医学界新聞

2016.04.11



Medical Library 書評・新刊案内


理学療法 臨床実習サポートブック
レポート作成に役立つ素材データ付

岡田 慎一郎,上村 忠正,永井 絢也,長谷川 真人,村上 京子,守澤 幸晃 著

《評 者》藤井 顕(藤リハビリテーション学院副学院長)

実習に不安な学生や悩む指導者には,必見の一冊

 私はこの本を,理学療法士を養成する学校の立場で読んだ。

 理学療法士養成課程では,総単位の2割前後を臨床実習が占めている。学生は実習地において3-4週間の短期実習,8-10週間の長期実習に臨み,評価または治療を中心にさまざまな形で臨床実習を展開する。

 本書は,理学療法士をめざす学生のガイドブックとして,臨床実習をフルにサポートする内容である。著者たちが臨床実習で苦労した自分たち自身の経験を踏まえて,「学生のときにこれが欲しかった」と思うあらゆる情報やアドバイスを網羅している。

 どのような内容なのか,いくつか例を挙げよう。

 実習には荷物として何をどれだけ準備し,持っていけばよいかということは学校でもオリエンテーションを行うが,この本ではそれがさらに学生目線で一段深く生活に根差してアドバイスされており,イラストも使ってあるので学生はリアルにイメージできるだろう。

 また,「実習指導者への電話のかけ方フローチャート」や「お礼状の書き方」もサンプル付きで紹介されている。学校のカリキュラムではこうしたことの指導まではとても手が回らない状況があるので,社会的対応に不慣れな学生には一つのサンプルとして示す価値があるだろう。

 「デイリーノート」「デイリーアクションシート」「症例レポート」の実例が掲載されているが,この本には要所要所に,その作成者ならではの“生のコメント”が挟み込まれている。それにより学生は,実習指導者からどのような指導があったのか,またどのように考えて切り抜けたのか,という裏話を知ることができる。こういったエピソードは学生が実際に難局を切り抜けようという場面で助けになるだろう。

 また,レポート作成に便利な動作図・反射検査図のデータがWebからダウンロードできる付録が付いている点も注目される。この付録を使いこなすことができれば省力化と時間の節約になるのではないかと思う。これは本書の冒頭で著者が書くように,実習というのは書き物ばかりに集中するのではなく,患者さんと向き合い,リハビリを考察しつつ,実際に動く体験をするためのもの,という考えに基づく付録だと理解する。

 最終章では,先輩から後輩へのアドバイスとして,コミュニケーションのコツ・お悩みQ&A,また就職先として,理学療法士の資格を取った後,病院・その他多方面で活躍する著者らの活動の場が紹介されている。

 この本を最後まで読み終えて,私が感じたのは“学生が納得できる実習を経験できるように”との著者らの切なる願いだった。マンガも使ってあるのでこの本は一見すると軽い本に思えるかもしれないが,読み進めてみれば,学生を相当実際的に助けるであろう内容の濃い一冊だとわかる。理学療法士の本は高額なものが多い中,抑えた値段設定も学生にはうれしいはずだ。

B5・頁224 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02413-6


小児緩和ケアガイド

大阪府立母子保健総合医療センターQOLサポートチーム 編

《評 者》細谷 亮太(聖路加国際病院特別顧問・小児科)

病気の子どもたちに「痛くなく苦しくない日常」を贈るための実践的ガイド

 緩和ケアは小児がん治療と深くかかわっています。小児がんの治療のきっかけを見いだしたのは,ボストン小児病院のFarber教授でした。成人のがんのほとんどが上皮性の悪性腫瘍(癌腫)であり,早期に診断して外科処置をすれば古くから治し得たのに対し,小児にみられる悪性腫瘍は間質性の悪性腫瘍(肉腫)であり,多くの場合,診断時,既に体内のあちこちに微小転移が存在してしまっていて,局所的な治療は治癒をもたらすことができませんでした。そのような中,全身的化学療法の導入で新しい時代の扉を開けたのがFarberだったのです。それでも,1947年から始められた彼らの試みが結実し,治癒が実現されるまでに30年近い月日を要しました。その途上で,Farberはトータルケアの概念を創り上げていきました。がん,そして治療に伴う痛みや苦しみなどの身体的な苦痛だけではなく,精神・心理的な苦痛,経済的な問題や家庭内の問題のような社会的な苦痛についても,医療チームが初めから一丸となってその子をケアすることの重要性を説いたのです。そして結果としての治癒の時代が来たのです。

 トータルケアの中で,苦痛を緩和する領域が「緩和ケア」として発達しました。しかし,あくまで「緩和ケア」はトータルケアの概念の中で必須なものであることを忘れてはならないのです。

 小児がんのトータルケアのうち,ハードの部分は化学療法,免疫療法,放射線療法,外科的療法であり,ソフトの部分が「緩和ケア」ということになります。小児がんの子どもだけでなく,広く病気の子どもたちに心身ともに痛くなく苦しくない安楽な日常をプレゼントすることは,小児医療のソフト面での重要な目的と言えます。本書はその実現のための有用なガイドです。編集は大阪府立母子保健総合医療センターのQOLサポートチーム,執筆は,医師(血液・腫瘍科,こころの診療科),看護師,薬剤師,臨床心理士,医療ソーシャルワーカー,ホスピタル・プレイ士の皆さんです。特にチームの中堅・若手が書いているだけに非常に実践的であるのがうれしいところです。

 冒頭にピンク色のページがあり,そこに2行,「子どもの苦痛は最小限に笑顔を最大限に」と書いてあります。泣かされる一言です。

 この言葉に触れ,今から30年あまり前,私が同じ医学書院からLynn S. Baker著“You and Leukemia”の訳書『君と白血病』1)を出版したときのことを思い出しました。扉のページには「この1日を貴重な1日に」とありました。時代の流れを実感します。

 訳者の私は当時34歳。医学書院の編集者も同年代で,2人とも孤軍奮闘感のある刊行でした。当時は,家族や患児本人に病気のことを詳しく伝えることは,自分たち(医療者)の首を絞めることになるという考えが医学界の大勢を占めていました。さまざまな逆風にもかかわらず,私も編集者もよく生き残ってこられたなぁという感慨を持ちながら,本書を詳しく読んでみました。

 第1章ではコミュニケーションを取り上げ,子どもとのコミュニケーション,治療が困難な状況などでのコミュニケーション,医療者のコミュニケーション・スキルと留意点が解説されています。そこでは,子どもの思いや理解力を尊重しながら接するのが基本だということが強調してあります。伝えるための準備,実行のタイミング,実際に気を付けねばならないポイントなどが解説されています。また再発時や治らないということが明らかになったときの話の仕方についても言及されています。相手のことを知り,自分のことを知り,開かれた質問をして共感的な応答をするのが極意ということがわかるようになっています。

 第2章は家族へのケア。その後第3章・第4章では,疼痛,疼痛以外の身体症状(嘔気・嘔吐,下痢,便秘,倦怠感・虚弱,食欲不振・体重減少,呼吸困難・息切れ,死前喘鳴・気管分泌物過多)の緩和について,原因,評価法,ケアの工夫,薬物療法を丁寧に述べています。

 第5章は精神症状(不安,せん妄,うつ症状など)の緩和,第6章では子どものこころのケア,第7章は在宅ケアについて。第8章では,医療者のメンタルヘルスにまで考えを進めています。

 これだけの情報が,多職種の執筆者によって一冊の本にまとめられたことに大きな意味があります。それも本文が140ページほどのコンパクトなガイドブックであることがとてもありがたい。

 私たち小児の臨床にかかわる者が,まず心しなければならないのは,子どもたち一人ひとりを一人の人間として大切にしなければならないことと,もう一つ,人間はそれぞれがそれぞれの特性を持っていてバラエティーに富んだ存在であるということです。

 このようなマインドを持った上で,このガイドブックを手にしたなら,最強のケアギバーが誕生するはずです。

参考文献
1)Baker LS. 細谷亮太(訳).君と白血病――この1日を貴重な1日に(新訂版).医学書院;1989.

B5・頁152 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02449-5


糖尿病の薬がわかる本

桝田 出 著

《評 者》藤沼 康樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター長)

糖尿病に取り組む多職種チームの知識ベースを提示する本

 内科系外来診療の場面において,糖尿病は最も頻度の高い慢性疾患の一つであり,治療によって予後を大幅に変えることが可能な疾患としても特別重要な位置にあると言える。家庭医療の世界では“糖尿病は慢性疾患ケア支援に関する全てがあり,慢性疾患を学ぶには糖尿病を学べ”と言われるほどである。そして,現代日本は超高齢社会となり,糖尿病に加えて多数の併存疾患を持つ高齢患者も多く,治療はより複雑になる傾向がある。したがって,糖尿病専門医だけで日本の糖尿病患者をカバーするのは不可能であり,慢性疾患に取り組むあらゆる医師,特に家庭医の糖尿病診療の質の向上が必須である。多面的アプローチを必要とする糖尿病診療では,患者-医師関係の中だけで診療が完結するのはもはや困難であり,看護師や管理栄養士,各種セラピストなどによるチーム医療,専門職連携実践(interprofessional work ; IPW)が必要である。

 本書は,糖尿病診療における薬物治療とその周辺に関して,IPWに必要な共通の知識基盤を形成するために非常に有用である。記述はわかりやすいが,患者や一般市民向けの解説書のように単純化していないため,知識のブラッシュアップだけでなく,最近の進歩をきちんとアップデートできるようになっている。特に処方原則や,併存疾患による投薬の考え方などは,糖尿病専門医ではない家庭医が読んでも多くの発見がある。また,「薬をやめられるか?」「ステロイドを投与されたときに処方をどう考えるか?」「注射し忘れたと言われたら?」など,糖尿病診療においてよく出合う問題についてもわかりやすく回答がなされている。

 この本をテキストにして医師も参加した多職種学習会を行うと,お互いのコミュニケーションも豊かになり,より良いケアが提供できるようになるだろう。糖尿病診療に携わる,全ての医療者,専門職の皆さんに本書を推薦したい。

A5・頁176 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02160-9


臨床のための解剖学 第2版

佐藤 達夫,坂井 建雄 監訳

《評 者》松村 讓兒(杏林大教授・肉眼解剖学)

さまざまな使い方のできる「融通の利く解剖学書」

 K. L. Moore,A. F. Dalley,A. M. R. Agurによる『Clinically Oriented Anatomy』原著第7版の訳書である。訳者は8年前の日本語初版と変更はなく,各章ともそれぞれの泰斗による。従来,何冊かの臨床解剖学書が上梓されているが,解剖学的内容と臨床医学的内容のアンバランスのため,詳細情報を他の大冊や図譜に求めなければならないことが多かった。本書はそのストレスを解消してくれる一冊である。端的に言えば,臨床に即した解剖学書で図譜としても使用できる単行書は本書をおいてない。

 今版の索引まで含めた総ページ数は1099ページ(初版1164ページ),本文ページ数1058ページ(同1127ページ)で約65ページ減となっている。改訂版で増ページを抑えるのは並大抵のことではないが,図版の全面刷新とレイアウトの効率的な組み替えにより,見やすさを損なわずにスリム化が実現されている点は驚きである。それでも1000ページを超える大著であり,初学者にとってはかなりのボリュームであることは間違いないが,掲載されている情報は質・量ともに高く,読みやすいが読み応えのある一冊となっている。著者らが掲げる「初学者にはわかりやすさを,医療関係者や教員にはより正確な情報を」という理念が見て取れる。

 今回の改訂で目を引く第一の点は図版の刷新である。初版では『グラント解剖学図譜』の引用が主体で,生々しさを和らげる「見慣れた図」が安心感を醸し出していたが,今版では,全ての図がより柔らかいタッチで描き直されている。もちろん,『グラント解剖学図譜』の長所である安心感はそのままで,生き生きした印象が深まり,正確さ,見やすさ,理解しやすさ,そして新鮮さが表出されている。初学者にとって第一印象は重要であるが,生々しさが強いと拒否反応が起こる。その点,本書は堅さのとれた程よい新鮮さが出ている。

 二つめの特徴は「ブルーボックス」と呼称される臨床関連事項である。初版ではそれぞれが各項目に隣接して配置されていたが,今版では各章あるいは各節ごとにまとめられ,本文を読み進める際の流れを止めないように配慮されている。反対に言えばブルーボックスを選択的に拾い読みするだけでも臨床との関連を十分に楽しみながら学習できる。また,ブルーボックスには本書独特のアイコンが配置され,変異,発生・発育・老化,救急外傷,診断,外科手術,病理との関連が,読む前から目に飛び込んでくる。

 三つめの特徴は要所要所に配置されている「要点」である。ここには解剖学のエッセンスがまとめられており,学習者が理解すべき内容が明解かつ平易に記載されている。この要点だけを並べるだけでも,きわめて明解な小解剖学書となるに違いない。既に解剖学の課程を修了した学生やコメディカルには,知識の確認に有用なセクションと言えよう。

 最後に本書の用語について触れておきたい。医学書をひもとく際にしばしば感じるのは,解剖学用語と臨床用語との乖離である。原著で使われている用語は,国際解剖学会議用語委員会(FCAT)で選定されたTerminologia Anatomica(1998年)に準拠したもので,監訳には臨床解剖学の重鎮である佐藤達夫先生,日本解剖学会用語委員会委員長の坂井建雄先生が当たられている。用語の疑念やストレスを感じることなく,安心して読めること請け合いである。

 本書は厚さ4.5 cmの大著であるが,さまざまな使い方のできる「融通の利く解剖学書」である。これから解剖学を学ぶ学生も,臨床科目を学んでいる高学年生も,研修医,コメディカル,そして解剖学に苦い思い出を持つ医師や教員も,本書を開いてその良さを自分の目で確認していただきたい。

A4変型・頁1128 定価:本体14,000円+税 MEDSi
https://www.medsi.co.jp

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