医学界新聞

2016.08.08



Medical Library 書評・新刊案内


H. pylori除菌後発見胃癌の内視鏡診断

八木 一芳,味岡 洋一 著

《評 者》二村 聡(福岡大講師・病理学)

早期胃癌診療に従事している全ての方に

 このたび,医学書院から『H. pylori除菌後発見胃癌の内視鏡診断』が上梓されました。評者は内視鏡医ではありませんが,書評を強く依頼されました。数回ほど読み返しましたので,読後の感想を正直に述べたいと思います。

 まず,90ページほどの,やや薄手のテキストゆえ,一気に読み終えることができました。病理医の評者にも記述内容を理解することができました。大変平易な言葉遣いで著述されています。掲載症例は全て八木一芳先生の自験例のため,文章にも説得力があります。そして,病理組織像は味岡洋一先生が的確に,かつ美しく撮影されており,術語も吟味して用いているので臨床家にも理解しやすくなっています。出身校も学年も同じというお二方のコラボレーションの賜物だと感じました。掲載写真はいずれも美しく,目にも優しいレイアウトに仕上がっています。評者の個人的感想はこれくらいにして,本書の内容について少し言及してみましょう。

 第1章では,H. pylori未感染正常胃,慢性活動性胃炎,慢性非活動性胃炎といった,胃炎の京都分類に準じて術語を用いています。これに,びまん性発赤,汚い白い粘液,そして,中間帯,色調逆転現象とさまざまな術語がめじろ押しです。その術語の意味は何だろう? と思いながら読み進めると,いつの間にか次章に突入します。

 第2章では除菌後発見胃癌の概念を丁寧に述べた上で,その内視鏡画像の特徴をわかりやすく記述しています。適宜,病理組織写真を提示しながら,内視鏡画像との対比を試みています。そして,ちょうど良いタイミングで,おそらく著者らが最も伝えたいと推測される,「除菌後発見胃癌のハイリスク内視鏡所見」について端的に述べています。そのキーワードは,色調逆転現象です。

 最後の第3章は,これまでの内容を補完するために15例の自験例を十分な紙幅を用いて,丁寧に解説しています。病巣部の組織標本の弱拡大写真も大変見やすく,内視鏡画像所見を見事に補完しています。

 読み返すたびに,著述内容の理解が深まりました。簡潔,しかし丁寧に記述されており,テンポ良く読み進めることができます。早期胃癌診療に従事している,全ての方に味読,精読していただきたいと素直に思いました。また,八木先生のライフワークでもある,非活動性の慢性胃炎の内視鏡診断学に対する強い探究心を垣間見たと同時に,一億総除菌時代における胃癌診療の今後を見据えた内容に仕上がっていることを実感しました。

 近い将来,除菌後発見胃腺腫の特徴も追記した補訂版が刊行されることをひそかに願っています。

B5・頁100 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02481-5


ジェネラリストのための
これだけは押さえておきたい皮膚疾患

安部 正敏 著

《評 者》切手 俊弘(彦根市立病院診療局主任部長兼外科部長)

こんな書籍が欲しかった!豊富な情報・写真満載の一冊

 「皮膚科はいろいろな皮疹をたくさん経験することが大切です」。私が学生のときに,ある皮膚科の先生に言われた言葉です。当時,皮膚科のカラーアトラスを読んで皮疹の特徴を覚えたのですが,カラーアトラスには詳細な記載がないので,また別の教科書で,その疾患の診断や治療法を勉強したものでした。皮疹の種類があまりにも多すぎて,臨床を知らない私にとっては,その疾患の頻度などもわからず,必死に覚えただけで,結局忘れてしまうことがほとんどだったと記憶しています。

 ジェネラリスト,つまり皮膚科の“非専門医”にとっての「これだけ知っておけばよい」99疾患がセレクトされていることが,本書のお薦めポイントの一つです。99疾患あれば,ジェネラリストが遭遇する日常の皮膚疾患は十分網羅されていると思います。逆に本書に掲載がなければ,専門医へコンサルトしてよいでしょう。

 本書は,皮疹の写真やその特徴,検査,鑑別診断,治療などが順番に掲載され,この一冊で疾患を十分に理解できるようになっています。しかも「患者への説明」「専門医へのコンサルトのコツ」が記されているので,皮膚科を専門としない医師にとっては,いわゆる“お手本”のようなものです。

 各疾患の最後に掲載されている「スキルアップ」や「ちょっと脱線」というコラムも面白いです。筆者の安部正敏先生らしい考えや書き方が,興味をそそります。ここにちりばめられた皮膚科的な雑学などは,ジェネラリストにとっては別な疾患との鑑別などにも役立つかもしれません。本書のボリュームと判型も程よいです。空いた時間や移動の時間にカバンから取り出して,“斜め読み”で活用するにも適した一冊です。

 本書のタイトルには“ジェネラリストのための”とあえて追記されています。皮膚科を専門としない医師だけでなく,皮膚科学を勉強する医学生や,総合的な広い見地が必要な研修医にも最適な本です。

 そして専門医が活用しても十分に役立つテキストブックだと思います。非専門医には皮膚科疾患はこの一冊で十分です。私の本棚に並ぶ皮膚科の教科書は,今後この一冊だけになります。安心して日常の診療に活用できるとお薦めいたします。

A5・頁248 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02483-9


外来診療ドリル
診断&マネジメント力を鍛える200問

松村 真司,矢吹 拓 編

《評 者》北 和也(やわらぎクリニック副院長)

学び続けることサーファーのごとし!

 桜が咲き始めた春のころ,本書はついに僕の手元に届いた。手に取ると同時に目に飛び込んできた「目指せ!『外来偏差値』65!!」のキャッチコピーになぜだか少し胸が躍る。100症例200問か,ならば毎日3症例6問ずつ解いて1か月と少しで終わらせることができる。あの日,確かに僕はそう思ったんだ。

 鉛筆で解いて右上のチェックボックスに○×を付けて後で集計する。滑り出しはすこぶる好調で○が並んだ。「も,もしかして高偏差値をたたき出せるのでは!?」……傲慢な思いが脳裏をかすめる。しかし考えが甘かったことにすぐに気付く。片頭痛によるアロディニア,低髄液圧症候群の治療法,月経前症候群(PMS;premenstrual syndrome),PPI以外のmicroscopic colitis……どうやら知識の整理ができていないようだ。これまでにも見逃しがあったに違いない。生命には直結しないもののQOLを下げ続け得るような疾患については,ぜひともしっかり整理しておきたいのだ。だって,よくわからずにずっと対症療法し続けるなんてとても悲しい。今日ここでしっかり勉強して,明日はきっと見逃さない。そう僕は誓った。

 その一方で,問題を解いた前後に一過性全健忘,レム睡眠行動障害,安静で下肢痛が悪化する末梢動脈疾患(PAD;peripheral arterial disease)の患者さんにも出会う。「あなたの外来を訪れるかもしれない100症例」……帯の言葉になるほどとうなずく。これまでにも幾度となくこういったことはあった。日常的に学び準備していた者にのみほほ笑む診断の神はいるのだ。これは,静かにビッグウェーブを待ち続け,訪れたとともに華麗に波乗りしてみせるサーファーの感覚と近い。でも僕はサーフィンをしないのでその感覚はあまりよくわからないんだ。何にせよ,そう,僕らは一生勉強なんだ。

 所々の選択肢・解説には魂が込められている。「ここはぜひシェアしておきたい」という筆者の思いが伝わる。良性発作性頭位めまい症(BPPV;benign paroxysmal positional vertigo)は「典型的な症例のみをBPPVと診断する」が鉄則,のフレーズに胸が熱くなる(p.184)。診断だけでなくマネジメントについても,非常にcommonなものから比較的rareなものまで触れられている。Rareなものといっても確かに出合うし,commonなものについては曖昧になりがちな部分についても限られたページの中で見事に掘り下げられている。あまり話題にならないけれど実地臨床では常に遭遇する問題も扱っている。長らくの難聴の原因が耳垢塞栓だったという高齢者がたまにおられるが,耳垢除去後に聞こえが良くなり感謝されるのは,ちょっとしたことかもしれないがうれしいことである。

 毎日3症例6問ずつ解けば,1か月と少しで終わらせることができる。あの日,確かに僕はそう思ったんだ。でもちょっとくじけそうなときもあった。そんなときには良い方法がある。みんなで集まったときに1症例だけ一緒に解いてみるのだ。うちのクリニックだとナースと共に毎朝5分間勉強会をしている。このときにどさくさに紛れて1症例みんなで解いてみれば,一石二鳥なのである。

 最終的に200問中132問正解。結局,僕の外来偏差値はいくつなんだ,というのは少々気になるところではあるが,こんなに質の高いテキスト(和製MKSAPといっても過言ではない)を楽しみながら解いて外来診療スキルが上がるだなんて,こんな贅沢な話はない。そう,僕らは一生勉強なのだから。

B5・頁212 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02505-8


脳神経外科レジデントマニュアル

若林 俊彦 監修
夏目 敦至,泉 孝嗣 編

《評 者》齊藤 延人(東大教授・脳神経外科学)

日常診療のさまざまな場面を想定した実践的ポケットマニュアル

 このたび,『脳神経外科レジデントマニュアル』が,名大脳神経外科の若林俊彦教授の監修で上梓された。編集・執筆陣を見ると,名大脳神経外科教室の総力を挙げての力作であることがうかがえる。

 まず,この本は編集コンセプトが良い。常に持ち運んで使用することを想定し設計された実践的なマニュアルである。厚すぎず薄すぎず,程よいサイズのポケットマニュアルとなっている。

 序文の中で若林教授は,①臨床現場の脳神経外科領域全般を網羅し,②最新の医療情報を,③簡潔な記載で迅速に参照でき,④繰り返しの改訂にも耐えられる知力と組織力が要求されることを,このマニュアルのコンセプトとして挙げている。脳神経外科診療に関する情報量はますます増え,教科書は何倍もの厚さに膨れ上がっている。外国版の著名なレジデントマニュアルもあるが,内容は充実しているものの,もはや常時持ち運ぶサイズではない。本書はポケットサイズの中に何を詰め込むか,レジデントが現場で遭遇するさまざまな事態を想定して必要かつ十分な知識と情報を収載する,そのことにこだわり抜いて内容を取捨選択し,まとめ上げることに成功している。当然,内容の充実度も比類がない。単なる備忘録でもなく,概念や論理を学ぶための教科書とも違った,ポケットマニュアルのジャンルの中に,新たな存在感を示している。

 さて,実践の経験が乏しいレジデントは,病気の知識は学んでいるが,実践用の知識は足らず,これを新たに修得する必要がある。また,教科書などに溢れる情報の中から迷子にならず,当面必要なものを取捨選択し実践に備える必要がある。このマニュアルはそのための最適な道標を提供してくれる。

 この本の章立てを見ると,日常診療のさまざまな場面を想定して,まとめられている。すなわち,「第1章 基本的診察の手順」「第2章 画像診断の手順」「第3章 日常よく遭遇する脳神経外科疾患」「第4章 基本的術前術後の管理」「第5章 各種疾患を有する患者の管理」「第6章 脳神経外科疾患の救急対応」「第7章 薬剤の管理」「第8章 代表的手術アプローチ」「第9章 緩和医療」「付録 データファイル」の10項目である。中でもレジデントにとってありがたいのは,第4章の術前術後管理における薬の処方例だろう。また,第9章の緩和医療の項は他書では見られない特色である。患者さんの意識レベルの低下を伴う脳神経外科の緩和医療は,教科書にもあまり書かれていない分野だが,レジデントにとっては現場で遭遇する重要な分野なのである。その他にも,図やさまざまなグレーディングスケール,必要事項が満載されている。

 このマニュアルは,どこに何が書いてあるかざっと目を通しておいて,後はポケットに入れておいて必要なときにすぐに読む,そんな使用方法が推奨される。内容の濃さからは,レジデントばかりでなく指導医クラスにも役立つであろう。繰り返しの改訂が想定されての一冊である。内容が良い分,責任も大きい。今後の進化も含め,脳神経外科レジデントの定番となることを確信している。

B6変型・頁384 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02533-1


下肢運動器疾患の診かた・考えかた
関節機能解剖学的リハビリテーション・アプローチ

中図 健 編

《評 者》山本 伸一(山梨リハビリテーション病院リハビリテーション部副部長)

臨床で試してみたい手技が盛り込まれた実践書

 一般社団法人療創会通所介護なかずリハビリテーションセンターの代表理事であり,関節機能障害研究会の代表世話役である作業療法士・中図健先生から一本の電話をいただいた。直接お話しするのは初めてであったが,書評の執筆をお願いしたいとの旨であった。先生のお人柄がうかがえる非常に謙虚なお申し出で,二つ返事で了承した。書籍は,『下肢運動器疾患の診かた・考えかた――関節機能解剖学的リハビリテーション・アプローチ』。評者自身も作業療法士であるが,上肢・手のみのアプローチではやはりままならない。そう思っていたからこそ,作業療法士の編集による「下肢機能」についての本に興味が湧いた。

 まず目に付いたのは,「大切なのは,患者さんと向き合う心。必要なのは,『機能解剖学』と『生理学』ベースの治療技術」という帯の文言。その通りである。久しぶりにワクワクした。一体,中身はどうなのだろうと。

 目次の大項目は,「第I章 腰椎」「第II章 股関節」「第III章 膝関節」「第IV章 足関節」と分類されている。それぞれの章の構成は共通して,「A.基本構造」「B.おさえておくべき疾患」「C.臨床症状の診かた・考えかた」「D.治療方法とそのポイント」「E.ケーススタディ」となっており,基本から応用の臨床までを網羅している。それぞれの関節構造や神経のメカニズム,バイオメカニクスなどがわかりやすく解説されている。「おさえておくべき疾患」は,腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,胸腰椎圧迫骨折,大腿骨頚部骨折,変形性股関節症,変形性膝関節症,半月板損傷,さらには足部の疾患に至るまで多数挙げられており,その特性・特徴がよくとらえられていて理解しやすい。さらにありがたいのは,「臨床症状の診かた・考えかた」そして「治療方法とそのポイント」である。具体的な関節可動域訓練から日常生活指導,浮腫の解釈からリンパ還流の促進,筋攣縮・癒着・短縮組織への対処方法など,ふんだんに写真を多用し説明がなされている。臨床で試してみたい実技ばかりである。「ケーススタディ」では,例えば,III章の「骨化性筋炎を起こした大腿骨骨幹部骨折後の症例」(p.166)のように合併症の問題が生じた場合のいわゆる「現場で起きていること」に対して,Thinking Point(臨床推論)が展開されており,リハビリテーションをより具体的に進めるにあたり留意すべき事項がわかりやすく説明されている。

 「序」において,中図先生は「(略)セラピストは,それぞれの現場において,治療結果を出すことが求められています。セラピスト一人一人が自分は何ができるのか? ということを念頭に置いて治療に臨まなければ,われわれに未来は無いと断言できます」と述べている。―――私たちだからわかること。私たちだからできること。共に未来を創りましょう。

B5・頁248 定価:本体4,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02419-8

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook