医学界新聞

インタビュー

2014.03.10

【interview】

急性期から在宅までの一体的な医療を学ぶ

若林 久男氏(香川県済生会病院副院長/香川大学医学部臨床教授)に聞く

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――高齢化が進む瀬戸内海の離島は,高齢化率が3割,4割を超えると予想される日本の将来を先取りしているところもあると思います。済生丸での診療から得られるヒントは何ですか。

若林 超高齢社会を迎えた現在,在宅医療や予防医学といった観点に立つと,日本では山間部,島嶼部などのへき地に対する認識は高まってきていますが,例えば東京や大阪のような大都市でも,医療機関に行けない独居高齢者がますます増えてくるでしょう。済生丸のような大掛かりな診療はすぐにできないとしても,日常生活に重きを置いた医療を提供する視点や,医療者側からのアプローチの方法などが少しでも参考になり,広がっていけばいいのではないかと考えています。

――「済生丸」は,瀬戸内海以外の離島でも診療のモデルになり得るのでしょうか。

若林 コスト面などの課題はありますが,島嶼部を抱える地域では,済生丸のように医療者側が出向いて診療を実施する意義は大いにあるのではないかと思います。日本の医療におけるキーワードには,「在宅医療」や「予防医学」が挙げられます。医療者側から患者さんの生活の場に出向いていく診療を行っていく必要があり,これからはどうしても避けては通れません。

――今回,香川大医学部の地域医療実習の一環で,学生が乗船しました。へき地医療だけでなく,超高齢社会の医療の担い手を育成する場としても重要ですね。以前から実習で済生丸が使われていたのですか。

若林 済生丸が実習で使われ始めたのは2011年からです。その前年,香川県からの寄付により大学病院内に地域医療教育支援センターが設置され,県済生会病院をはじめ,離島・山間部にある計10か所の医療機関と連携して地域医療実習に当たっています。

 その背景には,地域医療に貢献する医師の育成という社会の要請に基づき,文科省「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の2007年度改訂で「地域医療」の項目が追加され,さらに2010年度の改訂で,「地域の医療を担う意欲・使命感の向上」と具体的な目標が示されたことがあります。

 香川県は瀬戸内海の離島の他,中山間地域も多くあります。済生丸による離島診療だけでなく,山間部の病院長が患者さんのお宅にじきじきに往診する現場に,学生が同行することもあります。

――実習の狙い,済生丸を通じて学生に学んでほしいことは何ですか。

若林 予防や予後の状況に接して,病気の全体像をしっかりと把握してほしいと考えています。大学にいると,高度急性期医療のなかだけで話が完結してしまいがちです。在院日数もどんどん短縮化されているなかで,例えば,手術をして10日前後で退院する患者さんもいます。そうすると,学生は,退院された患者さんがその後どうしているのかということに気が付きにくいという現状があります。今後,「在宅医療」に重点が置かれていくなかで,急性期医療の教育に一生懸命取り組むだけでは不十分です。急性期でいくら病気を治しても,お年寄りが増えれば,退院後,日常生活に戻ってからの医療というのがどうしても重要になってくるわけですから,急性期から慢性期,そして在宅へとつながる一体的な医療の在り方を知ってほしいですね。

 大学病院から一歩外へ出て,実際に地域で診療を行う実習の経験は,患者さんと日常生活に近いレベルで接することができ,学生の視野を広げられるのではないかという期待があります。

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