漢字の国に生きるということ(福武敏夫)
連載
2018.07.16
漢字から見る神経学
普段何気なく使っている神経学用語。その由来を考えたことはありますか?漢字好きの神経内科医が,数千年の歴史を持つ漢字の成り立ちから現代の神経学を考察します。
[第1回]漢字の国に生きるということ
福武 敏夫(亀田メディカルセンター神経内科部長)
皆さん,ご存じでしょうか? 今までになかったのがとても不思議に思える「日本漢字学会」(会長=京大名誉教授・阿辻哲次氏)が2018年4月に設立されました。私は新聞で知り,早速正会員になりました。好きでも嫌いでも日本は漢字の国であり,平仮名も片仮名も漢字をもとに作られ,漢字から逃れられません。それどころか漢字とうまく付き合っていかねばなりません。
文字の歴史は,楔形文字やヒエログリフ,ミノス(クレタ)文明の線形A文字・B文字のような象形文字に始まります。漢字以外の象形文字は完全に廃れて表音文字となり,朝鮮やベトナムも漢字を捨ててしまったのに,漢字は日本列島に流れ着き,なんとか生き延びているのです。
私は昔から漢字が大好きですが,得意というわけではありません。むしろ,筆順とかハネの方向とかにうるさい学校教育には辟易していました。漢字の魅力に取りつかれたのは,何あろう阿辻先生の著作『漢字の字源』(講談社現代新書,1994年)によって「育」の成り立ちを知ってからです。この字の上部は「子」を倒立させた形で,下部の「月」はmoonではなく,「肉」の変形(ニクヅキ:体の一部を示す)です。この形は「子どもが産道から頭を下にして出てくる様子」を表しているのです。驚きましたか? こんな漢字は他にもあり,「県」は「首」を逆さにして木の枝に掛けている形です。敵の首をぶら下げて,それを地域の境界にしたのでしょうか,恐ろしい形です。本連載では,何気なく使っている漢字に込められた意味から神経学の世界を見ていきます。
(つづく)
ふくたけ・としお氏
東大理学部数学科中退。医学系予備校講師を経て,1981年千葉大医学部卒。同大大学院医学研究院神経病態学助教授を経て,2003年から現職。『神経症状の診かた・考えかた――General Neurologyのすすめ(第2版)』『標準的神経治療 しびれ感』(共に医学書院)など著書,編書多数。
この記事の連載
漢字から見る神経学(終了)
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