医学界新聞

2018.01.22



第37回日本看護科学学会開催


 第37回日本看護科学学会学術集会(会長=東北大大学院・吉沢豊予子氏)が2017年12月16~17日,「看護におけるダイバーシティデザイン――社会が求めるケアイノベーションをめざして」をテーマに仙台国際センター(宮城県仙台市)にて開催された。本紙では看護・医療にさらなる革新をもたらすためには何が求められるかを議論したパネルディスカッションとシンポジウムの様子を報告する。


未来をつくる研究に若手はどう取り組むか

吉沢豊予子会長
 若手による研究に何が求められ,どのように研究を進めていくか。パネルディスカッション「領域を超えた若手研究者の討論会:未来を見据えた研究を進めるための創造・想像的提案に向けて」(座長=首都大学東京・西村ユミ氏)では,若手看護研究者が持つべき考え方について学際的に議論された。

 超高齢社会の日本では,死の質(QOD)への関心が高まりつつあり,QODの水準は世界80か国中14位(2015年)と,2010年より順位を上げている。QODを研究する濱吉美穂氏(佛教大)は,これからの看護研究の役割の一つにQODのさらなる探究を挙げた。氏はQOD向上の鍵として,地域包括ケアシステムの基礎にある「本人・家族の選択と心構え」に言及し,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)実施がその具体的方法となると解説。氏の研究によれば,地域住民への事前指示書作成促進教育介入と,高齢者施設や病院のケアスタッフへのACP教育促進教育介入は一定の効果が認められたという。今後は国民が自分の望ましい死を考えるための効果的な方法の研究がさらに求められると結んだ。

 「戦後の日本は拡充的思考で歩んできたが,人口減少社会では『縮充』思考に切り替えるべき」と切り出したのはコミュニティデザイナーの山崎亮氏(東北芸術工大/studio-L)。公共性の高い施設に住民参加を促すコミュニティデザインが求められていると訴え,具体例を挙げた。1つは病院移転を機に,新病院の在り方を地域住民とともに考えることに成功した兵庫県内の施設。病院管理者からスタッフ,地域住民へと時間をかけて話し合いを進めた。その過程で医療者がコミュニティづくりの方法を習得し,地域住民を楽しませながら健康を支える場が誕生したという。他にも寺を活用したコミュニティづくりがQODを語る場になったとし,関心を呼ぶ場づくりの重要性を述べた。

 学術界の方針決定において,これまで若手は中心的役割を持ってこなかったが,今,若手研究者だからこそ持つ視点を生かした発信が求められている。中村征樹氏(阪大)は,日本学術会議で若手アカデミー設立に携わった経験をもとに,若手看護研究者へさらなる問題提起を促した。氏は特に,看護では現場と学術の関係が近いことに注目。看護学に学術の担い手が拡大していくことに期待を寄せ,若手研究者の「若気の至り」を大切にしていくことが重要と講演を締めくくった。

現場のニーズが看護・医療の形を変える

 地域包括ケアシステムを基盤に仕組みづくりが進む今,病院中心の医療から地域医療への変革を進めるためには,既存のケアを変えるイノベーションが不可欠である。医療・看護分野のイノベーションを進める視点は何だろうか。シンポジウム「ケアイノベーションをおこす」(座長=岩手県立大・武田利明氏,金沢大・須釜淳子氏)は,医療・看護分野のイノベーションにおける現場のニーズの重要性が議論された。

 最初に登壇した池野文昭氏(米スタンフォード大)は冒頭,イノベーションにはニーズ起点と技術向上起点の2種類があると解説。この2つはイノベーションの両輪だが,氏はニーズ起点のイノベーションをより追求すべきとの姿勢を示した。理由はニーズ起点のイノベーションのほうが社会的実装の可能性が高いからだ。現場のニーズを見つけ出す方法として,解決策を生み出し,価値につなげる「デザイン思考」の方法を提案した。ニーズの同定と解決策を絞り込む際には,ブレインストーミングを用いて思考の拡散と収束を繰り返すことが有用だと話した。

 看護技術はリアルタイム,無侵襲,継続性,快適性の4要素が求められる。2017年にケアイノベーション創生部門を持つグローバルナーシングリサーチセンターを立ち上げ,センター長を務める真田弘美氏(東大)は,看護技術にイノベーションをもたらした異分野融合型研究として「ポータブルエコーを用いた嚥下評価法の確立」と「仮想超音波プローブシステムによる末梢静脈留置カテーテル刺入部位選択支援法の開発」の2つを紹介した。両者に共通していたのが「看護技術の可視化」という現場のニーズへの注目だったという。氏は,「看護のニーズを拾い,看護理工学という学際的見地から今後もイノベーションを追求していく」と語り,ニーズがあってこそ,技術が医療現場を変革するとの見解を示した。

 国内外の企業と「デザイン思考」をもとにイノベーションを起こしている佐宗邦威氏(株式会社biotope)はイノベーションの起点になる現場のニーズ把握に,現場での相手への共感が重要な要素だと表明。ホテルの顧客体験向上のイノベーションでは,現場の従業員の声が起点となったことなどを示し,医療では患者と寄り添う看護師がイノベーションの起点になるのではないかとの考えを示した。イノベーションの過程については,失敗を許容する実験環境の設置の重要性に触れ,看護でも実験を繰り返しながら検証するサイクルを確立すべきと訴えた。

シンポジウム「ケアイノベーションをおこす」の模様

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