医学界新聞

2016.01.04



Medical Library 書評・新刊案内


Dr.宮城×Dr.藤田 エキスパートに学ぶ
呼吸器診療のアートとサイエンス

宮城 征四郎,藤田 次郎 著

《評 者》石田 直(倉敷中央病院呼吸器内科主任部長)

アートとサイエンスあふれる沖縄呼吸器内科ケースカンファレンス

 臨床医学は,知識や文献的考察に基づくサイエンスの部分と,経験によるひらめき等のアートの部分を有しているが,両者をバランスよく融合した成書を見つけることは,なかなか困難である。そうした中で,本書に巡り合ったことは大変喜ばしいことであった。本書は,本邦における呼吸器病学の泰斗でおられる宮城征四郎先生と,現在の呼吸器内科のリーダーのお一人である琉球大の藤田次郎教授が中心となって開催されている,沖縄県臨床呼吸器同好会での症例検討会の内容をまとめたものである。ここでは,個々の症例が詳細に検討され,目の前で見ているような臨場感が醸し出されている。問診および身体所見を十分に吟味して鑑別を行っていくという宮城先生のスタイルが広く浸透してレベルの高いカンファレンスとなっており,ややもすれば検査所見と画像所見に引っ張られがちな自らの臨床姿勢を反省させられる。

 症例検討における,宮城先生の的確なご発言はまさしく「天の声」であり,それぞれの症例に,藤田教授の卓越した解説と考察が付記されている。また,巻頭にある,宮城先生の「症例検討会におけるプレゼンテーションの順序と参加者の心得」(p. 1)および藤田教授の「呼吸器疾患における画像所見の解釈の仕方」(p. 11)の章は,もう一度基本的な理解を促すものであり,研修医からベテランのドクターまで,ぜひ一読していただきたい内容となっている。症例はいずれも,呼吸器内科医が日常的に遭遇する可能性のある疾患でありながら,大変興味深い検討対象である。

 宮城先生のお人柄が伝わるご発言と藤田教授の見事な構成により,面白く読みやすい内容となっており,読み始めて一晩で読破してしまった。次は,自分がカンファレンスの参加者となった気持ちで,1例ずつ時間をかけて読み直したいと思っている。ぜひ,多くの先生方に本書を読んでいただいて,同じ気持ちになっていただくことを切に願うものである。

B5・頁288 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02099-2


今日の小児治療指針 第16版

水口 雅,市橋 光,崎山 弘 総編集

《評 者》黒木 春郎(外房こどもクリニック院長)

本書により私たちは「専門性」という桎梏を超えることができる

 人は常に社会的局所でのみ生活する。自分の身の回りとその仕事,誰もがそこからの視点で世界を見る。そしてそのことの限界から逃れきれない。医師であっても他の職業であっても同様である。臨床医を例にとれば,働く場所が診療所か集中治療室かで求められるものは異なる。そうすると,己の発想も思考もいつの間にか自分の環境に規定されてくる。開業医と勤務医の乖離はそこから生じる。

 本書をそばに置くことで,そうした限界を常に意識できる。そして時には超えることも可能となる。小児科医に求められるものは何であろうか? その専門性とは何であるのか? 小児科の臨床医であれば,自分の専門でない分野に対しても,小児に関連する全領域に少なくとも言及できる素養は必要である。本書はその要求に応えるものである。

 例えば感冒の項目では,当然であるが抗菌薬使用は勧めていない。心肺蘇生に際してはPBLS,PALSを簡潔に紹介している。まさしく,プライマリ・ケアから救急現場まで網羅されている。夜尿症に関しても単一・非単一症候群という最新の分類に即して,デスモプレシンの使用に言及している。臍ヘルニアには圧迫法を紹介し,肛門周囲膿瘍には2種類の漢方薬を提示している。これらの疾患は以前ならば「経過を見れば治る」と言われていたものである。しかし,「経過を見る」という対応は患者さんの要望・悩みに応えるものではない。一方,本書の記載は実際の解決方法を明示したものであり,patient orientedと言える。細菌性髄膜炎の治療には肺炎球菌の耐性化を考慮してバンコマイシンを紹介し,梅毒の治療では米国の治療指針を示しながら日本での実情に即した代替薬使用を勧めるなど,実践的な記載である。「小児在宅医療」の項では,そのマナーから章立てが始まり,保険診療の実際から福祉との連携の具体例まで挙げられている。小児に使用する薬剤の適応外使用に関しては社会的問題の提議があり,巻末には,脳死判定・脳死下臓器提供も記載されている。およそあらゆる分野を網羅している。

 かつてアレキシス・カレル(1873-1944)は,医学は病人を細分化してしまったと言った。そして細分化された領域の専門家が自分の専門分野のみに拘泥すれば,その分野の理解さえも不完全になると述べた。本書は小児科とその関連領域を多岐にわたり網羅している。707項目を668人の専門家が執筆している。1970年初版の第16版であり,伝統ある書物である。伝統の上にさらに現在の知見が蓄積されている。本書を座右に置き,その目次の項目を眺め,自分ならどう対応するか考え,それからその項目を読み進める。それは,単なる座学ではなくその項目の著者との対話となる。そのような作業により私たちは「専門性」という桎梏(しっこく)を超えることができるであろう。

 プライマリ・ケアから三次医療まで,救急現場から在宅医療まで,本書は小児を診療する全ての医師が座右に置くべき書である。

A5・頁1032 定価:本体16,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02084-8


地域医療構想をどう策定するか

松田 晋哉 著

《評 者》伊関 友伸(城西大教授・経営学)

地域の事情に応じた医療提供体制を創造するために

 本書の著者は,厚労省の「地域医療構想策定ガイドライン」の基盤となるデータ整備で中心的な役割を果たしている産業医大教授の松田晋哉氏である。

 松田氏は,地域医療構想の目的は病床削減ではなく,地域の実情に応じた医療提供体制を関係者間の合意に基づいて作ることであると指摘する。低成長下の少子超高齢社会における医療制度の改革は,国民を含む関係者全員に何らかの痛みをもたらすものにならざるを得ない。そもそも,現状維持では,なぜうまくいかないのか。地域の医療をめぐる課題をデータで客観的に把握し,それをどのような理念に基づいて解決するかについて合意形成を図ることが,改革を進めていくための前提条件になる。

 その点で,松田氏は各構想区域において行われる調整会議に大きな期待を寄せる。医療者・保険関係者・行政関係者・住民が参加し,データを基に地域の医療の在り方について議論を行う調整会議は,単に機能別病床数の数値目標を掲げることではなく,質の高い医療を効率的に提供することが目的である。ただし,医療提供体制の見直しにおいては,現場の医療職の納得が重要である。医療職の専門性に敬意が払われなければ,働くインセンティブが低下し,医療の質も効率性も大幅に低下するためである。その一方,「責任化原則」に基づく,医学的な視点からの医療提供体制の適正化に向けた,医療提供者自身による継続的な改革の必要性を指摘する。

 松田氏は,地域医療構想策定において優先度の高い課題は,回復期病床数(急性期から回復期への機能転換)と慢性期病床数(慢性期の患者を病床・介護施設・在宅にどのように配分するのか)の2点であるとする。各病院が地域からの期待に応えていくために何をしなければならないか。松田氏は,医療界に根強い「急性期>回復期>慢性期」という「医療の格」に関するヒエラルキー意識を改める必要があると指摘する。

 さらに,住民に対しても「保険料率の増加も反対,医療介護にあてる消費増税も反対,しかしながら,より良い医療・介護サービスを受けたい」のは不可能であるとして,冷静な理解を求める。評者は,地域医療再生を研究テーマの一つとしており,訪問する地域では,住民の皆さんに地域医療の「当事者」であることを訴えている。きちんとした情報の提供と住民間の議論があると,住民は適切な意思決定を行うことが多い。住民が地域の医療を考える契機として地域医療構想の果たす役割は大きい。

 わが国の医療制度は正念場に直面している。問題を先送りすれば,医療制度の崩壊と混乱が起きるであろう。残された時間は少ない。地域医療構想が実効性を持つためにも,国民各層における議論を期待する。地域医療構想策定関係者だけでなく,医療にかかわる方々に本書の一読をお薦めする。

B5・頁120 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02433-4

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