医学界新聞

寄稿

2017.05.29



【視点】

当事者の政策決定への参画は「成果を問う」時代へ

松本 陽子(一般社団法人全国がん患者団体連合会副理事長)


 4月13日に開催された国のがん対策推進協議会で,一つの言葉を巡って議論が交わされました。今後6年間の国のがん対策の全体目標に「がんの克服」という言葉を盛り込むかどうかで意見が分かれたのです。

 医療者委員からは「克服というと,がんを完全に無くすというイメージがあり,それは現実的ではないし誤解を招くのではないか」という消極的な意見が相次ぎました。それに対して患者の立場で参加している委員は,「がんによる生きづらさの解消なども含め,広い意味で『克服』をめざすという,先を見据えたメッセージにすべき」との声を上げました。結果的には,協議会会長の門田守人氏(堺市立病院機構理事長)が,「がん対策推進協議会は患者委員が全体の4分の1を占めている。その思いを尊重したい」と意見を表明し,「予防,治療,共生による,がんの克服」を全体目標として掲げる方向で取りまとめられました。

 国のがん対策を決定する場に患者や家族など当事者が参画するようになったのは,2006年成立の「がん対策基本法」と,それに基づいて策定された「がん対策推進基本計画」によります。2007年策定の第1期がん対策推進基本計画では,基本方針として「がん患者を含めた国民の視点に立ったがん対策の実施」を明示し,現在の第2期計画でも踏襲されています。これを受けて,国や都道府県のがん対策を協議する場では,その多くに当事者が参加するようになり,現在は大学や医療機関の倫理委員会,治療ガイドライン検討会にも正式なメンバーとして加わるようになりました。

 とはいえ,真の意味で当事者の意見は生かされているのか? そもそもがん対策や医療をより良くするために資するだけの提言ができているのか? 制度の後押しを受けて政策決定の場に当事者が入るようになってから10年が経過した今,自分たちの取組みを振り返る必要性を感じています。そこで2015年に,全国のがん患者団体の連携促進と,患者・家族の置かれている環境の課題を整理し,その解決に取り組むことを目的に「全国がん患者団体連合会」(全がん連)を立ち上げました。2017年5月時点で,37団体が加盟しています。

 全がん連では設立以降,「がん患者学会」を毎年開催しています。がん医療やがん対策などを学び,各地の課題を協議し,患者団体としてこれから取り組むべきことを考えました。

 2015年の開催時に天野慎介理事長は,「これまでは当事者は『声を届ける』存在だった。しかし,今後は声を届けたことで何が変わったのか,『成果を問う』時代。そのことを自覚し,仲間と共に取り組んでいきたい」と訴えました。

 昨年末「がん対策基本法」が改正され,私たち患者団体が強く要望した難治性がんや希少がんの研究促進,患者の雇用継続への事業主の配慮,さらに円滑な社会生活を送るための環境整備などが新たに盛り込まれました。これらを具体化していくための基本計画は今夏をめどに策定され,次は都道府県の計画へと議論の場が移ります。法律の言葉を実現し,患者・家族に届けるために,私たちの取り組みが試される時を迎えます。


松本 陽子
1965年愛媛県生まれ。19歳の時に父親をがんで亡くす。NHK松山放送局で仕事をしていた33歳のとき,子宮頸がんに罹患。2008年に愛媛でがん患者と家族の会を設立し翌年NPO法人化,理事長に就任。15年に仲間と共に全がん連を立ち上げる。

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