鈍感力でもレジリエンスでも(水野篤)
連載
2016.09.12
臨床医ならCASE REPORTを書きなさい
臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。
水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)
■第6回 鈍感力でもレジリエンスでも――Rejectでもめげない!
(前回よりつづく)
カリスマ先生「レジデント先生,どうしたんですか? 元気ないですね」
レジデント「カリスマ先生に言われた通りに作成したのに論文がReject(不採択)でした(涙)」
カリスマ先生「そうか。じゃあ別の雑誌に出そう!」
レジデント「また落ちるかもしれないじゃないですか!?」
カリスマ先生「そうしたらまた別の雑誌に出そう!」
レジデント「…………」
最初の連絡
さて,ようやく提出できたぞ! と安心したのもつかの間。すぐにメールが来ます。内容は,
・受付確認(ほぼ自動です)もしくは受付番号
・不備があったから修正しろ!
これらの事務メールは,だいたい24~48時間で連絡が来ます。間を置いてしまうと,忙しさの中でついつい先送り,そしてそのままお蔵入り,という流れになってしまう危険性があります。不備はササッと修正して再提出してください。
Never put off till tomorrow
what you can do today.
です。
修正すべき内容はメールに書いてあるので,確認してください(Instruction for author[投稿規定]を読め,という指示のこともあります。投稿前にきちんと読んでおきましょう)。ほとんどの問題は同意書の署名(サイン)がないか,引用が規定と違う,文字数が規定より多いなどです。
事務連絡にはしっかり応対しておいたほうが良いです。先方も非常によく確認してくれています(恐るべしです)。私が提出した論文の中で最も早くAccept(採択)されたのはLetterでしたが,なんと返事が来たのは,Editorial office(編集室)とのやりとりをして,修正した論文を再投稿した1分後でした。雑誌名は伏せますが,驚きでスクリーンショットを撮ってしまいました(写真)。受付確認メールが17時52分,Accept通知が17時53分です。ここまで早いことはほぼないでしょうが,迅速な対応が素早いAcceptにつながるかもしれません。
写真 筆者がこれまでで一番早く受け取ったAcceptメール |
第2報:Decision letter
その後の第2報はDecision letterです。
1日(!?)~2週間ぐらいの間に素っ気ない返信が来たら,
・Editorial reject
編集室判断での不採択です。それを過ぎたら,Editorial rejectはされなかったとホッとして良いでしょう。そのころになったら,Submission(投稿)ページで論文の処理状況が見られるようになります。だいたい,Under review(査読中)もしくはEditor assigned(担当者検討中)だと思います。
そして,1~3か月後に以下のいずれかの連絡が来ます。
・Accept
・Minor revision
・Major revision
・Reject
Revisionが来たら全力で修正!
「Minor revision」「Major revision」はともに修正の依頼です。
「ぜひ修正して再提出してください。修正さえすれば採択したいです」的な小さな修正の依頼がMinor revision。「ここを修正したほうが良いと思うけど,修正して再提出しても採択の保証はしかねます。まぁ,頑張ってみてください」的な大きな修正の依頼がMajor revisionです。
「保証はしかねます」という表現は,I cannot assure guarantee.とか書いてあります(MajorかMinorかは,明確には書いていないときがあるので慣れないうちはわかりにくいかもしれません。確実に知りたい場合はSubmissionページを見るとわかることが多いです)。Major revisionでも,Rejectとは天と地ほど違います。採択の可能性が残っていますので,Revisionが来たら死ぬ気で頑張ってください。
ちなみに,Revisionの場合は,必ずReviewer(査読者)の意向に沿って変更してください(意味不明と感じる場合も含めて,です)。Reviewerは無償でわれわれの論文を査読してくれています。英文校正は費用がかかるのに,より専門性の高い職業の方に費用が支払われないってどんな世界やねん! という気もしますが,その点にはあまりとらわれず,忙しい中査読してくれたReviewerに感謝をしながら論文をより良いものに仕上げてください。
MajorでもMinorでも,いい加減な修正だとRejectされます。要注意です。私も経験がありますが,これほどショックなことはないでしょう。ただ,いくつもの過程を経る中で論文はより良いものになっていきます。コメントなどを参考にして他の雑誌での採択をめざしましょう。第3回(第3178号)で紹介した文献管理ソフトを使用すれば,スタイル変更もおっくうにならなくて済むと思います。
Rejectは無駄じゃない!
AcceptとRejectの場合は,まさにそのように書いてありますので,はっきりとわかります。
Rejectの場合のお決まりの表現は「I regret to inform that~」です。われわれの感覚から言えば,全然残念そうではありません(笑)。慣れてくれば平気かもしれませんが,Rejectになると論文執筆の努力が全て「水の泡」になったように感じます。もし完全に心が折れてしまったら,本当に泡として消えてなくなります。お蔵入りになるということです。そうしないためには,ここで奮起する必要があります。
落ち込んだ気持ちが自然回復するまで,少し寝かせても良いですが,そのときは注意が必要です。論文を書いている瞬間というのは最大瞬間風速的に知識があります。参考文献の細かい内容などは,時間とともに指数関数的に頭から抜けていきます。論文の少しの眠りは二度寝ではなく,永遠の眠りにつく可能性をはらんでいるのです。可能な限り,その週の週末ぐらいまでには別の雑誌への投稿作業に入るように頑張ってほしいと思います。
先ほども少し触れましたが,Rejectされても投稿が全くの無駄だったわけではありません。もしReviewerのコメントが付記されていれば,ぜひ参考にしてください。論文を良くするポイントが詰まっているでしょう(Editorial rejectの場合はほぼ何もコメントがありません。これは本当にキツいです)。
ちなみに,Revisionの場合と異なり,明確に「Reject」だった場合,コメントのとおり修正しても,同じ雑誌に採択される可能性はかなり低いでしょう。多少好意的なコメントがあっても,勘違いしてはいけません(よほどの自信があればReviewerを変えてくれというのもアリですが……)。
鈍感力を磨け
英文雑誌からのメールは,(日本時間では)だいたい朝来ます(さらに年末年始は一斉にDecisionが返ってきます)。どうでもよい対策ですが,5~6時ごろに届いたメールが英文だったときは,見ないのも一つの手です。そんな時間に送付されてくる英文は,スパムメールかDecision letterです。そして,採択率を考えれば,Rejectの可能性のほうが高いわけです。ダメージを受け,その日の一日の業務に差し支える人は多々いるでしょう。
とりあえず,ほぼRejectされると思っていたほうが心は折れません。Major journalでは特にそうでしょう。国家試験のように90%近くが合格するものとはわけが違います。Rejectが想定内,と思っていたほうが心の安定を保てます。私はもうReject慣れしているので,全くへこみません。Reject通知が来た瞬間に他の雑誌への投稿準備ができるほどです。
平静の心を得るために必要なのは,「しょせん論文,Rejectでも自分を全否定されたわけではない」という鈍感力です。恋愛に似ていますが,投稿で心の傷を負っても,死ぬわけでも,肉体に痛みを受けるわけでもありません。私の好きな漫画に,『昴』(小学館,曽田正人)というバレエ漫画がありますが,その中で「おまえを殺してしまわないものはすべてお前を強くしてくれる」という,ニーチェを元にした言葉が出てきます。根性論ですが,ぜひこの気持ちを持って奮起しましょう。
状況を受け入れ,次の活動を起こせるかどうかが勝負です。このあたりはサポートできますので,いつでも連絡をください!!
まとめ●事務メールは投稿後すぐに来る。不備には迅速に対応しよう。
|
(つづく)
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