医学界新聞

2014.06.09

Medical Library 書評・新刊案内


レジデントのための血液透析患者マネジメント
第2版

門川 俊明 著

《評 者》横尾 隆(慈恵医大教授・腎臓・高血圧内科)

血液透析の“幹”の部分を平易に解説した良書

 とかく腎臓内科を苦手とする学生,医師の数は残念ながら非常に多い。これは一般の腎臓病学書が生理学や病理学から始まり,少々読み進めても腎臓病学の全体像が見えにくいため,学生や研修医に学ぶ前から敬遠されるか,途中で断念されるためだと考えている。その中で,門川俊明先生の『レジデントのための血液透析患者マネジメント』が改訂され第2版となって出版された。初版はすでにベストセラーとなっているが,今回新たなエビデンスをアップデートする形となっており,高い評価を得るのは必至であろう。

 門川先生は,学生に電解質や透析などの腎臓病学のセミナーを定期的に行い,大好評を博していると聞く。そのセミナーの中で学生との対話の上に培われた“わかりやすく教える”という秘訣がこの本には凝集している。ではその秘訣とはなんであろうか。腎臓病学を大きな木に例えるとしよう。その大きな木を描くときに,全体を端から端まで描いていくのは,途中で力尽きてしまったり,いびつな木になってしまったりする。しかしまず幹の部分だけしっかり描いた上で,必要に応じて枝葉あるいは花や実を描き込んでいくと,各個人の能力や興味が違っても全体像が壊れない木が描けるであろう。門川先生の著書はこの幹と枝葉をしっかり分別して幹の部分だけをとりあえずまとめて平易に解説しているので,腎臓病を苦手とする学生,若手医師に取っ付きやすいことがうけていると私は考えている。

 本書も例に漏れず,腎臓病の知識がほとんどない学生や研修医にぜひ薦めたい良書である。また,あまり成書で取り扱われないコストの問題や,社会的サポート,経腸栄養のレジメなど,実臨床で真っ先に必要となる情報が非常にコンパクトにまとめられているので実践的な内容となっている。したがってタイトルに“レジデントのための”とあるが,対象はもう少し広く,若手病棟医など透析を専門としない腎臓内科医に,ちょっとした知識の整理のための参考書として活用されることが薦められる。また,“血液透析患者マネジメント”とあるが,保存期腎不全の管理法についてもかなり詳しくページを割いており,腎不全患者全体のマネジメントの指南書と考えたほうがよいかもしれない。今回のアップデートで,最近のエビデンスに基づいたガイドライン情報もふんだんに盛り込まれており,ぜひ手に取って内容を見ていただくことをお勧めする。

A5・頁216 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01976-7


服部リハビリテーション技術全書
第3版

蜂須賀 研二 編
大丸 幸,大峯 三郎,佐伯 覚,橋元 隆,松嶋 康之 編集協力

《評 者》中村 春基(兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部長)

初学者から熟練者にまで役立つ百科全書

 帯にある「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」「今,リハビリテーションにかかわる全ての人へ」の言葉は,編集に携わられました皆さまの素直なお気持ちを代表していると思う。

 私は,1977年に作業療法士になり現在まで主に兵庫県立リハビリテーションセンターで働いているが,病院では図書室で,また自宅には手垢が付いた状態で,初版を活用している。それを見ると初版第1刷は1974年2月15日発行で,価格は22,000円,入職後しばらくしてから購入したのを覚えている。学生時代には,欲しくても買えない貴重な書籍であった。

 あらためて初版の第1章は「医学的リハビリテーションの順序」から始まり,その章の最後は転帰設定で復職に関する手書きの検査表,総括意見書などが掲載されている。当時のニーズが復職にあったことが読み取れる。そのようにして初版と読み比べると,帯の「30年の時を越え」というフレーズが納得できる。

 さて,本書では初版の600以上に及ぶ手技や訓練・福祉用具のイラストはそのままに活用され,さらに今日の実地診療に対応できるように最新の知見が盛り込まれている。

 第1部から第10部で構成され,リハビリテーション総論・技術総論,理学療法,作業療法に関して総論と実際,言語聴覚療法の実際,福祉用具,地域リハビリテーション,疾患別リハビリテーションからなる。この中で,言語聴覚療法の実際と福祉用具(旧版では自助具,車椅子などは個別に掲載),地域リハビリテーションは,新たに加えられた部である。

 本書の良さを一言で述べると,帯の裏に記されているように,「リハビリテーション技術についての最もスタンダードなテキストとして,初学者から熟練者にまで役立つ,先達の叡智と情熱がつまった百科全書」となる。まさにぶれない30年の重みを読み取ることができる。

 また,冒頭の第3版序から初版謝辞をぜひお目通しいただきたい。服部一郎先生お一人で10余年をつぎ込んだ958頁に及ぶ初版への思いとそれを支援された数々の先輩諸氏,そして改版に挑戦された蜂須賀先生はじめ62名の諸先生方の労にあらためて敬意を表したい。

 社会保障制度や診療報酬制度が激変する中で,リハビリテーション医学とは,理学療法,作業療法,言語聴覚療法の役割,機能を示す良書である。

 最後に『服部リハビリテーション技術全書』は,30年間の実績と思いがつまった書籍であり,「今,リハビリテーションにかかわる全ての人に」活用していただければ幸いである。

B5・頁1024 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01757-2


見逃してはならない血液疾患
病理からみた44症例

北川 昌伸,定平 吉都,伊藤 雅文 編

《評 者》神田 善伸(自治医大さいたま医療センター教授・血液科)

難易度・頻度別で疾患の位置付けがわかりやすい

 『見逃してはならない血液疾患』という医学書院の新刊が手元に届いた。目を引いたのは「病理からみた44症例」というサブタイトルである。血液疾患を扱う書籍で病理を前面に出したものは珍しい。果たして,どのような読者を対象としているのかと思って序文を読んだところ,若手病理医,内科系後期研修医,高学年の医学生をイメージして執筆されたようだ。確かに各疾患について症候をタイトルとし,医師国家試験と同様の形式で症例が提示されており,この形式は医学生や研修医にとってもなじみやすいものである。さらに病理診断の難易度を5段階に,臨床で遭遇する頻度を3段階に分けることによって,それぞれの疾患の位置付けをわかりやすく示している。これなら,「全然わからなかった」といってしょんぼりしている読者も救済されることであろう。

 本書にはカラーで印刷されたきれいな画像がふんだんに散りばめられている。評者自身も,研修医時代に病棟に設置された顕微鏡で末梢血塗抹標本や骨髄塗抹標本を日々眺めながら,その美しさに魅せられた一人である。しかし,リンパ節の標本となると,まるで歯が立たない。リンパ腫の組織分類に至っては,病理専門医にとっても難関である場合も多く,「病理診断のセカンドオピニオン」がしばしば行われている。本書の編集者,著者はこのセカンドオピニオンを受ける立場の先生方であり,このような状況も本書を刊行して若手病理医を教育しようという動機付けとなったのではないかと想像する。「血液疾患の病理はどうにも難しくて……」と敬遠している若手病理医がいるとしたら,まずは本書を読むべきである。その際にも病理学的難易度の表記が学習に役立つはずだ。

 また,本書は血液内科医にとっても病理医の思考過程を学ぶ上で参考になる。本書を読むことによって,病理診断の申込書には十分な臨床情報を記載することが重要であることを再認識するであろう。そして,皮膚科医や腎臓内科医がしばしば病理の世界にのめりこんでいくように,血液内科医の一部も病理医へと転身していってもよいのかもしれない(みんな一斉に転身されては困るが)。かつてない切り口で企画された本書を介して,新たに血液疾患を得意とする病理医が増加することを期待したい。

B5・頁288 定価:本体6,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01674-2


神経診断学を学ぶ人のために
第2版

柴崎 浩 著

《評 者》中野 今治(東京都立神経病院院長)

神経学に携わる人にあまねく読まれるべき書物

 著者柴崎浩氏は臨床神経生理学の大家である。のみならず,臨床神経学の広い領域における該博な知識の持ち主でもある。40年前の第1回神経内科専門医(当時は認定医)試験で著者がトップの成績を修めたとのもっぱらの噂からもそのうんちくの深さが伺われる。

 神経診断学という領域に限られた内容とはいえ,臨床神経学の知見が膨大になった現在,よほどの才能と熱意を備えた人でなければ単著での執筆は困難である。著者はこのような才と熱の両者を有するまれな人である。

 本書が対象とする読者は,本書(第2版)にも掲載されている初版序に明らかにされている。いわく「これから臨床神経学を学ぶ人」である。さらには,「看護師,理学療法士,言語療法士,臨床神経生理検査技師をはじめとして,神経疾患の診療に何らかのかたちで携わる人にもわかるような言葉を用いるように努めた」とも記されている。

 その言葉通り,そのような人たちにもわかりやすく書かれている。とはいえ,本書は単なる入門の書ではなく,筆者にも非常に面白く読め,新しい知識と得心の解釈に随所で出会い,大いに啓発された。例えば,35頁の「耳側蒼白」という語は評者が初めて目にする術語で,その意味するところの重要さも理解できた。また,下顎反射における求心路の神経細胞体は三叉神経中脳路核にあるということも初めて知った(83頁)。三叉神経中脳路核は三叉神経節細胞が脳幹内に遊走して三叉神経領域の深部覚を伝えることは学んでいたが。

 本書の内容は,著者が日米における臨床神経学の数多くの先達との交わりの中で「総合的に消化して自ら築き上げてきたもの」である(初版の序)だけに,どの章も読み応えがある。中でも出色は著者の専門領域である16章「四肢の運動機能」と18章「不随意運動」であろう。一読して目からうろこの落ちる感がある。

 ただ,生理的振戦の項において,「これには機械的要素と中枢性要素が関与しており,純粋の機械的振戦は末梢の機械的共鳴によるもので,筋収縮を伴わない」とのくだり(187頁)はすぐにはふに落ちなかった。ここでの筋は骨格筋を指しており,振戦の基になっている運動は血管の拍動によるものであろうと推測・納得するのにしばしの時間を要した。機械的共鳴であっても共鳴を起こさせる力が必要だからである。

 また,病理形態学を学んだ評者にはその面でのささいな点が気になった。大脳前額断では中心溝を挟んで一次運動野が内側,一次感覚野が外側に位置する。しかし,本書のシェーマ(199頁,図18-8)では逆になっている。著者はこのような点は百も承知で,この項のテーマ「ミオクローヌス」の理解を容易にするためにあえて逆にした可能性もある。

 本書は著者の積年の経験に基づいて編まれた好著であり,「(専門医も含めて)何らかのかたちで神経学に携わる人」にあまねく読まれるべき書物である。

B5・頁400 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01632-2


心電図セルフアセスメント
229題で学ぶ判読へのアプローチ

Zainul Abedin,Robert Conner 原著
新 博次 監訳
村松 光 訳

《評 者》有田 眞(大分医大名誉教授・湯布院厚生年金病院名誉院長)

229題のセルフアセスメントで“理解の仕方”がわかる

 Willem Einthovenがヒトからの心電図記録に成功し,今年で早くも111年の歳月が流れた。この間の心臓電気現象異常の診断と治療に関する進歩は目覚ましく,枚挙にいとまがない。それにもかかわらず,1世紀以上の間その価値を全く減じることなく,日常臨床で“いぶし銀”のごとき光彩を放っているのが,体表面12誘導心電図であると言っても過言ではない。

 その重要性に鑑み,心電図については,基礎的立場から細胞内活動電位に絡めて理解を助けるもの,ベクトル的解釈を使って理解を促すもの,果ては波形の特徴をほぼ丸暗記することで診断に導こうとするものなどさまざまで,毎年多数の書籍が刊行されている。このこと自体,心電図の重要性は認知されているが,これを本当に理解して正確な診断を下すことが難しい症例が多数存在することを物語っているのである。循環器科を標榜する医師であっても,心電図は何となく敬遠される傾向にあり,コンピュータによる診断をうのみにしている現実が無きにしもあらず,というのは言い過ぎであろうか。

 このたび,村松光博士翻訳,新博次先生監訳で出版された『心電図セルフアセスメント――229題で学ぶ判読へのアプローチ』は,このような混沌を断ち切る,誠に時宜を得た出版であると思われる。ちなみに訳者である村松博士は,評者が大分医科大学第二生理学講座に在職中,1988年から約2年間,縁あって研究生として在籍され,モルモット単一心室筋細胞の細胞内灌流法を確立し,cyclic AMPのNa電流に対する作用が膜電位依存性であることを世界で初めて明らかにされた,優秀なphysician scientistである。本書は,基礎電気生理学に極めて造詣の深い氏が,渾身の力を込め,しかもわかりやすい言葉で,一気に翻訳をされているので,読者は抵抗なく読み進むことができる。

 内容は「波形と間隔」から始まり,「心筋虚血と心筋梗塞」「心腔拡大と心臓肥大」「房室ブロック」「心房不整脈」「上室リエントリー性頻拍」「Wolff-Parkinson-White症候群」「心室不整脈」などを経て,近年注目を集めている「チャネル病」「電気的ペーシング」まで,全部で16の章に分かれているが,電気生理学の基礎知識がなくても理解できるよう,十分配慮した説明がなされている。

 一方,本書最大の特徴は,2ないし4章ごとに設けられた,セルフアセスメント(Part 1からPart 6まで,合計229題)にある。問題にチャレンジし,わからないところは巻末の懇切な解答ページを参照すれば,「心電図の重要性と面白さと奥深さを絶対に体得して欲しい」と願う,原著者と訳者の強烈な思いが伝わってくるに違いない。もう一つの特徴は,一見他愛ないことのようで実はとても大切なこと,すなわちほとんど全ての心電図トレースが実物大で極めて明瞭に印刷されていることである。検査室で記録された患者の心電図が,そのまま目に飛び込んでくるような臨場感を十分味わえるため,セルフアセスメント問題を読み解くにも,つい力が入るから不思議である。

 本書を座右の書とされ,心電図の理解を深めるとともに,心電図が好きでたまらない医師や研究者,看護師,臨床検査技師,理学療法士,臨床工学技士などの諸君が一人でも増えることを心から期待して,推薦の言葉とする。

B5・頁240 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01917-0

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