医学界新聞

2017.11.06



Medical Library 書評・新刊案内


ジェネラリストのための内科外来マニュアル
第2版

金城 光代,金城 紀与史,岸田 直樹 編

《評者》川島 篤志(市立福知山市民病院研究研修センター長/総合内科医長)

外来教育の欠落を補完してくれる秀逸なマニュアル

外来診療の良書がパワーアップして戻ってきた
 皆さんの外来Debutは卒後何年目であっただろうか? 病院規模や担当診療科によって違うだろうが,そのときの不安な気持ちは覚えているだろうか? 日本の医療現場において,外来診療教育は明らかに遅れている。病棟診療とも救急診療とも違う能力が必要で,初診外来と継続外来でも求められるスキルに違いがある。その違いを知る3人の編者によってまとめられた良書がパワーアップして戻ってきた。

 「イントロダクション」から編者の熱い想いが伝わってくる。初診外来での「身体所見と病歴を行き来する」「患者の解釈モデルを訊く」ことはベテラン医師も納得である。継続外来における「少なくとも年に一度は次の項目を見直す」の項目は,外来の引き継ぎや紹介・逆紹介をする際にも意識すべき重要点でもあり,広く浸透を期待する。外来診療では避けて通れない「感染症診療・抗菌薬適正使用」も必読である。

ベテランもうならせる臨床コラムが随所に
 外来では臓器別診療でなくジェネラリストとしての対応が期待されることが多い。内科医として押さえるべき主要疾患がコンパクトにまとめられていることや,予防という観点についても触れられているのは心強い。Physician’s Memoというコラムには,渋い項目(口内炎,味覚異常,Incidentalomaなど)がちりばめられ,ベテラン医師でも思わずチェックしてしまうだろう。

 惜しむらくは,超高齢社会の医療における“主治医・かかりつけ医”の概念について編者らの想いを伝えて欲しかった。緩和ケア領域のSurprise question(「もし目の前の患者さんが1年以内に死亡したとしたら驚くであろうか」と自問自答する質問)になぞらえて,“入院しても主治医として驚かない”病状にある患者(特に非悪性疾患であるCOPD,心不全のStage D,フレイル,認知症など)は,外来の時点から医療情報を整理・要約する努力が必要で,円滑な救急・入院診療につなげられると提言したい。

 “ジェネラリスト”としての対応が求められる外来には,不安がつきものである。指導医も簡単には見つからない。それを補完してくれる秀逸なマニュアルであり,外来にかかわる医師にとって必携の書籍になることは間違いない。

A5変型・頁736 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02806-6


《理学療法NAVI》
“臨床思考”が身につく運動療法Q&A

高橋 哲也 編

《評者》渡邉 好孝(介護老人保健施設アルパイン川崎 地域包括ケア推進部部長)

若手もベテランも必携の日々の臨床行動に役立つ一冊

 『“臨床思考”が身につく運動療法Q&A』は,若手の理学療法士の臨床力を上げることを目的とした《理学療法NAVI》シリーズの創刊第1弾です。

 本書は運動療法の基本的情報が収められており,若手のみならずベテランにとっても日々の臨床行動に役立てることができます。また臨床実習指導者にとっては,学生の臨床思考を育む指導書としても使用できるものです。

 内容は,全身状態の把握,ROMエクササイズ,筋力増強,バランストレーニング,ストレッチング,ウォーミングアップ・クーリングダウン,起居・移動動作の練習(片麻痺),起居・移動動作の練習(運動器疾患),有酸素運動,運動療法の目標設定の10項目から成り,57のQuestion(Q)と135のAnswer(A),エキスパート4人のコラムによって構成されています。

 まずは,各項で扱うトピックスの基本的事項についてのまとめ「これだけは」に示されているNAVI dataで知識の点検と理解度の確認を済ませ,次にQ&Aを学習することで各項の全体像が把握できる形式となっています。

 Q&AのQは各項の執筆者からの質問事項ですが,本書を手にした若手理学療法士や学生にとっては,今さら聞くに聞けない運動療法の基本事項を自分に問い掛け直すことにも役立てることができます。また対象者がシンプルに抱く“知りたいこと,わからないこと”などへの質問事項ともとらえることができます。Qは「ROMエクササイズのポイントは何ですか?」「有酸素運動はどのくらい行えば効果がありますか?」などの優しい語り掛けですが核心を突く質問ですので,知識を整理していなければわかりやすく端的に答えることは難しいかもしれません。読者なりにQ&Aを繰り返すことで,臨床思考が身につくことになるのだと思います。

 AはQの直下に短い文章で箇条書きに記されているのでQ&Aは一目瞭然ですが,安易に解答を教えるマニュアル本とは一線を画すものです。AはQについての気付きのヒントを伝え,思考を深めることを促すためのものでもあります。またAの詳細は現場で使える知識と技術として丁寧に解説されているので,臨床で重宝すること間違いなしです。

 インターネットではさまざまな情報を無尽蔵に眺めることができますが,豊かすぎる情報が集中力と選択力を奪ってしまうのか,すぐに忘れてしまいます。書物からの学びとは異なり,思考のプロセスを重ねないで得た知識は上辺面で深みのない貧困なものになりがちだなと思えるこのごろなのです。

 本書を読み進めると,かつて学んだことが蘇ってくると同時に,最新の知識と技術を知ることができました。また,使っていない知識は忘れたことにさえ気付かないでいることを認識させられました。忘れっぽい脳のナビゲーションシステムを最適状態に保つための道具として,コンパクトサイズの理学療法NAVIをいつも手元に置いて,何度も何度も読み返して使い続けます。臨床思考が身につくように編集に尽力された高橋哲也先生ありがとう! まさに出藍の誉れです。

A5・頁220 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02795-3


標準的神経治療
しびれ感

日本神経治療学会 監修
福武 敏夫,安藤 哲朗,冨本 秀和 編

《評者》北野 邦孝(松戸神経内科院長)

しびれの諸問題に初めて正面から取り組んだ意欲作

 このたび,日本神経治療学会監修《標準的神経治療》シリーズの一冊として医学書院より『しびれ感』が発刊された。福武敏夫先生ほか気鋭の先生方編著によるもので,診療ガイドラインとして多くの読者が期待するであろうテーマの一つとして選ばれたものである。確かに,日常診療で最も多い主訴は「頭痛」「めまい」「しびれ」と言われるが,前2者については研究や論文も多く,独立した書物や神経学書の中で特別に取り上げられ,かなり系統的に記述されることが多い。一方,非常に身近な問題である「しびれ感」は多くは付加的に述べられるにとどまっており,実は十分掘り下げられずに放置されてきた感がある。そのような意味で本書は誠に時宜を得た企画であり,神経内科医としては非常に興味をそそられる。

 本書では,第I~III章で「しびれ感」の概念,解剖・生理学,臨床的な評価など総論的な問題が記述され,第IV章では15に及ぶ疾患・病態について各論的に取り上げられている。特筆すべきことは,本書がしびれ感を単に末梢神経や中枢神経に起因する問題に閉じ込めることなく,多くの原因疾患を横断的に網羅する形で(例えば,パーキンソン病のしびれ感,ALSのしびれ感など)を項目として取り上げていることである。本書を編集,執筆された諸先生方の,神経学の対象としてしびれに正面から取り組むという意欲が読み取れる。「しびれ」は「痺れ」とも書かれる多義語であり,「痺れ」は「運動麻痺」を意味する場合もあることは本書でも繰り返し注意を喚起されているが,本書では「しびれ感」あるいは「痛み」という「異常感覚」という感覚系の問題に絞られている。

 また,本書は《標準的神経治療》シリーズの一つとして作り上げられているために,症状,徴候,治療に至るまでできるだけエビデンスに基づくということを強く意識して記述されている。もちろん,あらゆる項目(特に症候では)について個人的意見や症例報告レベルを超えるエビデンスが得られるわけではないが,本書では一貫して『Minds診療ガイドライン作成の手引き2007』に準拠したエビデンスレベル(I~VI)と推奨グレード(A~E)が記載されている。今後,「しびれ感」の診療現場で多くの神経内科医の判断に重要な情報を提供するものと期待される。

 なお,本書では17のCOLUMNがちりばめられているが,そこでも日常診療で陥りやすい誤りなどがいくつか指摘され,面白く読みながら新しい知識が得られる。第IV章(補)の「痒みについて」では,痒みを伝える特定のC線維の同定など痒みの神経科学の進歩などが述べられていて,まさに“痒いところに手が届く”構成になっている。

 本書はしびれをめぐる諸問題に初めて,正面から取り組んだ意欲的な好著として,広く神経内科医,一般臨床医など神経内科や内科外来診療に携わる全ての方にお薦めしたい。

A5・頁144 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03018-2


脊椎内視鏡下手術[Web動画付]

吉田 宗人 編
中川 幸洋 編集協力

《評者》中村 博亮(阪市大大学院教授・整形外科学)

手術動画も参照できる,懇切丁寧な実践書

 このたび和歌山県立医大整形外科学教室吉田宗人名誉教授の編集によって『脊椎内視鏡下手術[Web動画付]』が医学書院から発刊された。表紙の帯に記載されているように,和歌山県立医大がめざしてきた洗練された手術手技,そのために積み重ねてきた技術と真理の全てが本書に集約されている。脊椎内視鏡下手術は1991年にObenchainが腹腔鏡視下手術を施行したのに始まり,その後,1997年にはSmithとFoleyによって後方からの内視鏡による椎間板切除術が施行された。

 この方法をいち早く本邦に導入されたのが吉田先生で,1998年のことであった。われわれも1999年からこの方法を導入し,種々のご教示をいただいた。2004年には日本整形外科学会が脊椎内視鏡下手術の技術認定医制度を発足させ,2006年には本法が正式に保険収載された。この間,吉田先生は周辺光学機器およびインストルメントの開発にいそしみ,本法をスタンダード手術手技になるまでに尽力された。日本整形外科学会の脊椎脊髄病委員会のアンケートにおいて,2015年には1万5000件の内視鏡下手術がなされており,80%以上が後方からの手技となっていることがこれを物語る。

 本書の特徴は基本的な解剖や手術器具のセットアップの方法から,手術の各段階における器械の操作方法,各疾患に対する実際の手術手技が解説されていることである。特に実際に行ってみないとわからない細かいポイント,例えばレンズを曇りにくくする方法などについても懇切丁寧に解説されている。さらには万一起こった際の合併症への対応の仕方まで解説が及んでいるが,これら全てが和歌山県立医大の教室員によって執筆されているということは特筆すべき点であろう。

 手術手技の解説に当たっては多くの術中写真が使用され,またそれに対比するように解説図が多く併記されており,理解しやすい構成になっている。さらにありがたいのはweb上で該当部分の動画が参照できることである。手術を既に相当数施行している者にとっても,再確認するのに大変有意義だ。

 これから本法を始める予定の若手医師,あるいは既に手術を行っている医師たちにとっても,常に傍らに置いて参照したい一冊であることは間違いない。

A4・頁248 定価:本体18,000円+税
ISBN978-4-260-03053-3

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