医学界新聞

2018.07.16



言語聴覚士養成のコアカリ,公表へ
第19回日本言語聴覚学会の話題より


 第19回日本言語聴覚学会が6月22~23日,中野徹学会長(富山赤十字病院)のもと「言語聴覚療法の源流と未来」をテーマに開催された(会場=富山市・富山県民会館,他)。パネルディスカッション「言語聴覚士養成教育における教育ガイドライン・モデル・コア・カリキュラムの検討」(コーディネーター=言語聴覚士養成教育モデル・コア・カリキュラム諮問委員会・藤田郁代委員長,内山千鶴子副委員長,日本言語聴覚士協会・深浦順一会長)では,「言語聴覚士養成教育モデル・コア・カリキュラム」(以下,コアカリ)の最終案がコアカリ諮問委員会(以下,委員会)から提示され,養成校,実習施設のパネリストが意見を述べた。


 近年,言語聴覚障害・言語聴覚療法に関する理論や技術の進歩は目覚ましく,増大し続ける知見を卒前教育のみで修得することは困難になっている。そのため,卒前教育においては学修すべきコアとなる最小限の知識・技術・態度を体系化した教育が求められている。こうした背景から日本言語聴覚士協会は2012年に委員会を設置し,コアカリの作成を進めてきた。

コアカリ最終案を提示,運用の在り方と残る課題は

 パネルディスカッションでは,初めに委員会副委員長の原由紀氏(北里大)が,約6年の検討を経たコアカリ最終案を概説。コアカリ全体の枠組みは,「A 言語聴覚障害の基礎」,「B 言語聴覚臨床の基本」,「C 言語聴覚障害の理解」,「D 言語聴覚療法の展開(評価診断・治療)」,「E 臨床実習(見学・評価・総合)」から成る。最終案では,2017年作成の第2次案からAがさらに検討され,「言語とコミュニケーション」,「人体のしくみ・疾病と治療」,「心のはたらき」,「生活と社会」の4分野に大別された。言語聴覚士学校養成所指定規則で規定されている科目名はあえて付さず,専門基礎分野の総合的な修得をめざす。また,第2次案までは参考資料と位置付けられていた領域別の臨床実習が本文に明記された。C,Dで学修した障害領域ごとの知識を臨床実習に応用することをめざすという。

 専門学校の立場からの見解を述べたのは戌亥啓一氏(鹿児島医療技術専門学校)。修学年数が短い専門学校では,より効率的な学修が求められる。この点はコアカリがめざす「効率的・効果的な教育」と合致することから,「実際にコアカリを運用する際には,専門学校がカリキュラム設計・運用の手本になれるのではないか」と話した。

 大学教員の立場からは川崎医療福祉大の小坂美鶴氏が,同大での取り組みを踏まえ,意見を述べた。小坂氏は,社会人としてのコミュニケーション能力,知識と臨床所見を統合する能力,専門職としての臨床技術能力の3側面を短い実習期間で同時に養うのは難しいと指摘。同大では「スモールステップ教育」として,1年次にコミュニケーション能力を,2年次には動画教材を用いた演習とグループワークで知識と臨床所見を統合する能力を養い,3年次以降の臨床実習では臨床技術能力の修得に専念できるようにしていると紹介した。また,コアカリが求める教育を行うには,臨床・教育・研究力がそろった教員の確保も課題だと話した。

 大森智裕氏(川越リハビリテーション病院)は臨床実習指導者の立場から,臨床実習と実習前教育について意見を述べた。臨床実習の鍵は,授業で得た知識と臨床現場で見る実際の所見との統合にあるという。典型症例を具体的にイメージできるようになってから総合実習を行うことが望ましいと話し,そのためには見学実習や評価実習などを有効活用すべきとの見解を示した。

 会場からも多数の意見,質問が出た。言語聴覚士の質の確保の点で,国家試験だけでなく,手技や臨床技能の修得を測るOSCEの導入や臨床実習の評価基準の設定などを期待する声が挙がった。その他,臨床実習における目標設定の方法や養成校と臨床実習先の連携を密にするという課題,理学療法士や作業療法士で導入が進む診療参加型実習の導入の検討も議論された。

 今後は,本パネルディスカッションでの議論や関係各所からの意見をもとにコアカリの最終調整が行われ,公表される予定だ。

パネルディスカッションの様子

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