第36回日本看護科学学会開催
2017.01.23
第36回日本看護科学学会開催
第36回日本看護科学学会学術集会(会長=東京医大・岡谷恵子氏)が2016年12月10~11日,「国民の幸せをもたらす制度設計と看護研究」をテーマに東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された。国民が,健康で幸福に生活できる社会の構築に向けた制度設計はどうあるべきか。また,制度設計に当たり看護職は,何を考えどのように行動すべきか。本紙では,国民主体の制度設計の在り方について,看護と関連する領域から提言されたシンポジウム「国民の視点からの制度設計――実例からの学び」(座長=兵庫県立大・増野園惠氏,国立看護大・綿貫成明氏)の模様を報告する。
2025年,65歳以上の認知症患者は700万人に達すると推計され,認知症研究と制度設計は社会の重要課題となっている。初めに登壇した永田久美子氏(認知症介護研究・研修東京センター)は,次代の政策をけん引する研究の在り方について,認知症と社会とのかかわりから解説した。認知症患者を支援する制度をめぐっては,認知症を患う本人の声を,国が制度改革に反映してきた経緯がある。氏は,制度設計につなげる研究を進めるには,研究の在り方,テーマ,方法について認知症患者と一緒に考えながら作り出す必要があると,自身の調査経験を踏まえ強調した。特に看護師は,職業の特性から「本人の参画や協働を体現しながら,当事者に役立つより良い制度に向けた提起ができる立場にある」と述べ,看護職と認知症患者が共に作り上げる研究の広がりに期待を寄せた。
当事者の声を反映した研究と政策提言の実行を
写真 シンポジウムの模様 |
日本訪問看護財団の佐藤美穂子氏は,「療養通所介護」実現の経緯から政策提言と研究活動の事例を紹介した。2000年にスタートした介護保険制度は当初,通所介護が十分利用できず“介護難民”が発生した。訪問看護だけの支援に限界を感じた同財団は,「通所看護」の仮称で2002年から2005年にかけて,モデル事業の実施や,実証研究と基礎データの収集を行い,2005年厚労省に研究成果を報告した。その結果,2006年の介護報酬改定によって,通所介護の一類型として「療養通所介護」が創設された。その後も,「がん末期と難病患者」限定となった療養通所介護の新規開設条件の解除や,療養通所介護を活用した児童発達支援事業等の制度化にも政策提言を行ったと紹介。今後も,ニーズに応えるサービスの発展に向け,研究を積み重ねたいと語った。
「超少子高齢社会を迎えた今,従来の常識の延長線上に未来はない」。こう述べた尾形裕也氏(東大)は,近年の医療・介護制度改革の動向から,看護に期待される役割について語った。全ての団塊の世代が後期高齢者となる2025年を,現在の医療・介護サービス提供体制で対応できるか問われる「象徴的な年」と解説。急性期医療の確立と在宅サービスの充実が「盾の両面」として進められるダイナミックな転換点にあり,看護職がこの状況をどう考えるか問い掛けた。その上で氏は,地域医療構想の動向や,在宅ケアの在り方など研究の糸口を提示。自身は,病院を含む企業・組織の「健康経営」について,データに基づき可視化する取り組みを進めていることを紹介し,新たな研究に取り組む必要性を呼び掛けた。
総合討論ではシンポジストから,「医療政策はステークホルダーが多く,政策立案から実施までタイムラグが生じる。そのため早く動き出すことが重要」といった意見が挙がった。
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