医学界新聞

2016.07.11



Medical Library 書評・新刊案内


薬剤師レジデントの鉄則

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評 者》狭間 研至(ファルメディコ株式会社代表取締役社長/嘉健会思温病院院長)

服薬患者の「謎解き」に役立つ「鉄則」集

 その昔。評者が高校生のころ使っていた数学の参考書に,『寺田の鉄則』(旺文社)というシリーズがあった。受験業界ではつとに有名なのが『チャート式』シリーズ(数研出版)であるが,その冒頭には,「チャートは海図であり,勉学という荒波を乗り越えていくためにいつも心に留めておく考え方や見方を持っておけ」ということが記されていた。一方,『鉄則』は,「数学の問題を解くときに困ったら頼るべき基本的な,そしてキモになる考え方や法則を持つべきであり,それを頭の中に叩き込んで適切な時期に適用することで,難しい問題も自ずと解法が見えてくる」というふうに記されていた。

 多少あまのじゃくの傾向がある評者は,皆が使う『チャート式』ではなくこの『鉄則』シリーズを愛用していた。『鉄則』の「困った時によりどころにすべき視点を手に入れる」というスタンスは,その後の受験勉強のみならず,医師になり,また病院や薬局の経営に携わるようになった現在に至るまで,さまざまな場面で役立ってきた。

 薬学教育が6年制に移行して10年。薬剤師の業務は本格的に変わろうとしている。処方箋を正しく鑑査し,必要な疑義があれば照会・解消し,正確・迅速に薬剤を調製した後,わかりやすく効果的な服薬指導とともに患者に渡し,一連の行為をProblem Oriented Systemに則ってSOAP形式で記載する……。しかし,機械化とICT(Information and Communication Technology)化が急速に進んできた現状で,薬剤師はこのような仕事に専念しているだけでは,自らの専門性を十二分に発揮できないことが明らかになってきたのである。薬剤師の専門性は「薬が体に入るまで」から「薬が体に入った後」へとシフトしつつある。薬剤師は,薬剤が体に入った後の状態を医師の問診や他の医療職種からの情報収集に加えて,五感を交えて観察する。さらに必要に応じてバイタルサインも活用した上で,前回自身が調剤した薬剤の作用が十分に発揮され,予期される副作用の有無について確認することが重要になっているのである。

 「薬は飲んだ後が勝負」であり,薬剤師が自ら調剤を担当した患者の経過を確認し,関与する中で生じた「謎を解く」ことが薬剤師の専門性を磨くことになる。その「謎解き」はなかなか一筋縄ではいかないし,それを実践的に指導・教育するような現場がないのも,わが国の薬学界の現状である。

 本書は,全国でも早い時期に「薬剤師レジデント制度」を導入し,薬剤師の次の在り方を構想・実践してきた神戸市立医療センター中央市民病院の橋田亨先生を中心に,患者の「謎解き」のための『鉄則』を系統的にまとめたものである。医師として読むと,その半分も理解できないと思えるような専門性の高い鉄則がきら星のごとく並んでいる。医療現場で患者の「謎解き」に困ったら頼るべき基本的な,そしてキモになる考え方や法則はきっとあなたの薬剤師人生を変えるはずである。いわば,『橋田・西岡の鉄則』を手に取っていただき,その効果を実感していただきたい。

B5・頁292 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02410-5


ジェネラリストのための
眼科診療ハンドブック

石岡 みさき 著

《評 者》國松 淳和(国立国際医療研究センター病院総合診療科)

「易しい眼科の本」ではなく「優しい眼科医の本」

 本書を一読して,一貫してまったくブレていないと思った点があって,それは「著者の目線が一定」であるという点だった。著者自身が序文で,「専門外である疾患の相談をするのは,大学時代の同級生が一番よいと感じませんか?」と投げ掛けてもいるように,評者が本書から「一定した目線」を感じたのは,読んでいて常に非眼科医の先生と患者さんのことを意識した記述である印象を強く受けたからだ。どこを読んでも,である。

 評者は500床以上の総合病院の総合診療科に所属する医師である。その意味で,本書のタイトルにもある「ジェネラリスト」なのかもしれないが一般に総合内科医・総合診療医というのは,自分のことを「ジェネラリスト」と呼ぶのをはばかる。勘違いを生まないように言っておくと,読者対象は要するに「非眼科医」ということでよいと思う。「ジェネラリスト」である必要はないと感じた。

 構成は,緊急度別,状況別,トピックス別などに分かれていて非常に実践的。薄い本であるのに幅広い。また実にプラクティカルであり臨床的である。例えば,点眼の仕方など,今さら教わることのない事項まで丁寧に記載されている(第12章)し,緑内障についての問いに答えた章(第13章)では,「処方しようとした内服薬が『緑内障禁忌』となっていますが,緑内障治療中の患者には使えないのでしょうか?」(p.124)というQuestionに対して気持ちのよい“快”答がなされていて,今まで何となくわかっていたようなことを明快に記載していただきとてもすっとした。

 他に,個人的に確認できて有用だったことを項目だけ挙げれば,電気性眼炎,抗がん剤の副作用,ミオキミアあたり。特に抗がん剤は,古典的な抗がん剤のみならず,昨今汎用されるようになった分子標的薬に関連することにも記載があり,ミニマムのみを記載する実践本とも一線を画し,評者のような総合病院に勤務する医師にも通ずる網羅性を感じた。

 読了後思ったのは,大学時代に習うべき眼科臨床を全て記述した本なのでは,ということ。評者はこの本を今後も繰り返し読み返すと思った。

 一見悪く言うようだが,眼科医は非眼科医に冷たいことがある。「飛蚊症ごときで……症状もないのに目が真っ赤になったくらいで……(以下省略)」。おそらく本音は「眼科医じゃない医師に言ってもどうせわかってくれない」「とにかく忙しい」といったあたりではと推察するが,本書の筆致はとにかく優しい。最初に触れた,著者が想定したという「眼科医ではない同級生への目線で」というのは確かに本当であると思った。また患者さんへの説明の仕方についても随所に細かく書かれており,患者さんに優しい臨床家としての著者の姿を勝手に想像した。

 本書は,「易しい眼科の本」ではなく「優しい眼科医の本」である。

A5・頁198 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02418-1


ジェネラリストのための
外来初療・処置ガイド

田島 知郎 編
千野 修,田島 厳吾 編集協力

《評 者》小西 敏郎(東京医療保健大教授・医療栄養学)

どんな患者が来ても迅速で適切な初療が行えるようになる一冊

 評者自身のことで恐縮であるが,つい最近バングラデシュの首都ダッカ滞在中に,ホテルの階段で足を踏み外し転落した。最上段から10段も落下し,激しく右肩を床にぶつけ,肩関節が脱臼となった。元外科医とはいえ,古希を迎えての単身旅行,言葉が不自由な外国,しかも開発途上国であり,夜8時のことである。この話を聞いた友人全員が,さぞや治療に難渋したことであったろう,と大いに同情してくれた。

 だが実際は,駆け付けたホテル従業員がすぐに,私を招いた現地の外科医にスマホで連絡してくれた。彼は,直ちにホテル近くの緊急病院の整形外科医に連絡を取ってから,車で駆け付けて,そのクリニックに私を運んでくれた。整形外科医は苦痛で顔をゆがめる私に英語で問診しながら,視診・触診しただけで即座に診断し,単純X線,CT/MRIや血液検査をすることなく,無麻酔で整復してくれた。転落してからわずか30分で脱臼は整復され,激痛はたちまち軽減した。

 これが日本であったらどうだったろう。夜間に迅速に対応する整形外科医が常駐している病院は東京都内でも非常に少ない。昼間でさえ即対応してくれる病院は決して多くないのでは,と思う。これは整形外科だけの問題ではない。似たようなことは,外科でも産婦人科でも,日本のいたるところで起きている。ご存じないと思うが,わが国に滞在出張するある米国の会社役員は「日本で病院を受診しないこと,救急車を呼ばないこと」「韓国に行くか,時間に余裕があれば米国に帰国すること」と指示されているとの噂もある。驚くべきことであるが,きっと痛い目に遭った経験があるからであろう。誠に残念なことである。

 わが国の初診外来では,広い範囲にわたる疾患を診療できる医者は極めて少ない。たとえ診断はできても即治療,とまではいかないことが多い。私自身も「アッペを診療できない胃癌の専門医」と友人から皮肉られてきた。

 このたび医学書院から,田島知郎先生(東海大名誉教授)の編集で『ジェネラリストのための外来初療・処置ガイド』が出版された。この本は“もうどんな患者が来ても困らない,日常外来から当直まで,臨床医が行うべき初期対応を一冊にまとめた”本である(表紙帯より)。カラーの写真やきれいなイラストがふんだんの本書を開いてみると,「初療時の心構えと届出義務」「救急医・総合医役も兼ねる外科の初療」「基礎疾患のある患者での初療時の留意点」(第1~3章)に始まり,皮膚・軟部組織領域,頭部・顔面,頸部・頸椎,肩・上肢・手指,胸部,腹部,鼠径部,肛門,泌尿器・産婦人科領域,下肢・足,さらに乳幼児・小児疾患と,全身全ての部位・領域にわたる多種の疾患が網羅されている。まず初診時に必要とされる疾患の基本概念が紹介され,さらに特徴的な症状と診断のポイントが簡潔にまとめられているので,慣れない疾患でもすぐに正しく診断できる。そして全ての疾患に,緊急で必要な処置がわかりやすく書かれているので,どんな患者にも迅速で適切な初療を行えることは間違いない。

 ちなみに「外傷性肩関節脱臼」について見ると,私がダッカで受けた挙上整復法が3コマの挿絵付きでわかりやすく紹介されている。また脱臼修復後のリハビリについても,“早期運動開始による反復性脱臼は若年者に多いが,40歳以上の場合は拘縮を避けるために早期の運動がよい”(p.131)と薦められているので,私は安心して早期のリハビリを開始することができた。

 本書を救急診療部門だけでなく,一般診療を行っているクリニックや病院外来などに備えておくことをお薦めする。またNP(nurse practitioner;診療看護師)を志す看護師の皆さんにとっても必読で,座右の書となるであろう。

B5・頁312 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02420-4

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