医学界新聞

2016.05.30



Medical Library 書評・新刊案内


今日から使う
看護現場の基本交渉術

北浦 暁子,渡辺 徹 著

《評 者》増野 園惠(兵庫県立大教授・看護管理学)

難しくとらえがちな交渉のハードルを下げてくれる一冊

誰しも一度は,「うまく交渉ができるようになりたい」と思ったことがあるのではないだろうか。「交渉は難しい」と苦手意識を持っている人も多い。一方で,交渉に対する誤解から「交渉なんてしたくない」と思っている人もいるかもしれない。本書は,仕事でも私生活でも,好むと好まざるとにかかわらず常につきまとう交渉に前向きに取り組むことができるようになる手引き書である。

 本書は,雑誌『看護管理』に連載された「実践交渉力講座 渡辺ゼミ基礎編」をまとめたものである。雑誌の連載では,交渉の達人である渡辺氏とガイド役の北浦氏が対話する形式で,交渉とはどういうことかや,実際の交渉の進め方が具体的な場面を例に解説されていた。看護現場で交渉に苦慮している人の多くがこの連載から交渉のためのヒントを得たのではないだろうか。

 このたびの書籍化では,連載のテイストは残しつつ,要点を整理する形で再構成され,三部構成となっている。第1部は交渉の基本的事項,第2部は交渉を成功させるための技術,第3部は交渉に役立つ3つの戦略が解説されている。「総合的な視点に立った使える交渉力を身につける」という連載で大切にしていた基本姿勢を受け継ぎ,第1・2部はLesson形式で書かれ,第3部では看護現場でよく遭遇する交渉場面を事例に3つの戦略の具体的活用法が解説されている。

 本書は,「交渉がうまくなりたい」と思っている人にも,「自分はそこそこうまく交渉できている」と思っている人にも,交渉力を高める新たな示唆を与えてくれる本である。交渉とは,「複数の当事者が共同して行う,問題解決に向けた合意を形成するコミュニケーションプロセス」(p.5)であると書かれている。一方的に相手に解決策を求めることや,一方的に自分の言い分を相手に主張すること,あるいは意見を出し合うだけの単なる意見交換は交渉ではないと,何が交渉であるかを明確にしている。取り組むべきターゲットを絞り込むことで混沌とした現場の問題解決のプロセスをすっきりさせてくれる。

 とかく難しく考えてしまう交渉術であるが,とにかく本書は読みやすく,わかりやすい。著者らは「料理のレシピ本のような本」をめざしたようである。レシピとなる交渉の「理屈」「ワザ」「コツ」を,具体例を挟みながら解説している。日頃,私たちが交渉に臨む際に困難に感じていることや悩んでいることが投げ掛けられ,困難や悩みの裏にあるものが理論などを用いて解説される。そして,交渉プロセスで使えるコツやワザが紹介されている。

 本書を読みながら,これまで自分が行ってきた交渉場面を振り返ってみると,ハッとさせられる。しかし,そこで自分のこれまでの交渉のまずさに落ち込むわけではない。次の交渉場面では「こうしよう」と,本書に記されている「理屈」「ワザ」「コツ」を使って具体的なアプローチを計画している自分に気付く。まさしく,今日から使え,交渉力が身につく本である。

A5・頁128 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02205-7


《がん看護実践ガイド》
女性性を支えるがん看護

一般社団法人 日本がん看護学会 監修
鈴木 久美 編

《評 者》佐藤 禮子(関西国際大教授・がん看護学)

がんと女性「性」に着目した画期的実践書

 女性性とは何か? 精子と卵子が結び付き胎児となって母体で育まれ,オギャーと泣いて人間としての歩みを始める。このときから,女の子と認知され,女の子として養育される。

 本書は,「女性の『性』という言葉は,セックス(sex),ジェンダー(gender),セクシュアリティ(sexuality)と表現され,セックスは生物学的な性,ジェンダーは社会的文化的な性,セクシュアリティは人間学的な性とされている。ここでは,ライフサイクルおよび多面的側面,性という観点を含めて女性性について解説する」とした序章「女性性を支える」から始まる(p.2)。人間としてこの世に誕生したときから,男性は男の道を,女性は女の道を歩み始める。男性には男としての「性」があり,女性には女としての「性」がある。当たり前の事実ではあるが,この女性「性」に着目した本書は,画期的と言っても過言ではない。さらに特筆すべきは,国民病である“がん”に焦点を当てた看護学の専門書であること。

 1981年以来,わが国の死因第一位である悪性新生物,いわゆる“がん”は,上昇の一途をたどり,今や総死亡の約3割を占める。女性のがん罹患数が多い部位は,第1位から乳房,大腸,胃,肺,子宮(2011年)であり,年齢階級別がん5年有病者数推計(15歳以上,2015~19年推計)は,女性の15~44歳:13%,45~54歳:17%,55~64歳:28%,65~74歳:34%,とある(がんの統計’14.がん研究振興財団;2014年)。いずれのデータも人生を生き抜く女性の生涯と大きくかかわる事実が示される。2007年からがん対策基本法が施行,国策としてがん対策推進基本計画が全国展開された。2012年に見直しされて新たな課題として,「(4)働く世代や小児へのがん対策の充実」が加わり,全体目標(2007年度からの10年目標)には「(3)がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が加わった。真にがん看護が果たすべき役割は大きい。

 本書の構成は,第1章「がん遺伝子を受け継いだ女性を支える」,第2章「がんによって生殖機能障害を受けた女性を支える」,第3章「ボディイメージ変容を体験している女性を支える」,第4章「がん患者の役割の遂行を支える」,第5章「がん患者の性を支える」であり,章ごとに緻密に的確に考索された項目立てとなっており,実に実践的内容である。

 “がん”の診断とともに始まるサバイバーとしての人生を自分らしく生き抜く人生に希望と充実をもたらす本書を,あらゆる現場で活躍する看護専門職の方々に,また患者や家族と呼ばれる方々に,そして看護学を学ぶ学生諸子に,一読していただきたい。理論と根拠に基づく看護実践の活用書として推奨する。

B5・頁220 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02140-1


看護のための教育学

中井 俊樹,小林 忠資 編著

《評 者》内藤 知佐子(京大病院総合臨床教育・研修センター)

生涯手元に置きたい,教育学の虎の巻

 「看護師を目指しているのになぜ教育学を学ぶ必要があるのでしょうか。このような疑問をもつ人もいるでしょう。そのような人に対しては,看護師を目指しているからこそ教育学が必要であると強く主張したいと考えています」。これは,「はじめに」の中で中井俊樹先生が書かれている最初の一節です。若い頃のおろそかだった自分の考えをズバリ指摘され一喝された,そんなインパクトを受ける印象的な一節でした。確かに,看護師をめざすのになぜ教育学? と思う方もいるでしょう。しかし,看護師だからこそ教育学が必要であることを,人生の経過とともに強く実感している人も多いのではないでしょうか。

 以前,中井先生との対談(『週刊医学界新聞』第3151号 2015年11月23日付)の中で,看護師が教育学を学ぶ必要性を三つ教えていただきました。一つ目は教える場面の多い看護業務を効果的に展開するため,二つ目に患者理解など学習者である対象への理解を深めるため,そして三つ目に自分自身の生涯学習のためです。

 看護業務では,患者・家族指導のみならず学生指導や新人看護師指導など,多様な教える場が存在します。しかし,それらの指導法については,先輩らのやり方をまねながら,あるいは試行錯誤しながら,その多くは個々の努力によって習得しているのが現状ではないでしょうか。

 本書は看護学生を対象に,看護師に必要とされる教育学のエッセンスを四つのパートに分け,平易な言葉でわかりやすく紹介しています。第1部「人の発達と学習」では,発達段階のみならず学習を通して獲得できる三つの能力,知識・技術・態度を習得していくそのプロセスが解説されており,アプローチの方法をロジカルに考えることを助けます。続く第2部「指導の基本」,第3部「さまざまな指導の工夫」では,学習目標の立て方など指導の設計方法やコミュニケーション技法について書かれているため,実習中における患者指導の場面を多角的にとらえ考えられる材料になると感じました。なお,欲を言えば,コミュニケーション技法に関しては,学生が時に難渋する実習先のスタッフとのコミュニケーション技法についても書かれていると,学生と指導者および教員の三者を助けたかもしれません。

 最終の第4部「学習とキャリア開発」では,学生の目線をスッと未来へと向け,卒業後の自分をイメージさせる章立てとなっています。また,看護師が直面する壁として,リアリティ・ショックやバーンアウト,ライフイベントについても記載されているため,予備知識として学習者の将来を助ける内容になっていると感じました。

 学生時代に,このようなすてきな書籍に出合える現代の若者をうらやましく思います。が,安心してください。皆さんも,遅くはありませんよ。教育に興味を持った人が,まずは手にしたい一冊です。教育学のエッセンスが凝縮された本書を,ぜひ手に取ってみてください!

B5・頁144 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02438-9


研究指導方法論
看護基礎・卒後・継続教育への適用

舟島 なをみ 著

《評 者》古在 豊樹(NPO法人植物工場研究会理事長/千葉大名誉教授)

研究指導方法論の書として広く通用する,手元に置いておきたい一冊

 看護系大学院生・看護職者に適切な研究指導を行うには,教員の研究指導能力の継続的向上が欠かせないが,研究指導方法論に関する専門書は極めて少ない。他方,学術誌への掲載時に要求される研究論文の質の高さや複雑さの水準は年々高くなり,一昔前の研究指導方法論では通用しない。

 舟島なをみ著『研究指導方法論――看護基礎・卒後・継続教育への適用』は上述の状況に対応した,実践的かつ体系的な研究指導方法論の書である。著者が集積した経験知から見いだした研究指導に関する法則性が具体例とともに述べられている。本書の内容は,看護学研究にかかわる,歴史と意義,研究計画立案,データ収集・分析,研究論文執筆,研究助成獲得,研究費の適正使用,研究者倫理の指導方法論と支援法など多岐にわたる。その中で,他に類を見ない特色は第VI章の「研究進行過程における研究者と指導者の相互行為」である。修士・博士論文の作成過程における大学院生と教員の相互行為に関する基準および生じやすい問題とそれへの対応法の具体例が経験知から得られた法則に基づいて述べられ,研究指導に悩んだときに役立つ示唆が得られる。

 上述の法則性にのっとり研究指導された学生の多くは,その過程で,卒後のライフワークに結び付く研究課題に出合い,研究論文を完成させる遂行能力を身につけ,並行して将来の研究指導者としての能力も高めることができる。研究指導に課題を抱えている教員が研究指導の法則性を学び,それを自身でさらに発展させる能力が得られることの意義は大きい。なお,本書の目次(章節)構成,文章中の語句,語順の論理展開が見事であり,本書の文章そのものが論文執筆のお手本になる。

 本書の著者は,研究論文に加えて,数多くの単著,共著,編著,監修書を著してきた。研究教育者としてのこれらの実績が本書の源泉となっている。その意味で,本書は,著者のライフワークの集大成の書と言える。本書の「序」で,「筆者が生きた証として(本書を)残したい」(p.III)と述べているのは本心であろう。

 本書の著者紹介欄に述べられている経歴から本書の別の特徴がうかがわれる。看護師として10年以上の病院勤務の後,文学部を卒業し,看護系大学院修士課程を修了し,その後に看護系教員となっている。他方,千葉大大学院看護学研究科教授との兼担で,2006年からは同大の普遍教育センター副センター長とセンター長を各4年間,計8年間にわたり担当している。

 大学入学後の普遍教育(一般には教養教育と呼ばれる)の改革と刷新に8年間にわたり尽力し,全国の関係者が注目し,多くの他大学へ普及する実績をあげた経験は,本書執筆の視座を高め,本書の研究指導方法論の骨格の一部を構成している。看護学分野だけでなく,他の教育研究分野の研究指導方法論の書としても本書が通用する部分が多いこともうなずける。看護や教育研究の実践で培われた,命に寄り添う目線が本書の基底を成しながらも,著者の哲学的素養が本書の学術的価値を高めている。手元に置いておきたい一冊である。

B5・頁320 定価:本体3,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02203-3


《がん看護実践ガイド》
患者の感情表出を促す
NURSEを用いたコミュニケーションスキル

一般社団法人 日本がん看護学会 監修
国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院看護部 編

《評 者》田村 恵子(京大大学院教授・緩和ケア・老年看護学)

「意図的に聴く」ことのスキルアップにつながる一冊

 筆者が「NURSE」というコミュニケーションスキルの存在について知ったのは,2013~15年度に取り組まれてきた日本看護協会の「がん医療に携わる看護研修事業」の会議の席上であった。本書の執筆者の一人である市川智里さんより,国立がん研究センター東病院看護部では,悪い知らせを伝えられた後の患者とのコミュニケーションに対する困難感を解決するために,看護師のコミュニケーションスキルトレーニング(CST)として感情探索技法NURSEを取り入れて研修していることをお聞きした。

 医師向けに開催されてきたこれまでのCST研修とはかなり異なった内容であるばかりでなく,このスキルを修得すると「意図的に聴く」ことができるようになるという言葉が心に残った。ほどなく,NURSEはがん医療に携わる看護師研修で使用するテキストの「患者の意思決定支援」の項目で広く紹介されることになった。しかし,実際にNURSEについてロールプレイを含めた研修を行ってみると,先のテキストだけでは研修の実施が難しいことがわかり,NURSEに関する書籍の出版を待ち望んでいた。そして,ようやく《がん看護実践ガイド》シリーズの一冊として本書が出版されたのである。

自身のコミュニケーションスキルを客観的に見つめ直す
 イントロダクションでは「NURSEとはどのようなコミュニケーションスキルか」が解説されている。ここを読むと全体像がかなり明確になるので,まずはイントロダクションを読むことをお勧めする。全体像を頭に入れた上で,第1章から順に読み進めていくと,なぜがん看護でコミュニケーションが重要とされるのか,コミュニケーションはスキルとして習得できるのか,などの疑問が徐々に解決されていくだろう。もちろん,読者のコミュニケーションやNURSEに関する知識と理解の程度に応じて,第3章「感情表出を促進させるコミュニケーションスキル:NURSE」からスタートしても良いだろう。さらに,ともかくNURSEを用いた研修を早急に企画したい/しなければならない場合には,積極的にお勧めはしないが,付章「NURSEを用いたコミュニケーションスキル研修を行うために」から読んでみて,その後,必要な章へと進んでいくことも可能であろう。

 筆者自身は,NURSEについて知識を深めることを通して,自身のコミュニケーションスキルについて客観的に見つめ直すことができている。例えば,患者が既に知っていることを明らかにするために「Ask-Tell-Ask」や「Tell me more」を適宜織り交ぜながら会話を進めていることや,患者の感情や考えを受け止めたり,時には確認したりする目的で使用していることなどがわかった。今後,これらを意識化することで,「意図的に聴く」ということをさらにスキルアップできるようになると感じている。

 このように読者の必要に応じて読み方の工夫ができるのも,本書の優れた特徴である。本書を通して,がん患者とのコミュニケーションの苦手意識を克服して,質の高いがん看護の実践をめざしましょう。

B5・頁152 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02427-3

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