医学界新聞

インタビュー

2015.04.27



【interview】

看護師を世に出す誇りを持って
池西 靜江氏(Office Kyo-Shien代表/日本看護学校協議会副会長)に聞く


 新年度を迎え,さまざまな場所で新生活がスタートしました。「百年を思う者は,人を育てよ」という言葉があります。学校でも,職場でも,後進を育てていくことは欠かせません。教育の面白さとは,一体どこにあるのでしょうか。

 本紙では,長年看護基礎教育の教員を務め,現在は全国で教員向けの講演やセミナー,看護学校運営に関するアドバイスなどを行い,教育現場の後方支援に尽力されている池西靜江氏に,看護基礎教育の魅力ややりがいについて伺ってみました。


――定年退職まで約40年にわたり教員を務められた後,現在では全国に活動の場を広げ,教育現場を支援されていますね。立場が変わり,看護教育の現状をどのように見ていますか。

池西 いろいろな学校を訪問し,地域の特性や学校の事情,先生方のお気持ちなどに触れる機会が増えました。その中で共通して感じるのは,教員の業務が煩雑すぎるということです。専門学校の専任教員は講義と実習を並行して行いながら,教務事務的な部分も担わなくてはならないのですが,そもそもの教員数が不足しているという問題があります。ですから,多くの方に教育の仕事に興味を持ってほしいし,興味があれば教育の世界にぜひ挑戦してほしいと,常々思っています。

学生が“看護師”になっていく場

――先生がお考えになる教育現場ならではの魅力を教えてください。

池西 学生が変化していく過程を見られることが何よりの喜びです。入学時は自己中心的な側面を多く持っていた学生たちが,看護を学ぶことで,他者への配慮ができるようになり,“看護師”になって卒業していく。これほど人の成長を実感できる仕事は,そう多くないと思います。

――自分とのかかわりの中で,成長を感じ取れるのはうれしいですね。

池西 特に専門学校の場合,その変化を実感しやすいのかもしれません。それはなぜかと言うと,指導要領で1クラス40人までと決められており,比較的小さな集団を対象とするためです。基礎看護学実習などは教員全員が担当することになりますから,自然と自分の専門を超えた形で,学生一人ひとりと密接にかかわることができます。つまり,学生が成長していくプロセスを一貫して追うことができる環境にあるのです。

――教員としての手応えが,より得やすいということでしょうか。

池西 はい。ただ,注意しなくてはいけないのは,教育による変化は一朝一夕には現れないということです。臨床現場では,看護師の援助によって患者さんの苦痛が目に見えて軽減する場合も多いですよね。そこが臨床と教育で少し違う点で,成果をすぐに実感できないことに悩んでしまう教員もいるようです。

――そうして悩んでいる教員には,どのようにアドバイスされていますか。

池西 一人の学生の入学から卒業までかかわった上で,自分が学生に何を伝えられるのかを考えてみてほしいと話しています。教育における変化を実感するのは,入学から卒業までのように,一定の期間を置いて学生を見たときです。卒業シーズンは教員として最もうれしいし,自分の仕事にあらためて誇りが持てる時期だと思います。

――先生は副校長として,専門学校の管理もされていました。学校を運営する上でも面白さはありましたか。

池西 ええ。専門学校くらいの小規模な組織ならではの良さがありましたね。人が少ないということはマイナス面もありますが,一人の教員の意見が反映されやすいという側面もあります。

 取り入れたい教育方法などがあっても,規模が大きくなると複数の手続きを踏む必要があったりして,体制を変えるのは大変でしょう。その点,小規模な組織だと,学内で趣旨をきちんと説明して賛同が得られれば,すぐに動き出せます。私が勤務していた学校では,2003年という比較的早い時期からOSCE(客観的臨床能力試験)なども導入していました。時代の変化に応じて,良いと思った方法に全員で挑戦できるのが,小さな組織に所属する面白さだと思います。

――教員同士の結束力も強まりますね。

池西 そうなんです。演習一つを始めるにしても,一人ではできません。学校全体を動かすような取り組みを始めようと思えば,皆で取り組まなくてはいけないので,チームワークが非常に大切です。仕事がつらいとき,仲間の教員の存在は支えにもなりますね。

全ての学生に公平でいること

――先生は,教員の仕事がつらいと感じることはありましたか。

池西 私は小さいころから教師になるのが夢だったので,つらい,辞めたいと思ったことはありませんでした。それでも,教員になりたてのころは,学生との向き合い方についてかなり悩みました。最初に担任を任されたときはまだ若かったこともあり,学生と友だちのような関係を作ってしまったのです。これではいけないと思い,次の年は距離を置くように心掛けた。そうしたら,今度は「池西先生,怖い」と言われてしまいました(笑)。

――バランスが難しいのですね。その経験を通じて,教員として何を意識すべきだと考えていますか。

池西 私は,全ての学生に同じことを求められても,応えることができるかどうかを,自分がすべきことの判断基準にしていました。例えば,何時間にもわたる面接指導を全員に行うことはできませんね。特別な事情があるときは確かにあるかもしれませんが,全ての学生に対して公平でいたいのです。全員に同じことができないのであれば,それは私たちが教員として本当にやるべきことなのかを再考する余地があると思っています。

――教員としての在り方を聞く思いです。

池西 学生が教員を信頼し,認める気持ちになったとき,私たちは名実ともに「教員」だと言えます。距離が近いとか遠いとか,「教員だからこうしなければ」というよりも,学生から教員だと認めてもらえるような看護の心や技を示せなくてはいけない。教員として,「学生に伝えるべきもの」は常に持っておく必要がありますね。

新人教員は「臨床力」,ベテランは「授業力」を武器に

――経験の浅い教員の中には,「伝えるべきもの」になかなか自信が持てない方もいるのではないでしょうか。

池西 看護師としての経験を積んでいても,教員としては一からのスタートですから,最初はうまくできなくてもいいのです。教員になりたてのころは「臨床に近い」という強みを生かしてほしいと思います。学生は,まだ見ぬ現場に非常に強い興味を持っていますし,臨床から離れて久しい教員にとっては「今の現場」を伝えてくれる存在は頼りになります。教員としての経験を積めば,次第に教育技術や知識がついてくるので,今度は経験の浅い教員のサポート役に回れるようにもなるでしょう。経験年数に応じた役割分担があって,お互いの足りない部分を補い合えるのが,教育現場の良いところでもあります。

――新人教員には,新人教員なりの強みがあるわけですね。

池西 ええ。ですが,なんといっても教育の中核は「授業」です。授業というのは講義,演習,実習を含みますが,学生が教員に求めるものは,教育への熱意や教育技術であることは間違いありません。だからこそ,教員は授業で勝負をしないといけない。最初から立派にはできなくても,授業力を向上させるために努力をする姿勢は持っていてほしいですね。

教育には夢がある!

――臨床から教育の現場に移るには,環境も随分変わるので,かなり覚悟が必要なように感じます。

池西 実はそうでもなくて,私は臨床と教育の根底にある部分は同じではないかと思っているのです。それは何かと言うと,相手のことをしっかりと見て,今何ができるのか,何をしなくてはいけないのかを考えるという点です。そういう意味で,看護師として生き生きと頑張っている方は教員にも向いていると言えます。教育に興味があって,向上心さえ持っていれば,続けていくことができるでしょう。

――勉強を続けているうちに,教育の面白さがわかってくるのですね。

池西 はい。確かに教育が実を結ぶのには時間が掛かりますが,長い目で見ると,看護全体の質を向上させる一番の近道だと思うのです。自分が看護師としてケアできるのは,今,目の前にいる患者さんだけですが,教員として学生を育てれば育てるほど,ケアを提供できる人を増やすことができます。これって,とても夢がありませんか。

――教育現場へのリクルートメッセージをお願いします。

池西 やはり学生の成長を見られることが,何よりもうれしい経験です。特に学生が卒業する瞬間は,「教員をやっていて良かった!」と心から思えます。教育の現場に来たばかりで悩んでいる先生や,教育に少しでも興味を持っている臨床の方には,ぜひこの気持ちを味わってほしいです。

(了)


池西靜江氏
国立京都病院附属看護助産学校,京都府立保健婦専門学校(現・京都府医大)卒。国立京都病院呼吸器内科での臨床経験後,京都府医師会看護専門学校,(専)京都中央看護保健大学校に勤務。37年の看護教員生活を経て,2013年より現職。現在,看護教育者向けの講演・セミナー,看護学校運営に関するトータルアドバイス,看護学校での講義など看護教育に関する多くの活動に携わっている。『看護教育へようこそ』(医学書院)など著書多数。

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