなければ,脳とこころの発達に重大な障害を引き起こします。新生児学は,子どもの健全な成長・発達をサポートする学問です。新生児医療に携わる医療者にとって,医学的知識だけでなく,人文科学までもの広い一般教養(liberal arts)が不可欠であり,科学と心を育む教養(science and art)の持つ意味の重要性がますます大きくなってきているとの仁志田博士のお考えには大いなる共感を覚えます。

 飛躍的な発展を遂げてきた新生児学の進歩を学ぶだけでなく,次世代における新生児学の在り方を考える上で,ぜひ多くの方々に本書を読んでいただければ幸いです。

B5・頁456 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03625-2


研究の育て方
ゴールとプロセスの「見える化」

近藤 克則 著

《評者》和座 雅浩(各務原リハビリテーション病院副院長)

これから臨床研究を志す若手研究者・臨床家のThe 指南書

 本書はまず「研究とは何か」の概説から始まる。研究とは,何らかの新規性があり,今まで知られていなかったことを明らかにすること,新たな因果関係や分類を見いだしたり,当然と思われていた常識を覆したりすることとされている。研究を志す者は,研究と勉強の違いをよく理解しておかないと研究現場で仕事を続けることは到底困難との忠告ともいえるが,研究を続けることのやりがいと社会的価値とともに,それを成し得るための厳しさも伝えたいという,後進に対する思いやりとエールだと感じた。また研究という言葉はとても曖昧に利用されており,医療機関においても混乱の原因ともなっているが,この書籍により,研究の分類とともによく理解することができた。

 各章に掲載されているチェックリストは,研究の立案から遂行,データ収集から解析,そして論文化に至るまでの重要事項が,ステップごとにくまなくリストアップされている。それぞれの段階で,特に初心者が陥りやすい事項も網羅されており,ここまで詳細に実践的な内容が教示されている指南書を拝読できたのは初めてで,20年にわたり60人余りもの大学院生を指導されてきた豊富な教育経験に基づいた,その教える手法に感服した。私自身,今後新たな研究を立ち上げるときは,本書の手順を踏みながら進めていきたいと思う。

 客観的で論理的な思考ができるようになるためのエッセンスとして,私には特に第17章の「考察・結論の考え方・書き方」で解説されているSWOT分析が非常に参考になった。論文作成時に初心者が一番頭を悩ませるのは考察であるが,客観的に結果を分析し自己の研究意義と有用性を「見える化」するには絶好の分析法であり,一読をお勧めしたい。一貫した論理で説得力のある考察ができるか否かは,研究者にとって必須の資質であることも,より理解できると思う。

 各コラムには,研究におけるトピックや,臨床統計学の理解には必須でも初心者にはわかりにくい用語がわかりやすい事例で解説されていて,楽しく読める。研究に対する初心者への不安を,うまく払拭する工夫も随所に感じられた。私的には特に「ポートフォリオ登場の背景」(p.230)のコラムが印象的であった。

 著者がリハビリテーション科医師として,健康長寿社会の実現のための科学的な基盤作りに尽力された「あとがき――私のポートフォリオ」(p.243)には,医師として心から敬服するとともに,いつか自身も著者のような医師ポートフォリオを描けるようになりたいと思った。

 第23章の「臨床と研究の両立」(p.226)は,臨床家にとっては永遠のテーマともいえるが,この2つを両立させることのやりがいと意義が,著者自身の医師キャリアに基づいて,このセッションで力説されている。「研究のプロセスは楽しいことばかりではないが,壁を突き抜けたときの快感や達成感は,(少なくとも筆者にとって)他では得難いものである」(p.231)には,大いにエンカレッジされた。特に将来「論文も書ける臨床家」をめざしたい若手医師には,著者が伝えたいこのスピリットを学ぶべきであると思う。

 実は私は,著者の「研究の見える化」の教育を享受している一人であり,その恩恵にあずかり,当院のリハビリテーション臨床研究の一つを,先日ある米国誌に採用してもらうことができた。著者は千葉大に赴任後も,若手研究者の臨床研究を指導する研究会を,定期的に名古屋でも開催されている。私は幸運にも,日本リハビリテーション医学会の専門医研修会で,著者よりレクチャーいただける機会を得たことをきっかけに,今でもこの会に紛れ込ませていただいている。私はこの会を近藤研ミーティングと勝手に命名しているが,全国の研究機関,医療機関に属する臨床家がそれぞれの研究テーマを持ち込み,著者監修の下,活発なディスカッションが行われる,まさに研究の方向性と論理を明確にする「見える化」が行われている現場であり,毎回この会の参加を楽しみにしている。以前,この会で著者から,研究デザインの不出来やデータ収集の甘さの指摘とともに,「一般病院で臨床研究・英語論文投稿なんて,どうしてそんな大変なことをするのか? 本当にできるのか?」と質問された時には,自身の浅学に随分へこんだが,本書を拝読し終えた後,それくらいの緻密な準備と段取りで「研究を見える化」して進めていかないと,ゴール到達は困難だとの教えであったことに気付いた。門戸外の私に対しても,親身に指導してくださった著者の教育熱には,この場をお借りして心より謝意を申し上げたい。

 本書のメインメッセージの一つと思われる「よい研究は,質の高い臨床や健康長寿社会の実現のために必要で,普遍的な価値がある」(p.231)は,若手研究者・臨床家の研究マインドを大いにかき立てるフレーズであり,ここにも記載させていただきたい。本書はフィールドを問わず研究を行うことの意義と目的,そしてそれを達成するためのノウハウが懇切丁寧に記載されたまさにThe指南書であり,一人でも多くの研究者・臨床家が本書を読まれ,実りのあるキャリアを形成されることを心から祈念する。

A5・頁272 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03674-0


救急整形外傷レジデントマニュアル 第2版

田島 康介 著

《評者》峰原 宏昌(北里大病院講師・救命救急・災害医療センター)

救急医のみならず,一人当直をする整形外科レジデントにもぜひ

 田島康介先生に初めてお会いしてから約7年が過ぎました。その当時,田島先生はちょうど,大学で整形外科から救急科に出向されており,ひたむきに整形外傷に取り組んでおられました。その様子を知っている者からすると,今回出版された『救急整形外傷レジデントマニュアル 第2版』は,ほとんどの内容が,先生ご自身が日々の診療の中で経験されたことを中心に書かれたものであると推察できます。

 理路整然とした研究発表をされておられた田島先生のことを思い,期待をしつつページをめくると,創傷処置に始まり,シーネの当て方,関節穿刺,爪下血腫の除去の仕方まで,さらには軟部組織損傷,脱臼,骨折,非外傷性疾患,小児関連,高齢者関連へと続いています。時折,著者の推奨する方法などを詳しく説明しながら,POINT,MEMOなどのわかりやすい解説もあり,心を惹きつけられました。読み終えた後で,「整形外科を専門としない救急医でも読みやすい内容となっている。いや,これは一人当直をする整形外科レジデントにもぜひ読んでもらいたいマニュアルだ」と直感しました。

 「第2版の序」の田島先生のメッセージにもあるように,救急医と整形外科医はお互いの治療の常識が若干異なる部分があるようです。救急整形外傷患者の初療にかかわる医師やその状況(勤務体制・人数)は,施設によって異なっています。整形外科医が初療に参加できない状況や施設もあるでしょうし,整形外科医でさえ見落としてしまう外傷もあるかもしれません。しかし,どのような状況下でも外傷患者を治療するチームとしてぜひとも他科の考えを理解して横断的な知識を身につけていただきたいと思います。言うまでもなく,整形外傷における初療は非常に重要であり,重度外傷に限らず,2次救急レベルの外傷でさえ,時に初療の選択がその患者の人生を決定付けてしまうことがあるからです。その初療の選択の際に,このマニュアルが非常に力を発揮するのではないでしょうか。

B6変型・頁192 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03688-7

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