医学界新聞

2015.10.12



Medical Library 書評・新刊案内


実践! 皮膚病理道場
バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍
[Web付録付]

日本皮膚科学会 編

《評 者》鶴田 大輔(阪市大大学院教授・皮膚病態学)

革命的な書籍,時空を超えた学習ツール

 バーチャルスライドを利用した『実践! 皮膚病理道場 バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍[Web付録付]』を強く推薦する。時空を超えた新時代の学習ツールであるからである。

 初めてバーチャルスライドを体験したのは,2年前に日本皮膚病理組織学会が主催する「皮膚病理道場あどばんすと」にチューターとして参加したときである。とにかく驚いた。なんと楽しいのだろう! 顕微鏡がなくても,コンピューター上で,自分の見たいところを自由自在に心行くまで見ることができ,いつでもどこでも病理組織の学習ができるのである。例えば,腫瘍を構成する個々の細胞において,核と細胞質の形態をじっくり見ることができる。「この腫瘍の構成細胞の核の形態は? 核小体の見え方は? 胞体の色は? 大きさは?」などを目に焼き付けることができる。また,そのときに学んだものをいつでもどこでも,顕微鏡がなくても繰り返し復習できるのである。バーチャルスライドがあれば,学習は時空を超えるのである!

 これまで,病理組織学を学ぶためには,大書をひもときながら実際に病理組織標本を顕微鏡を用いて眺め,一つひとつ個々の症例を積み重ねるしかなく,皆で共用する顕微鏡を「取り合いながら」利用せざるを得なかった。このため,これまでの病理学習は,臨床に追われて全ての業務が終了した後の「深夜」あるいは「土日」に行うイメージになっていたと思う。そうした意味では,本書はこのイメージを完全に超越している。なぜなら,コンピューター1台あれば,昼間から空き時間に病理学習ができるからである。

 今や,1000 gを切るパソコンは至るところにある時代である。病棟や外来で,ちょっとした細切れ時間でも病理学習ができるようになったメリットは計り知れない。実際に私もバーチャルスライドを見ながらこの書籍を通読してみた。日常診療の合間でも細切れ時間は結構あるものである。実質2,3日で通読可能であった。

 通読してみて以下の感想をもった。1)これ一冊で初学者が遭遇するであろう皮膚腫瘍を網羅している,2)大書では目に留まりにくい重要所見がコンパクトに「何度も」まとめられている,3)上級者にとっても必要な所見が書かれている。

 書籍に掲載されている写真はどれも秀逸で,記載もコンパクトかつ簡潔,そして重要事項は何度も繰り返し,それぞれの学習レベルに合わせて定着できるようになっている。単著ではないため,ごく一部に統一感のない記載もあるが,それぞれの執筆者の熱い思いが逆に伝わってくるようで好感を持てた。

 今後,第二弾として,炎症性疾患についての本書の続編が登場することを強く期待する。そうすれば,病理学習は真に時空を超えることになるであろう。

A4・頁200 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02118-0


医療レジリエンス
医学アカデミアの社会的責任

福原 俊一 編集代表

《評 者》柴垣 有吾(聖マリアンナ医大教授・腎臓・高血圧内科学)

現代医療に疑問を持つ方に読んでいただきたい一冊

 本書は2015年に京都で開催されたWorld Health Summit(WHS)のRegional Meetingで取り上げられたトピックをそれぞれの専門家が解説したものに加えて,同会議の会長を務められた京大医療疫学教授の福原俊一先生による世界のリーダーへのインタビュー記事から成っている。WHSの全体を貫くテーマは「医学アカデミアの社会的責任」とされ,さらにそのキーワードとして医療レジリエンスという言葉が用いられている。

 大変に恥ずかしい話ではあるが,私はこれまでレジリエンス(resilience)という言葉の意味をよく知らなかった。レジリエンスはもともと,物理学の用語で「外力によるゆがみをはね返す力」を意味したが,その後,精神・心理学用語として用いられ,脆弱性(vulnerability)の対極の概念として「(精神的)回復力・抵抗力・復元力」を示す言葉として使われるようになったという。今回,評者がこの書評を依頼された理由を推測するに,評者が最近,超高齢社会における現代医療の限界・脆弱性を指摘していたことにあると思われる。もっともその指摘は身内に脆弱高齢者(frail elderly)を抱えた個人的体験によるもので,アカデミックな考察には程遠いものである。

 今後の少子高齢社会や日本の社会・経済的現況を考えるに,高度先進医療はmajorityである高齢者が享受できる医療ではないはずであるが,医学アカデミアはこのお金に糸目を付けない医療を志向しているように思えてならない。また,この長寿社会においてより切実なアウトカムは延命ではなく,「ピンピンコロリ」,つまり,生きている限りのできるだけ長い期間,身体・認知機能の維持によって尊厳を持って生きることであるはずなのに,いまだに多くの臨床研究・臨床試験のアウトカムは死や臓器保護と,患者の思いとはかけ離れているように思える。これらは個人的には医学アカデミアのネグレクト(neglect)であり,社会的責任の放置であると考える。このような意味から,医学アカデミアの社会的責任を再認識し,かなりゆがんだ医療を矯正して,医療にレジリエンスを与えようという本会議はまさに時代の要請といえる。

 私は日常業務に追われ,大変残念ながらWHSへの参加がかなわなかったが,本書を読むことでその会議を疑似体験できた。私の未熟でおぼろげでしかなかった思いが,本書の内容によって強い信念に変わり,また,今後の方向性に示唆を与えてくれた。特に,個人的にこの思いを共有するアカデミアのリーダーが非常に多くいることに強く勇気付けられたことが一番の収穫であったと感じている。現代医療に少なからず疑問を持ち,今後の医療の行く末におぼろげな不安を感じている方にぜひ読んでいただきたい。

B5・頁144 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02147-0


糖尿病 作って食べて学べるレシピ
療養指導にすぐに使える糖尿病食レシピ集&資料集

NPO法人西東京臨床糖尿病研究会,植木彬夫 監修
髙村 宏,飯塚 理恵,髙井 尚美,土屋 倫子,中野 貴世 編

《評 者》立川 倶子(公益社団法人鹿児島県栄養士会顧問)

「美味しく,楽しく,満足のいく」食事療法の実践へ

 『糖尿病 作って食べて学べるレシピ――療養指導にすぐに使える糖尿病食レシピ集&資料集』が話題を集めている。

 本書はNPO法人西東京臨床糖尿病研究会で認定された開業医院(かかりつけ医)をはじめとする医療機関の栄養指導を担当する登録管理栄養士により,2004年12月から2014年12月までの10年間,68回開催され,患者さんおよびそのご家族が延べ1000名以上参加された「糖尿病食を作って食べて学ぶ会」で集積されたレシピをブラッシュアップして,資料を添付することで実際の指導現場で活用していただけるよう工夫された,糖尿病療養指導のための一冊である。そのコンセプトは,まさに「作って」「食べて」「学ぶ」であり,「美味しく,楽しく,満足のいく食事作り」をめざしたものである。

 本書は「1章 レシピ編」と「2章 資料編」からなり,「レシピ編」では献立レシピ集として春夏秋冬の季節ごとにテーマ別に,一食分の主食・主菜・副菜2品・デザートの5品目の献立名・作り方・調理のポイント・栄養指導上のポイントを示し,さらに副菜レシピ集として同一食材を使用して多彩なバリエーションレシピも掲載されている。簡単に家庭で作れる楽しいデザートレシピ集も掲載され,夢のあるレシピ編となっている。

 2章の「資料編」では30項目にわたりカラフルなイラスト入りの資料を掲載,さらにケース目次として「よく聞かれる質問や伝えたい事」のケース内容を,22項目について索引できるなど,医療スタッフが使いやすい貴重な資料集となっている。

 本書が多くの療養指導者に活用され,糖尿病の患者さん方が「美味しく,楽しく,満足のいく食事療法」を実践する一助となることを期待したい。

B5・頁192 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02107-4


眼科臨床エキスパート
網膜剝離と極小切開硝子体手術

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
寺﨑 浩子,吉村 長久 編

《評 者》竹内 忍(竹内眼科クリニック院長)

網膜剝離治療の必読書

 網膜剝離の治療に対しては本邦でもいくつかの成書が既に発刊されているが,この度,網膜剝離治療について新しい本が上梓された。『網膜剝離と極小切開硝子体手術』というタイトルのごとく,硝子体手術による治療法についての最新の方法が解説されている。

 本の構成は非常にユニークであり,総説,ケーススタディ,診断,硝子体手術,合併症に対する治療と予防について,順に書かれている。まず,総説は非常に内容のある質の高いもので,網膜剝離の診断と治療,さらには手術後の形態および機能についてERG,OCT,AOカメラによる評価を行っている。また,網膜剝離に伴う炎症,細胞死などを各種サイトカインなどによる評価とともに,わかりやすく解説している。したがって,この総説を読むことで,いかに裂孔原性網膜剝離の病態が奥深く,興味深い疾患であるかがわかる。

 ケースタディでは,代表的な12症例についての手術方法と詳細な解説が行われている。それぞれ代表的な症例を提示して,画像と図を示しながら解説しているので,非常に理解しやすい。特にアトピー性皮膚炎に伴う毛様体裂孔に関する解説は,序文にも書かれているように,わかりやすい図でよく説明されており,網膜剝離の診断の項での詳細な解説と合わせて読むと,病態と治療方法の理解が一層深まると思われる。

 網膜剝離の診断については,多くの項目を設けて詳細に記述されている。まず,解剖から始まり眼底の観察とスケッチ,疾患概念,進行度と緊急度,臨床所見では視機能検査,ERG,網膜裂孔検出の指針および前眼部検査,OCTについても的確な解説がなされている。鑑別診断に続いて,網膜剝離の疫学のほか,視神経乳頭異常,巨大裂孔,偽水晶体眼,アトピー性皮膚炎,外傷について,その成因を適切な写真と図を用いた解説は,病態を理解する上で非常に役立つと思われる。

 硝子体手術の章では,術式の選択,術前検査,手術装置の進歩,硝子体カッター,黄斑部膜処理,広角眼底観察システム,硝子体切除,周辺増殖膜処理,術中排液,光凝固,タンポナーデ,手術記録,術後管理,術後視機能評価と細項目が作成され,前半では手術に当たっての必要な知識と検査について,続いて手術方法および手技の具体的な解説が豊富な写真を用いて詳述されている。最後に,術後の経過での問題点と対応策を的確に示している。

 最終章は,さまざまな合併症と僚眼の管理であるが,ここでも多くの項目を設けて,それぞれに対する対策が具体的に示されていある。

 この本の特徴は,他の本には見られないほど網膜剝離治療に必要な多くの項目を作成し,それぞれの項目に関する41名のエキスパートが執筆していることである。各項目のページ数は少ないものの要領良く簡潔に,図や写真を多く使って解説しているため,非常に読みやすくなっている。これにより網膜剝離治療に必要な多くの課題を網羅的に解説することができている。その結果,網膜剝離治療での疑問や不明な点があった場合,この本をひもとくことによって解決策が得られるであろう。

 また,Topicsとして3つの興味深い話題が取り上げられているのも特筆すべきである。さらに付録としてWeb動画が付いているので,実際の手術手技を動画で見ることができ,大いに参考になるであろう。

 裂孔原性網膜剝離を硝子体手術で治療を行う際には,この本が必読書であることは間違いない。是非ともお勧めしたい一冊である。ただし,強膜バックリング手術方法の選択と手術方法については詳述されていないので,これについては他の成書が必要であろう。

B5・頁388 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02115-9

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