医学界新聞

寄稿

2016.04.11



【寄稿特集】

院内を駆け回るための18の“Tips”


 新研修医の皆さん,いよいよ新年度がスタートしましたね。これから院内を忙しく駆け回り,研修に励む日々を迎えることと思います。研修に際しては,院内の他の職員とのコミュニケーションが大切です。医師としての知識や技術を磨くことも大切ですが,ホウレンソウ(報告・連絡・相談)や指示出し,書類提出など,社会人として最低限のルールを守れていないと,「あの研修医は使えない」なんて陰で言われてしまうかも……。

 そこで今回は,研修医と日々接している病院各部門の専門家6人に,病院内で愛される研修医になるための“Tips(ヒント)”を3つずつ伝授してもらいました。

坂本 史衣
柳田 絵美衣
安田 あゆ子
玄馬 寛子
藤平 輝明
荒井 康夫


坂本 史衣(学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院 QIセンター 感染管理室マネジャー)


Tips 1 感染予防――It’s in Our Hands!

 日本を含む先進国では,入院患者の5-10%が医療関連感染症(HAI ; Healthcare-associated Infections)に罹患するとWHOは報告しています。HAIの多くは医療従事者の手に存在する微生物によって引き起こされます。手の皮膚には,4万から450万個の微生物が存在します。手を介した微生物の伝播を予防するのが“手指衛生”です。手指衛生実施率の上昇に伴いHAIが減るという現象は,異なる国・医療機関から毎年報告されています。手指衛生は幼児でも行える簡単な行為ですが,怠ると長期的な障害や死亡につながり,高度先進医療の効果を覆すほどの威力を発揮する場合があることを知っておいてください。

 手指衛生は,①患者に触れる前,②患者に触れた後,③患者の周囲環境に触れた後,④清潔操作(で手袋をつける)直前,⑤血液・体液に触れた(手袋を外した)直後に実施します。この5つの瞬間に立ち止まり手指衛生を実施することが,私たちの提供する医療の質を高めます。

Tips 2 ワクチン接種も忘れずに

 ワクチンで予防可能な感染症をVaccine-Preventable Diseases(VPD)と言います。ワクチンにより免疫を獲得する必要がある主なVPDには,麻疹,風疹,水痘,ムンプス,インフルエンザ,B型肝炎があります。近年増加傾向にある成人の百日咳に対しても,免疫の獲得が望まれますが,海外で広く使用されている成人用の三種混合ワクチン(Tdap)は日本では未認可であり,まだ一部の医療機関でしか取り扱われていないのが現状です。医療従事者が感染源とならないために,また自身の身を守るためにも,ワクチンは接種するようにしましょう。

Tips 3 誠実であり続けること

 医療現場に出て数か月も経つと,忙しさや疲れから“感染対策なんてやっていられない”と思うときがあるかもしれません。あるいは,自分一人だけが真面目に感染対策に取り組むことで,周囲から浮いているように感じることがあるかもしれません。しかし,陳腐に聞こえるかもしれませんが,最終的に感染予防を可能にするのは,医療安全に対する個人と組織の誠実さです。たとえ回診時に手指衛生を行うのも,末梢静脈カテーテル挿入時に手袋を着用するのも自分だけだったとしても,最良の医療を提供した自分に誇りと自信を持ってください。

 “Honesty and transparency make you vulnerable. Be honest and transparent anyway.(あなたの正直さと誠実さがあなたを傷つけるでしょう。ですが,気にすることなく正直で誠実であり続けなさい。)”――Mother Teresa

●ひと言メッセージ

 研修先の感染対策担当者に,研修医の目から見た感染対策に関する疑問や提案を積極的に伝えてください。感染対策に関心のある研修医の存在は,私たち感染対策担当者にとって心強い存在です。


安田 あゆ子(名古屋大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部副部長)


Tips 1 安心してください,守ってますよ

 社会(病院)に出るといろいろなルールがあります。“そういうのかったるい~”なんて考えは,もう通用しません。特に患者安全を守るためのルールは,もし守っていなかった場合,「病院で定められた手順を逸脱した研修医によって実施された○○により,結果として患者は……」という最悪の有害事象につながる可能性もあります。輸血手順や手術の安全確認などのルールをオリエンテーションで教えられても,その後現場に出ると“指導医も守ってないんじゃない?”と思うかもしれません。しかし病院の安全管理体制は全職員がルールを守るという前提で作られていますので,まずは守ってください。その上でルール自体に問題があると感じるならば,その改善を提案していくのがこれからのプロの医療者です。

Tips 2 まいにち,コミュニケーション!

 病院は,人が人に医療を提供する場です。機械が担う部分もあるとはいえ,まだまだ人に頼ったシステムですので,コミュニケーションは非常に重要です。

 と言っても,“誰とでも仲良く!”という話ではありません。医療現場では患者さんの命をつなぐための情報伝達が,人と人との間で毎日なされています。思い込みが重なり,別の患者さんに違う手術をしてしまったというようなミスは,手術手技を練習しても防げるものではありません。繰り返し再確認する(チェックバック),標準化した報告様式(SBAR)を利用するなど,確実な情報伝達のスキルが求められます。各施設で行われるノンテクニカルスキル(医療技術以外の社会的スキル)トレーニングに積極的に参加して,デキる医療者をめざしてください。

Tips 3 私,失敗するので

 失敗しない医師に憧れているそこのあなた,そんなのもう古いですよ。“To err is human.(人は誰でも間違える)”という考え方が,現在の安全管理の基本原則になっています。失敗してもいいという意味ではなく,失敗を生かし,失敗から学ぶことが重要なのです。①失敗に気付いたら素早い“ホウレンソウ”を心掛け,インシデント報告も行ってください。② “自分”ではなく,“患者さん”への影響を最小限にする方法を指導医と一緒に考えて患者さんを治してください。③後でなぜ失敗してしまったのか振り返ってください。④次からどうすればよいかを考えて,実行しましょう。

 研修医は,堂々と人に教えてもらえる貴重な期間です。たくさん失敗してそこから学び,改善し続ける医療者になってください。

●ひと言メッセージ

 現場に出るといろいろなことに遭遇します。対峙した問題から目を背けずに“隠さない,逃げない,ごまかさない”の原則に基づいて主体的に改善に取り組める医師は,安全管理担当者から愛されること間違いなしです。


藤平 輝明(東京医科大学病院 総合相談・支援センター副センター長/医療ソーシャルワーカー)


Tips 1 患者・家族に伝わるインフォームド・コンセント(IC)を学ぼう!

 研修医として患者・家族へのICの場面に同席する機会は多いと思います。主治医の話を漏らさず記録を取ることだけに集中していませんか? ICの場面では患者さんの表情や家族の反応も観察しましょう。“話した”ということと“伝わる”ということは別物です。例えば,がんの治療選択の場面では,患者さんの気持ちには揺れがあります。どう理解されたかに思いを巡らせてみることが大切です。回診や処置の際も,ICの内容がどう理解されているかを知るチャンスです。医療の中で日常的に使っている言葉,例えば治療に伴う合併症・副作用についても,患者さんのイメージが違っていたり,概念そのものが伝わらなかったりすることもあります。患者さんと家族が十分に理解できるようなICのコツが,主治医の説明には隠されています。

Tips 2 良好なコニュニケーションが多職種連携の第一歩

 病院は多職種の連携の下に成り立っています。医師・看護師をはじめ,薬剤師・栄養士・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ソーシャルワーカー,その他のコメディカルスタッフ,事務職員などさまざまな職種の集合体です。多職種でのカンファレンスも頻回に行われています。良好なコミュニケーションのために必要なことは,それぞれの専門職に対する“リスペクト”です。医師のヒエラルキーの下で,物事が進行する時代は終わりました。退院支援の場面にしても,地域の訪問診療医師や訪問看護師,ケアマネジャーなどが退院前カンファレンスに参加します。患者さんの生活の場面に思いをはせてみてください。わからないことは率直に聞いてみることが必要です。地域に丸投げするような発言は,コミュニケーションの障害となってしまいます。

Tips 3 医療者にとっては日常でも,患者さんにとっては非日常

 患者さんは仕事を休んだり,病気への不安を抱えたりしながら病院に通院しています。医師にとって病院での治療 ・処置は日常ですが,患者さんにとっては非日常であることを忘れないでください。さらに入院治療ともなれば,治療したら本当に良くなるのだろうか,仕事に復帰できるのだろうか,といったさまざまな不安の中にいます。疾患のみを診るのではなく,患者さんの生活や社会的側面も検討してみましょう。その際は,ぜひ医療ソーシャルワーカーにも声を掛けてみてください。私たちは患者さんの生活に視点を置いた支援を行う職種ですから,きっと良い気付きがあると思います。

●ひと言メッセージ

 コミュニーケーションスキルの秘けつは,“あいさつ”と“ありがとう”の言葉です。電子カルテの画面だけ見ていてもコニュニケーションは取れません。メールやラインなど,コミュニケーションツールは随分と発達しましたが,やはり患者さん・家族と直接話すこと,医療スタッフとも会って話すことを心掛けましょう。


柳田 絵美衣(神戸大学医学部附属病院 病理部臨床検査技師/先端組織染色センター(KATS))


Tips 1 臨床検査技師の傾向と対策

 大分類として「生理」「一般」「臨床化学」「血液」「微生物」「輸血」「病理」などの技師が存在し,検査技師といっても一様ではありません。それぞれの傾向を知り,万全な対策を取って愛されましょう。

 例えば生理は“花形”で,同じ技師から見ても華やかさを感じます。コミュニケーション能力が高いため,構えず気さくに接してみてください。臨床化学は“完璧”。どんな小さな異常をも見逃さない洞察力と,完璧な機器・試薬管理を行う正確さはピカイチです。真っすぐに正面から接してみてください。微生物は“マニア”です。熟年の技師の中にはコロニーのにおいだけで菌を言い当てる神技を持つ者もいます。仲良くなるには「あの菌のにおいは癖になりますね」と,菌ネタから入ってみるのも良いかもしれません。病理は“堅物”です。一昔前まで「ミクロトーム刃を砥石で研げるようになって一人前」と言われていたようなガチガチの職人気質です。私も新人のころは「技術は見て盗め」と言われました。女性も寡黙で親方気質の人が多いように思います。しかし対策は簡単です。「この切片,なんて薄さだ!」と驚いて見せてください。きっとそれだけで少し優しくしてくれます。

 これらは国家試験と同じです。傾向を知り,的確な対策を取れば合格です。これで愛されること間違いなしです(註:傾向と対策には個人差があります)。

Tips 2 あなたの“Good job”見ていますよ

 日本の病理医は1700人。絶滅危惧種であるジャイアントパンダの数とほぼ同じです。病理医は人手不足で常に大忙し。患者を思う気持ちは全ての診療科共通ですが,病理医の存在は,“裏方”や“縁の下の力持ち”と表現されることが多く,世間ではあまり知られていません。でも,われわれ病理技師は見ています。そして尊敬しています。あなたにも必ず見てくれている人がいます。必ず評価してくれる人がいます。だから,安心して“いい仕事”をしてください。

Tips 3 “若い時の苦労”は,将来買ってでも欲しくなる

 現在,検査技術支援のために定期的にバングラデシュやネパールを訪れています。口に合わない食事を泣きながら口に詰め込んだり,極寒の地で停電となり凍えながら夜を越したりとつらい思いも多々していますが,現地の医療の役に立てることに大きな喜びと自信を感じています。さまざまな経験が,さらなる多くのチャンスを呼び込み,自分の成長へとつながっていきます。“今しかできない苦労”に出合ったときは,絶対に逃さないでください。その経験は後々必ずあなたの宝となり,人生の幅が厚くなること請け合い。そうなれば人を引きつけ,愛されること間違いなしです。

●ひと言メッセージ

 きっと,あなたは愛されます。

 この「院内で駆け回るための18の“Tips”」を読んでいるということは,愛されようと思う気持ちがあるということですよね? その気持ちがあるか否かが一番大事だと思います。その気持ちを持っているあなたなら愛されると思いますよ。


玄馬 寛子(倉敷中央病院 医療情報・診療支援部 医療情報課 図書室司書)


Tips 1 情報への最短ルートは自分に適した“ツール”を知ること

 これから多忙な社会人生活が始まることと思います。もちろん先輩や上司からの指導はありますが,自力で調べなければ仕事が進められないという状況に必ず遭遇します。そして調べる過程でさまざまなツールの存在を知り,取捨選択し,自分に適した仕事の進め方を確立していくことになります。幸い途中の試行錯誤は可能ですが,初めから使えるツールを得たいものですよね。

 ツールには人やデータベースなど,さまざまなものがありますが,“図書館と司書”もその一つです。図書館の規模や司書の役割は所属機関によって異なるものの,実は全国の大学,病院,研究施設の図書館は,裏では「医学図書館ネットワーク」なるものでつながっており,日々連絡を取り合っています。所属機関に図書室がある場合は,1人でも多くの方に図書館ネットワークを有力ツールとして認識し,豊富な情報資源を最大限に活用していただければと思います。うまく使えれば大幅な時間の節約が期待できますよ。

Tips 2 求める情報の条件は明確に

 根拠のない情報があふれる現代において,求める情報を得るためにどれだけの労力が必要でしょうか。医学図書館にいる司書は,NPO法人「日本医学図書館協会(JMLA)」などの職能団体で専門教育を受けていることも多いです。JMLAは学会などが診療ガイドラインを作成する際,支援事業として文献検索業務なども行っている団体です。医師が患者に育てられるように,司書も利用者に育てられます。情報資源だけではなく,人的資源としての司書も活用していただきたいと思います。必要な情報がある場合は,それがどのような情報なのか,できるだけ明確に条件を教えてください。司書に限らず,協力者が理解しやすい方法で依頼することでWin-Winな関係にグッと近づけます。

Tips 3 実力とは,周囲の資源を活用することを含めた“総合力”

 実力とは個人の能力ではなく,人や物といった周りのあらゆる資源を使うことも含めた総合力だと思います。得手不得手は人それぞれですが,総合力で自分を高めるという視点を持てば,より豊かな人間関係を築けるはずです。一生懸命やっていれば力を貸してくれる人が必ず現れますし,私たちも力添えできるよう努めていきたいと思います。

●ひと言メッセージ

 皆さんの“実力”が存分に発揮されますよう,心より応援しております。図書室は憩いの場でもありますので,気分転換にもお気軽にいらしてくださいね。


荒井 康夫(北里大学病院 診療情報管理室 課長/診療情報管理士・診療情報管理士指導者)


Tips 1 診療録の記載は,必要な情報を残す意識が必要

 診療録の記載が“どうして大切なのか”をあらためて一緒に考えてみませんか?

 診療録は,その作成と保存が医師法により義務付けられています。だからといって,「法律のための記載である」というだけでは十分ではありません。ご承知の通り,診療録は患者の診療経過を把握できる唯一の情報源です。医師をはじめ治療にかかわる専門家たちは,診療録から必要な情報を得て互いに連携を図り,それぞれの専門領域から医療に参画しています。また,患者から診療録の開示を求められることも,近年は決して珍しいことではなくなりました。自分の経過を知りたいという患者の要求に応えることも,診療録には求められていると言えます。

 診療録には客観的事実を正確かつタイムリーに記載することを,いつも念頭に置いてください。そしてコピー&ペーストなどに頼らず,簡潔かつ論理的な記載に努めてください。なぜなら,診療録は自らの備忘録ではなく,患者や医療者にとって有用な情報源であるからです。 “必要な情報を残す”という意識を持って,診療録の記載を行うことが大切です。

Tips 2 インフォームド・コンセント(IC)には記録が必要

 ICの重要性は十分に認識されていると思います。特に侵襲性や危険性の高い医療行為を実施する際には,医師は患者に十分な説明を尽くした上で,医療行為を受けるか否かの意思を確認します。不十分な説明は,患者の意思表示を無効にすると言われています。そのため多くの病院では,ICの手続きを決めています。いつ,誰が,誰に,どこで,どこまで,どのように説明を行うのか。緊急時や患者が意思表示できない場合にはどうするのか。ICの証拠化はどうするのか。病院の手続きを確認し,正確に理解しておく必要があるでしょう。

 また診療録には,ICの内容についても可能な限り記載しておくことをお勧めします。そうすれば後から説明内容の確認などを求められた場合にも,明確な説明が可能になります。説明義務を果たすときにも,診療録は有用なのです。

Tips 3 退院時サマリーの作成は患者の入院中から準備が必要

 退院時サマリーは,退院後の患者の診療を引き継ぐ医療者への申し送りとしての役割があります。したがって,退院後のシームレスな診療や急変時対応のために,退院時点で作成が完了していることが理想です。退院後の診療に必要な情報としては,入院時の病状,診療計画,入院中の主な治療と経過,退院時の病状,退院後の方針や注意点などが挙げられます。退院時サマリーにはこれらの情報が簡潔に記載されているため,担当した症例を回顧する資料としても有用です。

 このような情報を,退院時点や退院決定後に一気に整理することは困難です。特に考察を加えることが求められているような場合には,なおさらです。患者の入院中から必要な情報をまとめ,退院時サマリー作成の準備を進めておくことをお勧めします。

●ひと言メッセージ

 診療情報は,患者にとっても,医療者にとっても極めて重要なものです。実施した診療行為や,治療にかかわるさまざまな事柄について,医学的・法的正当性を証明するものは“記録”です。論理的に記載された診療録は,自分の身を守ることになるはずです。そして何よりも患者が適切な治療を受けるために,適切な診療録の記載をお願いします。

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