医学界新聞

2018.09.24



第44回日本看護研究学会開催


 日本看護研究学会第44回学術集会が8月18~19日,前田ひとみ会長(熊本大大学院)のもと,「看護が創る変化の波――地域に新しい風を吹き込む」をテーマに熊本県立劇場(熊本市)にて開催された。シンポジウム「次世代の看護研究者育成の波を作る」(座長=神戸大大学院・法橋尚宏氏,熊本大大学院・三笘里香氏)では,指導的役割を果たす看護研究者の育成に向け,教育内容や教育体制の方向性が議論された。


前田ひとみ会長
 大学院博士前期・後期課程を設置する看護系大学が増えている。一方で,看護系大学の大幅な増加と看護師養成機関としての教育の重要性を背景に,看護学分野は他の学問分野に比較して研究に指導的役割を果たせる人材が不足しているとの声もある。研究者の育成が急務となる中,若手にはどのような教育・支援が必要か。

研究力向上へ,次の一手は

 オーストラリアで大学院を修了した高瀬美由紀氏(安田女子大)は,国際的視点を持ち,リーダーシップを発揮できる看護研究者の育成体制に言及した。海外での就学・研究経験による研究力の育成とともに,国内の大学のプログラム整備を通して国際的に魅力を高め,国内で国際性豊かな研究者を養成できる仕組み作りを提言。国内では博士前期・後期課程の2種類の教育課程が主流だが,オーストラリアの大学院教育では専門領域ごとに半年や1年の履修期間で,修士課程の単位と互換可能な課程を設けるなど,学生のニーズに基づく多様な内容・形態の教育提供がなされている。病院と大学が連携し,勤務を続けながら学習できる環境の確保なども進んでいると紹介し,日本でも国内外の学生へ多彩な教育プログラムを提供することにより,学生にとって大学院進学の機会をより身近にする工夫が必要と述べた。

 竹熊カツマタ麻子氏(筑波大)は,研究に関する知識・経験不足の中で看護研究者としてのキャリアをスタートした自身の経験をもとに,看護科学領域における研究教育に必要とされる内容について発表。教育レベルごとの具体的な役割や目標として,看護学博士(PhD)はエビデンスを生み出すオリジナルの研究,看護学臨床博士(DNP)はエビデンスの臨床現場での検証,看護学修士(MSN)は文献の系統的レビュー等による臨床現場でのEBP推進,看護学士(BSN)は文献検索・エビデンスの吟味による臨床実践を挙げた。「研究者として学術活動のスキルを高めるためには,教育に発展的な継続性が重要」と述べ,看護系大学・大学院には教育レベルごとに期待される役割を踏まえたカリキュラム設計を求めた。

 2012年に日本看護科学学会が39歳以下の若手学会員を対象に行った調査では,研究時間,研究能力,研究指導者不足を主な理由に,若手研究者の89%が自身の研究活動に自信を持ってはいなかった。日本の看護研究者として初めてテニュアトラック制度の対象となった吉永尚紀氏(宮崎大)は同調査の見解を踏まえ,教員数確保の必要性から博士号未取得の人材が多いと背景を説明。一方で,「若手研究者は研究環境の改善を待つばかりでなく,研究者として自らキャリアを考える必要がある」と述べ,手段の一つとして同制度の活用を提言した。同制度は博士号を取得後10年以内の若手を対象に,研究者として5年間の任期付き雇用の後,審査を経て常勤職を得られる仕組みで,他の学問分野では総合大学を中心に研究者のキャリアの一つとしてすでに定着しつつある。氏は,高レベルの教育力と研究力を求められる看護系大学教員にとって,キャリアの初期に研究に集中可能な期間を確保する同制度のメリットを強調した。

総合討論では,研究力向上につながる教育の内容と体制が議論された。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook