医学界新聞

連載

2018.03.26



今日から始めるリハ栄養

入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。

[第2回]リハビリテーション看護とは

今回の執筆者
荒木暁子(日本看護協会常任理事/日本リハビリテーション看護学会理事長)


前回よりつづく

「リハ」とは何か?

 リハビリテーション(以下,リハ)という言葉は,2つの使われ方をしています。

 一つは,治療プログラムとしてのリハを指します。例えば,病棟で看護師が「○○さん,今日は10時から,理学療法士の△△さんが来てリハですよ」と患者に言う場面が頻繁に見られます。病院をはじめ多くの医療現場では,このような使われ方がほとんどでしょう。

 もう一つは理念としてのリハです。1980年代に米国から始まった障害者の復権運動を背景に,WHOは1981年に「リハビリテーションとは,能力障害あるいは社会的不利を起こす諸条件の悪影響を減少させ,障害者の社会統合を実現することを目指すあらゆる手段を含むものである。リハビリテーションは,障害者を訓練してその環境に適応させるだけでなく,障害者の直接的環境および社会全体に介入して社会統合を容易にすることを目的とする。障害者自身,その家族,そして彼らが住む地域社会は,リハビリテーションに関連する諸種のサービスの計画と実施に関与しなければならない」と定義しました。

リハの目的は地域包括ケアの理念と通底する

 日本では高齢化による社会の要請から2000年に介護保険制度ができ,障害者施策と介護施策は別々に取り組まれてきました。その後,さらなる少子高齢化を背景に,これらの施策を統合した地域包括ケアの構築が求められるようになり,あらためて,リハが理念としてきた「包括的・全人的」視点が重要視されています。

 2017年,WHOは国際生活機能分類(ICF)を元にリハの目的を以下のように示しました。「リハビリテーションは,機能の最適化,および,環境との相互作用の中で健康状態とともに生じる個人の障害の軽減を目的とした一連の介入である。健康状態は,疾患(急性または慢性),障害,傷害または外傷のことである。また,健康状態は,妊娠,老化,ストレス,先天性異常,または遺伝性素因などの他の状況も含まれ得る。リハビリテーションは人々の生活,仕事,可能性を最大限に引き出す学習能力を最大化する。リハが老化に関連した機能的困難を減少させ,生活の質を改善する」。

 つまり,リハは人が生活するための「機能の最適化」を目的とし,広義にはあらゆる状況にある人を対象に,「機能の最適化」のために環境や社会をも変え,当事者も参画して計画・実行するという目的があります。これはまさに,地域包括ケアの理念と同じなのです。

全ての現場・対象の看護に求められるリハの視点

 医療の進歩や社会情勢の変化の中で,広義のリハの理念を踏まえると,全ての現場や対象に対して,看護師はリハの視点を持つことが必要とされており,看護全般に通底します。地域包括ケアの中では,いつでもどこでも,看護師がリハの理念のもとに,基本的なADL(日常生活動作)向上・自立とQOL(生命・生活・人生の質)向上への支援を行うことが求められているのです。

 私の経験した事例の一つでは,老老介護の高齢男性が慢性呼吸不全で入院を繰り返すうちに,一度は寝たきりとなってしまいました。しかし,訪問看護師が来るようになると,呼吸管理以外に寝返りの仕方,ベッドでの起座のとり方,下肢の支持性が低下した中での便器への移乗などにおけるアドバイスや家族への指導により,体調のよいときに少しずつ自力での排泄が可能な状態になるまで持っていくことができました。このように,日常生活援助の中で一つひとつの動作の「やり方」を伝えることで,生活機能の向上につながるのです。

 これまで,障害児・者,特に身体障害を有する人々へかかわる看護師は,身体障害を持つ人々の生活機能向上という専門性をもって発展してきた経過がありました。「疾病・障害・加齢等による生活上の問題を有する個人や家族に対し,障害の経過や生活の場にかかわらず,可能な限りADLの自立とQOLの向上を図る専門性の高い看護」です(日本リハビリテーション看護学会)。

 例えば,脊髄損傷などの障害を突然負った人の回復に看護は何ができるでしょうか。腫瘍で片足を切除した人には何ができるでしょうか。一つ挙げれば,中途障害者の生活の再構築へ向け,運動能力を再獲得するための支援として,その人の存在そのものが重要であることを伝え,尊重することができるでしょう。人が障害と向き合い,自らの新しい身体と生活を適合し,意欲を持って生活していくための支援。意欲は運動能力の再獲得に大切な要素であり,脊髄損傷患者は日々の小さな自己決定を積み上げることで自己効力感を高め,人生をコントロールする感覚を可能とし,レジリエンスを高めていきます1, 2)

 看護師による日々のかかわりの中で,患者のちょっとした変化をとらえ,患者の知覚を高め,フィードバックし,セルフケアを教育し,症状を和らげる方法を一緒に探す。患者とこれまでの人生や周りの人々との関係,頑張ってきたことなどを対話し,これからどう生きていきたいのかを聴く。そうすることで,変化した自分の身体の中で変化しないもの,あるいは,新たに培った自分の思いや価値に気付いていきます。その「ありたい姿」をゴールに,日々の機能訓練や生活を組み立てることで再構築できるのです。

運動機能の回復を促す要素としての栄養と看護

 連載第1回(第3262号・若林秀隆先生)では,ICFにおける心身機能の障害としての栄養障害と,活動の相互作用を示しました。

 高齢者では,意欲の低下,低栄養,生活機能の低下が活動性の低下の三つどもえの原因となっています。特に,生活機能の低下には,運動機能の低下と低栄養が影響します。活動性が低下することで,さらに社会参加が阻まれてしまうのです。これを受け,地域包括ケアのあらゆる場で栄養スクリーニングと低栄養リスク例への介入が2018年度診療報酬改定で評価される方向です。

 リハを生活機能へのアプローチとすると,特に,高齢者の運動機能低下,脳卒中などの疾患や外傷などによる運動機能障害は,心身機能を整え,環境因子や個人因子へ配慮することで活動や参加の可能性を維持・拡大することが可能です。つまり,栄養状態を改善するための循環,交換,排泄,知覚と認知などを包括的に整え,活動と休息のバランスをとりながら運動機能を促進していきます()。これらは看護が従来から行ってきた回復力を高めるための援助に他なりません。

 リハビリテーション看護において生活機能の回復を促す要素(荒木氏作成)
循環,交換,排泄,知覚と認知などを包括的に整え,栄養状態を改善することで,運動機能を促進しつつ,生活機能を向上させることができる。栄養状態の改善は高齢者にとって特に重要である。

 高齢者は全身の筋力・筋量が低下し,運動機能に影響が及ぶのが自然経過です。転倒などにより大腿骨を骨折する高齢者は多く,身体・心理両面へのインパクトが大きいものです。痛みへの対応,心理的な対応と栄養補給によって補完されたリハビリテーションプログラムは,より衰弱した高齢者の健康状態および心理的側面に効果的だとされています3)。口腔機能,栄養と運動を総合的にアセスメントし,支援することが重要です4)

自己決定を支援しゴールを一緒にめざす

 前述したように,看護師は生活機能を高めるために環境を整え,意欲に働き掛けます。意欲の源は希望であり,自分の人生を取り戻すことでもあるのです。その活動や参加の目標へ向かって,身体状態はどうあればいいのか,どのような機能が必要か,そのために自分で何ができるかを考えられるように支援していく。つまり,看護師による目標設定型のアプローチが求められています。

今日からこれを始める!

●リハの理念を再確認しましょう。リハ看護は,全ての対象,全ての場面の看護に通底します。
●リハにおいて,患者の意欲を高めることが効果的です。環境や身体状態を整えることが,全て患者の生活機能の維持・向上につながります。
●運動機能の向上には,「栄養」と「運動」の両輪が必要です。生活機能の向上をアウトカムに設定して,栄養と運動を計画に組み込みましょう。

つづく

参考文献
1)Science. 2015[PMID:26430122]
2)J Adv Nurs. 2018[PMID:28726274]
3)Clin Interv Aging. 2018[PMID:29416322]
4)Clin Nutr. 2017[PMID:28969866]

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