医学界新聞

2016.08.29



看護実践を変える教育改革


バーンスタイナー氏
 日本私立看護系大学協会40周年記念講演会「看護実践を変える教育改革」が7月16日,東京国際交流館プラザ平成(東京都江東区)にて開催された。本紙では,「看護師のための質と安全の教育(Quality and Safety Education for Nurses;QSEN)」を策定した専門家チームの一人であり, QSENを基にしたカリキュラムの導入に携わってきたジェーン・バーンスタイナー氏(米ペンシルバニア大)の講演の模様を報告する。

医療過誤を削減し,医療サービスの質を向上するために

 1999年に米国医学研究所(IOM)が『To Err is Human』を発表して以来,医療の質と安全性を高める必要性は長年指摘されてきた。2011年には医療系学生が患者安全教育を受ける必要性がWHOから全世界に向けて表明され,日本においてもカリキュラムの見直しが進んでいる。米国では2005年に,看護教育の有志グループが医療教育改革のためのプロジェクトを発足させ,改革を進めてきた。それがQSENである。

 QSENは,自分たちが働く医療システムの質と安全を継続的に改善していく上で必要な6つの能力を導き出し定義するとともに,その学習目標となる162項目の知識・技能・態度(Knowledge, Skill, Attitude;KSA)を明文化した。現行のカリキュラムと望ましいカリキュラムの間のギャップを明らかにし,必要な能力を身につけさせるための教授法,学習モジュールなどを発表。大学・大学院においてQSENに基づいた看護教育カリキュラムを普及させてきた。QSENが定義する6つの能力とは,「人と家族中心のケア」を中心とした「チームワークと協働」「エビデンスに基づく実践」「安全」「質の改善」「情報科学」を指す。日本でもこうした能力の必要性は指摘されているが,実際に身につけるためには,各能力が現行のカリキュラムのどこでどのように教えられるのかを確認し,組み込まれていない場合にはどこにどのように組み込めるのかを検討していく必要がある。これらの能力を教え,実践するには,従来の教授方法や実践方法の改革が求められるのだと言う。さらに氏は,プログラムでなく「文化」の創造が必要だと指摘する。全ての看護師が最新のエビデンスを学び,活用するように支援することや,教育および実務能力開発のための活動に参加する時間を割けるように適切な要員配置とスケジューリングを保証するなど,看護師を支援する環境を生み出すことなどもそれに含まれる。

 2014年からは臨床においてもQSENの導入が推進され,すでに導入した米国の病院では患者・医療従事者の満足度向上をはじめとした良いアウトカムが得られている。氏は,「大切なことは全ての患者に対して質が高く安全なケアを常に提供できる環境を生み出すこと」と呼び掛け,講演を締めくくった。

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