医学界新聞

2016.10.17



Medical Library 書評・新刊案内


高次脳機能障害のリハビリテーション[DVD付] 第3版
実践的アプローチ

本田 哲三 編

《評 者》澤 俊二(金城大教授・作業療法学)

高次脳機能障害を理解するための心配りがさらに行き届いた改訂版

 本書は2005年に初版が発行され,以後,2010年に第2版,そして今回の第3版と,約5年おきに版を重ね,既に名高い専門書として定着した感がある。その理由は,高次脳機能障害をどう理解し,どうアプローチをしたらよいか,社会全体で支えるにはどうすべきか,また,職場さらには社会で,高次脳機能障害をよく理解してもらうにはどうしたらよいか,それらへの回答を3版まで版を重ねる中で答えていこうと懸命に努力されてきたからではないだろうか。

 このことは,第2版との違いを見れば明らかであろう。今回の第3版では,2008年の高次脳機能障害者に対する東京都調査を追加しており,4万9508人の総数に対し,認知症者も含まれている可能性を指摘している。また,原因と各症状の頻度については,ほぼ定説が確立されていると述べている。その他にも,新たに脳画像所見の項目が追加され,わかりやすい解説が施されている。また,若年脳外傷者へのアプローチについても記載され,その手法を平易に解説している。そして現在,全国的にホットな話題となっている自動車運転の章も追加されている。全国的に研究活動が活発化しているので,大いに参考になるであろう。制度も含めて記載されており,本人や家族から相談を受けた際の説明に役立つことが期待できる。また,おのおのの病態をDVDの動画で紹介している。これを視聴しても理解が深まるだろう。

 さらに,高次脳機能障害の説明用パンフレット見本が付録として収載されている。一般の方々や福祉専門職の方々にとって高次脳機能障害を理解する一助となろう。これらのことからもわかるように,本書は心配りが非常に細かい。

 ところで,評者は慶大月が瀬リハビリテーションセンター(1977年開院,2011年閉院)所属の作業療法士として開設準備からかかわっていた。開院して2年目だったであろうか,若き本田哲三氏がリハ医としての研修を受けるため赴任されてきた。すると早々に,ある言語聴覚士の呼び掛けで,本田氏と評者を含めた3人が集まり,A. R. Luriaの『神経心理学の基礎――脳のはたらき』(鹿島晴雄訳,医学書院,1978)を教材に,毎週朝7時から1時間勉強会を行うこととなった。その集まりの中で,本田氏にいろいろと講義を受けたことが懐かしく思い出される。当時,リハビリテーション医療の分野では,作業療法士の鎌倉矩子氏が高次脳機能障害の評価とアプローチについて症例を重ね,先鞭をつけていたころである。脳機能の損傷による影響を知るには成書が少なく,秋元波留夫先生など精神医学分野から多くを吸収する時代であった。その中で本田氏は,Luriaの神経心理学をわれわれリハスタッフに紹介してくれた。野心の火がスタッフにともったあの頃が懐かしい。

 高次脳機能障害は社会活動場面で顕著に現れる。2016年4月の保険点数改定で,通勤場面・職場など医療機関外での医療的リハビリテーションが可能になった。今回の改定で高次脳機能障害のリハビリテーションが飛躍的に充実することが期待されるが,その前に本書を熟読されることをお薦めしたい。

B5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02477-8

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