医学界新聞

寄稿

2014.08.11

【視点】

頻脈性不整脈は正しい学術用語か?

兼本 成斌(兼本内科・循環器科クリニック院長)


 わが国の医学雑誌や医学書籍では,心拍数の多い不整脈をひとまとめにして頻脈性不整脈,心拍数の少ない不整脈は徐脈性不整脈という学術用語で統一されている。しかしこれらは正しい学術用語なのであろうか? 最近とみに注目されている心房細動では頻拍性であっても頻脈性でないことは日常茶飯事であり,現在通用している頻脈性心房細動が誤った学術用語であり,頻拍性心房細動でなければならないことはご納得いただけると思う。日常診療で頻繁に使用され,以前から誰も疑問を挟まなかった学術用語にあえて問題を提起したい。ここでは頻脈性不整脈について論じる。

 心拍数が100回/分以上ある場合,日本語には頻脈・頻拍と2つの学術用語がある。中国語には頻脈搏と頻拍の2つがあるため,中国語由来であろう。しかし,英語はtachycardia,独語はTachykardie,仏語はtachycardie,スペイン・ポルトガル語はtaquicardiaと,欧米では1語だけである。語源はギリシャ語のtakhus=swift,kardia=heartに由来しており,ラテン語ではtachycardiaである。

 広辞苑で「しんぱく」を引くと心拍・心搏と記載されている。頻脈・徐脈は記載されているが,頻拍・徐拍は記載されていない。患者さんに頻拍・徐拍という単語を質問しても誰も知らない。

 学術用語集ではどうであろうか。『内科学用語集 第5版』は英和辞典形式でtachycardiaを引くと「頻脈,〔心〕頻脈」と記載されている。sinus -は「洞性頻拍(脈)」とどちらを用いてもよいことになっている。sustained ventricular -は「持続性心室頻拍」とこちらは「頻脈」は入っていない。しかしventricular -は「心室〔性〕頻拍(脈)」とあり,心室頻脈も学術用語となってしまう。『循環器学用語集 第3版』はおのおの正しく用いられている。

 問題となるのはtachyarrhythmiaの項目である。『内科学用語集 第5版』では「頻拍性不整脈,不整頻拍」であり,部位別の術語は記載されていない。一方,『循環器学用語集 第3版』では「頻脈性不整脈」となっている。それでatrial -は心房頻脈性不整脈,supraventricular -は上室頻脈性不整脈,ventricular -は心室頻脈性不整脈と「頻脈性」に変わってしまっている。

 筆者は,学術用語としては頻脈・頻拍を欧米流に「頻拍」一つに統一したほうがよく,少なくとも頻拍性不整脈に改新すべきと以前から思っており,この場で提起したい。


兼本 成斌
1968年慶大医学部卒。旧西独Johann Wolfgang Goethe大(フランクフルト)医学部へ留学。留学中,PTCA(経皮的冠動脈形成術)を日本へ最初に紹介した。近著に『はじめての心電図 第2版増補版』(医学書院)がある。

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