医学界新聞

2016.09.26



第42回日本看護研究学会開催


 日本看護研究学会第42回学術集会(会長=筑波大・川口孝泰氏)が8月20~21日,「先端科学と看護イノベーション」をテーマに,つくば国際会議場(つくば市)にて開催された。本紙では,医療の情報化を支える看護情報学の推進に向けた現状と展望を,演者の取り組みを交えて議論したシンポジウム「医療の情報化と看護情報学の未来」(座長=岩手県立大名誉教授・山内一史氏,横市大・佐藤政枝氏)の模様を報告する。

看護情報学教育の一層の充実を共有

川口孝泰会長
 冒頭に座長の山内氏が,看護情報学を必要とする看護分野の現状を解説した。2001年,政府が情報化を推進するe-Japan戦略の発表を受け,同年厚労省は「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」を発表し,情報化の4段階の道筋を提示した。しかし,看護分野では第1段階の「医療施設の情報化」が不十分なまま第2段階の「医療施設のネットワーク化」に進んでいると指摘。この問題の解決に「看護情報学が必要」との見解を示した。

 情報に基づく意思決定支援のためのヘルスリテラシー向上に看護情報学が重要と位置付けるのは,聖路加国際大大学院の中山和弘氏。日本人のヘルスリテラシーが欧州やアジアの一部の国々よりも低いとのデータに危機感を示し,海外で多く開発されている「ディシジョンエイド」について紹介した。これは,パンフレットやウェブなどで治療やケアの選択肢と特徴を示し,患者自身の価値観と一致する選択肢を選べるよう支援するもの。氏は現在,ディシジョンエイドの国際基準(International Patient Decision Aids Standards;IPDAS)の翻訳版公開を準備しているとし,ヘルスリテラシー普及への意欲を語った。

 亀井智子氏(聖路加国際大大学院)は,ICTを活用した在宅慢性疾患患者のテレナーシングについて,自身の実践から報告した。テレナーシングの利用は,在宅慢性疾患患者の急性増悪や救急受診,入院の予防に適し,在院日数の低下や患者のQOL向上,医療費抑制などにエビデンスがあると解説した。その上で氏は,本邦でのテレナーシング推進には質の保証が不可欠と述べ,テレナースの育成やガイドラインの普及の必要性を提言。テレナーシング実践セミナーを開催するなどの取り組みを紹介した。

 在宅看護学を専門とする甲南女子大の片平伸子氏は,教育に携わる立場から看護情報の教育と利用方法について紹介した。「看護情報学」の科目を持たない同大では,1年次前期の「キャリアデザインI」の講義で,図書館での蔵書検索の方法などを教えている。しかし,4年前期の「在宅看護学実習」に出ると,訪問看護ならではの記録の取り方や情報の取得方法など,それまで他領域の実習で経験したICTとのギャップに学生が戸惑う場面があるという。訪問看護の現場におけるICT化の促進や,情報利用の方法を学ぶには,教育から臨床への橋渡しが必要との見解を示し,基礎教育における看護情報学の一層の充実を訴えた。

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