医学界新聞

2015.09.21



Medical Library 書評・新刊案内


帰してはいけない小児外来患者

崎山 弘,本田 雅敬 編
長谷川 行洋,広部 誠一,三浦 大 編集協力

《評 者》前野 哲博(筑波大病院総合診療グループ長)

経験豊富な小児科医の思考プロセスを追体験できる一冊

 小児診療について,全国全ての地域・時間帯を小児科医だけでカバーすることは不可能であり,実際には救急医や総合診療医などの「非小児科医」が小児診療に携わる機会は多い。特に総合診療医には「地域を診る医師」としてあらゆる年代層の診療をカバーすることが期待されており,実際,2017年度から新設される総合診療専門医の研修プログラムにおいても,小児科は内科,救急科とともに必修の研修科目として位置付けられている。

 このような小児診療にかかわる非小児科医にとって,最低限果たさなければいけない役割は何だろうか? さまざまな意見があるかもしれないが,最終的には「帰してはいけない患者を帰さない」ことに尽きるのではないだろうか。たとえ自分一人で診断を確定したり,治療を完結したりできなくても,「何かおかしい」と認識できれば,すぐに小児科専門医に相談して適切な診療につなぐことができるからだ。

 このたび,そんな非小児科医にとっても最適の本が発刊された。タイトルはズバリ『帰してはいけない小児外来患者』である。

 本書は第1章の総論と第2章のケースブックから構成されている。

 第1章では,筆者の豊富な診療経験と,臨床推論の理論的背景をもとに,一見軽症に見える「死の合図に該当」する疾患をうっかり見逃してしまうプロセス(=見逃さないためのポイント)が症例や図を交えてわかりやすく述べられている。その内容は小児診療のみならず,全ての診療に通じるものであり,ぜひ一読をお勧めしたい。

 第2章はケースブックである。ここに提示されている40の症例は,ほとんどはありふれた訴えから始まる。ケースの紹介に続いて,外来担当医の考えた鑑別診断やそれに至る思考回路が示される。その一連のプロセスの中で,危険な疾患が潜んでいることに気付いたポイントが「転機」として示され,さらに「教訓」としてその解説,そして「最終診断」「TIPS」の順に記載されている。

 ちなみに,同じ医学書院からは2012年に,主に成人患者を対象とした『帰してはいけない外来患者』が発刊されている。私もその編集にかかわったが,両書とも症例の経過と医師の思考回路を通して危険な疾患を見逃さないためのポイントを解説するコンセプトは同じである。読者は,思わず見逃しそうになった経緯から,どんでん返し! で最終診断がつく経過まで,臨場感をもって学ぶことができるため,非常に興味深く,また記憶に残りやすい構成になっている。

 一般的な教科書では,知識を学ぶことはできても,経験豊富な小児科医の「頭の中」,つまり思考プロセスを学ぶことは難しい。それを追体験できる本書は,小児科研修中の医師はもちろん,小児診療にかかわる全ての人にお薦めの一冊である。

A5・頁224 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02138-8


《精神科臨床エキスパート》
他科からの依頼患者の診方と対応

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
中村 純 編

《評 者》秋山 剛(NTT東日本関東病院精神神経科部長)

最高水準,かつわかりやすく述べられたガイドブック

 本書は,レベルが高いガイドブックである。

 各分野の最も優れた臨床医が執筆され,症例→解説という流れもわかりやすい。「依頼患者の診方と対応」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬」という構成は包括的であり,病態についてのMedicalな説明,治療薬の解説が現在の最高水準で,かつわかりやすく述べられている。

 ただ,本書は,「他科のスタッフの対応能力を高めるようにどう支援するか」「リエゾン精神看護専門看護師(Certified Nurse Specialist;CNS)の働き」「精神科リエゾンチーム(LT)でのスタッフの協働」などについては,記述が乏しい。これは,他科への対応・支援をLTが行うという体制が,まだ十分に確立していないためであろう。

 しかし今後は,他科の患者に精神症状が生じた場合の対応は,LTを通して行う流れになると思われる。LTでは,患者や家族に対する支援は主にCNS,臨床心理士などが担当し,他科の看護師へはCNSが支援・コンサルテーションを行い,他科の医師へはLTの医師が支援を行うという協働体制が基本となろう。他科で困っている関係者が複数いる場合には,LTの支援も複合的になるので,支援の方向性が一貫するように,LTとしてケースカンファレンスを行う必要がある。

 他科の関係者の中で,看護師は患者の身近にいて,精神症状を一番正確に把握し,ケアの責任を負い,困難を感じやすい立場にある。一方,看護師は集団としてケアを行うために,看護師が獲得したスキルは集団として受け継がれる傾向がある。精神症状へのケアに対するモチベーションの高さ,スキル伝承の可能性を考えると,他科の対応能力を高めるには,看護師のスキルアップを図ることが最も効率的であると考えられる。CNSによる他科看護師への研修,コンサルテーションを精神科医がうまくバックアップすることが重要である。

 本書で述べられている個別の問題について筆者の経験を述べると,患者の怒りによるトラブルに前向きに対応するためには,「診療効果の限界」「他の患者への不利益」を挙げるのがよい。他科から精神科への依頼については,「他科の診療だけでは,患者の症状が改善する見込みに乏しく,精神科の診療で症状が改善する可能性があるときに,他科の診療だけを続けることは患者の利益にならず,医の倫理に反する」と説明してもらえればよい。特別扱いを要求する患者には,「他の患者の治療への影響・不利益が起きるので特別扱いを継続することはできない」と説明する。通常行われない特別な診療はしないという原則を提示し,その上で,可能な選択肢の中から患者が決定するという形を維持する。患者が病になったことを受容できずスタッフに八つ当たりしている場合,「八つ当たり」を放置することは,治療スタッフに有害無益な負担を強いるばかりでなく,患者の疾病受容のプロセスをやめてしまうことになり,反治療的である。患者の怒りを受容しつつ,治療によって何が達成されるかを丁寧に説明する。

 最後に,本書のタイトルには,「他科」という言葉が使われているが,文中には「身体科」という言葉がしばしば出てくる。筆者が「身体科」という言葉を使用したところ,他科の医師に「身体科という科はない」と言われた。

 また医療安全管理の立場から,筆者が,患者にケアを行う院内の医師全員にBasic Life Support(BLS)研修を求めたところ,放射線診断・病理診断の医師は,患者のケアにまったくかかわらないのでBLS研修の例外とされることがわかった。精神科医は,もちろん全員BLS研修を受けた。精神科が,総合病院内で一番特殊な科だと思うのは,精神科医のセルフスティグマにすぎない。「精神科-身体科」という二分法で考えるより,精神科は総合病院にある多数の診療科の一つであり,全ての診療科がそうであるように,他科との連携をより円滑に行う義務を負っていると考えるのがよいように思われる。

 レベルの高い素晴らしいガイドブックが今回発行されたので,次回は,筆者が付け加えた点も含めた,さらに包括的な企画をしていただければと,ぜいたくなお願いをする次第である。

B5・頁264 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02113-5


内視鏡下鼻内副鼻腔手術[DVD付]
副鼻腔疾患から頭蓋底疾患まで

森山 寛,春名 眞一,鴻 信義 編

《評 者》佐伯 直勝(千葉大教授・脳神経外科学)

経鼻下垂体・頭蓋底手術を行う脳神経外科医に必須の書籍

 本書は経鼻的内視鏡下下垂体・頭蓋底手術を行う脳神経外科医に必須の書籍である。これから本法を学ぼうとする若い医師から習熟したベテラン医師まで,全ての術者にお薦めする。

 私は,経鼻内視鏡下単独頭蓋底手術を始めた2006年に,慈恵医大耳鼻咽喉科の鼻内内視鏡研修会を見学させていただいた。慈恵医大耳鼻咽喉科は1992年よりいち早く本領域の研修会を開催し,日本でも一番の歴史を誇っていた。熱気あふれる解剖学教室で,3日間にわたり教室の先生方が,全国からの若い先生方を丁寧に教育・指導されていた。一番印象に残っているのが,森山寛先生のライブサージェリーのデモンストレーションであった。その数十分に及ぶ操作の間,内視鏡先端をほんの1,2回だけ洗浄しただけであった。とてもきれいな手術野であった。

 今回,鼻内内視鏡手術を日本でいち早く開始し,常に本領域のリーダーとして活躍してこられた慈恵医大耳鼻咽喉科学教室の先生方が,本書を刊行された。長い歴史を誇る研修会で培った本法に対する思い入れやノウハウが詰まっている。経鼻手術の,術前後の準備,ケア,器具,鼻腔・副鼻腔手術法,下垂体・頭蓋底手術,そして,合併症への予防・対応法など,耳鼻咽喉科領域からの考え方,工夫が述べられている。

 さらに本書で特に有用なのが,付録DVDによる頭蓋底の臨床解剖,鼻内法およびcombined法の各アプローチ,各種病変に対する内視鏡下鼻内副鼻腔手術として嗅神経芽細胞腫,下垂体腫瘍,錐体尖部コレステリン肉芽腫症,斜台病変について,順を追って丁寧に説明されている点である。

 特に印象に残るのが,蝶口蓋動脈,前・後篩骨動脈といった鼻粘膜の血管解剖を丁寧に描写している点などであり,私たち脳神経外科医にとり比較的なじみが薄いものの,こういった鼻腔粘膜を操作する際の必須の情報も見逃せない。

 経鼻下垂体・頭蓋底手術を行っている脳神経外科医は,耳鼻咽喉科医の仲間と常に診療できているかというと,その実情はさまざまである。アプローチの際,通り道でありながら相当の部分を耳鼻咽喉科の先生の助けを借りずに行っていることが多いのではないかと思う。

 本領域に携わる脳神経外科医は,積極的に耳鼻咽喉科医から学び,できるだけ共同作業を行う努力をすべきである。本書はそういった実情と心構えを持つ経鼻下垂体・頭蓋底手術を学び施行する脳神経外科医に必須の良書である。

A4・頁336 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02094-7


今日の理学療法指針

内山 靖 総編集
網本 和,臼田 滋,高橋 哲也,淵岡 聡,間瀬 教史 編

《評 者》奈良 勲(金城大大学院リハビリテーション学研究科長/元日本理学療法士協会会長)

臨床での思考過程をフローチャートで明示した書籍

 日本に理学療法士が誕生したのは1966年で,今年で50年目の節目を迎える。この時期に,医学書院から『今日の理学療法指針』が刊行されたことは誠に喜ばしい。

 医学書院の看板書籍の一つである『今日の治療指針』は,1959年に創刊されている。当時,編集を担当された日野原重明氏は,「教科書ではなく,臨床の最前線にいる医師による実践書。その道の専門家が“私はこう治療している”ことを書くもの」と述べている。

 現在,医療においてはエビデンスに基づく医療が推進され,診療ガイドラインの推奨グレードは医師を含めた医療者の教育課程でも積極的に教授され,いわば治療の標準化が進められている。評者は,やはり医学書院の看板書籍である標準シリーズとして,2000年に《標準理学療法学》のシリーズ監修を引き受け,これまで15のタイトルを発行してきた。本書の総編集を担当された内山靖氏には,『理学療法評価学』『理学療法研究法』『理学療法学概説』の編集を依頼している。

 理学療法は,“サイエンスとアーツの総体”であり,かのWilliam Oslerは,“臨床医学は不確実なサイエンスであり,確率のアートである”と表現しているように,臨床実践は標準化と個別化の両輪で成り立っている。『今日の理学療法指針』では,理学療法士であれば日常臨床で遭遇するであろう16章208項目という多くの病態・動作不全を取り上げ,具体的な治療/介入プログラムを紹介している。

 本書の最大の特徴は,臨床判断の流れを統一のフローチャートで示している点にある。理学療法50年の歴史の変遷の中で,標準的な検査・測定と多くの治療手技が開発され,普及してきた。一方で,評価から治療方法を選択する臨床思考過程を実践的に明示した書籍は皆無であり,本書はこのことに真摯に取り組み,臨床での柔軟さを視覚化しようとする姿勢に魅力を感じる。

 執筆者111人の中には,中堅から若手も数多く含まれており,今後,改版を重ねることで,さらに充実した内容に熟成していくことを期待している。その際,本書では専門用語も厳密に使用し,「訓練」などの適切でない用語は使われていないが,「障害」という用語についても再考してほしい。また,病態・障害,評価,治療/介入,リスク管理,経過・予後の5項目で統一されているが,上述した特徴から評価については極めて簡潔に記載されている。ぜひとも『今日の診断指針』に対応する『今日の理学療法評価指針』も,近いうちに発刊されることを希望したい。また,医学・看護領域では,関連する書籍を電子版として利用者の便宜を図っていることから,この機会に《標準理学療法学》シリーズや『理学療法学事典』と合わせて,理学療法関連書籍の電子化を進められることを医学書院に要望しておきたい。『今日の理学療法指針』は理学療法学を学ぶ学生や臨床で働く理学療法士はもちろんのこと,理学療法を処方する医師,チーム医療を展開する看護師,作業療法士,言語聴覚士も一読して携行する価値の高い書籍である。

A5・頁562 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02127-2

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