医学界新聞

2014.07.21

Medical Library 書評・新刊案内


ナイチンゲール伝
図説看護覚え書とともに

茨木 保 著

《評 者》小林 光恵(看護師/著述業)

“伝説の超人”の実像に迫る発見と感動の書

 〈ナイチンゲールなら,どうする〉――そう考えたことのある看護職は少なくはないでしょう。職場で難局にぶつかったとき,あるいは社会の一大事に接したときなど,さまざまな場面で私も考えたことがあります。しかし,イメージの中で彼女に〈どう考える? どうする?〉と問うてみても,いつもナイチンゲールロボといった印象の全身白の石膏像が,ただそこにあるだけです。その後,未読だったナイチンゲール関連書をいくつか読んでもイメージは同じでした。

 それが,漫画による本書の第I部の「ナイチンゲール伝」を読み進めると,伝説の超人・ナイチンゲールのイメージががらりと変化しました。そこには生身の人間・ナイチンゲールがいました。彼女が歩く靴音やドレスのすそさばきや,腕組みをしたときの肩の感じや,口をきゅっと結ぶところや眉間の皺や柔らかい髪や羽のペンで文字を書く音などが,リアルに想像できるのでした。前よりも彼女が好きになりました。

 作者は美化をせず,かといって批判に燃えるわけでもなく,一定した温かいまなざしで,多くの人が知るエピソードや皆があまり触れなかった事実を描いています。また,画や書き文字などでナイチンゲールの心情や人柄,隣人との関係性のニュアンスが,現代の日本人にぴたりと伝わるように表現されています。例えば,軍改革審議会の主要メンバーとして,「この二人は鉄板ね!」と言って,協力者のシドニー・ハーバートやジョン・サザランド博士をナイチンゲールが即決する場面(76頁)は,いかにも彼女らしいと感じました。協力者たちを拘束して巧みに操縦したことを,歌舞伎の蜘蛛の糸のようにナイチンゲールが手から糸を張り巡らしている画(79頁)は,実に的確な表現だと思いました。いかにも,なるほど,そうだったのか,とうなる箇所が満載です。

 第II部の「図説『看護覚え書』」では,第I部と同様の漫画ならではの解説やたとえによって,ナイチンゲールが言わんとしたことをあらためて納得できました。優秀かつ大人気の予備校の先生が解説してくれているような感覚になり,ひとコマひとコマをそのままスライドにして,講義をしてほしいとも思いました。

 そして作者の「あとがき」に接し,ナイチンゲールへの尊敬と静かな愛情のゆえんを知ることとなり,胸を打たれました。

 ナイチンゲールに詳しい人もそうでない人も,必ず発見と感動のある一冊です。

A5・頁208 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01840-1


妊婦健診に一歩差がつく
産科超音波検査

谷垣 伸治 著

《評 者》齋藤 益子(帝京科学大教授・母性看護学)

この一冊で妊娠・分娩期の診断ができるようになる

 今日,産科施設では毎回の妊婦健診で当然のように超音波機器が用いられており,助産外来を担う助産師にも超音波機器の操作は必須能力になっている。助産師教育課程でも,超音波検査は妊婦健診の必要項目で,教育機関では妊娠期の超音波診断に関する教育が強化されており,卒後教育でも超音波検査に関する研修の機会は増えている。

 一方,臨床現場で用いられている超音波装置は3D,4Dなどの高度な機能を有する高額なもので,妊婦健診で気軽に操作する助産師は多くはない。そのため機器の操作に不慣れで,触れるのを臆する気持ちがあり,触れないから慣れないという悪循環ができあがっている。本書は,そんな気後れする助産師たちが,超音波検査を身近に感じ,超音波機器に「触れてみる」という最初の一歩を踏み出す後押しをしてくれる。そして「超音波検査をやってみよう,どうしたらいいかな?」という思いにズバリ応えてくれている。まさに,助産師たちの待ち焦がれていた一冊ともいえよう。

 第I章では,胎児の発育過程とそれに伴う留意点や保健指導項目が丁寧に書かれており,妊娠週数に沿って発育をチェックし,保健指導につなぐノウハウが一目瞭然に示されている。そして週数ごとに「何を見て何を計測するのか」をつかむことができ,その結果からどのような指導をすれば良いのかがわかる。第II章では,超音波装置の基礎的理解のために,表示モードや色調,周波数,アーチファクトなど聞き慣れない難解な電気工学的説明がサラリと理解しやすく記載されている。第III章では,計測と観察の仕方を妊娠週数ごとの観察項目に沿って,わかりやすい明瞭な画像とそれぞれにイラストを付ける丁寧さで示されており,何といっても非常に見やすく活用しやすい。ここまででも助産師には十分であるが,さらに第IV章では妊娠中の異常所見の画像にも触れ,第V章では,胎児well-beingのモニタリングの所見,巻末には産科超音波検査で用いられる略語や,各超音波測定値を評価するための基準値が丁寧に示されており,この一冊で妊娠・分娩期の診断ができるようにまとめられている。

 見やすい,理解しやすい,具体的で活用しやすいという三拍子そろった本書は,助産学生にも必須の一冊といえよう。また,大きさが白衣のポケットに入るコンパクトサイズで,臨床の助産師にとっても忙しい中で,肌身離さず身につけておける有用な一冊になるはずである。著者は,助産師への超音波検査の講演の経験が多く,臨床で超音波操作ができるようになりたいという助産師の思いに応えて本書を上梓したとのことである。本書を手にすると「これなら私にもできる」という気持ちになること間違いなしである。助産師に対する優しいエールの感じられる本で,妊産婦にかかわる全ての助産師の座右の書としてぜひお薦めしたい。

B6・頁120 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01947-7


スタッフの主体性を高め チームを活性化する!
看護のためのポジティブ・マネジメント

手島 恵 編著

《評 者》福家 幸子(虎の門病院管理看護師長・看護教育部)

ビジョンを持ち続けられる管理者であるために

 ポジティブのほうがネガティブより良いに決まっている。できることなら常にポジティブでありたいと,誰もが漠然と願っているのではないだろうか。本書を読む前,ポジティブという言葉についてこの程度の認識しか持っていなかった。

 しかし,本書の冒頭にある「前向きに,ポジティブにものを見るためには,必ず,意思と努力,そして行動が必要」という言葉を目にした瞬間,一気に引き込まれると同時に,襟を正す思いにさせられた。看護管理者としてポジティブに実践するためには,もともとの自分のポジティブな性格に頼るだけではダメだし,自然と良い方向に向かうのを待つだけでもいけない。「管理者のプロフェッションとしての高い意識と自己規制」(7頁)を求められていることがわかった。

 本書の第I・II章では,ポジティブな視点で管理することの意義や理論が述べられている。豊富な文献的裏付けを元に,さまざまな専門用語が非常にわかりやすく解説されており,知的好奇心を大いにくすぐられる。過去の自分の管理実践を,成功例も失敗例も思い出しながら,これらの章を何度か繰り返し読むことで,看護管理者としてポジティブであることの重要性が身に染みてわかってきた。

 読み進めるほどに自分の思考がポジティブに変わっていくのを感じつつ,「では,どうすれば実際にポジティブな組織を作れるのか?」という次なる疑問が湧いてくる。第III章ではその疑問に答えるかのように,さまざまな組織開発手法が紹介されている。ワールドカフェ,アクションラーニングなど,名前を聞いたことはあるが,詳細については知らなかった手法ばかりである。これらが簡潔にわかりやすく解説され,自組織でこの手法を導入したらどのようになるだろうとワクワク想像しながら読んだ。さらに,第IV章では,これらさまざまな手法を組み合わせて実際に組織変革に取り組んだ実践報告が6例紹介されている。「うちもあるある」と自施設に重ね合わせてうなずきたくなるような事例から,非常に困難な状況の克服に挑むチャレンジングな事例まで,さまざまな工夫とアイデアが詰まっている。現在および未来の自分の管理実践の参考になるような6つの事例に刺激を受けた。

 看護の世界では,問題解決技法に代表されるように「問題点は何か」という発想から入ることが多い。問題解決思考はもちろん大切だし必要である。しかし管理の現場において,問題→解決→また新たな問題…→解決…のサイクルに忙殺されていると,本来の管理の目的を一瞬見失ってしまうことがある。自組織の強みや宝を見つけて生かし,どういう組織にしたいか・どういう仕事ができる集団にしたいかというビジョンを持ち続けられる管理者であるために,本書を指南書として手元に置き,適宜ひもときながら,今後も看護管理に取り組んでいきたい。また同じように看護管理にかかわる仲間たちにも紹介したい本である。

A5・頁208 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01891-3


看護は私の生き方そのもの

長濱 晴子 著

《評 者》菊池 里子(医療法人社団仁明会齋藤病院看護部長)

胸を張って看護師として生きていく――看護師になってよかった!

 本書は,著者が重症筋無力症と診断されて20年になるのを機会にまとめたものです。何を考えてどうやって活力を回復したのか,退職を決意した中で新たな使命をどうやって見つけたのか,さらに自身のS状結腸がんや夫のがんを乗り越えて「看護は私の生き方そのもの」になっていると感じるまでを,率直な語り口でつづっています。

 著者は自らの判断で難病と自宅療養で向き合う道を選び,それを契機に病気のとらえ方が,闘病,共生から感謝へ変わったことを実感し,夫の協力を得て,力強く前進しています。その基本をセルフナーシングに置き,看護の原点を見つめて実践し,その時々の心理,かかわってきた患者などを思い出し,奥深く客観的に自分を洞察する姿勢にはまさに感服です。

 そして診断後6年目に,念願だった夫のライフワークである沙漠化防治活動の現地(中国内モンゴル)に赴き,自らもその活動の応援を始め,ついにはそこに新たな使命を見つけます。著者は「沙漠化防治は地球を癒すこと,看護は人を癒すこと,看護も沙漠化防治も同じ」と考え,看護の視点を大事に活動しています。本書ではその具体的な活動事例が看護の視点で語られており大変興味深いです。

 私が著者を知ったのは,2014年3月13日第10回ヘルシー・ソサエティ賞授賞式で,同じ受賞者としてでした。私は東日本大震災の活動で「10周年特別賞」に,著者は中国での活動で「ボランティア部門(国際)」の受賞でした。当日「重症筋無力症と診断されて20年」と伺いましたが,体力的にも気力的にもにわかには信じられませんでした。当院は神経難病の指定病院で,日頃から同病患者さんに接する機会も多く,どうしても比較して見てしまったからです。病気を乗り越えられての受賞にお祝いを申し上げました。

 その後本書を読んで,20年の経過を知り,私は震災,著者は難病と体験は違っても,共通するものを強く感じました。それは,「看護は私の生き方そのもの」と言える看護師であることでした。

 震災時は突発的なことが次々と起こりました。病院職員は他職種はじめたくさんの人がいますが,どんなことにもどんなときにも看護師が携わっていて,堂々と力を発揮していました。私たちは看護教育の中で看護過程を嫌というほど学び,実践の場でも問題に対して目標を設定し対策を立てて実施し評価する,駄目なときはまた対策を立案するという看護においての工程が身に染み付いているので,看護以外の場面でも問題解決に役立ちます。これは私たちが患者さんの病気だけでなく,全体を見て,そこからアセスメントしているからこそです。ですからたくさんの問題解決に携わり,看護,看護師って素晴らしいなあ,スタッフが頼もしいなあと感じた場面がたくさんありました。看護師は強いのです。そして,そのことがこの本からも伝わってきます。

 人生には山あり谷あり,大小の難題にぶつかります。ただただ自然界に身を任せる生き方,発想の転換,人生の生き方,私は本書から沢山のことを共感し学びました。多くの方にとっても難題を前にしたとききっと役立つ一冊,そして看護師になってよかったと思わせてくれる本です。

B6・頁248 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01963-7


患者の目線
医療関係者が患者・家族になってわかったこと

村上 紀美子 編

《評 者》松本 武敏(秋津レークタウンクリニック・内科)

医療者が,一歩立ち止まって明日の仕事に向かうために

 本書には,編者である村上紀美子氏の幅広い人脈によって,珠玉の原稿が集められています。そして,天国に旅立たれた方の貴重な一筆も含まれています。

 編者は,日本看護協会の広報部長を経験されたフリーランスの医療ジャーナリストです。その編者が「患者・家族であり,医療関係者の友人として」厳しくも温かい配慮をしながら,医療者へのフィードバックを目的として,医療関係者に個人的体験をリアルに書いてほしいと著者らに依頼しました。そうして,月刊『看護管理』に約3年間にわたりリレー形式で掲載されたものがこの本のもとになっています。書籍化に当たり,加筆されるとともに,編者が「この経験から学ぶ」を付け加えています。

 実は,2012年4月に,膵臓がんの父を自宅で看取った私にも,原稿を書く話をいただきました。しかし,文章を書くことが好きな私でも当時は「今はまだ書くことができない」とお返事するしかありませんでした。故に,執筆された方々の思いを理解していますし,たとえ医療者であっても,「患者」や「患者の家族」になった場合に,こんなに悩んだり苦しんだりするという現実の奥深さ,内容の持つ価値に,思わずページをめくってしまいました。柳田邦男氏の言うところの2.5人称のアプローチを,普段の仕事で大切にされている方々が,実際に1人称や2人称の経験をつづったという意味でも切実な一書です。

 本書は,第1章「患者の目線 医療者の目線」から始まります。夫の心臓の弁置換術の説明の際に用いるブタの弁に関して「そのブタは元気だったか」という妻の問いは,真剣そのものです。子宮筋腫の術後の痛みも,医療者には当たり前でも患者となればそうはいきません。術後の予防的な疼痛コントロールの提案は一考に値します。

 第2章「がんとともに歩む」では,がんと突然告げられた妻とともに不安になる夫の胸中,怒濤の1か月は他人事ではありません。また,サバイバーナースの乳がん体験では,何気ない医療者のひと言が,患者さんにとっては傷つく場面が盛り込まれています。介護保険創設に向けた運動をされ,今は天上におられる,池田省三氏の「腑に落ちる人生 腑に落ちる死」では,ケアがはらむ「傾斜関係」について考えさせられました。

 第3章「迷いのなかで選ぶ看取り」では,気管挿管を抜管するサポートを通して,看取りを本人と家族に返す視点を看護師が訴えます。また一瞬のまなざしとひと言で,看取る家族が救われる経験を看護雑誌編集者が記しています。

 第4章「患者と家族の物語」では,医療者が患者さんの人生の物語に,ほんの少しだけ「前のめりの関心」を持つ必要性が述べられています。夫の肺がんを経験された妻からは,医療者が行う説明の重みがひしひしと伝わってきて,本当の意味でのインフォームド・コンセントを自分が果たしてどのようにしてきたのか反省も含めて考えさせられます。

 第5章「なっとくのケアへ」では,マニュアルを超えた援助の極意が紹介されています。

 医療者の方々が,一歩立ち止まって明日の仕事に向かうためにも,ぜひ,一読されることをお薦めします。

B6・頁268 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02021-3

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