医学界新聞

2015.08.03



Medical Library 書評・新刊案内


みるトレ 感染症

笠原 敬,忽那 賢志,佐田 竜一 著

《評 者》徳田 安春(地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)

スマホ時代の勉強会 プロたちのケースをシェアしよう

 医師一人が経験できるケースは限られている。一方で,みたこともないようなケースの患者さんがどんどん受診してくる。いったいどうすればよいか? 院内のケースカンファレンスでは検査所見と画像所見のダブルチェック作業が中心であり,病歴や身体所見を吟味し解釈するトレーニングは困難である。一方で,院外の勉強会をのぞきに行くと,詳細な病歴聴取をしたかどうかのツッコミが参加者から投げ掛けられ,症例提示者は鍵となる病歴を隠そうとして慌てる姿をさらけだす。このような会に出ているだけで臨床能力はほんとうにアップするの? という質問を聞くことがよくある。

グレートケースを「リアルに」類似経験できる
 そこに本書が登場した。百聞は一見にしかず。もちろん病歴は詳細であり,呼吸数も含めてバイタルもきちんと提示されたケース集。しかしハイライトは本書のタイトルにもあるように「みる」こと。身体所見やグラム染色所見が生の写真で出てくるので,読者は担当医でなくてもこのケースを「類似」経験できるのだ。勝手に想像して「疑似」体験するしかない文章ではなく,文字では伝えきれないリアル感が写真に現れる。

 著者の三人は貢献度大だ。グレートケースを惜しみなく提示。このリスペクトすべきお三方は,スマホやカメラを駆使して毎日のケースを記録しシェアしてくれているのであろう。写真の撮り方はためになる。スマホの登場はEBMのベッドサイド導入に役立ったが,まさか爆発的なケースシェアをもたらすことになるとは。

感染症の診断プロセスそのものを学べる
 「みる」診断はSnap Diagnosisともいわれ,直観的診断(システム1)に含まれるため,冒頭には,臨床推論総論も展開されており,臨床推論入門書としても使える。『England Journal of Medicine(NEJM)』誌などのimages in clinical medicine投稿の戦略論も含まれている。世界最強のimages in clinical medicine対策本と言える。

 本書を読むと,微生物検査室を愛する感染症医の気持ちを理解することができる。カラフルな寒天培地やコロニー,そして「一心不乱に検体を塗抹する研修医(佐田氏?)」の美しい姿。数学者が数式を愛するように,感染症医は培養された細菌を愛しているかのようにもみえる。これはすてきな臨床写真を本書で「みる」ことで興奮しすぎた評者の錯覚だろうか。ちなみに泡盛ファンである評者は,もちろんアワモリコウジカビ(泡盛麹黴,学名:Aspergillus awamori)は好きだ。でも,Aspergillus fumigatusは好きになれない。その理由は本書のCASE 47をぜひみてほしい。

B5・頁200 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02133-3


医薬品副作用対応ポケットガイド

越前 宏俊 著

《評 者》平田 純生(熊本大教授・臨床薬理学/薬学部附属育薬フロンティアセンター長)

副作用の原因薬物を早期発見,「実力ある薬剤師」になる!

 薬物を処方するときの医師の主たる関心は,効果の発現に偏りがちである,と医師である著者の越前先生自らが本書の「序」に書かれている。そうすると薬剤師が薬剤師たるアイデンティティーは医薬品の安全性の確保にあるといっても過言ではない。そのために薬剤師には投与設計・副作用モニタリングを行うとともに医薬品情報を解析し病態を解析するスキルが必要となる。

 とはいえ1000成分前後の薬物を取り扱う薬剤師がこれらの全てについて精通することはまず不可能であり,添付文書を調べるだけではどれもが副作用の原因薬物ではないかと迷ってしまうであろう。

 本書は112種類にわたる副作用を13項目に分類し,有害反応を疑う症状から原因薬物を逆引きして鑑定できるポケットサイズの本である。試しに私の専門分野である腎機能・電解質のページを開いてみた。腎前性腎不全にはかっこ付きで「腎血流減少による」と書かれている。また,ネフローゼ症候群の症状の蛋白尿にはかっこ付きで「尿の泡立ちが強くなる」と書かれている。添付文書に書かれていない副作用発見のポイントが実にわかりやすく表現されている。そして症状の欄を見ると語句の使い方,副作用の定義が最新のガイドラインにのっとって記されており,膨大なデータベースからコンパクトでわかりやすくまとめられているにもかかわらず,記載内容には間違いがない。原因となる薬剤,副作用の起こるメカニズム,患者側のリスク因子,どのように対応・処置するべきか,検査値による判断,副作用の予防法など全てにおいて的確に記載されている。

 副作用が起こったときにどの薬物が原因薬物であるか,各医薬品の添付文書から調べていたら膨大な時間を費やし,不要な情報も入ってきて判断に苦しむに違いない。その症状や頻度から調べることができる本書を白衣のポケットに忍ばせておけば,臨床現場でこれほど威力を発揮するものはないであろう。

 目の前の患者に配慮した有効かつ安全な薬物治療を提供できる「実力ある薬剤師」になっていただくために,病院薬剤師はもちろん,患者のカルテや検査値を見ることのできない開局薬剤師にも,本書をうまく活用し副作用発現の原因薬物を早期発見していただきたい。さらに実務実習や症例検討会などの教育分野やさまざまな場面で本書を活用することによって患者本位の安全な薬物治療を速やかに実践していただきたいと願う。

B6変形・頁288 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01985-9


今日から使える医療統計

新谷 歩 著

《評 者》香坂 俊(慶大講師・循環器内科)

第一線で活躍する統計家が,現実的な視点で,知りたかった問題に答えてくれる

 自分は最近,無謀にも 臨床系の大学院を開設するなどして1),院生と循環器疾患の大規模レジストリからの分析を行ったりしている。そこでよく「統計難しいっすね」などという趣旨の発言を耳にしたりもするのだが,厳密にはそれは間違った認識であると思う。

 実は統計の理論そのものはそれほど難しいことではない。高校数学の新課程では「データ解析」が【数I】に織り込まれ(2012年-),高校生でもその基本的なコンセプトは習得可能,とされている。実際,進研ゼミのQ&Aなどを見ても十代にして彼らの理解度は恐ろしく高い2)

 なので,極端なことを言えば,統計解析というのは足し算や引き算のような演算の一種であり,統計家は電卓である()。ただここで問題なのは,

医療者が考えるほど統計という学問も「カッチリ」したものではなく,逆に医学という学問も統計家が思うほど「キチッ」としていない
ということではなかろうか。日常の臨床には非常に多くのヒューマンファクター(目に見えない交絡因子)が存在し,それを互いが認識し,共同作業で補正していかないときちんとした研究を行うことはできない。

 そこで本書『今日から使える医療統計』である。これまで数多くの統計系の書籍が出版されてきたが,どこか「カッチリ」した教科書が多く,実践とはかけ離れている感があった。本書はそうではなく,現役の第一線で活躍されている統計学者の新谷先生が極めて現実的な視点でポイント絞った解説をしてくれている。記述統計の項から入り,終盤にはロジスティック回帰分析や生存解析の多変量解析モデルや,最近の医学論文では当たり前に目にするようになったc-statisticsやnet reclassification improvementの内容までもカバーしている。

 特筆すべきは,新谷先生が米国でGrant(研究費)の申請を行ったり,あるいは論文の査読を行ったりする立場の人物であるというところである。そうした立場の方の生の声はなかなか聞こうと思っても聞けるものではない(しかも,日本語で!)。中でもパワー計算(必要な症例数の算定)に関する率直な議論や,重回帰分析を行うにあたっての共変量の考え方など,まさに多くの方々が解答を見つけられずにいる問題ではなかろうか?

 現代は,良くも悪くも,クールに大量のデータが手に入る時代になった。ここで問われるのはそのデータの「質」の評価,そしてそれを解釈するための正しい疫学や医学統計知識であろうと感じている。新谷先生も前書きで述べられている通り,残念ながらわが国の医療統計を取り巻く環境は未発達である。Evidence-Based Medicineに必須な知識を少しでも高めていただくため,ぜひ論文を読み始めた方々,あるいはこれから自分で疑問を解決しようという方々に,一読いただきたい好著である。

A5・頁176 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01954-5

:筆者は実際に統計の専門家からそのように自己紹介されたことがあり3),統計家の先生方に悪意があるわけではありません。

1)慶應義塾医療科学系臨床研究大学院
2)http://kou.benesse.co.jp/nigate/math/
3)Kohsaka S, Sciacca RR, Sugioka K, Sacco RL, Homma S, Di Tullio MR. Electrocardiographic left atrial abnormalities and risk of ischemic stroke. Stroke. 2005 ; 36 (11); 2481-3.


みるよむわかる生理学
ヒトの体はこんなにすごい

岡田 隆夫 著

《評 者》中尾 篤典(兵庫医大准教授・救急・災害医学)

基礎と臨床の橋渡しをしてくれる,全ての臨床医にお薦めしたい本

 医学部の学生のころに学んだ生理学は,何とも難解で,拒絶にも近い感情を持っていたことを記憶している。本来生理学は医学の中心を成す最も大切な分野であるといっても過言ではないが,医学部の課程の比較的初期に学ぶため,その大切さに後から気付くことが多いように思う。小生もまさにその類に属し,生命科学の基盤であるべき生理学の重要さを最近,学生に臨床医学を教える立場になって再認識している。

 岡田隆夫先生により執筆された本書は,もともとは薬剤師向けの雑誌に連載されていたものであり,21の臓器・機能別の項より成っている。平易な文章で簡潔に書かれているため,読み始めると一気に読み進めることができるが,小生はあえて,オフィスのソファに横になり,救急患者さんの検査結果が出るまでの待ち時間を利用したり,移動の電車中などを利用して読んでみた。それくらいどこから読んでも,気楽に生体の機能とメカニズムを理解することができる好著である。

 美しいレイアウトとともに,コミカルな挿絵も魅力的であるし,ユーモアに富んだ(親父ギャグともいうが)コメントからも,著者の細やかな気遣いが感じられる。また,コラムには,なるほど,と感心させられる著者の体験談なども盛り込まれており,最近発表された最先端の論文に公表されたデータなども実に簡潔に興味を引くように工夫されて引用されている。著者の専門であるところの循環器に関する記述は,さすがにその道の第一人者として造詣の深さを感じる。

 本書は非常に知的好奇心をくすぐるので,小生はもう少し詳しく調べてみたいところに付箋を貼りながら読んでいったが,読み終えたときには本のほとんどのページに付箋が貼られていたことに気付いた。引用文献などの記載があれば,小生のようにさらに深く学習したいと思う読者により親切であったかもしれないが,英語が並ぶページを省くことで本書が堅苦しさから解放されているのであろう。多数の読者に対する著者の優しさや心遣いは,こういうところからもうかがいしれる。

 長年,医学・看護学教育に尽力してこられた著者ならではの平易な言葉遣いは,実際に大学で教鞭を執るわれわれにとっても斬新で大変参考になる。『生理学』というタイトルの本ではあるが,著者の膨大な基礎医学の知識に基づき,病理学,分子生物学についても理路整然と説明がなされており,本書はまさに「生理学を口語調で語る」本である。

 本書は,学生はもちろんであるが,ある程度医学全般を修めた臨床医にとっても,あらためて生理学に違った立場から触れ,その面白さを気付かせてくれる。小生は,現在は救急医学で臨床医として多忙な時間を送っているが,前述したように本当に「気軽に」読める本であり,研修医や学生の指導にも大いに役立てたいと思っている。本書は,全ての医師,特に教育にかかわる医師に強くお薦めしたい。

B5・頁184 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02120-3


大人の発達障害を診るということ
診断や対応に迷う症例から考える

青木 省三,村上 伸治 編

《評 者》福田 正人(群馬大大学院教授・神経精神医学)

日々の診療に役立つだけではない,大胆な問題提起の書

 「200ページ以上の症例集部分は退屈するのでは」,そうした予想はすぐに裏切られた。「あぁ,やはりこう考えていいんだ」,読みながら繰り返しそう思い,「どのくらいの精神科医が同じように考えるだろうか」,読み終えた今,そう考えている。学会でたまたまお目にかかった編者の青木省三先生は,「まだ証拠もない仮説の段階ですから」と謙遜しておられたが,臨床実感に根差した確かな見方である。

 「発達障害ではないと思っていた自分の患者の数%が,いや数十%が実は発達障害特性を持っている」と考えるようになった編者は,「発達障害徴候がそこそこあるが,発達障害と診断してよいのかどうか迷う『白でも黒でもない灰色』に位置する人たち」を主な対象とした適切な書籍がないことに気付く。そこで,川崎医大精神科の仲間と自らの経験に基づく症例集を編むことになった。

 中心は,51症例からなる第2章である。統合失調症,アルコール依存症,難治性うつ病,境界性パーソナリティ障害と一応の診断名が付いている場合もあるが,「こだわりエネルギー」「心配の暴走状態」「急性期なのに笑顔で穏やか?」というタイトルから,臨床で出合うさまざまな症例が取り上げられていることがわかる。診療の経過に添え,「どう考えたか」という臨場コメントがあり,「考察」で一般化される。

 豊富な症例についての経験のまとめが,編者による第1章と第3章である。そこには,大人の発達障害の診察と支援について,臨床家に役立つ知恵が印象的なキーフレーズとしてちりばめられている。例えば,「発達障害は生活障害なのである」「発達障害的な特徴がいくらかあるために,適応障害になってしまったのだと理解できる事例が非常に多い」「発達障害特性は,その人にかかるストレスによって,強く現れたり逆に見えにくくなったりする」「精神症状が急速に表れ消退する,人や場面によって異なって表れてくる」「『積み上げ』が起きにくい」「『リセット』がある」。

 支援についての心掛けは,「正確なコミュニケーションを心がけるのが基本」という指摘から始まり,「発達障害の人は,人を求めている」「すべての灰色事例の人が必要としているのは『人生の解説者』『人生のガイド役』,指導者よりも解説者」「『困ったら相談する人』『困らなくても何かと相談する人』になってもらう」「周囲の人と『助け合う人生』,助け合えば薄まる」と続く。

 こうした発達障害についての広いとらえ方が導くのは,「発達障害の傾向をもつ人の診療は,これまでの診療と基本的には変わらない」「『本人の特性に合った対応』は精神科臨床の全ての基本である,発達障害臨床こそが精神科臨床の基本である」ことへの気付きであり,「発達障害臨床の最終目標は,その人の個性や持ち味が認められ,凸凹が許容される生きやすい社会の実現である」という信念である。

 日々の発達障害の診療に役立つだけでなく,「人を見る際の視野を,定型発達から発達障害へ広げ」ることで,「これまでの成人精神医学に大幅な変更を求める」大胆な問題提起の書でもある。人の心について,心と言葉の関係について,そして発達障害とはどういうことなのかについて,考えを新たにし議論を深めるために多くの精神科医に手に取っていただきたい。「ウラがなくオモテだけで生きている人がもつ透明感」を「純度の高い人として尊敬」する,それが編者お二方の姿勢である。

A5・頁304 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02201-9

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