医学界新聞

2017.10.16



第51回日本作業療法学会開催


小林正義学会長
 第51回日本作業療法学会(学会長=信州大大学院・小林正義氏)が9月22~24日,「作業療法の挑戦――多様化するニーズに応える理論と実践」をテーマに,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。本紙では,ニューロリハビリテーションを作業療法の臨床場面にいかに取り入れるかが議論されたシンポジウム「ニューロリハビリテーションと作業療法」(司会=広島大大学院・宮口英樹氏)の模様を報告する。

基礎研究と臨床の連携で最高のパフォーマンスを

 ニューロイメージング技術の進歩により,一度完成した脳でも機能・構造が変化し得るとわかってきた。こうした「可塑性」に注目して介入方法を工夫することで脳損傷後の効率的な機能回復を図るのが「ニューロリハビリテーション」だ。

 脳神経科学者の肥後範行氏(産業技術総合研究所)は,サル脳損傷モデルを用いた基礎研究の成果を紹介した。氏は,一次運動野の損傷により上肢麻痺が生じたサルに運動訓練を行うと,エサをつまみ取る動作(精密把握)の回復が促進されることに注目。回復過程での脳活動や神経回路の変化を観察したところ,運動前野腹側部の活動上昇や一次運動野を介さない新たな出力路の形成が見られたという。その際,神経軸索伸長を制御する遺伝子などの発現が上昇したことから,運動訓練によって遺伝子発現,神経回路,脳活動がダイナミックに変化し,機能回復がもたらされている可能性が示された。氏は,「こうした基礎的知見はより良い訓練法の開発に役立つ」と述べ,臨床家の積極的な研究参加や技術開発への助言を呼び掛けた。

 続いて,作業療法士として約30年の臨床経験を持つ山本伸一氏(山梨リハビリテーション病院)が,ニューロリハビリテーションの実践について報告した。神経科学に基づいた運動学習では,単純な運動の反復ではなく,感覚刺激や複合的関節運動,姿勢の制御などを組み合わせることで,動作を「身体で覚える」よう導いていく。氏は,脳梗塞による左半身麻痺患者に対する介入の様子を撮影した動画を見せながら,実践のポイントを具体的に解説した。運動学・解剖学だけでなく神経科学の知見を積極的に取り入れることで,脳活動を「身体を通して診る」ことができ,介入効果の向上につながるとの考えを示した。

 最後に,基礎と臨床の融合の重要性に注目している澤村大輔氏(北海道医療大)が登壇。「作業療法への多様化するニーズに応えるにはエビデンスの構築が不可欠」と述べた氏は2014年,基礎研究者と臨床家の交流や異分野の研究者との協働を目的に,作業療法神経科学研究会を設立した。同研究会は,エビデンスに基づいた作業療法の実践や効果検証とともに,臨床上の疑問から新たな研究動機の発見を促す「基礎と臨床の双方向還元モデル」を掲げている。氏は,こうした取り組みを通じた作業療法の学際的発展への抱負を語った。

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