医学界新聞

対談・座談会

2015.02.09



【対談】

医学生のための勉強会指南

草場 鉄周氏(北海道家庭医療学センター理事長)
森 祐樹氏(札幌東徳洲会病院・臨床研修医)


 医学生の向学意欲の高まりやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及を背景に,医学生・研修医が主体となる勉強会が全国各地で盛んです。研修医顔負けの臨床医学知識を持つ「デキる医学生」が活躍する一方で,「勉強したことが臨床実践につながらない」「普通の医学生にとっては勉強会自体のハードルが高い」などの声も聞かれます。

 では,どうしたら有意義な勉強会になるのでしょうか。そもそも,医学生にとって勉強会の「真の意義」はどこにあるのでしょうか。「ケーススタディによる勉強会の元祖」とも呼べる草場鉄周氏と,在学中から全国の勉強会の運営にかかわってきた森祐樹氏が,同じ悩みを抱えて悶々とする後輩に指南します。


 僕が最初に勉強会の企画に携わったのは医学部4年生のときです。クラスの有志で集まり『ベイツ診察法』(MEDSI)を輪読し,それをもとに学生同士で身体所見を取り合ったりしました。翌年には公式サークルとして大学に認めてもらい,ケーススタディ形式の勉強会を週に1回開いていたほか,市中病院から講師を招聘することもありました。

 当時九州の他の大学でも同じような勉強会が多数立ち上がっていました。そのうちに,おのおのの大学で活動していたメンバーが一堂に会し,そこで学んだことを自大学に持ち帰るという好循環が生まれました。その活動を応援してくださったのが徳田安春先生(地域医療機能推進機構本部研修センター長)です。徳田先生には何度となく九州に足を運んでいただき,感謝してもしきれません。

 そのほか,「Resident’14」という2014年卒研修医の全国ネットワークを発足させ,山中克郎先生(諏訪中央病院内科総合診療部)や福原俊一先生(京大大学院教授・医療疫学)を講師として招聘して勉強会を企画したり,「チーム関西」という関西地区の合同勉強会にも参加したりしていました。

草場 すごいですね。僕が学生のころは,学生同士の勉強会というとせいぜい国試対策ぐらいで,まして大学の枠を超えて臨床医学を学ぶような発想はありませんでした。

 SNSの普及によって勉強会の開催案内やノウハウなどの情報の共有が容易になりましたし,Skypeを使って遠隔地からケーススタディに参加してくださる指導医の先生もいます。勉強会ブームがピークを迎えた世代なのかもしれません。

ケーススタディによる勉強会はこうして生まれた

 草場先生がケーススタディによる勉強会の手法を紹介した,医学生時代のご寄稿を拝見しました(本紙第2331号,1999年3月22日付)。どのような経緯で始めたのですか?

草場 臨床医学の講義に衝撃を受けたのが最初のきっかけでした。

 臨床医学の面白さに触れたから?

草場 いや,「このままだと本当にヤブ医者になる」と不安になって(笑)。もともと基礎医学の講義を受けているうちから「もっと臨床の勉強をしたい」という気持ちはあったのですね。でも低学年のうちは仕方ない,と割り切っていました。それでいよいよ4年生になって臨床医学を学べると思った。でも実際に受講してみると,臓器系統別の基礎医学を学んでいるような印象を受けたのです。

 疾患の病態生理を学ぶことはもちろん大事です。でも,「患者さんがどんな症状を訴えて受診するのか」「どのような治療やケアを行えばよいのか」が,講義を聴いているだけではわからない。数か月は真面目に受講しましたが「これはやっぱりまずい」となりました。そこで,実際の患者さんの症例を扱うケーススタディで臨床医学を学ぶ方法はないかと考えていたら,たまたま適した洋書(『Diagnostic Strategies for Internal Medicine』Mosby)に出合えた。そこから全てが始まった感じです。

 勉強会のメンバーは何人ぐらいでしたか?

草場 最初は5人で,後でもう1人加わりました。それで,4年生の秋から本のケースを題材に勉強会を始めたのです。

 勉強会は講義の後に?

草場 いえ,講義中です(笑)。実は教授会の了承を得ていました。

 当時の京大医学部にも,わずかな時間ながら診断学・症候学の講義があって,これはまさしく僕たちが学びたかった内容でした。それで,当時講義を受け持っていた総合診療部教授の福井次矢先生(現・聖路加国際病院長)に勉強会の内容についてご相談したところ激賞され,ハーバード大のケーススタディ・メソッドに関する教材も提供してくださいました。それだけでなく教授会にも諮ってくださり,「講義を実施している時間に勉強会を実行していい。ただし試験は免除しない」という条件で,認められたのです。

 普通だと「けしからん」となりそうですね。

草場 1年間の期限付きで,実験的な試みだったようです。とてもありがたかったですね。教授会の公認を得た後は,医学部のセミナー室の鍵を教務課で堂々と借りて,毎朝9時半から夕方まで勉強しました。

 もちろん臨床実習が始まってからは,毎日の実習こそが最高のケーススタディなのでそちらに集中しました。勉強会は夕方以降とし,内容もUSMLE(米国医師国家試験)の問題集に切り替えました。

ケーススタディによる勉強会(1997 年当時,写真右が草場氏)

臨床推論ブームの落とし穴

 草場先生が最初に「ケーススタディによる勉強会」を紹介されてから10年以上が経って,今は全国各地で勉強会が開かれるようになりました。ただ全体でみると,勉強会に熱心な医学生は少数派で,学内では少し浮いてしまうこともあります。

草場 いまだにそうですか? 意外ですね。

 少数派だから,他大学の学生と肩を寄せ合ってやるしかない。大学の枠を超えた勉強会ブームの背景には,そうした事情もあるように感じます。

草場 確かにそうかもしれませんね。医学生主催の勉強会に講師として呼ばれることも多いのですが,コアメンバーが抜けた途端に参加率が激減するのを目にします。

 継続は難しいですね。一部の人だけで引っ張っていくと,優秀な人はどんどん優秀になるけど,普通の医学生にとっては敷居が高くなってしまうというジレンマがあります。僕自身もどちらかというと劣等感の強いほうなので,「すごく優秀な人たちに囲まれてしまって,こんなところで恥ずかしくて発言できない」という思いを何度もしています。

草場 向上心のある学生の意欲はどんどん伸ばすべきで,そういう意味での「偏り」は勉強会なのであってもいいのでしょう。でも,一部の人が突っ走ってしまい,参加しづらい雰囲気が出るのなら工夫の必要があるのかもしれません。

 勉強会の内容が「もの知り博士のクイズ大会」になると参加しづらくて,それは臨床推論ブームの落とし穴かもしれません。

 もちろん,臨床推論ブーム自体は「臨床に直結した勉強をしたい」という学生の意欲の表れで,それは素晴らしいことです。僕自身もたくさんかかわってきましたし,学びたい後輩がいれば全力で応援するつもりです。ただ臨床に出てみると知識だけではうまくいかないことが多いし,「臨床に直結する」の意味を履き違えてはいけない。これは,わが身を振り返っての反省です。

草場 よくわかります。医学生は厳しい大学受験を経験しているので,難易度が高い問題を解くのが好きな人が多いですね。その延長線上で,診断が困難な症例をクイズ形式で解く方向に偏重してしまうと危険かもしれません。

 僕自身の学生時代は,そういう方向に行けなかったし,行かなかった。NEJM誌のケースレコードに挑戦していた時期もありますが,難し過ぎてピンとこなかったですね。それよりも,common diseaseを題材に,疾患の基礎知識や診断・治療のプロセスを学ぶことに時間を割いていました。

患者さんとの経験を共有する場としての勉強会

 勉強会だと,文字通り「患者不在」ですよね。医学生・研修医にとってベッドサイド以上の学びはないし,いくら勉強会で活躍しても,患者さんや同僚の医師,コメディカルに認めてもらえないようではいけない。自戒も込めて,そう思います。

草場 同感です。僕が学生のときに教科書を読んだり,ケーススタディによる勉強会で学んだりするなかで気になったのは,「実際に病気になった人はどんな生活を送っていて,どんな不安や悩みを抱えているんだろう」ということでした。医師家系ではないし,家族も健康だったので,全くわからなかったのです。

 それでケーススタディの勉強会と同時並行で,コムル(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML)の「患者塾」というセミナーに参加することにしました。月に1回,そこで実際に患者さんのお話を聞くと,診断はついたけれども,医師の心ない言葉にショックを受けている患者さんに出会うわけです。中には,「あの先生は頭が切れるかもしれないけど,人間としては最低だ! あんな医者になっちゃ駄目だぞ」と僕に説教する人もいる(笑)。そうやって勉強会と患者塾の両方から学ぶことで,うまくバランスが取れたように感じます。

 僕も,医学部実習で似たような経験をしたことがあります。悪性腫瘍のため離島から大学病院に入院してきた患者さんが,診断の結果,大手術が必要となった。ところが,「手術なんかしたら,こっちにずっといなきゃいけなくなる。死んでもいいから島に帰りたい」と,涙ながらに手術を拒否したのです。「医学と医療は違うんだぞ」と冷水を浴びせられるような体験で,僕はそれこそ臨床推論にハマっていた時期なのですが,あれが転機となったような気がします。

草場 医学生のうちは,「診断さえつけば,なんとかなる」と思い込んでしまう。でもよく考えてみれば当たり前のことだけど,診断はあくまでスタート地点。そこから診断結果をどう伝えるか,患者さんの生活を踏まえてどのように治療をマネジメントしていくかが大事なのですね。

 そして,そういう経験を拾える感性があるから,森先生はよかったですね。患者さんの理解力に問題がある,と考える人もいるかもしれません。

 確かに,「なんで治療しないんだろう」 と言う同期はいました。一方で,僕と似たような問題意識を持つ同期もいて,お互いの経験を話すこともあるんです。

草場 いいですね。勉強会だけでは限界があります。患者さんの間近でしか味わえない経験は大切にしてほしい。

 あるいは,そういう経験を共有する場としての勉強会があってもいいのでしょうね。「手術を拒否して島に帰ろうとする」という話を聞いて,患者さんに共感する人もいれば,全く理解できない人もいる。後者の場合も,自分と違う意見を聞くうちに,患者さんの価値観に共感できるようになるかもしれません。医学知識ならひとりでも学べますが,感性にかかわることこそ,人と一緒に勉強したほうが広がりもあっていいように思います。

草場 勉強会として独立させるとそれも敷居が高くなるので,既存の勉強会に実習で感じたことを話すセッションを組み込むのがいいでしょうね。それだと,気負いなく皆が発言できます。

 たとえ拙くても,経験したことやそのときの気持ちを語られると印象に残りますよね。それこそ懇親会の場が最適で,もしかしたら勉強会自体も “その後の懇親会が本番”くらいのスタンスにして,仲間とのつながりができれば十分なのかもしれません。

身近な仲間を見つけることから始めよう

 最後に,勉強会への参加や企画を考えている医学生に,アドバイスをお願いします。

草場 大学での勉強だけにとらわれず,広い視野を持ってほしいですね。特に,本当はやりたいけどできていないことがあるなら,勉強したほうがいいと思います。

 医学生時代は,ケーススタディや患者会以外にも勉強会は企画されていましたか?

草場 身体診察やコミュニケーション技法の勉強会もやりました。今と違って,当時は模擬患者相手の医療面接トレーニングなんて全くなかったですから,教えてくれる先生を探して自分たちで企画するわけです。大学では教わらないけど,臨床で必要なことは自分たちで勝手にカリキュラムを作って勉強していました(笑)。とても面白かったですよ。

 勉強会がはやるのは,いまだに「大学で教わること」と「学生が学びたいこと」のギャップがあるのも理由だと思います。僕自身は,自分自身の学びたいことを応援してくれる人を学内で見つけるのが難しくて苦労しました。きっといま,同じような悩みを抱えて悶々としている医学生も全国にたくさんいるのではないでしょうか。

草場 僕はもともと内向的で,ひとりで過ごすのを好む人間です。それでも,学内で同じように悶々としていた金井伸行先生(現・淀さんせん会金井病院理事長)に出会ったおかげで,彼と意気投合して勉強会を始めました。ひとりだったら,間違いなくやらなかったはずです。

 ですから,「本当はやりたいけど,できていない」ことがあるなら,とりあえずは学内の身近な人に声を掛けてみたらどうでしょう。学内に同期が100人いれば,1人ぐらいは乗ってきます。全国で開催されている勉強会に参加するのも,友達と一緒ならハードルが少しは下がるはずです。

 僕は学生時代からER医志望で,周囲に理解されず孤独でしたが,同じように悶々としている家庭医志望の友人がいたから,一緒に頑張れたのかもしれません。ひとりだったら不安で絶対に諦めていただろうし,今は彼にすごく感謝しています。全国に散らばった同じ志を持つ同期の仲間にも,ハードな研修でくじけそうなときにいつも助けられています。

草場 「学ぶ意欲を保ち続ける装置」として,身近な友人は大切ですね。将来を語り合える仲間が見つかれば,道はおのずと開けるのではないでしょうか。日本プライマリ・ケア連合学会としても,ジェネラリスト80大学行脚プロジェクト(http://www.primary-care.or.jp/resident/angya01.html)などの活動を通して,今後も学生さんの勉強会を支援していくつもりです。

 よい仲間をみつけて,知識だけでなく感情や価値観も共有する。それこそひとりでは学べない“勉強会の真の意義”ではないでしょうか。今は孤独に闘っている全国の後輩のみんなにも,素晴らしい仲間との最高の出会いがあることをお祈りしています。

草場 僕も同じ気持ちです。インターネットやSNSの普及で勉強会を取り巻く環境は変化しましたが,大事なものはやはり変わらないのだと,対談を通して再認識しました。

(了)


草場鉄周氏
1999年京大医学部卒。日鋼記念病院にて初期臨床研修,北海道家庭医療学センターにて家庭医療学専門医コース修了。2008年に医療法人北海道家庭医療学センターを設立し現職。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長も務める。医学生時代に「ケーススタディによる勉強会」を運営し,1998年の日本医学教育学会のシンポジウムにて「学生による自主的勉強会からの提言」を発表。後の勉強会ブームの嚆矢となる。

森祐樹氏
2014年鹿児島大医学部卒。学生時代よりER型救急医を志し,北海道から沖縄まで日本各地のERを行脚したほか,6年生のカナダ留学時にはトロント大附属トロント総合病院救急部での飛び込み臨床実習を敢行。現在は北海道最多の救急症例数を誇る札幌東徳洲会病院ERにて「どんな場面でも笑顔でいられる草食系ER医」をめざして修行中。2014年卒全国研修医勉強会「Resident'14」共同代表。

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