医学界新聞

2018.12.24



Medical Library 書評・新刊案内


集中治療,ここだけの話

田中 竜馬 編

《評者》市原 真(札幌厚生病院病理診断科医長)

一流の専門家たちが渾身のアンサーを詰め込んだ,集中治療の『広辞苑』みたいな本

 「発売前重版出来(しゅったい)!」。景気のいいニュースがTwitterから飛び込んできた。版元の情報が即日読者に伝わってしまうのだからすごい時代である。本が売れなくなったと言われて久しい昨今,刊行前の本が重版されるというのは,どういうことか? まだ誰も読んでもいない本がバカ売れして初版印刷部数が足りなくなった,つまりは医学書院の市場調査が甘かったってコトだよね(笑),などといじわるな想像を膨らませていると,アッと気付いた。「世界に名高いスペシャリスト50名が執筆」。ああそうか,50名にそれぞれ弟子が100人ずついれば5000部売れるもんな。だからか。

 私は誰の弟子でもなかったが,とりあえず予約は早めに済ませた。B5判型のしっかり重そうな本。5000円というからもう少しペラッペラな本かと思った。ちょろっと試し読みしてみようかな……。

 そこから4時間。なんと一気に通読してしまった。何度か読み返しもした。圧倒的だったのだ。「どうせエキスパートオピニオンの寄せ集めなんだろうな」的な薄い期待値を大幅に飛び越えてきた。集中医療の世界における猛烈な量の「最新クリニカル・クエスチョン(CQ)」が,総論,循環,呼吸,腎,感染症,内分泌,神経,栄養,消化器,血液,そして終末期(最高!),その他の豪華12項目に分類され,一流の専門家たちが渾身のアンサーを詰め込んだ,集中治療の『広辞苑』みたいな本。執筆者は単著で教科書を世に送り込むような猛者ばかり。5~10ページごとに平均50本前後の文献が引用され,「ときには総説のように」,「ときには新書のように」,「ときには昔なじみのように」,語り掛けてくる展開は圧巻だ。個人的には,岩田健太郎先生や小尾口邦彦先生の章が大変よかった(筆力が鬼)。福井悠・小船井光太郎両先生の「心筋逸脱酵素の解釈は?」,土井研人先生をはじめとする「AKI(急性腎障害)」,後藤安宣先生の「ICUでの凝固/線溶異常」,古川力丸先生による「ICUにおける終末期医療」などに心を奪われた。瀬尾龍太郎先生の「非専門医のための敗血症性ショックの治療」に至っては切り口が素晴らしすぎてほれぼれした。鈴木昭広先生にエコーの話を依頼したのも最高だ。研修医に読ませたら心の師匠が50名増えるだろう。医学生に読ませたら集中治療医が倍増するのではないか。そう,この本はすでに著者50名いずれかの弟子である人間たちが発売前に買ってオシマイにすべき本ではない。「50名の師匠に師事したい人間が買うべき本」だ。値段設定が5000円というのは頭がおかしい。発売前重版といい,医学書院はこの本をなんだと思っているのか。素晴らしい本を出していただきありがとうございます。

 余談だが,CQの選定はおそらく責任編集の田中竜馬先生が行っている。筆力だけでなく編集力も超一流。彼こそ本物のバケモノだ。私は彼の秘書にお会いしたことがあるが,「秘書まで美人だ……」と敗北感に身を焦がしたことがある。

B5・頁440 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03671-9


ここまでわかる急性腹症のCT 第3版

荒木 力 著

《評者》近藤 浩史(帝京大教授・放射線科学)

急性腹症にかかわる全医師のバイブルとなるべき書

 急性腹症は急激な腹痛を主訴とし,緊急手術や緊急処置などの迅速な初期対応が求められる疾患群であり,その原因は多岐にわたる。急性腹症に用いられる画像診断には,単純X線検査,超音波検査,CT,MRIなどがあり,それぞれの疾患に対する有用性,限界を熟知した上で,適切な検査法を選択し,正しく画像を解釈する必要がある。

 2018年9月に待ちわびていた『ここまでわかる急性腹症のCT 第3版』が発売された。2002年に初版が発売され,第2版は2009年の発売である。私の愛読書のひとつである。第3版では,基本症例が100症例に増加し,関連疾患を含めると161症例も掲載されている。まず,症例が提示され,その読影方法と診断名,その後に治療方針と疾患の解説が細かく記載されている。

 さらにこの教科書の優れている点は,実際の臨床で疑問に思っていることがQ&Aで解説されていることである。考えさせるという形式は,読者に勉強意欲を沸き立たせるよい形式である。また,読影する上で必須となる解剖や疾患をノートにまとめてあり,図説も素晴らしい。各疾患のキーポイントも非常によくまとまっている。

 著者である荒木 力名誉教授の「初版 序」にあるように,「急性疾患では瞬時の判断が要求される。そして,その判断によって患者さんの運命が決まる。(中略)今,交通整理を受け持っているのは,CTである。そして,あなたである」。いくらハード/ソフトが進歩し,高精細なCT画像を得ることができるようになっても,適正な撮影方法,短時間に正確な診断ができない場合は意味がない。

 急性腹症の現場では,得られたCT画像は新鮮な間に,正しく診断して即座に臨床利用されるべきである。その意味で本教科書はバイブルであり,放射線科医に限らず急性腹症の画像診断に関わるすべての診療科の医師が一人でも多く本書を活用されることを願ってやまない。

B5・頁488 定価:本体7,200円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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