医学界新聞

2017.02.06



Medical Library 書評・新刊案内


上部消化管内視鏡診断㊙ノート

野中 康一,濱本 英剛,田沼 徳真,市原 真 著

《評 者》田尻 久雄(日本消化器内視鏡学会理事長)

手元に置いて,日常診療にぜひ活用したい一冊

 このたび,『上部消化管内視鏡診断㊙ノート』が,野中康一先生(埼玉医大国際医療センター消化器内科准教授),濱本英剛先生(手稲渓仁会病院消化器内科医長),田沼徳真先生(手稲渓仁会病院消化器内科主任医長),市原真先生(札幌厚生病院病理診断科医長)という新進気鋭の4人の著者により,医学書院から刊行された。

 筆頭著者である野中先生との初めての出会いは,2015年4月,ポルトガルのリスボンで開催された共焦点内視鏡の国際会議である。当時,野中先生は,NTT東日本関東病院に勤務されており,共焦点内視鏡に関する研究成果について,多くの症例経験に基づくエビデンスを,理路整然と流暢な英語で講演されていた。その姿は,度胸の据わった類いまれな,優秀な青年医師として光り輝いて見えた。その後個人的にも交友関係が続き,謙虚で真面目な性格ながら,大変ユーモア溢れる親しみやすい先生だと理解してきた。本書でしばしば使用されている「モテる」内視鏡医の模範であろう。

 本書は,野中先生が「はじめに」で記載しているように,10年間にわたり若い先生に行ってきた勉強会や講演の内容のポイントをまとめたものが中心である。10年間にわたり食道と胃の診断について,気になるところを縮小カラーコピーしてノートに貼り付けて診断のポイントを丹念にまとめてきた几帳面さと整理の良さに感心するとともに,たゆまぬ努力に心から敬意を表したい。

 各項目の文章を読みながら,極めて新鮮で驚きさえも覚えたというのが正直な感想である。文章が日常会話であり,実に平易で内視鏡室やカンファレンスでの会話をそのまま再現しているようで,野中先生はじめ著者たちの人柄が随所に表れている。それでいて,内視鏡診断学の本質が文献やデータに基づいて客観的に記述されているとともに,要所に初学者が覚えるべき重要なポイントが整理されている。しかも従来のテキストでは,一言の文章で済まされるような事項「“畳の目ひだ”とは?」「brownish areaは全部癌なのか?」「萎縮の程度の判定のコツとは?」「ひだの太まりとは?」などが初学者に理解できるように丁寧に解説されており,内視鏡研修を始めたばかりの先生が内視鏡を好きになって楽しくなるような構成で仕上がっている。

 さらにWebサイト上の『胃と腸』誌電子版につながるという特典も本書の特徴である。すなわち,『胃と腸』の参考文献を紹介する「モテ文献『胃と腸』」欄に,QRコードというスマホ読み込み用の画像が付いていて,『胃と腸』の要旨までが読めるWebページに飛ぶことができる。日常診療で忙しい若い内視鏡医に気配りした親切な試みであり,これからの書籍のスタイルになるものと思う。

 研修医から実際に内視鏡を指導する立場の先生まで肩肘を張らずに読める本として,手元に置いて,ぜひとも日常診療に活用していただきたいと願っている。

 近い将来,本書の続編が登場することを期待したい。

A5・頁256 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02848-6


DSTC外傷外科手術マニュアル
[Web動画付]

日本Acute Care Surgery学会/日本外傷学会 監訳

《評 者》渡部 広明(島根大教授・急性期・外傷外科学)

外傷外科医として学ぶべき基本事項がここに詰まっている

 待望の『Manual of Definitive Surgical Trauma Care』の第4版が出版された。本書はこの全訳版であり,外傷外科手技をトレーニングするDSTCコースのコースマニュアルである。

 近年,外傷外科手術症例の減少に伴い外傷外科手術を習得するのは困難となっている。こうした中,外傷外科手術を習得するためのoff-the-jobトレーニングコースに対する期待感は非常に大きい。DSTCコースはその代表的な国際的コースであり,1993年に開発されて以来,全世界の多くの外科医が受講し外傷外科手術の基本事項を学習している。本コースで学ぶべき事項は多いが,本書はそれを網羅するだけではなく,手術手技にとどまらず外傷外科手術症例を治療する上で重要な外傷患者の生理学的事項,ダメージコントロールの基本事項などが詳述されている。また重症外傷症例の多くは,術後集中治療の成否が救命の可否を左右するわけであるが,これについても詳しく解説している。

 外傷外科手術は優れた手術手技さえ持っていれば患者を救命できるというものではない。研ぎ澄まされた手術手技を修練するとともに,これを成功させ患者を救命へと導くための治療戦略を持ち合わせていなければならない。こうしたことを感じさせるポイントが本書には包括されている。そもそもDSTCコースでは,動物と献体を用いた手術手技を習得するセッションと同時に治療戦略(decision making)を学習するセッションが設けられている。本書ではdecision making能力を習得するための要素が随所に記載されており,実臨床でも大いに役立つものとなっている。

 さらに本書では手術手技や戦略決定能力に加えもう一つ重要な要素として外傷外科手術チーム員へのコミュニケーションについて記載している。重症外傷診療におけるノンテクニカルスキルに関して新たな解説を加え,外傷外科手術チームを統率するリーダーシップとコミュニケーションの在り方について述べている点は注目に値する。また,手術室看護師へのブリーフィングについて言及している点は,外傷外科を解説する書籍としては素晴らしい視点と言える。

 本書は外傷外科医が習得しておくべき,戦略,戦術,チームワーク構築という重要な要素を網羅し,さらに臨床実践することを想定した内容となっており,医師のみならず,外傷外科手術にかかわる全ての職種に推薦したい一書である。外傷外科医ならばぜひとも持っておきたい書籍と言える。

B5・頁416 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02829-5


乳がん超音波検診
精査の要・不要,コツを伝授します

角田 博子,尾羽根 範員 著

《評 者》白井 秀明(札幌ことに乳腺クリニック統括管理部長)

過剰診断を減らし,過不足なく病変を拾い上げる「目」を養うために

 近年乳がん検診の必要性はメディアやピンクリボン運動などによって広く示され,その普及が進むにつれ,これまで行われてきたマンモグラフィのみでの検診に限界があることが指摘されており,超音波検査を併用した乳がん検診へ注目が集まっています。そのような中,実に良いタイミングで『乳がん超音波検診――精査の要・不要,コツを伝授します』が医学書院から出版されました。本書は,日々精密検査の可否に悩む検診の現場が切望していた本だと言えるでしょう。

 まず乳がん検診によって起こり得る利益と不利益より,超音波検査が果たす役割を示すことから,超音波検査で問題とされている病変の拾い過ぎ,いわゆる過剰診断を減らすことを目的とした内容になっています。特に「I.検診についての10の基本」の中で述べられている「検診は癌による死亡を回避する手法であることは確かですが,一方このような過剰診断という不利益もあるということを,検診に携わる医療者は真摯に受けとめ,また受診者である一般女性にも知っていただく必要があるでしょう」(p.7)という一文は,今日の併用検診が抱えている問題を鋭く突いており,“あれば何でも拾っておけ”“わからないからとりあえず精査にしよう”という気持ちでは検診に臨めないことをよく指摘しているものと思います。

 「II.腫瘤」「III.非腫瘤性病変」では,日本乳腺甲状腺超音波医学会(JABTS)の『乳房超音波診断ガイドライン』(改訂第3版,南江堂,2014)で用いられているカテゴリー分類に沿って,多くの症例画像と適切なコメントがわかりやすく配置されており,どの項目から見ても理解しやすい本になっているのが特徴です。正しく要精査基準を理解し,過不足なく病変が拾い上げられる「目」を養うため,典型例から判定が難しい症例まで多くの症例画像によって画像の読み方がまとめられており,さらにその問題点に対して,正しく判別するためのポイントやちょっとしたコツなども数多く掲載されています。

 またもう一つ本書ならではと思われるのが「Column」であり,随所に配置されています。これは実際に検査を行う場合に必要な装置の具体的な設定方法や探触子の走査方法,またBモード法以外の判定方法について解説されており,実際に検査を行う上で不可欠なコツなどが実にわかりやすく書かれ,すぐに役立つ内容になっています。したがって本書は先ほどの『乳房超音波診断ガイドライン』と共に使用することで精査の可否のポイントがより理解できるものと思います。

 乳腺超音波検査は,これまで主に精査機関で活用されてきましたが,今後はますます検診施設などでも用いられることが予想されます。このような中で本書は日々の現場の疑問を解消してくれる力になるばかりでなく,これから検診機関で働く医師や技師の教育のための教本としても最適であると考えられます。本書の内容を多くの医療従事者が正しく理解し活用できれば,必ずや救命効果の高い乳がん検診が行えるものと確信いたします。

B5・頁176 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02814-1


実践にいかす歩行分析
明日から使える観察・計測のポイント

Oliver Ludwig 原著
月城 慶一,ハーゲン 愛美 訳

《評 者》山本 敬三(北翔大教授・運動力学)

コストパフォーマンスの良い歩行分析ツール

 「経験豊かな歩行観察者が一定の基準に従って歩容を評価すれば,多くの場合に優れた効果をもたらす」「しかしながら,豊富な経験を積み重ね,診察の信頼性と再現性を保証する“完全な観察力”を獲得するまでの道のりはとても長い」(p.vii)。

 本書の“序”に述べられたこの言葉に,まさしくその通りだと感服させられました。本書は“完全な観察力”を養うために,十分な観察方法や分析ポイントのエッセンスが詰め込まれた理想的な教科書です。

 「歩行分析は,誰のために,何のために行うのだろうか?」

 本書を読み進めるうちに,自分自身にそのような原初的な問いを投げ掛けていました。近年の動作分析の研究では高価で大規模な装置を使った分析が当たり前になりつつあり,大学や専門学校などでは最新の高度な計測機器を用いて授業や研究を行うことが多くなってきました。そのため,研究者や学生の多くは,計測原理や精度,信号処理・統計処理方法,数式・物理式などの理解に多くの時間と労力を費やしてきました。

 しかし,歩行分析の真の主役は毎日多くの患者さんを担当する臨床家であり,彼らが担当する患者さん自身であるべきです。目の前の患者さんに寄り添い,一緒に問題を解決し,QOL(Quality of Life;生活の質)を向上させるためのツールの一つが歩行分析と言えるでしょう。臨床現場に本当に必要なものは,コストパフォーマンスの良い,簡便に利用できる歩行分析ツールであり,なおかつ臨床家や患者さんが理解しやすいデータ表現や解釈方法です。

 本書は,そのような現場の要望に見事に応えてくれています。臨床現場で役立つ分析手法が紹介され,255点のフルカラーの写真やイラストによって,計測や分析のイメージがつかみやすいよう工夫されています。また,本書のサブタイトルである「明日から使える観察・計測のポイント」の通り,「実践のためのヒント」が41点,巻末の付録には6ページにわたる「歩行分析シート」が掲載されており,明日からではなく,今すぐ使いたくなる情報が満載です。

 最も多くの紙面が割かれている第3章「歩行分析の方法論」では,臨床現場で比較的安価に取りそろえることができるビデオ解析や足底圧分布計測装置を用いて,姿勢,歩行,走行の計測・評価方法が紹介されています。ビデオ計測時に役立つマーキング位置も詳しい写真付きで解説されており,計測時のポイントやデータの着目箇所や解釈方法などが大変わかりやすく説明されています。また,足底圧分布計測についてもデータの見方や解釈方法が詳しく記載され,圧力分布図から多くの情報が得られることに驚かされました。

 さらに,参考文献が337編も取り上げられるなど,研究者にとっても貴重な資料と言えるでしょう。巻末付録の「歩行分析シート」は授業や臨床現場ですぐに使えます。

 本書は,理学療法士やトレーナーをめざす学生に最適です。また,現在臨床を行っている方で,歩行分析能力をブラッシュアップさせたい方にも最良の書です。

B5・頁260 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02805-9


作業で結ぶマネジメント
作業療法士のための自分づくり・仲間づくり・組織づくり

澤田 辰徳 編
齋藤 佑樹,上江洲 聖,友利 幸之介 編集協力

《評 者》土井 勝幸(日本作業療法士協会副会長)

楽しみながら「作業」の持つ力を再考できる実践書

 2016年に札幌で開催された第50回日本作業療法学会の会場に到着し,真っ先に書籍コーナーで本書を買い求めた。探すつもりであったがその必要はなく,一番目立つところに山積みにされていた。書籍展示の担当者に聞いたところ,「本学会での書籍販売としては一番の売れ行きです」とにこやかに紹介していたのが印象的であった。

 本書に惹かれた理由は,副題の「作業療法士のための自分づくり・仲間づくり・組織づくり」という文言に心が動いたからである。

 今から25年前,東京の大きな組織で6年間臨床を経験した後,作業療法士が誰一人いない地方の一人職場に自ら移り,使命感に燃えて地域作業療法に取り組むこととした。しかし,多職種との連携,組織の壁,作業療法への無理解,これらが背景となる人間関係……。言葉では言い尽くせないジレンマを抱えることとなった。作業療法をしたいという叫びは誰にも届かなかった,というよりは届けられない自分がいた。不本意ではあったが深い挫折とともにその職場を去ることとした。そのときに私は,丁寧な作業療法を実践するためには,環境そのものを作業療法する必要性と,その環境づくりのために組織をマネジメントする立場にならなければいけないと考えた。その後,紆余曲折を経てリハビリテーション専門職としては日本で最初に,介護老人保健施設の管理者となり,現在,作業療法を形にする環境づくりに取り組んでいる。

 今も多くの若い作業療法士は,当時私が抱えたジレンマに近いものを感じているに違いない。現行の医療・介護保険制度のいずれも,時間の枠に縛られる作業療法となっており,結果として,生活を支援する具体的な作業療法が実践しにくい環境にある。一方,現行制度の枠組みの中で,対象者にとって“意味のある作業”に取り組んでいる丁寧な作業療法の実践報告を聞くことがあるが,その多くで,職場の環境がマネジメントされていることに気付く。

 本書の1章「作業に焦点を当てたマネジメント」では,作業療法の専門性を生かすためにはマネジメントが重要であることをまさに強烈に表現している。意図的に構成していると思われるが,短いセンテンスで臨床・教育・研究とさまざまな視点から作業に焦点を当て,マネジメントの持つ意味を丁寧にわかりやすく解説している。

 本書を一言で表するとすれば,執筆者の方々には失礼な表現となるかもしれないが“面白い”である。日頃専門書に手が届くことがない方がいるとすれば,間違いなく本書は読むことができ,専門書特有のくどさが感じられないことを伝えたい。その理由は,執筆者がいずれも作業療法を丁寧に実践している作業療法士だから共感できるためだと思う。

 そして,執筆者一覧を見てほしい。これからの作業療法を支える実力者が並んでおり,よくこれだけのさまざまな領域,分野のエキスパートをそろえることができたものだと感嘆する。

 作業療法の未来を見据えるだけではなく,“作業”の持つ力を再考させてくれる本書を,日々にジレンマを感じている作業療法士に手にしてほしいと心から願う。

B5・頁208 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02781-6

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