医学界新聞

連載

2017.01.30



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第8回]好中球減少と感染症⑤ 中間リスク群

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科医幹)


前回からつづく

 「好中球減少と感染症」シリーズの最後は中間リスク群について説明しましょう。低リスク群では一般細菌を中心に(第5回/第3195号),そして高リスク群では多剤耐性菌や真菌感染症,特にアスペルギルスなどの糸状菌感染症を考慮しなければなりませんでした(第6回/第3200号第7回/第3204号)。中間リスク群では,好中球減少そのものは大した影響はないものの,疾患そのもの,あるいは化学療法に伴う免疫不全が現れるのが特徴です。

「中間リスク群」は疾患で分類

 さて,中間リスク群では好中球減少が7~10日のものがほとんどです。急性骨髄性白血病(AML)のように好中球減少が14日以上も持続するわけではなく,固形腫瘍のように好中球減少が7日以内でスパッと収まる,というわけでもない。そんなグループが中間リスク群に入ります1)。具体的には,

・悪性リンパ腫
・慢性リンパ性白血病
・多発性骨髄腫
・自家造血幹細胞移植患者

などが当たります。

 前回までにお話ししたとおり,低リスク群も高リスク群も基本的には,「バリアの破綻」と「好中球減少」がメインでした。AMLでは高度の遷延する「好中球減少」があるため,多剤耐性菌以外にもアスペルギルスやムコールなどの糸状菌感染症の危険にさらされていましたが,「液性免疫」や「細胞性免疫」の壁は基本的に保たれていました。つまり考慮すべき起因菌は一般細菌や糸状菌程度であり,鑑別はさほど広くありません。

 一方,中間リスク群では好中球減少はそんなに深刻ではありませんので,高リスク群のように糸状菌感染症を考慮することはまれです。その代わり,疾患や化学療法によって「好中球」以外にも「液性免疫」や「細胞性免疫」の壁が低下するため,それぞれの症例で免疫不全の状態を個別化して,鑑別を大幅に広げる必要があります。

 では実際の症例をもとに解説していきましょう。

症例1
 54歳男性。初発のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse Large B-Cell Lymphoma;DLBCL)に対して,外来でR-CHOP(リツキシマブ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法の4コース目施行中。その他特に既往症なし。5日前から好中球が500/μL未満となっていた。本日38.5℃の発熱および乾性咳嗽があり外来受診。全身状態は比較的良好。食欲低下あり。頭痛,鼻汁・鼻閉,咽頭痛,呼吸困難,腹痛,嘔気・嘔吐,下痢,尿路症状,肛門痛,関節痛・筋肉痛なし。意識清明,血圧138/72 mmHg,脈拍数100/分,呼吸数20/分,体温38.5℃,SpO2 94%。口腔内に軽度の粘膜障害あり,右肺野にcoarse crackles聴取。その他,頭頸部,胸部聴診,背部,腹部,四肢,皮膚に明らかな異常なし。好中球300/μL。肝機能障害,腎機能障害なし。胸部X線で右下肺野に浸潤影,胸部CT検査で右下葉にair-bronchogramを伴うconsolidationあり。

 症例1はDLBCLに対してR-CHOP療法施行中の方の発熱性好中球減少症(FN)および肺炎ですね。R-CHOP療法では好中球減少はおおよそ7日程度。中間リスク群に当たります。ただし,原疾患であるDLBCLそのものやR-CHOP療法に含まれるステロイドによって「細胞性免疫」が,またリツキシマブにより「液性免疫」が軽度低下しています。

 市中発症の肺炎ですので,一般的な起因菌である肺炎球菌などに加え,非定型肺炎の鑑別も重要になってきます。その上で今回の免疫状態を考慮して鑑別を進めていきます。「好中球減少」のカテゴリーでは特に緑膿菌が重要ですね。「液性免疫低下」では莢膜を有する微生物。「細胞性免疫低下」では細胞内寄生し市中肺炎を起こすものとして,レジオネラ,マイコプラズマ,クラミドフィラなどの非定型肺炎,また呼吸器ウイルスなどが重要です。セフェピムおよびアジスロマイシンによる経験的治療が妥当でしょう。結局本症例では尿中レジオネラ抗原陽性,また気管支鏡も施行し,レジオネラ・ニューモフィラが検出されました。

症例2
 74歳女性。再発性の多発性骨髄腫(Multiple Myeloma;MM)に対して外来でレナリドミドとデキサメタゾンによる治療中。今回来院3日前より感冒様症状,来院前日からの38℃の発熱,後頸部痛,嘔気・嘔吐があり外来受診。全身状態はややぐったり。その他,咽頭痛,呼吸困難,咳嗽,腹痛,嘔気・嘔吐,下痢,尿路症状,肛門痛,関節痛・筋肉痛なし。意識レベルJCS I-1,血圧157/98 mmHg,脈拍数112/分,呼吸数24/分,体温38.7℃,SpO2 98%。項部硬直,Kernig徴候およびjolt accentuation陽性。その他,頭頸部,胸部聴診,背部,腹部,四肢,皮膚に明らかな異常なし。肝機能障害,腎機能障害なし。頭部CT検査は明らかな異常なし。腰椎穿刺を施行したところ初圧28 cmH2O,細胞数1180/mm3(多核球優位),タンパク160 mg/dL,糖40 mg/dL(血糖140 mg/dL)。

 症例2は再発性MMに対してレナリドミドとデキサメタゾンで治療中の方のFNおよび急性細菌性髄膜炎ですね。MMの場合,疾患そのもので「液性免疫低下」が,また,デキサメタゾンによって「細胞性免疫低下」が起こります。またレナリドミドでは「好中球減少」が見られますが,高度に減少することは通常ありません。

 急性細菌性髄膜炎の起因菌として最も重要なのは莢膜を有する肺炎球菌です。「液性免疫低下」があるのでますますリスクは上がります。また「細胞性免疫低下」もあり,リステリアも考慮する必要があります。なお,FNの状態であり,髄膜炎以外の感染症が重複している可能性も十分にあり得ますので,経験的治療としては抗緑膿菌活性を持つ抗菌薬投与が必要です。本症例では結局,血液培養と髄液培養から肺炎球菌が検出され適切に治療されました。

 今回は「好中球減少と感染症」の最終回,中間リスク群についてお話ししました。このグループでは「好中球減少」と同時に「液性免疫低下」や「細胞性免疫低下」が関与することが多く,それぞれに応じて起因菌の鑑別を広げて考える必要があることを強調しました。次回は「液性免疫低下」について少し掘り下げて解説していきます。お楽しみに。

つづく

[参考文献]
1)J Natl Compr Canc Netw. 2016[PMID:27407129]

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