医学界新聞

2016.02.01



Medical Library 書評・新刊案内


解いてなっとく
使えるバイオメカニクス

前田 哲男,木山 良二,大渡 昭彦 著

《評 者》髙橋 正明(群馬パース大教授・運動・動作学)

生体力学の入り口に立った初学者への入門書

 初学者のための,日常生活での身体運動や姿勢・動作の力学的理解を深める学習書が著された。『解いてなっとく 使えるバイオメカニクス』である。理学療法(PT)学科や作業療法(OT)学科で力学になじんでいない学生を対象に,限られた時間内で,姿勢や動作のメカニズムを理解・納得させるのは想像以上に難しい。しかもそこまで対象をはっきりさせたまとまった教材がなく,本書は貴重な一冊と言える。

 本書には大きく二つの狙いが見て取れる。一つは日常生活動作や姿勢のメカニズムを床反力で明らかにする解説書としての役割だ。床反力とは人が立ち,移動するときの床を圧する力を床から反力として逆向きに受けたときの力で,唯一計測できるものである。コンピューターのおかげでその大きさ,方向,圧中心が瞬時にわかるので重力下で行われる動作を理解するには便利な道具となっている。

 もう一つの狙いは,動作の観察や分析に必要な生体力学的素養が身につく学習書である。素養を身につける過程では,一つの知識や理解を他の状況でも応用できる認識のレベルにまで高めることが必要となる。本書は目的達成のために,その素養を程よい大きさに分解し,表ページに一つの質問(課題),裏ページでその解説という体裁を採っている。力学の基本知識や理解を少しずつかつ順序良く学べれば,納得のレベルにまで達するという考えである。タイトルの「解いてなっとく」の意味はここにある。

 このチャレンジは高く評価したい。多くの初学者が救われると思う。また同業者として多くの示唆をいただいた。しかしそれでもまだ人の動作を力学的に理解できるようになるのは大変だとの印象は強い。本書は人形を用いて基本的理解を求めている。複雑なものを簡単なもので置き換えて説明するのは常套手段だ。しかし人形は動かない。静力学で扱われる。人は動くことが宿命付けられた身体を持つ。人は転倒しやすく,それだけ動きやすい。安定と不安定の繰り返しで身体を移動させる。これは動力学の分野であるが,明らかなことは静力学の基礎がないと動力学はうまく扱えない。その意味で静力学の要素が強い本書はまさに生体力学の入り口に立った初学者の入門書と言える。

 しかし,本書を読み終わって心配事がないわけではない。人形から学んだ基本法則だけでは人の動作を誤って解釈する危険性が高いからである。学生は納得するのに自分の身体を使って人形をまねる。そのときその動きあるいは姿勢は人と同じではないことに気が付いてくれるとありがたい。それに気が付かないときは他者からのコメント等,人形から人への橋渡しをしてくれる何かが必要である。

 本書は自学のための学習書として有用ではあるが,教師の説明と共に使われる教材としてのほうが力を発揮するように思う。

B5・頁208 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02161-6


DSM-5®診断トレーニングブック
診断基準を使いこなすための演習問題500

Philip R. Muskin 原書編集
髙橋 三郎 監訳
染矢 俊幸,北村 秀明,渡部 雄一郎 訳

《評 者》松﨑 朝樹(筑波大診療講師・精神医学)

精神医学そのものの理解を深めるツールとなる一冊

 「DSM-5®の問題集」のひと言で言い表せるこの一冊。大学のころに受けた試験や医師の国家試験のような選択式の質問が多数詰め込まれ,その内容は全てDSM-5®についてのものだ。この本を最初に手にしたときの印象は,診断基準の細かな点を扱った無機質なつまらぬ本ではないかというものであった。しかし,ページをめくり,問題を解き,解説を読み始めると,その印象はすぐに覆された。この本には,他の医学書とは違った特別な価値が見いだせる。

 臨床的にDSM-5®を用いる上で,目の前の精神障害が典型的なものであれば診断に困ることはない。しかし,典型的ではない症例を目の前にしたとき,DSM-5®では何と診断したものか困ることがある。また,DSM-5®を用いて操作的に,すなわちアルゴリズムに従って診断されるはずのものが,細かな基準について曖昧な理解のまま,大まかな疾患のイメージである理念型に合うかどうかで診断されてしまっているのを見かけることは少なくない。この本の問題を解く中,その曖昧な点を鋭く突いた良問に時折ドキリとさせられる。

 この本が活用される場として,さまざまな場が想定される。研究には医師や心理職など多職種がかかわるが,DSM-5®の操作的診断を使いこなすためには,十分な理解が必要とされる。臨床だけに没頭してきた医師は,実際にはDSM-5®の細かな基準を把握せずにいることもあり,心理職の中には医師に比べて経験してきた症例数が少ない者も少なくない。質の高い研究のために,参加する者のDSM-5®についての理解を確認するのに有用であろう。また,精神科の各専門医をめざす際に,自分の実力を試す問題集として,さらに強化する参考書として用いるのも手であろう。もちろん,DSM-5®の基準を正確に理解して臨床の場に生かすのにも役立つ。そして,それ以上に私自身が意義深いと考えるのは,精神医学そのものの理解を深めるツールとしての役割だ。DSM-5®に書かれているのは診断基準ばかりではなく,おのおのの障害の理解を深める情報が豊富に盛り込まれており,この本も精神障害それぞれについて理解を深めるたくさんの問題が掲載されている。問題を解き,解説を読む過程で,さまざまな疾患の経過や予後,頻度など,障害について多くを学べることだろう。一つひとつの問題は短く,ちょっとした隙間の時間を用いて学びが得られる点もまた良い。

 当初に抱いた印象とは大きく異なり,実際に本を開いて問題を解き始めてみると,障害に対する理解が深まる血の通った内容であり,多くの気付きと知識を与えられた。DSM-5®について,そして,精神医学そのものについて,私たちが何を見落としているのか,そしてその答えが何かを教えてくれる良い一冊である。

A5・頁400 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02130-2


市中感染症診療の考え方と進め方 第2集
IDATEN感染症セミナー実況中継

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》清田 雅智(飯塚病院総合診療科診療部長)

コンパクトにまとめられた臨床感染症の優れた入門書

 大野博司先生(洛和会音羽病院感染症科)は,研修医時代に筆者が指導医として実際に接した勤勉なる先生である。2年次の2002年に抗菌薬の適正使用をめざし,自ら講師になり感染症の院内勉強会を自分で計画立案した。さらには院外でも夏と冬にその勉強会を自主開催し,それが後にIDATEN感染症セミナーとなり,現在も続いている。彼はその準備のために深夜まで資料作りに励んでいたことを間近で見ていたが,その企画力とバイタリティーには深く感銘を受けた(研修医ですよ!)。筆者はこの感染症の勉強会資料を「贈り物」として受け取っていたが,その内容はさらに発展し2006年,医学書院より『感染症入門レクチャーノーツ』として上梓された。

 その彼の発案でIDATEN感染症セミナーを2007年1月に飯塚病院で行いたい旨の連絡があった。二つ返事で了承し,筆者は幹事として全国80人の医師と学生さんのお世話をさせていただき,今でもIDATENの活動を陰ながら見続けている。その当時の参加者リストは今でも持っているが,現在色々な分野で活躍をされているのに気付き,この活動がもたらした効果を今さらながらに驚いている。

 この飯塚病院開催のスライドも手元にあるが,IDATENが伝えてきた教育のコンテンツのレベルは,2005年メイヨークリニック感染症科に留学時のモーニングレクチャーとさほど遜色がないことに気付いていた。この教育内容を活字化した前書が2009年に上梓され,筆者は当然のように購読したが,セミナーを受講できない人に対する重要なテキストになっているという感想を持っていた。

 そして今回,6年の歳月を経てその第2集が刊行された。大野博司先生が勇退し,彼の飯塚病院の後輩でもある山本舜悟先生と,IDATENのメーリングリストで素晴らしい発言をされていた上山伸也先生がその事業を引き継いだことに時代の推移を感じ取った。

 前書に比べて,本書はさらに臨床的な広さと奥行きを増した本となっていた。以前は感染症の基礎知識である微生物や抗菌薬の記載もあったが,省かれている(つまりはそれを伝える類書が十分にある)。新たに,小児の感染症,ワクチン,「風邪」,リンパ節腫脹,HIV診療,渡航医学の領域の執筆内容が加わり,時代の要請に沿った内容の変更が行われていることがわかる。それでも前書より100ページ以上増えている。

 本書は臨床感染症の優れた入門書という位置付けが確定したと思う。感染症を極めようとすると,4000ページ近くに及ぶ膨大な“Mandell”(Saunders)のような成書をひもとく羽目になるが,300ページ程度でコンパクトにまとめられた本書は最初に読むべき本であろう。初学者にも,後期研修医にも対応できている内容であることが,筆者の目からは確認できた。

B5・頁364 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02056-5


今日の理学療法指針

内山 靖 総編集
網本 和,臼田 滋,高橋 哲也,淵岡 聡,間瀬 教史 編

《評 者》鶴見 隆正(湘南医療大リハビリテーション学科長)

大きな節目の時期に提示された最新のアプローチ

 深みのある藍色の『今日の理学療法指針』を手にしたとき,「とうとうここまで理学療法士界は来たのだ」という感慨を覚えた。なぜなら,1966年に全国でわずか183人の理学療法士によってスタートした理学療法士界が,50年という大きな節目を迎えたこの時期に,医学書院の名書シリーズである『今日の治療指針』に,内山靖氏総編集による本書が加わり,これまでの理学療法士界の臨床・教育・研究活動の「来し方」が凝縮され,さらなる理学療法の発展すべき指針が込められているからである。

 振り返れば草創期の理学療法士教育は3年制の専門学校で始まったが,現在では98大学,56大学院での教育へと進化し,理学療法士国家試験合格者の累計数は約13万人となり,その活動領域は医療から行政,産業保健などに広がっている。また日本理学療法士協会は神経理学療法や運動器理学療法などの7分野の認定・専門理学療法士制度を設けるとともに,日本小児理学療法学会や日本基礎理学療法学会などの12分科学会などの臨床研究体制が整っている。

 一方,この間の医療情勢は激変し,入院医療の機能分化と医療連携が強化され,施設医療から地域医療へシフトしている。同時に診療ガイドラインや診療の標準化,電子カルテなどのIT化が図られ,質の高い医療体制と地域包括的ケア体制の整備をめざしており,これらに対応した効果的な理学療法が求められている。このような中,病態・障害,評価,治療/介入,リスク管理,経過・予後など一連の理学療法過程を臨床判断の視点で解説し,統一のフローチャートで可視化した『今日の理学療法指針』の刊行は,まさに時宜を得ており意義深い。

 米国理学療法士協会では,「理学療法における臨床判断」と題した研修会を1980年10月に開催し,臨床への導入啓発に努めてきたが,広く汎用されるまでには至っていない。その背景には理学療法に関するエビデンスの蓄積不足と理学療法の個別性重視などが根底にあったが,現在では臨床推論の考えと臨床判断を踏まえた理学療法をいかに適応させるかが問われている。その点,本書は,日々の理学療法業務で担当することの多い運動器系疾患,中枢神経系疾患,呼吸循環器系疾患,代謝系疾患などの他に,重症心身障害児や精神疾患,周産期を含むウィメンズ・ヘルス,産業理学療法における健康増進や訪問理学療法などの全16章208項目を取り上げて,病態・障害を細分化し,病期や重症度に対応した臨床判断を基に,最新の標準的アプローチを全てに提示している。これは本書の最大の特徴である。

 臨床現場の理学療法士は,限られた分刻みの単位内に,impairmentのみでなく患者・家族の社会参加や活動までを視野に入れた個別性のある理学療法の立案・実施に腐心しているのが現状である。それだけに今回,分担執筆された各専門領域のエキスパート総勢111人の長年の経験則を基盤に,最新のエビデンスを軸にしたサイエンスとアートの融合した臨床力の提示は心強い。各項目には,臨床判断する上でキーポイントとなる文献提示と臨床のコツを織り交ぜており,読者にとって参考になるが,今後,改版される際には臨床判断のクリティカルな情報をさらに増して,臨場感に富む理学療法を思考する書となることを願っている。

 『今日の理学療法指針』は,医療最前線から介護老人保健施設や通所リハビリテーションなどで日々,臨床判断を重ねる理学療法士にとって必携必読の書として,また臨床実習に取り組む学生にとっても理学療法過程を理解する上で参考になる良書としてお薦めする。

A5・頁562 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02127-2


今日の小児治療指針 第16版

水口 雅,市橋 光,崎山 弘 総編集

《評 者》原 寿郎(福岡市立こども病院院長/九大名誉教授)

子どもの診療にかかわる全ての医師に勧めるマストハブの書

 小児科診療の第一線では,重症度・種類が多様な小児疾患に対応しなければならない。本書は小児科医が遭遇する疾患ごとに,その領域の第一線のエキスパートが,最新の治療法を具体的かつ実践的に,重要疾患の「治療のポイント」「専門医へのコンサルト」「患児・家族説明のポイント」「看護・コメディカルへの指導」などの情報を盛り込みながら解説してある。また,救急医療の項では,症候別・疾患別に鑑別法とともに治療法が記載してある。

 検査や疼痛緩和のための鎮静法,治療手技や小児診療に必要な知識も漏れなく盛り込まれている。腎・泌尿器疾患,生殖器疾患,精神疾患,心身医学的問題,思春期医療,骨・関節疾患,皮膚疾患,眼疾患,耳鼻咽喉・気管の疾患,小児歯科・口腔外科疾患など,特に他診療科と協力が必要な疾患では,必要に応じ「専門医へのコンサルト」という項目で明確に解説してある。そして付録や資料では小児薬剤投与法の原則,脳死判定と脳死下臓器提供,標準値,予防接種スケジュールなど小児科診療に必要な情報が添付されている。

 本書は1970年の初版から現在の第16版まで長い歴史を有し数年ごとに改訂されているが,今回も編集者の新しい企画が生かされた意欲的な書となっている。

 編集には専門知識が豊富な大学教授と第一線での臨床経験が豊富な開業医が参加し,幅広い視野で行われている点も特徴である。

 今版から小児医療の新しい問題「小児在宅医療」の章が新設され,訪問診療,在宅医療の要点が記載されている点は注目に値する。今後ますます必要性が増す医療分野で一層実用性が高い情報源となっていくと思われる。

 各種疾患の治療法については広汎な情報が簡潔に集約されている。この情報の包括性は,初期・後期研修医,実地医家,救急診療に従事する一般小児科医はもちろん,種々の小児科専門分野の診療に従事するサブスぺシャリストにも有用である。またプライマリ・ケア医,他科専門医が小児患者に接する場面でも大いに力を発揮するだろう。

 小児科学の膨大な知識を全て吸収し正確に記憶することは不可能に近い。それが多忙な小児科医にとって臨床の現場で知識を確認できるよう,コンパクトな一冊にまとめられている。治療に使用する薬剤は実地臨床に役立つよう商品名も記載されている。まさに日々の臨床時に手元に置いて参考にすべきマストハブの書であると推薦する。

A5・頁1032 定価:本体16,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02084-8

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