医学界新聞

寄稿

2018.03.26



【視点】

看護教育に「政策型思考」を取り入れるには

池田 真理(東京女子医科大学看護学部看護管理学教授)


 政策的な思考ができる看護職の存在が重要と考えており,その育成は急務である。なぜなら,本格的な少子高齢社会に向けて社会保障制度改革が精力的に行われている中で,看護制度も時代の要請に合ったものに変えていく必要があるからである。

 日本では1998年から大学院の専門看護師教育課程の共通科目として「看護政策論」が設定されたが,歴史はまだ浅く,教育内容もさまざまである。一方で,米国では米国看護大学協会が,「医療政策」を看護学の学部教育の必須要素の1つに挙げている。筆者は10代の多感な時期に5年ほどの米国滞在経験があるが,米国では自分の能力に合わせた責任を果たすパブリックマインドの育成が,初等教育から行われているという素地がある。

 筆者は野村陽子氏(岩手医大)と共に,第36回日本看護科学学会学術集会の交流集会「‘政策’を看護教育においてどのように教えることができるか」(2016年12月11日)を開催した。どのような教育内容を積み上げていけば「政策への関心」へとつながるか,看護政策の経験者,看護政策論の教育者が話題提供し,フロアと活発な意見交換を行った。フロアから「政策教育の必要性はわかったが,具体的な実践例が知りたい」という希望が聞かれたので,翌年の第37回日本看護科学学会学術集会の交流集会にて,「‘政策型思考’が獲得できる看護教育を考える」(2017年12月16日)を開催し,看護系大学および大学院の看護政策教育の実際と社会科学系大学の公共政策教育について紹介していただいた。

 看護学部で行っている政策教育の事例(群馬県立県民健康科学大・巴山玉蓮先生)では,政策および政策過程について理解を深め,看護職者が政策過程に参画する意義を見いだせるようにグループワークやディベートを取り入れるといった展開の報告があった。経済学部の公共政策教育の事例(岐阜経済大・勝田美穂先生)では,まず政策形成にかかわる知識を習得させ,その上で教育連携をしている自治体において,地域実践型のアクティブラーニングで体験的に学べるように工夫されていると報告された。

 筆者は現在,大学院で看護政策論を講義し,政策過程事例のレポートを課している。受講した学生からは,「講義を受けたことにより,政策におけるアジェンダのアクターやステークホルダーは誰かを考え,今までの思考過程が変化したと感じる。思考過程の変化の次は行動変容ができるように,具体的な実践を意識していきたい」「政策過程を調べ,政策にかかわった人たちの努力や熱意を共有できたことで,さまざまな過程を乗り越え策定された政策と真剣に向き合っていこうと思った」などのフィードバックを得ている。

 大学院生は現場経験から制度的な課題について実感を持っている。彼らが政策過程を学ぶことで,現場の看護師のかかわりや他のアクターについても考えて,自らの立ち位置を理解し,次の行動につなげることが期待できるのではないかと考えている。今後は学部教育においても,看護管理学と地続きで看護政策論をカリキュラムに位置付けていくことを,ぜひ検討していきたいと思う。


いけだ・まり氏
1989年東大医学部保健学科卒業後,花王株式会社に入社。その後,厚労省で看護行政などに従事。筑波大大学院教育学修士(カウンセリングコース),東大大学院保健学博士。2011年東大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻助教,16年4月から現職。

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