医学界新聞

2015.08.24



物語共有のプロセスを体験

ナラティブ・メディスン・ワークショップ開催


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[講演録]ナラティブ・メディスン

写真 ワークショップの模様
 医療者が患者の物語をより詳しく知ることで,日々の診療をさらに深みのあるものにするナラティブ・メディスン(NM)。その手法を用いて,患者と医療者または医療者同士の協働関係をいかに創り出していくかについての関心が世界的に高まっているという。6月21日,聖路加国際大(東京都中央区)において,シャロン氏による本邦初となるナラティブ・メディスン・ワークショップが「ナラティブの巡礼の日」と題して開催された(主催=ライフ・プランニング・センター,プランナー=立命館大・斎藤清二氏,高槻赤十字病院・岸本寛史氏)。参加した約70人の医師・看護師・臨床心理士らは,この日約6時間にわたり,実際にナラティブを発見するプロセスとしての記述を体験したり,細やかな配慮のある面接スキルを実践したりすることで,NMの手法について理解を深めた。

 WSの目的は,シャロン氏の提唱するNMの3つの領域,attention(配慮),repres-entation(表現),affiliation(参入)を知り,NMの基礎理論と原則に実際に親しむこと。用意された絵画,小説,音楽に触れながら,氏の問いに対し3人1組のグループがディスカッションを行い発表する形で進められた。特に時間が割かれたのは,本WSの着想を得たという村上春樹氏の小説『色彩を持たない多崎つくると,彼の巡礼の年』(文藝春秋)を用いた演習。200-800文字ほどの文章を5つ精読した。

 「『死の間際』の印象について3分間で書き,グループで発表してください」。氏は,同小説の第3章に記された言葉「死の間際」に着目し,参加者にこう促した。ディスカッションを終えた参加者からは「左脳で言語化されることと,右脳で感じていることが共鳴した」「死に対する考えがグループ内で一致し驚いた」などの声が上がった。氏は「自分が記述しているからこそ,隣の人が読み上げる声を心して聞くようになり,物語の共有が生まれたことで心打たれたのでは」と解説した。

 「読む,書く,聞く」のNMの基本を繰り返し行った後,WS終盤には「伝えたいと思う経験を物語として語る」ことが課された。自由テーマで1人5分語り,その間,他の2人は聞き手に徹する。そして次の5分間で,聞いた内容,あるいは聞かれた立場の気持ちを記述した。これを3人が計30分かけて実施。演習後,あるグループが発表した記述の内容から氏は,「文章からは語り手の感じた驚きや高揚感が伝わってきた。注意深く聞いてもらったことで満足感も生まれたのでは」と話した。

 今回のWSで実践されたのは「内なる意識を目覚めさせること」(同氏)。参加者は,絵画や音楽を鑑賞することでattentionを実践し,記述することでrepresentationの手法を理解,そして一連のプロセスを経て,参加者自身が対象者に対してそれまで意識していなかったことにも意識を通じさせるaffiliationへと結びつくことを体験した。

 プランナーの岸本氏はNMについて,「医療者が活用する一つのツールというよりは,医療の核心を成す基本的なスタンスに触れるもの。患者さんの一言を書き留めておくだけでも実践を振り返ることにつながる」と強調。また斎藤氏は「今日の体験を自身の臨床実践に活かすことで,自身の物語能力をさらに高めていってほしい」と結んだ。

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