医学界新聞

2016.03.14



Medical Library 書評・新刊案内


《日本医師会生涯教育シリーズ》
Electrocardiography A to Z
心電図のリズムと波を見極める

日本医師会 編・発行
磯部 光章,奥村 謙 監修
清水 渉,村川 裕二,弓倉 整 編
合屋 雅彦,山根 禎一 編集協力

《評 者》杉本 恒明(東大名誉教授)

専門医にもコメディカルスタッフにも役立ててほしい解説書

 本書は《日本医師会生涯教育シリーズ》の一つである。このシリーズでは,タイトルが“ABC”となっているものはよく見るが,“A to Z”というのは初めてである。書評の依頼をいただいたこともあって,「監修・編集のことば」をあらためて拝見し,医学生,研修医,コメディカルスタッフ,あるいは循環器専門医までも含めて対象とした,とあったのを見て,そのスケールの大きさを知った。殊に,コメディカルスタッフを対象に含めたことに感心したのである。今日,看護師が専門領域を持つようになって,若い看護師たちの心電図に対する関心は極めて高く,よく知ってもいる。

 評者は平素,医療機器の一般家庭への普及を願ってきた。心電計もまた,そのような大衆化された医療機器と言える時代になっているのではないか,と考えていた。狭心症症状にしても,不整脈にしても,症状があるときの心電図が極めて大事である。このためには携帯型心電計がもっと利用されてよい。家庭血圧計の普及は日常の管理の面ばかりでなく,血圧というものの生理的,病態学的意義について医学的な新知見を提供しつつある。心電図記録においても,携帯型心電計はこのような付加的価値を持ち得るものであり,医学・医療に貢献するところは極めて大きいはずなのだ,という思いがある。

 心電図波形は視覚的,直観的に読み取る訓練が極めて有用で,役立つ領域である。本書の冒頭には口絵がある。本書を通読する前と後とでこれを見比べると,得られた知識が確認できよう。

 本書は「心電図の基本的知識」「心電図判読の手順と異常所見」「波形の異常」「調律の異常」「心電図に関連する臨床的知識」の5章構成である。各章の内容は基本的には臨床を離れることなく,心電図,診断,病態が中心であり,メカニズムの記述には執筆担当者の思いが込められている。最終章の「心電図に関連する臨床的知識」には,Holter心電図,携帯型心電計から自動解析心電計に至る9項目がある。自動解析は利用されるものであり,頼られるものではない。そのゆえに手引き書としての本書は極めて大事である。

 ページの間に「ひとくちMEMO」がある。これが必ずしも「ひとくち」ではない。多くは1ページを超えていて,結構,面白い。評者はこれを担当された執筆者のお人柄を想像しながら楽しんで読んだ。

 まずは医学生,研修医,コメディカルスタッフにお勧めしたい。とにかく,通読することである。思いもよらず,楽に通読できて驚くであろう。そして読み返す。それは骨の折れることではない。こうして得られる心電図所見が医療スタッフの日常会話の中で,また患者との会話の中で,何気ない話題となっていく時代となることを願いたい。

B5・頁304 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02150-0


見逃し症例から学ぶ
神経症状の“診”極めかた

平山 幹生 著

《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院総合内科/院長補佐)

診断に対する凄まじい情熱に脱帽

 著者の平山幹生先生を私はよく知っている。名古屋近郊にある春日井市民病院という人気の研修病院で,3年間ほど研修医教育を一緒にさせていただいた。実直かつ臨床能力の高い臨床医である平山先生は当時,副院長(研修医教育担当)をされていた。神経内科だけでなく,全ての医学領域において貪欲な探究心をお持ちである。ケースカンファレンスの後で,参考になる論文はこれです,と何度も重要論文をお送りいただいた。私はそのように真理を探究する平山先生の姿勢に大変敬服している。

 平山先生が40年間の臨床経験に基づいて書かれたのがこの書である。示唆に富む教育症例は全部で61あり,「意識障害」「頭痛」「めまい」「発熱」「嘔気・嘔吐,不定愁訴」「しびれ,痛み」「けいれん,高次脳機能障害」「脱力」「錐体外路症状」「脳神経症状」の10章に分類されている。症例ごとに誤診(診断エラー)の原因と対策が分析されている。どうして診断を間違えたかを,認知エラーとシステム関連エラーに分け,さらに細かいカテゴリーから考察されている。

 私にも経験がある。自分が判断を誤った,または考察が少し足りなかったというケースを書くのは非常に心が重い。できれば思い出したくない。不幸な転帰をたどった場合にはなおさらである。しかし,人は失敗から多くのことを学ぶ。医師もまた然りである。事実に基づいて症例を深く振り返り,どこで思慮が不足していたのかを分析することは重要である。また同じような患者が現れるかもしれない。本書で学んだ医師が,同じピットフォールに陥ることを防いでくれる。

 「神経内科診療の達人」になるための12か条が書かれている(p.vii)。「患者から学ぶ姿勢を貫く」「疾患の診断のポイントを覚えておく」「問診で鑑別すべき診断を頭に浮かべ,要領良く所見をとっていく」……書かれていることの多くは,全ての内科医が心掛けるべき重要事項だ。

 「辺縁系脳炎症状を呈し,完全房室ブロックをきたした患者」(p.15)の診断過程が非常に興味深い。MEDLINEでencephalitis,myocarditisのキーワードを入力し類似症例を検索する。その後に確定診断のため,冷凍保存されていた9年前のペア血清を用いて外注検査を依頼したそうだ。診断に対する,凄まじい情熱に脱帽である。

 最終診断後の文献的考察を交えた疾患に関する詳細な解説が非常に勉強になる。NMO(視神経脊髄炎)spectrum disorderは最新の診断基準が紹介されている(p.158)。小脳・脳幹の血管支配についてのシェーマは秀逸でわかりやすい。「首下がり患者で鑑別すべき疾患」(p.230)など,キーワードから連想される疾患についての整理は日常臨床で非常に役立つだろう。これから神経内科医をめざす若手医師はもちろんのこと,神経疾患の診断が得意になりたいプライマリ・ケア医にも強く購読を勧めたいすてきな医学書なのである。

A5・頁284 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02415-0


ジェネラリストのための
眼科診療ハンドブック

石岡 みさき 著

《評 者》森村 尚登(横市大主任教授・救急医学)

ジェネラリストがまず知りたい「緊急度」を類型化して病態を解説

 本書は,スペシャリストからジェネラリストに向けた鮮烈かつ明快なメッセージである。

 初めて手に取ったとき,思わず「こんな本が欲しかった」の一言が出た。と言うのも,そもそもスペシャリストとジェネラリストが共有できる書物やそれを意図する本が,残念ながら極めて少ないからである。あったとしても,『JRC蘇生ガイドライン』のように,ジェネラリストからスペシャリストに向けられるものがほとんどであり,その逆向きのベクトルによるメッセージを込めた(銘打った)本は正直見たことがない。

 期待に胸を膨らませて本書を開くと,今度は思わずうなってしまった。目次の冒頭,いきなり「緊急度」の文字が眼に飛び込んできたからである。多くの専門書と異なり,「重症度」ではなく「緊急度:Acuity(アキュイティ)」を類型化して病態を解説しているのである。正直,これには驚いた。緊急度は「時間が重症度に及ぼす影響の程度」である。もう少しかみ砕くと,緊急度が「高い」状態とは「重症化するまでの時間が短い」状態を意味する。したがってそれを判定するということは,重症化を防ぐために診療を開始するまでの「持ち時間あるいは時間的余裕」を判定することである。多くのジェネラリストがまず知りたいのは,まさしくこの緊急度なのだ。眼科医に,「すぐに」「翌日に」「1週間以内に」診てもらうべきか,そもそも「眼科以外でも対応可能」なのか。本書はまさにここを明確に記している。蛇足だが,レストランのランク付けを思わせる星の数で「緊急度」を分類しているのもユニークである。

 さらにページをめくると,これまた図と写真が程よく掲載されていてとてもわかりやすい。項目立ても,ジェネラリストが日常よく出合い,また迷うところを網羅している。これらの意味でジェネラリストにとっては痒いところに手が届く使い勝手さを持っている。

 他方,本書はジェネラリストのみならず,スペシャリストにとっても必携の書である。スペシャリストの中で言うことが違えば,メッセージを受け取る側は混乱する。何を伝えるべきか,どのように伝えるべきか。これらをスペシャリストが共有し,発信していくことでジェネラリストとのさらなる連携が深まっていくこと,間違いない。

 本書のコンセプトが,今後続々と他の本にも受け継がれていくことを心より望む。

A5・頁198 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02418-1


グラント解剖学図譜 第7版

Anne M. R. Agur,Arthur F. Dalley 原著
坂井 建雄 監訳
小林 靖,小林 直人,市村 浩一郎,西井 清雅 訳

《評 者》樋田 一徳(川崎医大教授・解剖学)

解剖学の真髄が,現代医学教育に問うもの

 “Grant’s Atlas of Anatomy”原著第13版の邦訳である『グラント解剖学図譜 第7版』が出版された。評者が医学生として解剖実習を行ったのは1981年,先輩に勧められ邦訳初版で学んだのを覚えている。以来版を重ね,手元には邦訳第7版までがそろうが,特徴は何と言っても,適切な標本を忠実に美しく描いた図にある。写真やデジタル画像に比べ,描図からは,眼前の事実を詳細に観察して得られた人体構造の理解を医学生や後進に伝えようとする原著者の意思が感じられるのである。解剖,観察,同定,理解,説明,関連といった一連の学習行為が原著者や訳者の努力によりヴィヴィッドに伝わる,これが医学生に愛され続けた理由であろうか。詳細な観察,克明な記録,深い考察,明快な説明,広範な関連。実習を重視する現代医学教育に,伝統ある解剖学の真髄が重要なポイントを問い掛けている。

 医学への関心の高い入学直後の時期に学ばせようと,川崎医大では1年生で人体解剖実習を行っている。マクロとミクロのみならず生理学もリンクさせ,1年間は全寮制で解剖実習の内容に沿ってカリキュラムが編成される。目的は“人体のしくみ”の理解であるが,何よりも生命を尊ぶことが主眼である。当然,人体構造=生命の姿の,素晴らしい構築の事実を理解することが重要となり,学生たちは図譜をわかりやすい指標としている。本学では1970年の開学以来,『グラント解剖学図譜』を一貫して指定し,先輩からの助言も現実的である。昨年から臨床実習と並行して臨床解剖実習も行っているが,学生だけでなく研修医や指導医も自分の図譜を携行し,以前学んでメモ書きした内容を再認識する。版の違う同じ図譜を各自用いる光景は,伝統の重みを感じさせるのである。

 第7版の改訂で,ほぼ全てのページの下に数行の解説や表が付された。箇条書き文は現代的であるが,剖出・説明・機能・臨床関連など,ページ単位にふさわしいまとめは,つなぎ合わせれば論理的な説明文になることに気付く。文章記述が苦手な最近の学生にも大いに役立ち,訳者の思いが伝わってくる。立体感が増した図に加え,生体図や医療画像も適所に用いられ,長く愛用できるであろう。今版は9つの章と索引に分かれ,全ページの上端角にある章別色分けに気付いた。本を開く側に階段的に色分け区分されていた旧版に比べ新版ではより識別しやすくなり,実習室での学生の利便性向上への配慮が感じられる。

 学習者の立場で改版を重ねた『グラント解剖学図譜 第7版』で学生にどのような教育を実施するか,思案をするのが楽しみでもある。

A4変型・頁920 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02086-2


肝動脈化学塞栓療法(TACE)
理論と実践ストラテジー

松井 修,宮山 士朗,大須賀 慶悟,衣袋 健司 編著

《評 者》堀 信一(ゲートタワーIGTクリニック院長)

TACEの経験,知恵の集大成

 このたび,日本の肝細胞癌治療をリードし続けてこられた,松井修先生,宮山士朗先生,大須賀慶悟先生,衣袋健司先生が直接筆を執られて,肝動脈化学塞栓療法(TACE)の経験,知恵の集大成とも言える本が出来上がった。

 TACEを行う際に必要な肝細胞癌の病理的血管解剖は,松井研究室とも言える金沢大放射線科の方々により明らかにされ,先生方の豊富な知識が余すことなく記されている。この解剖知識により,Lipiodolがなぜ肝細胞癌の治療に役立つのかの実証研究を可能にし,この治療法の世界的な普及につながった。また,宮山先生という類いまれな知性と卓越した技術を持つ医師を得,緻密なTACEの展開によりこの治療の極みが示された。今では同じ治療を専門とする世界中の医師の目標となっている。大須賀先生は,球状塞栓物質の開発当初からの研究者で,TACEが持つ治療法としての可能性をさらに広げるべく研究を続けられている。衣袋先生は,画像診断技術でこの治療を支え続けられている。

 諸先生方の直接のご執筆になる本書は,まさにこの治療を行う医師の実践的指導書であり,治療を行う中での日々の疑問を持つたびに,本書をひもとくことでその解決策を得ることができよう。ぜひ本書を血管造影室に常備し,臨床の現場で開き,診療の質を高めて患者の予後改善に役立てていただきたい。

 本書は肝細胞癌の治療に当たる医師の教科書というだけでなく,執筆の先生方の努力のたまものとしての貴重な文献の集大成であり,これから肝細胞癌の論文を書かれる同輩,後輩は,これ一冊を手元に置けば,ほぼ完璧な参照論文の引用が可能である。論文作成にはいかに信頼のおける論文を参照するかが,その論文の価値を決める要素となる。執筆の先生方の経験,知識と文献検索の努力が後輩の研究者たちにうまく受け継がれていくに違いない。

 松井先生が,TACEの将来展望として記されているように,現在のTACEの技術で肝細胞癌の治療が完成したわけではない。今後のTACEに新たな技術要素が付加され,新規薬剤の導入がなされることで,さらに治療効果の改善が得られるようになると期待される。いつかこの技術により,日本ではウイルス性肝炎撲滅と肝細胞癌終焉の宣言がなされる日が来るかもしれない。そのときには,日本のこの診療技術から得られた成果が,世界中の手本になり,本書がその礎となることを心から願う。また,この治療技術が肝細胞癌にとどまらず,体中の固形がんの治療法として発展することを願いたい。そのためにも本書の学術的,医療的な意味は大きい。

 先生方が,日々の忙しい臨床業務の合間に執筆されたことを思うと,先生方の発刊までのご努力に感服すると同時に,肝細胞癌の治療への貢献に深く感謝申し上げたい。

B5・頁252 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02432-7

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