医学界新聞

2018.01.01



Medical Library 書評・新刊案内


《ジェネラリストBOOKS》
健診データで困ったら
よくある検査異常への対応策

伊藤 澄信 編

《評者》木村 琢磨(北里大准教授・総合診療医学・地域総合医療学/北里大東病院総合診療・在宅支援センター長)

健診“異常”に遭遇する,悩める医師のために

 評者は「健診や人間ドックで“異常”を指摘された」と受診された方の診療方針について悩むことがあります。早速,伊藤澄信先生ご編集の『健診データで困ったら』をさまざまな医療機関の外来で使ってみました。

 診療所では「病院に紹介すべきか?」悩むことが多いと思います。ある日,「検診で骨粗鬆症の疑いがあると言われたので整形外科を受診したほうがよいでしょうか?」と高血圧で通院中の方から質問されました。X線設備のある診療所であり,以前にDIP法(第二中手骨)で骨量を測定した際は問題ありませんでした。本書を参照すると,なるほど“検診での判定基準と診断基準は異なる”ことを学びました。そして患者さんに説明することができました。

検査結果にまつわるモヤモヤした気持ちが晴れる
 中小病院では「どこまで検査するべきか?」と悩むことが少なくないのではないでしょうか。ある日,「人間ドックでCEAが8.2 ng/mLと高い(基準値5 ng/mL)と言われた」という58歳の男性が来院されました。「無症状の健康な人にどうして腫瘍マーカーを測定するんだ!」などと言う前に目前の方をどうにかせねばなりません。この方は上部消化管内視鏡と腹部エコーで異常はなく便潜血は2回陰性で,がんの家族歴はありません。20年間1日20本の喫煙をしています。本書の「CEAが10 ng/mLまでは喫煙の影響であり得る」という記載を基に本人と相談し,まずは検査介入せずに経過観察の方針となりました(禁煙の話題提供をした上で)。

 大(学)病院では「専門診療科の医師にコンサルトするべきか?」と迷うかもしれません。「会社の健診で心電図に異常があると言われました」という40歳の男性が来院しました。検査結果には“非特異的ST-T変化”との記載があります。本書によると「こうした方の心血管系イベントの発生率が若干高くなるが……」(p.17)とあり,ななんと! そうだったのかと思いつつ読み進めると「リスクファクターの管理に重きをおくことは変わりない。心電図変化にとらわれず,問診や背景情報から方針を決める……」とありました。「ふむふむ」とうなずきつつモヤモヤした気持ちは払拭されたのでした。

「健診や人間ドックで“異常”と言われた方」の診かたを示す
 以上のように,本書は「健診や人間ドックで“異常”と言われた方」を診る“悩める医師”のためのガイドブックと言えます。項目によっては「フォローアップのタイミング」「患者への説明のポイント」が記載され非常にありがたく,「健診や人間ドックで“異常”と言われた方」の心配を払拭することにも役立つでしょう。唯一望むとすれば,健診や人間ドックという「予防医学的な検査介入」に関するわが国や諸外国(米国予防医学専門委員会のガイドラインなど)におけるエビデンスも提示していただければありがたかった。もちろんエビデンスがあるからやる(勧める),ないからやらない(勧めない)という訳ではありませんが,「次の健診や人間ドックを受けるか」という問題へ,受診した方と向き合うための情報となると考えるからです。

 本書を「健診や人間ドックで“異常”と言われた方」を診る全ての“悩める医師”へ強くお薦めいたします。

A5・頁192 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03054-0


発達障害のリハビリテーション
多職種アプローチの実際

宮尾 益知,橋本 圭司 編

《評者》本田 真美(みくりキッズくりにっく院長)

多角的な視点で学べる発達障害のバイブル

 20年前,発達障害の概念がここまでの広がりをみせるとは誰が想像したであろうか。診察室や教室で「ちょっと気になる」子どもたちは,「障害」というくくりの中でクローズアップされ,その診断,治療,対応,制度の改正などについてさまざまな専門家たちが議論を重ねてきた。

 普通学級に通う子どもたちの約7%が発達障害のスペクトラムを持つ,という文科省の衝撃的な発表は話題となったが,発達障害という概念自体がスペクトラムであり,正常か異常かの境界線は曖昧なものである。その境に「社会適応」というキーワードは重要であり,実際に社会で「適応」している発達障害のスペクトラムをもつ児(者)の数は想像をはるかに超え,その中には異彩を放ち大活躍している方々が大勢いると推測される。

 「average(平均)=normal(正常)」と考えがちなのは日本人の習性なのかもしれないが,特性の偏りを持つ発達障害児(者)が集団の中でabnormalな存在ではなく,個のcharacterとして受容し,受容されながら社会の一員として安定して生活を送れるようにすることが発達障害医療の目標でありゴールと言えよう。

 本書を編集した宮尾益知氏(どんぐり発達クリニック院長)は私の20年来の恩師であるが,小児神経科医として常に第一線で活躍し続け,その先見の明と抜群の診療センスは他に類をみない医師として定評がある。彼の後を追い続け小児神経科医として同じ道を歩んでいるが,20年たった今でも会うたびに新しい情報を教示してくださり,私にとってはいつまでたっても追い越すことができない大きな存在である。

 同じく編者の橋本圭司氏(はしもとクリニック経堂院長)は私の大学時代の同級生であり,成人の高次脳機能障害における第一人者である。彼は小児の発達障害という概念にリハビリテーション医療からの新しい切り口として,多職種連携や成人までの連続した児者一貫支援,社会とのつながりについて強調している。

 この二人が編集した本書が,これまで出版されてきた多くの発達障害に関する書籍とは全く別次元のものであることは言うまでもない。手に取ったものの「どこから読み進めるか」ということから悩んでしまうほど,執筆されている先生方は著名な方ばかり,多種多様な視点から書かれた内容はどれも知りたかったものばかりである。本書に,今日からすぐに診療で使える内容が満載なのは,臨床医として長年多くの患児,家族を診てこられたお二人だからこそなしえたのであり,さすがの一言である。本書は医師だけでなく,発達障害児(者),家族の幸せを願う全ての職種の方々のまさにバイブルと言えよう。

B5・頁280 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02846-2


神経症状の診かた・考えかた 第2版
General Neurologyのすすめ

福武 敏夫 著

《評者》岩田 健太郎(神戸大病院感染症内科)

疾患の全体性,患者の全体像を表現した名著

 本書の著者である福武敏夫先生は亀田総合病院神経内科部長であり,前職でお世話になった。私が長く診ていた患者の(私が見逃していた)若年性アルツハイマー病を診断していただいたことが今も忘れられない。

 本書の初版が出たのが2014年。通常,医学書の改訂には5年程度かかることが多い。本書のような診断に関する本は特に情報のターンオーバーが(治療の進歩に比べて)緩やかなので,たった3年で改訂されるというのはまれな話と言えよう。そのことが本書のニーズの高さを物語っている。

 本書は神経診断の指南書であるが,膨大な回路図や画像,身体診察の何とか徴候が羅列されているわけではない。そのような細切れの情報が疾患という全体性を表現できないと著者が考えているからであろう。著者は本書の中で何度か「論理的思考」「帰納法と演繹法のせめぎあい」という言葉を使っている。現象たる疾患全体を丸のままで理解するには患者の全体像を把握する理路が必要だからであろう。部分情報の収集が全体像を作るとは限らないからで,パズルのピースをかき集めてもピースの山盛りができるだけなのだ。ロジカルな思考だけがピースを像たる全体にする。

 本書の博覧強記的な「メモ」は読み物としても面白い。「不思議の国のアリス症候群」の発見者Todd氏がTodd麻痺のToddとは別人だと知るのはちょっとした知的快感だ。膨大な症例も勉強になる。著者が一つ一つの症例をいかに大事にしているかの証左であり,自身の症例報告もふんだんに引用されている。症例報告は大事なのだ。

 本書を読むべき読者は神経内科医のみならず,診断に関心のある全ての医師であろう。診断能力の高い医師は,例外なく神経に強い。先日も神戸大の若手神経内科医がL.ティアニーに果敢に挑戦し,そして返り討ちにあっていた(対麻痺で発症した血管内リンパ腫の患者だった!)。オーセンティックな神経内科学の学習は診断能力の向上に欠かせない。本書を強くお薦めする理由がそこにある。

B5判・頁424 定価:本体5,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03059-5


ビビらず当直できる
内科救急のオキテ

坂本 壮 著

《評者》徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)

救急車のサイレンへの恐怖や不安感が和らぐ

 内科救急で見逃してはならない重要な15疾患についての診断と治療をとてもわかりやすく解説している。15疾患のケースをベースに,一般的な内科救急標準診療についての基本も提供してくれる。

 本書では臨床的に重要なピットフォールケースが提示されている。例えば,胸痛のない心筋梗塞。心不全の既往がある場合や,女性,高齢者,そして糖尿病などがある方では,心筋梗塞のかなりのケースで胸痛がない登場の仕方で救急室を訪れる。冷や汗や嘔気・嘔吐で登場するケースもあり,急性心筋梗塞の除外のために心電図を積極的に取るべきことがわかる。

 さらに本書では大血管の代表的な重篤疾患の大動脈解離ケースも提示されている。急性I型大動脈解離では右大脳半球の脳梗塞を来して登場するケースが時に見られる。その際には病態失認などの右大脳半球皮質の虚血症状を来すこともある。脳梗塞急性期では血栓溶解療法が考慮されることもある。大動脈解離で血栓溶解療法を使用すると致死的なアウトカムになり得る。これらのような所見を認めたら大動脈解離に伴う脳梗塞の可能性を考慮し,その除外に努めなければならない。

 敗血症についても,2016年に変更された最新の診断と治療内容についてその重要なコンセプトを提供している。敗血症の新しい定義のポイントは,感染症などによって生体の調節反応に破綻を来し,重要な臓器障害が起こっていることである。敗血症で障害される重要な臓器とは,心臓,肺,中枢神経,肝臓,腎臓,そして造血機能である。これらのうち,複数以上の臓器障害が確認されれば敗血症とされる。救急室での早期診断についてのポイントを本書はわかりやすく示してくれている。血圧低下,意識の変容,呼吸数の増加だ。

 診断エラー学によると,見逃してはならない疾患で診断エラーが問題となるのは,ほとんどコモンディジーズである。コモンディジーズのキラー疾患ケースが非典型的症状で登場する場合,診断エラーのリスクとなる。本書はそのような非典型的症状がどの程度の割合で見られるのかについても,多くの文献を引用しながらわかりやすい表にまとめて示されている。

 また本書では,重要なグラム染色や皮膚病変の写真も入っており記憶に残りやすい。グラム染色や血液ガス分析,そしてエコー検査など,救急室でぜひ活用したい検査を具体的に示してくれている。血液ガス分析はデータの解釈など知識面の学習が重要であるが,グラム染色やエコー検査などでは経験が重要となる。本書を読むことにより,グラム染色とエコーをさらに活用するための勉強のモチベーションがアップするであろう。

 臨床実習に入る段階の医学生から研修医,そしてシニアレジデントにお薦めの本である。読みやすい本書を数時間で読破した後で救急現場に臨めば,救急車のサイレンに対する恐怖や不安感もかなり和らぐだろう。日本の内科救急診療の質を底上げする良書がまた一つ加わった。

A5・頁180 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03197-4


症例で学ぶ外科診療
専門医のための意思決定と手術手技

Justin B. Dimick,Gilbert R. Upchurch Jr.,Christpher J. Sonnenday 編
安達 洋祐 訳

《評者》馬場 秀夫(熊本大大学院教授・消化器外科学)

読んで高める臨床力

 このたび,医学書院より『症例で学ぶ外科診療――専門医のための意思決定と手術手技』が刊行された。本書は英文書籍“Clinical Scenarios in Surgery――Decision Making and Operative Technique”の翻訳書である。原書は全123章・672ページに及ぶ書籍だが,訳者の安達洋祐氏(久留米大教授)により,日本の外科医が診る機会の多い疾患に的を絞った55章を厳選し再編集したものである。原書の魅力(症例をベースに外科的疾患の診断・治療を学ぶことができるユニークな教科書)と訳者のきめ細かな補足解説が合わさり,本邦の読者のニーズに適した書籍になっている。

 訳者の安達洋祐氏は消化器外科医として,多くの臨床・研究・教育の経験を通じてこれまで数多くの医学書の執筆,編集,さらに英文書籍の翻訳に携わっており,いずれの本も簡潔明快で,読んでいて要点がクリアーカットに頭に入ってくる洗練された内容に仕上がっている。そのため,この分野では極めて高く評価されている方であり,小生もファンの一人である。実は,この英文原書は小生も以前より購入して目を通していたのであるが,訳者の極めて適切な補足も加わり,より充実したわかりやすい内容になっている。

 本書には,次のような特徴がある。

1)外科の外来や病棟で専門医が患者を診ながら研修医に教えているような現場感覚の本
2)章ごとに症例から鑑別診断や治療方針を考え手術手技や周術期管理を学べる実践的な本
3)「……のときは」「……がある患者は」という状況設定で理解を深め意思決定力を高められる本

 小生が大学で日々医学部の学生や研修医に接し,指導する際に感じるのは,国家試験を含め医学部の試験はmultiple choiceが多く,単に知識を詰め込む学習に偏りがちであり,個々の症例に遭遇したときに知識を応用して考えるトレーニングが不足しているため,どのように鑑別診断を進め,最適な治療法を選択するのかが不得手な医師が多いことである。

 その点,本書は臨床的に遭遇する可能性の高い重要な疾患を選別し,症例提示,鑑別診断,精密検査,診断と治療,手術方法,注意事項,術後管理,症例の結末,重要事項のまとめが簡潔に書かれており,症例の診断・治療をどのように進めて最適な治療を選択するかが明確に示されている。さらに,参考文献の中で重要なものには内容の紹介も記されている。日々多忙な日常治療の中で,あふれる数多くの情報の中から本当に役立つ書籍を厳選し,読んで臨床力をつけるのは困難な時代であり,本書はそういう意味でも臨床的に有用と考える。

 本書は診療現場を想定した実践的でdecision makingとoperation techniqueを明確に解説した極めて良質の医学書である。医学生,研修医から専門医・指導医まで幅広い方が本書を手に取り,診療に役立て,病に苦しむ目の前の患者に対し最善の治療を選択していただくことを心より願う次第である。

B5・頁352 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03058-8

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