医学界新聞

寄稿

2015.06.29



【寄稿】

全国の医療者をネットでつなぐ学習会
無料で参加できる「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ/カンファレンス」

木村 眞司(松前町立松前病院 院長)


 水曜の朝7時半,全国約80か所の病院や診療所でパソコンのスピーカーが鳴り出す。「おはようございます。松前町立松前病院の△△です。プライマリ・ケアカンファレンスの時間となりました。今日は京都府の○○病院によるケースシェアリングカンファレンスです。では,よろしくお願いします」。画面に講師の顔とスライドが映し出されてカンファレンスが始まる。

 「症例は39歳女性。主訴は関節痛。10日前に発熱・頭痛・関節痛で当院救急外来を受診し,内服薬処方で帰宅。2-3日で症状は改善しましたが……」。講師は現病歴をひととおり提示すると「どんな質問をしたいですか?」と参加者へ問い掛ける。数秒後,全国の視聴者からチャット画面に書き込みが入り始める。講師はそれらに答えると,「現時点で考えられる鑑別診断は?」とさらに問い掛け。チャットには鑑別診断が次々と並んでいく。この後,身体所見,検査結果,最終診断と続き,解説へ。最後は質疑応答で締めくくり。午前8時,各施設から「○○病院7名参加。ありがとうございました」「△△診療所1名」などの参加報告があり,終了――。


 これは,当院が主体となって運営するインターネット上の学習会の模様です。毎週水曜日と木曜日の朝7時半からの30分間,全国各地の医療機関や個人をつないで,プライマリ・ケアに関連する実用的な講義とカンファレンスである「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ」と「プライマリ・ケアカンファレンス」を行っています。

インターネットの学習会は世代と職種,地域を超えて

 これらの学習会は,医療関係者ならどなたでも無料で参加できるもので,2015年6月時点で,43都道府県の291の施設や個人が登録しています。診療所,地方の中小病院,都会の大病院,大学病院など,あらゆる規模の施設が登録しており,北は北海道の礼文島,南は沖縄の宮古島まで広がっています。参加者の層も医学生,初期・後期研修医,中堅からベテラン医師,医療スタッフ(看護師,薬剤師,臨床検査技師など)と幅広い顔ぶれです。毎回の参加施設数は,水曜日は70-80か所(推定約240人),木曜日は90-115か所(推定約300人)となっています。

 水曜日に行う「プライマリ・ケアカンファレンス」では,冒頭に提示したようなケースシェアリングカンファレンス(症例共有会)や,症例の診断・治療などに関する一問一答形式の「症例クイズ」,そして文献の抄読会を行っています。参加している全国の診療所,病院,大学がこれらを交代で担当することで,大きなスケールで学習内容の共有が可能になっています。

 また,木曜日に行うのが「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ」で,プライマリ・ケアの実践にすぐに役立つ内容の講義としています。講師はほとんどの場合,各地の参加施設の医師が担当。そのため,内容もバラエティーに富んでいます。最近の講義のトピックの例は以下のとおりです。

 ●「プライマリ・ケアのための骨関節 X線の読み方」
 ●「医師に知っておいてほしい口腔疾患」
 ●「子どもの咳」
 ●「褥瘡」
 ●「30分でわかる不整脈講座」

「いっそのこと,同時中継しよう」から始まった

 この取り組みが始まったきっかけは,01-02年度の厚生科学研究「北海道の地域医療における情報通信技術を用いた生涯医療教育及び遠隔医療支援」にまでさかのぼります。この研究の中で,札医大地域医療総合医学講座(以下,講座)と当院はテレビ電話を用いて遠隔抄読会を開始し,その後,インターネットテレビ会議システムを用いるようになりました。そして04年に臨床研修が義務化された際,講座内で始めることにした大学病院の研修医向けの講義を「いっそのこと,インターネット上で同時中継しよう」と検討。同年5月,「初期研修医向けレクチャーシリーズ」として開始しました。

 いざやってみると,さまざまなステージにある医師や他の医療職にとっても有用であることがわかり,半年後には「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ」と改称。以後,さまざまな変更を経て満11年。15年6月末時点で通算522回を数えます。

 さらに,レクチャーのみでは不十分と考え,「プライマリ・ケアカンファレンス」を05年10月に開始。こちらも,途中1年間の休止を挟んだものの,通算400回以上を行っています。

プライマリ・ケアカンファレンス時の画面イメージ
左上に講師,左下にチャット画面,右にスライドを表示。視聴者の発言を拾いながら,インタラクティブな形で進められる。

生涯学習の場として発展

 当院が運営の主体となったのは,2010年から。裏方として運営を支えてくれているのが,講座(主催者)と,むかわ町国保穂別診療所,参加者の皆さん,そして札医大附属総合情報センターです。同センターがインターネットセミナー用のアプリケーション(V-CUBEセミナー)の費用を負担してくれていることから,これらの学習会の参加費は無料となっています。それ以外の運営は全て手弁当。各発表者にも無報酬で発表していただいています。

 運営の大部分は当院の医師が担っているため,負担が大きいのも事実。カンファレンスの担当施設の割り当てやレクチャーの講師の依頼も結構な手間ですし,本番前のリハーサルにも長い時間を掛けています。そのぶん,膨大な経験やノウハウを蓄積しています。毎回事前にリハーサルをしていても,年に数回は接続のトラブルに見舞われます。そんなときも参加者の皆さんは温かい目で見守ってくれております。

 これらの学習会については,総じてうれしい声をいただいています。「内容が多岐」「頑張っている仲間がいるとわかる」「へき地離島でも生の声の情報を得られ,非常に有意義」「フラットな関係で議論できる」「地域医療や総合診療に興味・理解のある方の集まりという方向性がよい」「製薬会社主導でない点がいい」等々。生涯学習の場として徐々に発展してきたことを感じていますが,参加者の皆さんと共に作り上げてきたものといえると思います。

プライマリ・ケアの質向上も視野に

 なぜ,この取り組みを続けてきているのか。それは,総合診療医(家庭医)やその他の医師,医療スタッフなどがどこにいても学ぶ機会が得られるようにするため。また,自前でカンファレンスを行うのが難しい医療機関にその機会を提供するため。さらには,都会や地方のたくさんの医療機関がつながるため,です。今後,さらに多くの医療者と共に学び,知識や経験を共有することにより,プライマリ・ケアの質を高めていくことにも貢献したいと考えています。ゆくゆくは,ビデオオンデマンドの導入,資料のデータベース化なども目指していきます。

 全国の仲間と共に学ぶ「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ」「プライマリ・ケアカンファレンス」で,皆さんも一緒に勉強してみませんか?

◆「プライマリ・ケアレクチャーシリーズ/カンファレンス」に参加希望の方へ

下記の情報を記載の上,松前町立松前病院(mituharu@forest.dti2.ne.jp;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)にメールでお申込みください。1週間ほどでIDとパスワードを発行させていただきます(担当:吉野光晴内科部長)。

①施設名(個人参加の場合は氏名 ※できれば所属も)
②都道府県・市町村名
③担当者名(個人の場合は氏名)
④参加登録用メールアドレス(hotmail はご遠慮ください)
⑤連絡用メールアドレス(確実に連絡のとれるアドレスを。連絡用メーリングリストに登録させていただきます)
⑥電話番号(確実に連絡のとれる番号を)
⑦参加のきっかけ(例:「週刊医学界新聞で読んだ」など)

※詳細は,札医大地域医療総合医学講座ウェブサイトをご参照ください。

松前町立松前病院一同(筆者は奥左から2番目)でお待ちしてます。


きむら・しんじ氏
1989年札幌医大卒。横須賀米海軍病院,茅ヶ崎・大和徳洲会病院での研修を経て,91年より米国へ。家庭医療科レジデント,老年科フェローを経て,96年茅ヶ崎徳洲会病院,2000年札医大地域医療総合医学講座。05年より現職。専門は総合診療(家庭医療)。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長,北海道ブロック支部長を務める。

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