医学界新聞

2018.07.02



AMR対策は国の感染対策の基盤
第92回日本感染症学会学術講演会
第66回日本化学療法学会総会 合同学会開催


 第92回日本感染症学会学術講演会(会長=大分大・門田淳一氏)と第66回日本化学療法学会総会(会長=川崎医大・尾内一信氏)の合同学会が5月31日~6月2日,「グローカル感染症と化学療法――理論と実践,更なる高みを目指して」をテーマに,岡山コンベンションセンター,他(岡山市)にて3718人の参加者を集め開催された。薬剤耐性(AMR)対策のシンポジウムを報告する。


 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年4月に公表されてから2年。現場はどう対応しているのか。シンポジウム「耐性菌対策Up to Date ――薬剤耐性アクションプランをうけて」(司会=東邦大・舘田一博氏,名大大学院・八木哲也氏)では,5人の演者がAMR対策をめぐる現在の動向や自施設の取り組みを報告した。

 初めに登壇したのは薬剤師の村木優一氏(京都薬科大)。国立国際医療研究センターに2017年に設立されたAMR臨床リファレンスセンターでは,抗菌薬の使用状況が他施設と比較可能になる「感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)」が構築された。パイロット調査を経て年末までに適応範囲が拡大される見通し。しかし,使用量の把握作業は煩雑だ。そこで,作業を簡略化すべく氏らが開発した抗菌薬使用量の集計プログラム(Antimicrobial Consumption Aggregate System;ACAS)を紹介。自施設のみで抗菌薬の使用量を把握できなければ,ACASを活用しながらJ-SIPHEのような大規模サーベイランスに参加するよう呼び掛けた。

 名大病院の森岡悠氏は,同院の周術期抗菌薬使用の適正化の過程を報告した。2014年よりPoint Prevalence Survey(PPS)を年1回実施し,抗菌薬使用のサーベイランスを行っている。2016年からは,①各診療科のカンファレンスでプレゼンテーション,②クリニカルパス委員会への出席などで周術期抗菌薬の適切な使用を提案した。その結果,2017年には第3世代経口セファロスポリンは約50%の処方量削減を達成した(2013年比)という。大学病院を核に,市中病院への広がりに期待を示した。

 院内感染対策チーム(ICT)と抗菌薬適正使用支援チーム(AST)によるAMR対策を病院薬剤師の立場から紹介したのは,福井大病院の新谷智則氏。多職種で構成される同院のICT/ASTは,毎日のミーティングで抗菌薬長期使用症例などを確認していた。しかし,一方的なフィードバックだけでは成果が得られないため,①具体的な数値目標の設定,②診療科別ミーティング,③ベッドサイドでの情報収集を新たに開始。その結果,使用率の減少につながったという。氏は「AMR対策はICTとASTの連携が不可欠」と強調した。

 日医の釜萢敏氏は,かかりつけ医に対する抗菌薬適正使用の啓発活動を紹介した。2017年6月に厚労省から公表された「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」については,「機械的に当てはめるのではなく,医師の適正診断と,抗菌薬の過不足のない使用に向けて周知したい」と語った。

 「AMR対策は国の感染対策の基盤整備」。こう述べ,国のAMR対策の概要と方向性を報告したのは国立国際医療研究センターでAMR臨床リファレンスセンター長を務める大曲貴夫氏。同センターの役割は,「AMR対策情報・教育支援事業」と「臨床疫学事業」の大きく2つ。国民・医療者への啓発では,ウェブサイト,SNS,ポスター・リーフレットの活用に加え,小学校への出張授業などのアウトリーチ活動を展開している。臨床疫学事業では,J-SIPHEの整備や,ヒト・動物・環境分野の情報を集約するワンヘルスプラットフォームの構築を進めていると紹介した。

写真 特別企画「スペインかぜ大流行100周年記念講演」の模様。座長・演者を務めた菅谷憲夫氏(けいゆう病院)
世界で5000万~1億人の死亡者が出たと推測される1918年のスペインかぜ発生から,今年で100年の節目を迎え企画された。

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