医学界新聞

寄稿

2018.05.07



【視点】

ACPを地域の文化に!

本家 好文(広島県地域保健対策協議会「ACP普及促進WG」委員長)


 医療の選択肢や個人の価値観が多様化する中で,できるだけ本人の意向を尊重した医療を提供する必要がある。そのためにはアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の啓発が重要だ。ACPとは「もしもの時に備えて,自分の思いや価値観を,あらかじめ家族や医療従事者と話し合い,文書に残す手順」のことであり,2018年3月に改定された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でも推奨されている。本稿では,地域ぐるみでACPの啓発を進める広島県地域保健対策協議会(以下,地対協)の取り組みを紹介する。

「元気なうち」から始める鍵は,医療関係者と地域住民双方への働き掛け

 地対協は,ACPを地域の「文化」にすること,つまり,病気に罹患してからでなく健康な時から「ACPを実践するのが当たり前」という地域づくりをめざしている。早い段階から話し合いを始めることにより,家族や医療者とのコミュニケーションが円滑となり,信頼関係が深まる。

 地対協は広島大・広島県・広島市・広島県医師会の4者で構成される組織で,県民の健康に寄与するために1969年に設置された。2013年度には「終末期医療のあり方検討特別委員会」を設置し,ACPの啓発に取り組み始めた。当時は,一般住民だけでなく医療関係者でもACPを理解しているのは少数だった。初年度は,まず担当委員自身がACPを理解するための研修を行い,その後,県医師会速報への掲載や研修会などを通じて,県医師会の全会員に対する啓発を行った。

 医師会関係者への啓発と並行して,県民を対象にした講演会も開催した。また,啓発用ツールとして「ACPの手引き」「私の心づもり」を作成し1),解説用DVDも製作した。さらに地方紙にコラム「思いを伝えるアドバンス・ケア・プランニングのすすめ」を約半年間毎週連載するなど,県民の理解を深めるための多角的活動を行った。

 2014年度からは,県内の地区医師会でモデル事業を実施し,医師以外の医療関係者への研修や,住民に「私の心づもり」を実際に記入してもらう取り組みを行った。モデル地区を対象に行ったアンケート調査では,住民や訪問看護師,ケアマネジャーなどはACPへの関心が高かったものの,医師の関心が低いことが問題点として指摘された。また,ACPを始めるタイミングとして,①介護保険申請時,②介護施設への入所時,③地域包括支援センター介入時,④医療機関からの退院時,⑤公務員・企業などの定年退職時,⑥本人から希望があった場合などが示された。

 2017年度には地対協の組織改変が行われ,在宅医療・介護連携推進専門委員会内の「ACP普及促進WG」として活動を継続している。2018年度は,住民啓発用ツールの簡略化,勤務医や介護関係者への研修,ACPに関する法的問題や倫理面の課題について専門家との意見交換を行う予定である。

 最近の医療現場では,高齢者や認知症,多重疾患を抱えた患者の増加などが問題となっている。がん医療では,罹患患者数の増加はもちろん,放射線療法や抗がん薬治療を外来で実施する機会の増加といった変化がある。外来診療では患者と医療者が話し合う時間が確保しにくいという課題がある。

 こうした背景から,今後はACPをできるだけ早い段階から始めることがさらに重要になる。そのためにはACPを地域の文化として根付かせることが有効だと考える。

参考URL
1)広島県地対協.もしもの時のために伝えておきたいこと Advance Care Planning(ACP).


ほんけ・よしふみ氏
1975年広島大医学部卒。広島県緩和ケア支援センター設立に携わるなど,地域の緩和ケア推進に尽力。2018年より広島県健康福祉局がん対策課緩和ケア推進監を務める。

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