医学界新聞

インタビュー

2017.06.19



【interview】

総合病院のチーム医療で心理職は何をしているのか

花村 温子氏(JCHO埼玉メディカルセンター 心理療法室/臨床心理士)に聞く


 患者への心理的ケアの需要はあらゆる診療科で高まっており,心理職を雇用する病院は増えてきている。そして,2018年には国家資格「公認心理師」が誕生する見込みだ。新たな時代に入る心理職は他の職種とどのように協働しているのだろうか。

 現在,臨床心理士として総合病院に勤務し,多くの診療科の患者とかかわる花村氏に,チーム医療における心理職の役割と心掛け,今後の課題を聞いた。


――国家資格の制定が決まり,公認心理師養成教育の議論が進んでいます。現場では何か変わってきましたか。

花村 今のところ現場レベルでは大きな変化はありません。ただ将来的には加算の対象になるなど,診療報酬で評価される可能性もあるでしょう。今の実践をベースに,少しずつ変わっていく面もあるのではないでしょうか。

――現在の花村先生の働き方を教えてください。

花村 当院は395床,標榜診療科19科の総合病院です。心理療法室には常勤の心理職が2人,非常勤が3人います。精神科を中心に心療内科,内科や外科など,診療科を横断して活動しています。必ず主治医と連携しながら心理支援をしています。

――どのような形で患者さんとかかわるのですか。

花村 1~2週に1回の精神科外来診察と同日に行う個人カウンセリングや心理検査,集団精神療法が中心です()。精神科医とともに他科へのリエゾン活動も行っています。患者さんの希望や他科の依頼に応じて,身体疾患で入院中の方にも心理職がベッドサイドで面談します。

 ある1週間のスケジュール(クリックで拡大)
濃い青色部分は特に多職種チームでかかわる業務。上記の他に月初に1回精神科外来ミーティング,月末に1回院内の部門長が集まる会議に出席。入院患者への面接や心理検査はその患者の体調に合わせた柔軟な時間枠で行う。

心理職のいるチームの風景

――領域を横断した多職種チームでの協働もしているのですね。

花村 週1回の精神科・心療内科合同の病棟カンファレンスに出席したり,認知症ケアチーム,緩和ケアチームの一員として活動したりしています。

――病棟カンファレンスのメンバーを教えてください。

花村 精神科医,心療内科医,病棟看護師,地域連携室の看護師,リハ職,管理栄養士,心理職が出席しています。

――そこでの心理職の役割は何ですか。

花村 心理職が関与している患者さんの情報をスタッフと共有します。直接介入していない患者さんに対しても,心理職の視点からの見解を伝え,時には心理検査や心理面接の導入を提案します。検査を行った場合には結果をスタッフにフィードバックしています。

――心理検査からはどのようなことがわかりますか。

花村 例えば,「言葉で相手に伝えることに自信がなく,気持ちがうまく伝えられないときに怒りっぽくなる」といった特性です。それにより「気持ちの表出が苦手なので,イライラが募り時にスタッフに対して怒りっぽくなるのではないか」とカンファレンスで話します。このような情報の共有は,スタッフ全員が患者さんをより深く理解することにつながります。

――心理職ならではのかかわりですね。

花村 面接や検査で長めにかかわると,あらためて生育歴や家族の話が聞けるなど,新しい面が見えてくることもあります。より良いケアをチームで実践するために,こういった情報も随時病棟スタッフに提供し,認知症ケアチームや緩和ケアチームの病棟ラウンドでも共有しています。

多職種の視点で“立体的”に患者を理解する

――心理職にとっては,他の職種から得るどのような情報が役に立ちますか。

花村 見立てや印象を教えてもらっています。病棟での面接の依頼が入ったときは,患者さんに会う前に治療がどのように進んでいるのかや主治医とどんなやり取りをしているのかなどをカルテ上で確認します。その上で病棟看護師から情報をもらいます。患者さんの印象や,安全のためにADLの程度などをきちんと知っておくためです。

 また,心理職のかかわりは客観的な数値では見えにくいので,介入の振り返りは独りよがりになりがちです。心理的支援の結果,患者さんの言動がどう変化したかを看護師や医師からフィードバックしてもらうようにしています。

――職種の違いによる視点を大切にしているのですね。

花村 他にも,日勤帯と夜勤帯の看護は違うものですし,リハ職などもそれぞれ患者さんの違う一面を見ているはずです。ですから,多職種のかかわりと視点を学ぶ意識で情報を共有し「その人の姿を立体的に理解する」ように努めています。

――他の職種への情報提供の際に心掛けていることはありますか。

花村 記録だけでなく,主治医をはじめとするスタッフに直接会って伝えることです。他の職種が情報を活用しやすいように,面接や検査結果からのアセスメントや今後のプランをわかりやすい言葉で客観的に記録することを大切にしています。

他職種に学ぶべきことの多い卒前・卒後教育

――今後,医療現場で心理職の存在感がますます高まっていきそうです。それを踏まえ,心理職養成教育にどのような在り方を望みますか。

花村 今私が要望したいのは,チームで協働する意識を育てることです。医療分野では心理職だけで支援が完結する事例はないと言ってもよく,他の領域でも多くはないでしょう。教育現場では,スクールカウンセラーは担任教諭や保護者,養護教諭と連携しながら子どもを支援しているはずです。

 心理面接技法や心理検査の習得はもちろん必要ですが,その上で,ともに支援に当たる職種の仕事を理解する必要があります。適切なアセスメントのもと,必要な支援につなげることは心理職の大切な役割です。多職種連携の経験のある現場の心理職による講義や,実習で他の職種と協働する機会を持つことが望ましいと思います。

――卒後教育に関してはいかがでしょう。日本看護協会が公表している「看護師のクリニカルラダー」のような,キャリアごとの到達目標はありますか。

花村 必要性を感じているものの,職能団体として作成したものはまだありません。系統的な研修システムの構築にもさらなる努力が必要だと思います。新人に何を教育し,中堅やベテランにどのような能力を求めるかといった観点は非常に重要です。こういった点は特に,他の職種をモデルに作っていくと良いかもしれません。

――自分の技量を継続的に見直す研修は大切ですね。

花村 少人数の職場が多い心理職は,身近なロールモデルがどうしても少なくなってしまいます。地域や大学院時代のつながりを生かして,さまざまな人と積極的に交流し,心理職同士でお互いの実践を確かめ合う機会を作り,学び合っていく必要があると思っています。

――チーム医療の時代に心理職が持つべき心構えは何でしょうか。

花村 「患者さんの気持ちに寄り添い,今その方に何が必要かを多職種がそれぞれの視点から考え,協働し補完しあいながら支援に当たること」,これがチーム医療だと思います。主役は患者さんなので,独りよがりの支援になっていないかを常に振り返りながら,心理職として真摯に,謙虚に患者さんや家族に向き合い,相手に敬意を払いながら自分の役割をきちんと果たす。その意識を大切にしたいですね。

(了)


はなむら・あつこ氏
専修大大学院卒後,複数の総合病院で非常勤勤務を経て,2000年より埼玉社会保険病院(現・JCHO埼玉メディカルセンター)に常勤勤務。『公認心理師必携――精神医療・臨床心理の知識と技法』(医学書院)に編集協力としてかかわり,チーム医療の項目を中心に執筆した。日本臨床心理士会常務理事,埼玉県臨床心理士会理事・事務局長,チーム医療推進協議会理事。

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